第5話

それからというもの、私達は毎日一緒に食事をするようになっていった。

リリアナさんは、私と一緒に料理を作ったり、おかし作りをしたりすることが楽しくて、仕方がないようであった。私も、そんな彼女と過ごす時間が、幸せでたまらなかったのである。

そんなある日のこと、いつものように皆で集まっている時に、不意にリリアナさんが口を開いたのである。

「あのね、実は今度お父様に婚約者を紹介するって言われたの..............」と言った彼女の言葉に、私は驚きを隠せなかったが、シャルロッテさんも同じようだった。

そして、ラルフが1番驚いていたに違いない。

「............え、突然どうして?」と困惑する私たちに対して、彼女は少し不安そうな表情を浮かべていた。「どうしてなのかは分からないけれど、でも、お父様が決めたことだから仕方ないよね............」

悲しげに俯く彼女に、私はなんて言葉をかけたら良いのだろうかと悩んでいると、ラルフが口を開いたのである。「リリアナ...........俺じゃダメかな?」と言った彼の言葉を聞いた瞬間、私は驚きのあまり固まってしまった。すると、彼女は驚いたような表情を見せた後、顔を赤らめながら首を縦に振りながら言った。「私は、あなたのそばにいるって決めたの。お父様にも、掛け合ってみるわ!」と言った彼女の姿を見て、胸が締め付けられるような思いになった。

(2人は、これからどうなるのかな............いい方向に、進むといいのだけれど。)と心配していた私だったが、次第にお互いの想いが通じ合い始めたようで、2人が幸せそうに笑い合っている姿を見られるようになったのである。

そしてついに、リリアナさんはお父様に掛け合ってみることにしたのだ。

結果は、どのようなものであったのかは聞いていない。

後日、リリアナさんから手紙が届いた。

緊張しながらも封を開けてみると、そこには衝撃的なことが書かれてあった。

『お父様は、中々お話を聞いてくださいませんでした。婚約者の方と、1度お会いしてみようと思います』私はその手紙を読んで思わず絶句してしまった。

(もしかして、お父様が選んだ人と結婚するのだろうか.............)

不安な気持ちになりながらも、彼女からの連絡を待っていることにしたのであった。

数日後、リリアナさんからの手紙が届いた。

恐る恐る手紙を開けてみると、そこには私が予想していなかったことが、書かれていたのだ。『婚約者の方とお会いしたのですが、その方には、私には心に決めた方がいることを伝えることが出来ました!』という内容だったのだ。

(良かった..............)と、安心しつつ読み進めていくうちに、次に書かれている内容に目が留まった。『しかし、肝心のお父様からは、ラルフとの婚約を破棄して、その方と結婚してもらうように言われてしまったんです』という文章を見た瞬間、私は心臓が止まりそうになった。

(え!?どういうこと!?)と動揺してしまう私であったが、読み進めていくうちに、どうやらリリアナさんと彼が話している場面を見てしまい、それがお父様の耳に入ってしまったらしい。それでラルフとの婚約破棄を、言い渡してきたそうだ.............。

(そんな.............)

絶望感に打ちひしがれながら、手紙を読み進めることしか出来ない私だが、続きにはこんなことが書かれていた。『私、諦めません!絶対に彼と幸せになってみせます!』と書かれているのを見た私は、再び胸が熱くなってくるような感覚を覚えた。

(すごい、リリアナさんはまだ諦めていないんだ.............)

そう思った瞬間、私は彼女に会いに行こうと決意したのであった。

準備をしている時、後ろからルシアンが「どうしたの?」と不思議そうに尋ねる彼に、私は自分の想いを打ち明けた。

すると、彼もまた自分と同じ気持ちだったことが分かり、嬉しかったのである。

「一緒に行こう?」と言うと、彼は笑顔で頷いてくれた。そして、私達はリリアナさんがいる町へと馬車で向かったのである。


私は、リリアナさんからの手紙を見た時の衝撃が、未だに忘れられなかった。

............まさか、こんな大変なことになっているとは思いもしなかったからである。

(一体どうすれば..............)と思いながらも、まずは彼女と話をしなくてはならないと思い、すぐに馬を走らせることにしたのだ。そして、辿り着いた先は彼女の住む町であった。まずは、王宮へと向かったのだが、そこで事情を説明すると快く城内へと通してくれたのである。私達は、急いでリリアナさんのいる家へと向かうと、ドアの前で深呼吸してからノックをした。

「はい、どうぞお入りください」という元気の良い返事が聞こえたので、私は意を決してドアを開けた。

すると、そこには驚いたような表情を浮かべたリリアナさんが立っており、その後すぐに笑顔を浮かべてくれたのである。私はそんな彼女の顔を見て思わず泣きそうになったが、必死に堪えて彼女の元へと駆け寄り、思いっきり抱きしめたのであった。すると、彼女もまた私を抱きしめてくれて、私達はしばらくの間そのままでいたのだが、次第に落ち着いてきたところで、再び話をすることにした。

まず、私は自分がここに来た理由を伝えることにした。

「実はね、リリアナさんのお手紙を読んで、いても立ってもいられなくて、ルシアンとここに来たの」と言うと、彼女はとても悲しそうな表情を浮かべていた。

(やっぱり辛かったよね............)と心配していると、彼女は首を横に振った後「諦めるつもりはありません!」と言ったのである。そんな彼女の言葉を聞いて、嬉しくなったと同時に、彼女が強く生きていく決意をしたことに、感動を覚えたのだった。

「ラルフは、お相手の婚約者のことについて、どう言っているの?」

私が疑問を投げかけると、リリアナさんは悲しそうな表情を浮かべながら答えてくれた。

「お父様から、その方と結婚してほしいと言われた後は、何もお話できていないんです.............」

その言葉を聞いてショックを受けていると、リリアナさんは続けて言った。「でも、私は諦めません!絶対に彼と幸せになってみせます!」と力強く宣言したのだ。そんな彼女の姿を見ていると、私も勇気づけられるような気持ちになり、より一層彼女の力になりたいと思ったのである。

それからは、毎日手紙を送り合ったりしながらお互いの状況を報告しあったりしているが、依然として進展はない状態であった。

それでも尚、リリアナさんは諦めることはなかった。

そして遂にある日のこと、私はリリアナさんからの手紙を読んで驚いたのである。『ラルフに婚約破棄して、その方と結婚してほしいと言われました』という内容だったのだ。

(そんな..............どうして?)と動揺しながらも、続きを読み進めると、そこにはこう書かれていたのだ。『お父様にいくら言っても聞いてもらえず、困っています』とのことだったので、私は彼女を救うべく、行動することにしたのである。

翌日、私は馬車に乗り込んで町へと向かったのだが、目的の場所に到着するまでにとても長い時間を要したような気がした。そして、やっとのことで辿り着いた先で、私はリリアナさんと再会することができたのである。

「レイラ!?」

私の姿を見た彼女は、驚きを隠せない様子でいたが、すぐに駆け寄ってきてくれたので、私もまた彼女の元へ駆け寄ったのだ。「急に来てごめんね.............でも、どうしても心配で来ちゃった。」と言うと、彼女は嬉しそうな笑みを浮かべてくれたのである。

それから、私達は彼女の部屋で話をすることになったのだが、話を聞いていくうちにどんどんリリアナさんが、追い詰められているのだということを、実感することとなった。

お父様からの婚約の話が持ち上がったことで、彼女自信もすっかり落ち込んでしまっているようだ。

「リリアナさん、諦めちゃダメよ。一緒に頑張ろう?」と言うと、彼女は小さく頷きながら、涙を流していた。そんな彼女の姿に胸が苦しい思いだったけれど、それでも彼女を救い出すため、に私は精一杯力を尽くそうと誓ったのである。

それから数日後のこと、私は再び町を訪れてリリアナさんに会いに行ったのだが..............そこで見てしまったものは、信じられない光景であった。なんと、リリアナさんの婚約者の男性と思われる方が、王宮に入って行く姿を、目撃したからである。

私はその光景を見て驚きながらも、急いで彼女の元へと向かったのであった。

そして、彼女に事情を聞いたところ、どうやらその男性は貴族の中でも有名な方で、かなりの権力を持っているらしい...........。

確かに、社交界で見たことある気がしたのはそのせいか。

それ故に、リリアナさんのお父様も手出しが出来ずにいる様子だと言うことが、分かったのだ。

「レイラ............私、どうしたら良いか分からないの............」と目に涙を浮かべながら、言う彼女の姿を見ていられずに、私は思わず泣きじゃくる彼女の頭を優しく撫でたのである。

「リリアナさん、辛いと思うけど、私は2人の恋を応援しているから............」と、励ますように言ったところ、彼女は涙を浮かべながらも、笑顔で応えてくれたのである。

「ありがとうレイラ、私頑張るわ!」と言って立ち上がる彼女を見て、私もまた一緒に立ち上がったのだった。

それからというものの、私達は手紙のやり取りを続けながら、お互いの近況を報告し合うようになった。

リリアナさんからの手紙を読む度に、胸がぎゅっと締め付けられるような思いになるが、それでも私は彼女が幸せになれる日が来ることを、祈り続けているのである。

そんなある日のこと、私は久しぶりに町を訪れてみることにした。

(リリアナさんはお元気だろうか.............?)と心配しながら歩いていると、見覚えのある後ろ姿を見つけたのだ。

「............リリアナさん?」

思わず声をかけてしまった私だったが、振り返った彼女の表情を見て驚いた。

いつものような明るい笑顔ではなく、どこか曇ったような顔だったからだ。

「レイラ...........」と言って俯いた彼女に駆け寄り、私は何があったのか尋ねてみたのだが、彼女は何も答えてくれず、ただ悲しそうな表情を浮かべるだけだったのである。

そんな彼女の姿を見た私は、ますます心配になってしまい、急いで馬車乗り場へと向かったのであった。

そして、馬車が出発するまでの間、私達は無言のままでいたのだけれど、不意にリリアナさんが口を開いたのである。「私ね、ラルフとは結婚できないみたいなの............」という彼女の言葉に、私は耳を疑ったのだが、次の瞬間信じられない言葉が飛び込んできたのだ。

「お父様がその方との結婚の契約を結んでいたみたいなのよ.........でも私、絶対に嫌だわ..........」と言った彼女の瞳からは大粒の涙が溢れ出しており、私はただ呆然と立ち尽くしていた。

(嘘でしょ................?)と心の中で呟きながらも、彼女が嘘をついているとは思えなかった。

それからリリアナさんは、そのお話を聞いたことでショックを受けてしまい、部屋で塞ぎ込んでいたようだ。

私は、リリアナさんに寄り添いながら、話を聞くことしか出来なかったけれど、彼女は少しずつ落ち着きを取り戻していったようで、ホッとしたのである。

それから、私達はしばらくの間一緒にいたのだけれど、帰り際に彼女が言ってくれた言葉が、とても印象的であった。

「レイラ、ありがとう............私、諦めないから。計画があるの。近々実行してみるわ」と笑顔で言ってくれたのだ。私は、そんな彼女の表情を見て心の底から嬉しくなったと同時に、必ず彼女の行く末を最後まで見守ってみせると、心に誓ったのである。


そして翌日には、早速リリアナさんからの手紙を受け取り、その内容を読んでみることに。

『レイラ、私達が幸せになれる道があることが分かったわ。』と書かれた手紙を見た私は、胸が高鳴ったと同時に、嬉しさが込み上げてきた。

「どんな計画なんだろう?」とワクワク思いつつも、続きを読み進めてみると.............そこにはこう書かれてあったのだ。

『まず私とラルフで直談判をして、それでも無理なら私は国を出ます』と書かれており、私は思わず驚いてしまったのである。

(本当に大丈夫なのだろうか.............?)と、不安に思いつつも、私は彼女を信じて待つことにした。

数日後のこと、リリアナさんからの手紙が届いたのである。その手紙には『やっとお父様と話し合う機会が得られました!』という内容が、書かれていたのだ。私は、喜びと緊張が入り混じった感情を抱いた。

どうやら、リリアナさんのお父様は、彼女の想い人を既に知っているようであり、彼に想いを寄せていることを正直に伝えた上で、婚約破棄をお願いするつもりのようだった。

「でも、そんなことをしたらリリアナさんはどうなるの............?」と心配しながら、彼女からの最後の締めの挨拶まで、読み終えたのである。『心配してくれてありがとう、レイラ。私は、貴女の応援のおかげでここにいるの。頑張るわね!』という文字を見た私は、なんだか不安でたまらない思いになったが、それでも彼女の覚悟を無駄にしないためにも、最後まで見届けようと決意したのだった。


数日後、遂にその日がやってきたようで、リリアナさんからの手紙には、『結果はまた会ってお話したい』と書かれていたのである。

私は、ドキドキしながらもその日を待つことにした。そして数日後のこと、遂にその時が訪れたのである。

「レイラ、私の話を聞いてくれる?」と言いながらリリアナさんが部屋に入ってきたので、私は立ち上がって出迎えることにしたのだ。彼女は、以前に比べて少し瘦せているような気がしたが、それでもなお美しく見えるのは、彼女の笑顔のおかげだろう。

「久しぶりだね!リリアナさん」と言って私が手を広げると、彼女もまた私を抱きしめてくれました。久しぶりの抱擁はとても暖かくて幸せな気持ちになりましたが、今回はそういった余韻に浸っている余裕など、ありませんでした。

「うん!私も会いたかったわ!」と言って笑顔を見せる彼女の瞳には、涙が浮かんでいました。その様子を見て心配になった私は、彼女が落ち着くまでそっと見守ることにしたのです。

しばらく経ってから、リリアナさんは深呼吸をしてから、口を開きました。「レイラ.............やっと、片付いたの!お父様と話し合ってきたのよ」と言う彼女の顔には覚悟が見えており、私は何も言えずに、ただ頷くことしか出来なかったのである。「それで、どうなったの?」と緊張したまま尋ねると、彼女は笑顔で答えてくれたのである。「お父様からは、無事にラルフとの婚約が認められたわ!」と言って、彼女は満面の笑みを浮かべた。

「本当?本当に?」と信じられずに何度も聞き返す私に対して、リリアナさんはしっかりと頷いてくれたのだ。その笑顔を見て、私も涙が出そうになったけれど、必死に堪えて笑顔を作ったのであった。

それからというものの、私達は時間を忘れて語り合ったのである。お互いの想いや、悩みなど全てを打ち明けたのだが、それでもまだ足りないくらいに、話が尽きなかったのである。

そして、ようやく満足するまで話し終えた頃になって、私達は一つの決断をしたのであった。

「私............決めたわ!私は、ラルフと結婚する!」リリアナさんはそう言うと、私の手を握りしめてきたのだ。「レイラはどうする?一緒に来ない?」と言われたが、私は悩んだ末に彼女の誘いを断ったのである。「ごめんなさい............私にはまだやりたいことがあるの。でも、遠くからでも私たちは、2人の味方だからね」と答えたところ、彼女は優しく微笑んでくれたのだった。

「分かったわ!でも、きっといつか会える日が来るはずよ!」と言う彼女の言葉に、少し切ない思いをしたのだったが、それでも私は笑顔で返したのだ。


それから1ヶ月後、彼女たちは結婚式をあげた。

参列客の中には、ラルフやリリアナさんのご家族の姿があった。

私は、親心のように満足していたのである。

「レイラ、今までありがとう。あなたのおかげで、ここまで来ることができたわ」と微笑むリリアナさんの言葉を聞いた途端、涙が溢れ出てきたが、それをぐっと堪えて彼女を抱きしめながら「おめでとう!本当に幸せになってね!」と告げたのだ。

会場では、数々の美味しそうな料理が並んでおり、華やかな雰囲気に包まれていた。私が、1人で料理をはしごしていると、シャルロッテさんに声をかけられた。

「レイラさん。この度は、お姉様の式にご参加ありがとうございます」

「いえいえ。こちらこそ招待していただき、ありがとうございます」

「ふふっ.............ところでレイラさん。やっぱりたくさん食べられるんですね」と悪戯っぽく笑みを浮かべながら言ってきたシャルロッテさんに、私は少し驚き、恥ずかしくなってきた。

慌てて、料理をよそったお皿を隠す。

「え、えぇ............どれも美味しそうです」そう答えると、彼女はさらに笑みを深めながら、言葉を続けたのだ。「実はですね............限定スイーツもあるんですよ。運良くお取りよせできたんです。食べてみてくださいな」と言った後に、私に向かってウインクをした。

私は目を輝かせながら、そのスイーツを食べ始めた。口に運ぶと、ふわっとした食感が広がったと同時に、口の中でとろけるように消えていったのだ。あまりの美味しさに感動していると、シャルロッテさんが笑いながらこちらを見ている。

食い意地が張っているみたいだけれど、美味しすぎるんだもの!

「こ、これは美味しすぎる............!」と言いながら、目をキラキラと輝かせて見つめると、彼女は満足げな表情で頷いていた。それからしばらくスイーツを堪能した後で、私はシャルロッテさんにある質問をしてみたのだった。「シャルロッテさん、リリアナさんの件は、どうやって解決したんですか?」と尋ねると、彼女は一瞬戸惑った様子を見せたものの、すぐに口を開いたのである。

「そうですね..............簡単に言うと、彼女がラルフ様の事を心から本当に好きなら、応援してあげようと思ったんです。私からも、お父様にお話したので、少しでも力になれたのかなと。」と言った彼女の言葉を聞いて、私は納得したのであった。

シャルロッテさん、まだ幼いのにしっかりしていて良い子だわ............。

リリアナさんの事も助けてあげれて、しかも、恋も応援しているなんて。

そう思いながら私がシャルロッテさんを見つめていると、彼女は少し照れくさそうにしながら微笑んでいた。

そして数日後の事。シャルロッテさんから招待状が届いたのである。

私は早速それに目を通してみると、そこにはこう書かれていたのだ。『ご協力いただいたお礼に、お茶会を開くことになりましたので、是非ご都合が合えばいらしてください』と書かれてあったので、私はすぐに準備を始めたのであった。

数日後、私はシャルロッテさんの家へと到着したのだが、そこに待っていたのはたくさんの華やかなご令嬢たちだった。

皆誰もが楽しく過ごしており、シャルロッテさんとリリアナさんも、お互いに笑顔で話していた。彼女たちの様子を見るだけで、2人がとても良い関係を築いている事が、分かるほどであった。

もちろん、そこでも甘いスイーツをいただいたのは、言うまでもない。

お茶会が終わり、私が帰ろうとした時のことである。シャルロッテさんが私を呼び止めてきたのである。

「レイラさん..............本当にありがとうございました」と言った彼女に、私は笑顔で応えた後、1つ提案してみたのである。「今度、一緒にお出かけしませんか?」と聞くと、彼女は嬉しそうに笑ってくれたので、私は心が躍るのだった。

それからというものの私たちは頻繁に連絡を取り合うようになり、共に遊ぶ機会も増えていった。そんなある日のこと、私はシャルロッテさんに呼び出されて彼女の家へと向かったのである。「レイラさん、実は折り入ってお願いしたい事があるのですが.............」と真剣な表情で言ってきたシャルロッテさんに、私は緊張しながら続きを促したのだ。

すると、彼女は意外な言葉を口にしてきたのである。「実は私..............病気なんです」と申し訳なさそうに、言ったのだ。

私は驚きつつも、詳しく話を聞くことにしたのだが、彼女はポツリポツリと話してくれたのであった。

どうやら、自分の命が長くないかもしれないという事や、両親からも心配されているという事、そして最近では、特に体調が悪くなってきているのだという。

私は、彼女の話を聞いているうちに胸が痛くなってきたが、それでも何とか平静を保ちながら、話を聞くことが出来たのである。「お願いします..........レイラさん...........私の日記を、預かっておいていただけませんか?何かあったら、リリアナお姉様に渡してください。」と言った彼女の目には、涙が浮かんでおり、私の手を両手で優しく握りしめてきたのだ。その姿を見た私は、思わず辛さに耐えられず涙を流してしまったのだが、それでも精一杯笑顔を浮かべて、彼女を抱きしめていたのだった。

それから数日後のこと、シャルロッテさんは覚悟を決めて治療の為に、優秀な医師がいる国へ行くことになったのだが、その間に日記を私に預ける事にしたのだ。

私はその日記を読みながら、彼女がどれだけ頑張っていたのかを、知ることが出来たのである。

そして数日後、シャルロッテさんを乗せた列車が飛び立ち、その姿を見送った後............私はある決断をしたのであった。


あれから数ヶ月が経った。今日私は、とある用事で1人で街に出ていたが、そこで偶然にもシャルロッテさんを見かけたのである。

彼女は、以前よりもとても元気そうだったが、何処か寂しげな表情を浮かべているようにも見えたので、気になったのだ。気になって仕方がなかったので、彼女に声をかけたのだが...........何故か彼女は、私から逃げるように立ち去ってしまったのだ。

私は驚きつつも、追いかけようとしたのだけれど、結局見失ってしまったのである。

それからしばらく経ったある日、私は街で偶然にも、またシャルロッテさんの姿を見かけた。その時彼女は1人ではなく、誰かと一緒にいるようでしたが、相手の男性は彼女の手を握りながら、親密そうな雰囲気で歩いていた。その様子を見た私は、何故か胸騒ぎがして仕方なかったが...........それでも気のせいだろうと、自分に言い聞かせていた。

しかしその時、私の背後から突然声をかけられた。「やぁレイラ」と言いながら、手を上げてきたのはラルフだった。「お久しぶりです、ラルフ。」と私が挨拶を返すと、彼は微笑みながらこう言ったのである。「最近、シャルロッテとは仲良くしてるかい?」と。私は、一瞬頭が真っ白になってしまったが、すぐに平静を取り戻して言葉を返した。

「いえ...........最近はあまりお会いしていませんので、お話できていないのです。」と言う私に対して、彼が続けて言った言葉が衝撃的だった。「そうか...........じゃあ、丁度いいタイミングかもしれないな」と言った彼の言葉の意味が分からず困惑していた。

「彼女、記憶喪失を抱えているみたいでな.........。今は、必死に思い出そうとしているらしい。」

「え、?記憶喪失?」と思わず聞き返した私に対して、彼は真剣な表情で続けた。

「あぁ。実はな、あのお茶会の後..........。シャルロッテは手術の後に、それから記憶がなくなってしまったんだ」と言った彼の言葉を聞いた私は、言葉を失ってしまった。まさか、彼女がそんな状況だったとは思いもしなかったからだ。

その後、ラルフは私に詳しい事情を教えてくれたが、その話を信じることが出来なかった。しかし、実際に彼女が記憶喪失になってしまったという事実を知ってしまい、愕然とするしかなかったのである。

あまりにも驚きすぎて声が出なくなった私を、ラルフは心配そうに見つめていた。

その日は、冷静に考えたいとラルフに別れを告げてから、私は自室でずっと思案していた。

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