錬金術師アレックス−3
アレックスはメグと別れた後、飛んでいるピュセーマの背中で、今日倒した魔物の解体をしたいと考え始めた。
だが王都のどこで解体ができるかも分からない。
今日はギルドで解体をお願いしようと思ったところで、王都に来るまでの道中に魔物を倒したのを今更ながらに思い出した。
倒した魔物を忘れるなんて普段しない失敗に、初めて王都に来た事で思った以上に興奮していたようだと一人で恥ずかしくなる。
魔法鞄には物が腐りにくくなるような効果を付けてあるので、鞄の中に入れておけば一年以上問題はない。
先ほど倒した魔物と違って、解体されているので売りやすい。
問題は魔物の正式名称が思い出せないことだ。故郷では飛びトカゲと呼ばれていた。
故郷では数が多いので珍しくもない魔物なのだが、村の外では意外と数が少なく、高く買い取って貰えると聞いた事がある。
飛びトカゲでは通じないだろうと、魔物の名前を何とか思い出そうと頑張る。
思い出せないのでピュセーマに相談すると、正解をわかっていそうだったが、アレックスには大雀の言葉はわからない。
なんとか自力で魔物の名前を思い出そうとする。
「思い出した! ワイバーンだ!」
「チュ!」
アレックスの言葉にピュセーマが正解と言うように鳴いた。
どうやら正解のようだ。
飛びトカゲ改めワイバーンは解体はされているが、鞣し作業をしていないので多少安くなるかもしれない。
今は作業をする場所もないので諦めるしかないだろう。
それでもワイバーンは十分に高いだろうし、大きな皮なので王都で活動するための資金は手に入れられるはずだ。
皮の値段次第だが、自分の防具に使っている革はワイバーンの物を使っているので、修理用に一部手元に残したおきたい。
ギルドを通すと物の値段は当然下がるので、今回はお金が欲しい事もあって、買い取ってくれそうな店を探す事にする。
ワイバーンのような珍しい物であれば高級店でも買い取ってくれるだろう。
王都の中心に近い場所へと向かうようにピュセーマにお願いした。
「流石王都だな高層階の立派な店が多い」
「チュチュ」
「ピュセーマ、ちゃんと探せって言ってるんだな? 分かってる。店も探してるよ」
店を探していると、王都の大きな店は上向きに看板を出している事に気づく。
看板の中からハンク防具店と書かれた大きな店を見つけた。
ピュセーマに指示をすると、ハンク防具店の前に降り立つ。
ハンク防具店には止まり木まで用意されており、アレックスは鞄を手に持つとピュセーマに止まり木で待っているように伝える。
ピュセーマが止まり木に止まったのを確認すると、店の扉を開けて中に入る。
店の中は王都の中心に近いだけあって高級店のようで、アレックスの目から見ても品揃えが良い物が多い。
店の奥に行くと、店員と客が揉めているようで声が聞こえてきた。
「なるべく早く優秀な防具が欲しい」
「当店の防具は優秀な防具に限っては特注品でして、作ろうにも素材がありませんと品を用意できません」
「できる限りの物で構わない。その中で最上級の物を頼む」
揉めている客の対応している人意外に他に店の店員は居ないようで、今いる客の対応が終わるまで待つ事にした。
店員が空くのを待っていると、どうしても客と店員に目線が行ってしまう。
客は女性で軍服のような服を着ており、店員は女性に強く出れないのか断れないでいるようだ。
結局、店員は客に言いくるめられたようで、店員が客の要望に頷いている。
注文を通した女性は満足したようで、店を出て行った。
アレックスは女性の客が店を出たのを確認すると、店員の元に行って声をかける。
「すみません」
「いらっしゃいませ。特注品をお求めなら申し訳ありませんが、今は注文を受け付けていません」
店員は先ほどの女性とのやりとりに疲れているのか、注文を今は受け付けないと先手を打ってきたようだ。
アレックスは先ほどの客では仕方ないと、苦笑をしながら違うと店員に言う。
「買取をお願いしたくて」
「買取ですか? 当店は中古の買取はしておりませんよ」
「いえ。素材の方です」
「素材ですか。素材であれば物によりますが買い取ります。物は何をお持ちで?」
「ワイバーンなのですが」
「ワイバーン!」
ワイバーンと聞いた店員の動きは先ほどまでと違って、やる気に満ち溢れた表情と動きになった。
店員が店の奥から人を呼んで、お茶の用意を言いつけて、更に店番を代わってもらっている。
店員から店の奥で話を聞くと言われて、奥の部屋へと押し込まれるように案内された。
アレックスが口を挟む間もなく話が進んだので、皮を鞣す前だと言い出す事ができない。
店員の勢いに押されて部屋の椅子へと座らせられた。
お茶が来た後に店員がお茶を勧めてから話が始まった。
「さて、商談を始めましょう」
「先程は言いそびれたのですが、まだ皮を鞣す前なのです」
「鞣しに関しては当店が贔屓にしている工場がありますので、全くもって問題はありませんとも」
「良かった」
まずは皮の状態を見せたいが、皮を鞣す前なので、客間の綺麗な机の上には出せそうにない。
汚れても問題ない場所はないかと店員に聞くと、店員が別の部屋に案内してくれた。
別の部屋は防具の整備に使う部屋なのか独特な匂いがする。
店員から匂いについて謝られたが、この程度なら問題ないと返す。
部屋の中央に置いてある大きめの机の上に、アレックスがワイバーンの皮の塊を魔法鞄の能力を使って取り出す。
ワイバーンの皮は畳んで魔法鞄に仕舞われていたので、机の上に何とか乗った。
かわりに机は重みで悲鳴を上げるように音を出だした。
アレックスが狩ったワイバーンは五メートルほどの大きさで、皮を剥ぐと皮の面積は更に大きくなるので、机の上に乗って良かったとアレックスは思う。
「この鱗は大人のワイバーンですな」
「そうです。五メートルほどだったので、大人のワイバーンにしては少し小柄ですね」
「いえ、十分な大きさと品質のようです」
ワイバーンの皮には小さな鱗がついており、見た目は灰色の蛇皮のような見た目をしている。
店員が触ることの許可を求めてきたので、許可を出すとワイバーンの皮を調べ始めた。
アレックスが見守る中、店員は唸り声や感嘆の声を上げながらワイバーンの皮を一通り確認して行った。
店員は最終的に最上級品だと伝えてきた。
「このワイバーンの皮は全て譲っていただけるので?」
「値段次第なのですが、少し自分で使う為に残したいとは思っています」
「お使いの防具の修理のためですかな?」
「流石ですね。気付いていましたか」
「当店は防具を専門に扱っておりますので」
店員は更にワイバーンの持ち込みだと言われて、初見の客を信じる事は無いが、客自身がワイバーンの防具を着けていれば別だと笑いながら教えてくれた。
防具を取る暇なく行動をした事が、店員への信用に繋がるとは思いもしなかった。
防具を取っていなかったのは偶然だが、幸運だったようだ。
アレックスは店員にワイバーンの皮で必要な量を伝えると、もう少し持って行っても十分な値段になると態々教えてくれた。
それならば防具が二着作れるほどの量を残して、他は売却してしまう事にする事にした。
「防具二着分ですね。承知いたしました。鞣し作業はどうされますか?」
「今はやる場所がないので一緒にお願いします」
「承知……あの、お客様が鞣し作業をなされるんですか?」
「私は錬金術師なんです」
「錬金術師?」
アレックスは国家資格を取るために故郷から王都に来たことを伝えると、店員は驚きながも納得した様子だ。
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