錬金術師アレックス−2

 アレックスはマンティコアの尻尾の攻撃を避けつつ次の攻撃を警戒していると、マンティコアの背後に相棒のピュセーマが見えた。

 マンティコアが尻尾を振った後にできた隙を狙って、身体能力を上げるスキルの出力を最大にまで上げた。

 マンティコアの顔を剣で下から掬い上げるように打ち上げる。

 数百キロはありそうな巨体が前足を浮かせて後ろ足で立ち上がったようになった。


 立ち上がったようなマンティコアの背後から、ピュセーマが凄まじい速度で飛んできた。

 ピュセーマがおそらく風の魔法を使ってマンティコアの頭を切り落とした。

 頭と胴体の離れたマンティコアの動きが止まるまで、剣を構えたまま警戒する。

 完全に動かなくなると、剣をしまった。

 飛んでいたピュセーマが戻ってきた。


「ピュセーマ、助かったよ」

「チュチュチュ!」


 ピュセーマは倒れている大雀が心配なのか脚力で飛んで大雀の隣に移動した。

 アレックスもピュセーマに続いて大雀と女性の元に向かう。

 大雀に抱きついている女性に話しかける。


「大雀が怪我をしたんですか?」

「私を庇ってマンティコアの毒に!」

「それはいけない!」


 アレックスが大雀に駆け寄って大雀を調べる。

 大雀は息はしているようだが弱々しい呼吸しかしておらず、急ぎ治療をしないと助からないかもしれない。

 急ぎピュセーマの背中に固定してあった魔法鞄を下ろして、必要な道具を取り出す。

 取り出した道具は錬金術で作り出したポーション、解毒用ポーション、注射器。

 最初に解毒用ポーションとポーションを混ぜて、注射器で吸い取って大雀に注射する。更に別のポーションを取り出すと、大雀の口元に持っていって何とかポーションを飲ませる。


 大雀がポーションを飲み込んだのを確認した後は、治癒魔法を使って大雀の傷と毒を治療する。

 魔法の効果を上げるために魔力で魔法陣を二枚作り出して、魔法陣を大雀が倒れている地面と、大雀の上に配置した。

 マンティコアの毒は強力なため、あまり得意としていない治癒魔法だけでは回復しない可能性がある。

 解毒剤やポーションを使って回復力を上げたが、回復するかどうかは大雀の頑張り次第だ。

 アレックスは魔力量が多くないと自覚しており、魔法を使っている時間が長くなるにつれて、魔力が足りなくなると思い始めた。

 魔力を回復するポーションを飲むか迷った所で、大雀が倒れた状態から顔を上げた。


「アネモス!」

「チュ…」


 どうやら女性の相棒である大雀はアネモスと言う名前のようだ。

 アレックスは魔力を一気に使ったせいで少し眩暈がする中、弱々しく鳴いたアネモスに追加のポーションを投与する。


 本来ならポーションを連続で与える事は良くない。

 だが今は緊急事態な事と、体長が三メートル近い大雀の体の大きさなら問題はないと判断した。

 アネモスにポーションを投与しながら、魔力が無くなるまで治癒魔法を使う。

 魔力がなくなれば今日はもう魔法が使えないが、王都に帰るだけなので問題はないだろう。


 アネモスが立ち上がれるほどには回復した所で魔力が無くなる。

 アネモスの体調を確認すると、少し休憩すれば王都に戻る程度なら飛べそうだと分かった。

 アネモスに抱きついて泣いていた女性がアレックスに向き直った。


「本当にありがとうございました。私はギルド員のメグと言います。それと助けて頂いた大雀のアネモスです」

「よろしくメグ。私はアレックス。それと相棒のピュセーマ。アネモスの治療は手持ちの道具で足りて良かったよ」


 街の外で戦闘を主にしているギルド員同士は呼び捨てにするのが不文律だと、アレックスは聞いているので不文律に従って呼び捨てにする。

 泣いていたメグは目が腫れているようだ。

 ポーションを少し染み込ませたハンカチを渡して使ってもらう。


 アレックスはハンカチを渡すときにメグを落ち着いてしっかりとみる事になった。彼女は青みがかった銀髪で、アレックスよりは背が小さいが、女性にしては高めの身長で百七十センチはありそうだ。

 ギルド員だからかしっかりと武器と防具を装備しており、大きめの剣を腰につるして着けている。

 メグはハンカチのお礼を言った後に、アレックスを褒め始めた。


「ポーションも凄いですが、治療魔法凄かったです」

「ポーションを作るのは得意なんだけど、治療魔法は苦手なんだよね」

「苦手?」


 メグが不思議そうに首を傾げている。

 アレックスは故郷で自分以上に凄い治療師が居たと笑いながら説明する。

 説明をしてもメグの不思議そうに首を傾げているのはすぐに元に戻らない。

 凄い治癒魔法士から教わっているので、苦手な治療魔法が多少使えるようになっただけなのだが……。


 どう説明したものかと考えていると、メグが真面目な顔をしてお礼をしたいと言ってきた。

 お礼をしたいと言われて困ってしまう。

 今は錬金術師としても中途半端な立ち位置で、故郷の村でならまだしも、王都で錬金術師として活動していいのかまで調べていない。

 更に治療師としては完全に野良の治療師であって、お金を取ってしまうと捕まってしまう場合があったはずだ。

 錬金術師も治癒魔法士のどちらも人命に関わるため、しっかりとした法律が作られており、違反をすれば最悪打首の可能性がある。

 アレックスはメグに事情を話すと、メグは目を見開いて驚いている。


「待ってください。ギルド員ではなく錬金術師なのですか?」

「一応ギルド員ではあるんだけど、戦いは苦手だから錬金術師になったんだ」

「苦手?」


 メグがアレックスとマンティコアへ視線を往復させた後に、再び首を傾げている。

 アレックスは故郷で勝てる人が居なかったので、自分は弱いのだとメグに説明する。

 実際マンティコア程度であれば近所の爺ちゃん婆ちゃんであっても、一撃で倒してしまうだろう。


 アレックスの自分が勝てる人が居ないという説明に、メグは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 マンティコアに不意打ちを突かれて、アネモスを怪我をさせてしまった事をメグは後悔しているのかもしれない。

 アレックスは話題を変えることにした。


「資格を取っていない現状は、お礼を貰うと下手をすれば捕まってしまうんだ」

「それならアネモスが回復したら、錬金術で必要な素材があれば取ってきます」

「そちらの方が今は助かるよ」


 王都に着いたばかりで、宿を移動する可能性があると伝えてからアレックスは宿の場所を教えた。

 メグの連絡先も貰って、必要な素材があれば連絡する事になった。

 アネモスの回復を待って帰る事になったが、マンティコアをどうするかメグに尋ねる。


「マンティコアはアレックスが持って帰ってください」

「良いのかい?」

「アレックスが倒した魔物ですから」


 断るのもどうかと思って、マンティコアを回収した。

 マンティコアを回収した後も、メグとアネモスを置いて帰るつもりはない。

 アネモスが飛べるまで回復した所で、ピュセーマがアレックスとメグを乗せて、アネモスは単体で飛んで王都へと移動しようと、メグと相談して決めた。


 アネモスが飛べるまで回復したところで、王都へ戻る事にした。

 アネモスはふらつきながらも王都まで飛び続ける。大雀も見てもらえる治療院の庭へとアネモスが何とか降り立った。

 アネモスが降りた隣にピュセーマは降り立った。


「ピュセーマ、ありがとう」

「チュチュチュチュ」


 ピュセーマがアネモスがふらついた時に、魔法を使って補助していた。

 なのでピュセーマのおかげで治療院に辿り着けたと言っても良いかもしれない。

 メグが再びお礼を言ってくるが、治療魔法士を早く呼んでアネモスを見て貰った方が良いと伝える。

 メグは治療院の中に入っていった。

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