路地裏の錬金術師 〜魔境のような村から出てきた錬金術師〜
Ruqu Shimosaka
序章 錬金術師アレックス
錬金術師アレックス−1
アレックスは辿り着いた王都のヴェジストを、大雀のピュセーマに乗って見下ろす。
「ピュセーマ、まずは門に向かおう」
「チュチュン」
アレックスの頼みを聞いてくれたピュセーマは、門の前に降り立ってくれた。
ピュセーマから降りて周囲を確認すると、ピュセーマと似たような人を乗せられる大雀が多くいて、やはり王都でも大雀は人気なようだ。
門の周囲を見回した後は、近くに居た衛兵に近づいて挨拶をする。
衛兵に錬金術師の国家資格を取りに来たと伝え、大雀を王都の中に入れる許可が欲しいと相談する。
衛兵が出身地などの質問をしてきた。
アレックスは全ての質問を答えて行った。
衛兵は最後にピュセーマに近づいて行って、周囲を回った後に問題なしと言って書類に何か書き込んでいる。
衛兵は鉄の板で作られた魔道具をアレックスに渡してきた。
魔道具を見て確認していると、次回から魔道具を持っていれば確認なしで上空から通れると衛兵が説明してくれた。
「ありがとうございました」
「試験頑張ってな」
「はい」
アレックスは少し歩いて見学したいと、ピュセーマと共に王都の中に入った。
王都の中に入ると、建物や人の多さに圧倒されながらも周囲を見回す。
王都を楽しみながらアレックスは王都に来た理由を思い出す。
父は錬金術師で、アレックスは父の弟子として活動していた。
アレックスは母親似で、黒髪だが光の加減で青や紫に見える髪をしているのに、父は明るい銀髪のような髪をしていた。
なので見た目はあまり似ていなかった。
ある日、父が朝起きて来ないので不思議に思って起こしに行くと、冷たくなっていた。
普通の親子であれば祖父と孫ほどに歳が離れており、アレックスは今年十七歳だが父親は死んだ時には既に六十歳を超えていた。
年齢を考えれば父との別れが近い事は分かっていたが、元気な父が急に死ぬとは思ってもいなかった。
村の皆に手伝って貰って父の葬儀は終わらせた。
葬儀が終わってから、錬金術師としての国家資格がない為に村で店を続けられないことに気づいた。
このような場合の為に三年は猶予期間がありはする。
しかし村の錬金術師は父とアレックスの二人だけだった為、村の錬金術師が居なくなってしまうと皆が困ってしまう。
すぐに王都に行けそうにないので、まずは兄弟子を村に呼び戻し、準備をしていると、気づいたら二年経っていた。
慌てて後は兄弟子に任せて、国家資格を取るために王都までやって来た。
王都を散策しながら移動すると、兄弟子から教わった大雀も泊まれる宿をまず取る。宿に一部の荷物をピュセーマからおろして宿の中に運び込む。
大雀が泊まれる宿は思った以上に高かった。
村から持ってきたお金が心許ないので稼いだ方が良さそうだ。
一応登録しているギルドで、採取と狩りをする為の情報を貰いに行く事に決めた。
宿の店員にギルドの位置を教わり、ピュセーマに乗ってギルドへ向かう。
ギルドに着くと、ピュセーマに止まり木で待っているようにお願いした。
ピュセーマが飛ぶのを確認すると、アレックスはギルドの中に入っていく。
ギルドの大きさに驚きつつも、受付に近づいていく。
「すいません」
「はい。どうされましたか?」
「近くの狩場について教えて欲しいんですけど」
「ギルド証はお持ちですか?」
魔法鞄からギルド証を取り出して受付の女性に渡す。
ギルド証を確認した受付の女性がどのような情報が欲しいか聞いてくる。
王都に来たのは初めてで、大雀で移動するギルド員が活動する場所がないかと受付の女性に尋ねた。
受付の女性は考えた後に、文字は読めるかと尋ねて来た。文字を読むことはできると返すと、受付の女性は何枚かの紙を渡してきた。
紙には採取場所について詳しく書かれたものだった。紙を順番に読んでいくと、錬金術に使える素材が豊富にある場所を見つけた。
素材も多いが、大型の魔物も多いようだ。
魔物はアレックスに倒せないほどではなく、稼げそうだと目的地として決める。
目的地として決めた紙を受付の女性に見せながら、王都からの距離について尋ねる。
受付の女性は大雀であればすぐに辿り着ける位置だと教えてくれた。
「ありがとうございます」
「いえ。お気をつけて下さい」
「はい。魔物はそう強くなさそうなので大丈夫だと思います」
アレックスはもう一度受付の女性のお礼を言った後に、ギルドの出入り口へと向かう。後ろから「強くない?」と声が聞こえた気がしたが、別の人の話だろうと、そのままギルドを出る。
外に出て改めてギルドの建物を確認する。
田舎のギルドと違って大きいだけあって、ギルドの屋根や壁に大鳥用の止まり木が大量に用意されている。そのうちの一つにピュセーマが止まっているのを発見した。
ピュセーマを呼ぶと、すぐにアレックスの元に降りてきた。
今から行く場所について説明をすると、早く乗れと言うように背中を向けてくる。
ピュセーマの背中には乗るための鞍がついており、鞍に跨るとすぐに空に飛び上がった。
迷う事なく飛び始め、向かいたいと伝えた場所へと辿り着いた。
「それじゃ売れそうな物の採取と、魔物の討伐をしようか」
「チュチュチュチュ!」
ピュセーマは随分とやる気のようで、アレックスが降りると別の場所に飛んで行った。
魔法鞄から装備を取り出して薬草などの採取をしていると、ピュセーマが戻ってくる。ピュセーマは足に猪に似た魔物を掴んでおり、魔物を下ろすと再び飛び去って行った。
目の前に下された魔物を確認すると、鎧猪だと分かる。
鎧猪は猪に似ているが、毛が薄く、毛の奥には鱗がある。更に尻尾は蛇の尻尾ような見た目をしている。
二百キロ近そうな鎧猪を持つ事は不可能だと、魔法鞄に付けた機能で鎧猪を持ち上げる事なく、魔法鞄に吸い込むように鎧猪を入れた。
魔石の魔力を使う必要があるため普段はあまり使わないのだが、鎧猪の体内から取れる魔石で十分に元は取れるだろう。
ピュセーマはそれからも倒した魔物を連続で持ってきて、ストレスが貯まっていたかとアレックスは反省する。
ピュセーマは元々父が相棒にしていた大雀で、父の死後はアレックスの相棒となった。
父の死後はどうしても忙しかった為、相手をする時間が減っていた。
反省をしていると、ピュセーマは満足したのか隣に座り込む。
「ピュセーマ、満足した?」
「チュチュチュ!」
ピュセーマが満足そうに鳴いている。
アレックスはピュセーマが狩ってきた魔物で十分なお金になるだろうと、ピュセーマと相談して王都に帰ろうと考えた。
アレックスはピュセーマに話しかけようとしたところで、悲鳴のような声が聞こえた。
「ピュセーマ、今の声聞こえた?」
「チュ!」
アレックスはすぐにピュセーマに乗る。
ピュセーマが悲鳴がした方向へと凄まじい速度で飛び始めた。ピュセーマの飛ぶ速度であれば悲鳴が届く範囲なら一瞬で辿り着ける。
人の姿が見えたところで、凄まじい速度で飛んでいるピュセーマから飛び降りる。
着地をした後、素早く状況を確認する。
大雀が倒れており、その前にはギルド員であろうアレックスと年齢が変わらない女性が立っている。
女性の前には獅子の体に老人のような顔を持ち、蠍の尻尾を持ったマンティコアがいる。
アレックスは装備していた剣を抜き、身体能力を上げるスキルを使ってマンティコアに切り掛かる。蠍の尻尾を狙ったが切り落とす事は出来ず、後ろ足に剣が当たった。
アレックスが持っている剣は鋭さよりも頑丈さを重視しているので、切り飛ばすことはできなかったが、骨が砕けた感触は手まで伝わってきた。
後ろ足の骨を砕かれたマンティコアは、しゃがれた老人のような悲鳴を上げた。
アレックスをしっかりと敵だと認識したのか、獅子の前足で攻撃してきた。
後ろ脚が砕けているので動きは遅いが、前足の凶悪な爪は健全だ。爪が掠らないように、余裕を持って避け続ける。
前足の攻撃が当たらない事に剛を煮やしたのか、マンティコアは蠍の尻尾も使って攻撃してきた。
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