3.探索、そして下敷き
翌々日の昼。事件のあった村に到着して、マルシャはこれは案外大変なことだなぁと思っていた。
予想していたよりずっと立派な村だった。それが破壊しつくされている。そりゃ報酬も上がるよな、と思う。舗装された道がめくれあがり、商店らしき建物は什器や物品ごと残骸となってしまっている。大量の木片や部品らしきものは民家や船が破壊されてしまったものだろう。
ルルカなんて村に着いてからちょっと顔色が悪くなっている。リーダーとしての気負いもあるのかもしれない。
「いや〜、冒険って感じですね〜。テンション上がるな〜」
「アンタね……」
マルシャはルルカを和ませるためにわざとトンチンカンなことを言った……というわけではなかった。
「案外やばそうですね。わくわくしてきました」
「そ、そうね……」
多分マルシャは本当に何も考えていない。まあ世の中考えたからといって解決することばかりではないので時には勘で動くことも大事だ。多分。
四人は村の中心部へと進んでいく。破壊の痕跡を目の当たりにしてやや言葉少なになっていたところに、遠くから声が聞こえてきた。
「おおーい!!!!」
日焼けしたドゥアン:
「なかなかのデカい声ですね」
ゼクシアは独特の価値基準で、彼のことをできる漁師だと判断したようだった。
廃材やゴミをかきわけ乗り越えしてドゥアンの男性が話しかけてくる。
「俺はこの村で漁師をやっている者だ。あの夜に怪物を見つけたのも俺だ」
「なるほど……。そのデカい声で事件当日は村の皆さんにいちはやく危険を知らせ、被害を最小限に抑えたのですね?」
「おう? まあその通りだが……」
「おまけに走ってきたのに息切れを感じさせない肺活量。その声、かなりのものでしょうね」
「へっ。見る目があるじゃねえか。潮で若い頃より枯れたとはいえ村一番の――」
「失礼。私たちは冒険者です。神殿からの依頼を受けてきました」
ゼクシアに任せているとあらぬ方向に話が飛んでいきそうだったのでルルカが対応する。
ドゥアンの男性は、依頼を受けた冒険者に事件の詳細を知らせるために来てくれたらしい。
「ヘビのような怪物が現れたっていうのは本当かしら?」
「そうだな。ヘビのように見えたのは確かだ。実際のところはわからん……。夜だったし、嵐で視界も悪かった」
「なるほど? 確かなことはわからないと……。わざわざ知らせてくれて感謝するわ」
「確かなのは、大きさからして船くらいはあったということだな」
「……え」
ルルカが思わず言葉に詰まる。この鯨漁で有名な村の”船”といったら、ボート程度ではあるまい。
「で……、デカくない!?」
「ああ、デカい。とんでもなくデカいヘビの化け物だったさ」
「デカいやつほど強いですからね」
ゼクシアが混ざるといつもややこしくなる。
「そうか……。これだけの破壊をした怪物だから……」
ジェーンも神妙にうなずき、
「怪物は砂浜から上陸して、村を荒らし回っていった。逃げるのに必死で……どうすることもできなかった」
「そんな怪物が今現れてもおかしくないってことですよねぇ〜」
マルシャも何気なく不吉な合いの手を入れる。
「…………」
ルルカは無言で生唾を飲み込んだ。
屈強そうな漁師の男が逃げるので精一杯。
鯨漁で有名な村。
きっと大きな船。そしてこの破壊。
「俺だってここに戻ってくるのは正直おっかなかったんだ。でも、あのグランフェルデン大神殿が派遣してくれた強い冒険者さんだろ?」
漁師が白い歯を見せてニカッと笑う。
「村の英雄さんたちの顔を拝んでおこうと思ってな!」
「正直私達はそんな強くな――」
「任せてくださいよ〜、この†エンドゲーム――」
余計なことを同時に言いかけたゼクシアとマルシャは、ジェーンに引っ張られて後ろに下がった。ルルカの指示だ。
「ご報告どうもありがとう」
ルルカは静かにまぶたを閉じる。
そしてゆっくりと杖を振りかざし、ポーズを決める。
「任せておきなさい……。あのグランフェルデン大神殿から派遣された、この
潮を含んだ風が吹き抜ける。
ルルカのライラック色の長い髪が揺れる。
ポーズはキマり、ジェーンの瞳だけがきらきらと輝いた。
「ディジ……? なんだか知らないが、頼んだぜ! 怪物さえいなくなればまたこの村でやり直せる……。本当に良い知らせだ、他の皆も喜ぶ!」
ドゥアンの男性はいたく感謝しながら去っていった。
その後ろ姿が見えなくなった途端に、ルルカの腰から力が抜ける。
へなへな。杖を支えにしてやっと立っている姿になった。
「い、言っちゃった……」
「言っちゃいましたね」
「ど、どうすんのよ!? 怪物っていったって捕鯨船ほど大きくてこの村……いや、ここほとんど町でしょ!? 町を一晩で破壊し尽くすほど大きいなんて聞いてないわよ!」
ついさっきまで大見得を切っていたとは思えない弱音だった。ルルカは見栄っ張りなのもあるが、サービス精神も旺盛なのだ。あ、フォローになってないか。えっと、そう……、いつも志は高いのだ。妥協が早めなだけで。
ゼクシアがルルカの肩にぽんと手を置いた。
「まあまあ、ここにいるのは現に私達ですし」
「……? そうだけど、それが何なのよ」
「私達にできるだけのことをしましょう」
「……」
ゼクシアもたまには良いことを言う。
「そう、ね……」
ルルカのへっぴり腰が治ってきた。
ぎゅっと杖を握りなおす。
「……そうよね。このタイミングでここに来られたのは私たちだけなんだから、実力がどうあれ何ら恥じ入ることはないわ……っ」
「その意気です、先輩!」
ジェーンはヨイショする。
「ええ……、私達に、できるだけのことを、しましょう!」
「ゼクシアさんが言ったことそのまんまじゃないですか」
マルシャは茶々を入れる。
ゼクシアのほうも見る。ギルドリーダーとしてなんかこう……いい感じに収めたい。
「これだけ仲間がいるんですから」
「そうよね……! これだけ仲間がいれば――」
「誰かひとりが囮になれば残り三人は多分助かるでしょ」
やっぱりゼクシアが良いことを言うのはたまにだけだった。間違ったことは言わないのだけれど。
しかしまあ、とにかく調査しないことには始まらない。
ルルカが大見得を切ってしまったのは置いておく。もともと依頼には「情報を持ち帰るだけでもよい」とも書かれていた。
†エンドゲーム†一行は気を取り直して(主にルルカが気を取り直して)調査を開始した。
「やはり何かが暴れ回ったような……。いえ、這いずりまわったような跡がありますね」
シーフのジェーンが広間に残った痕跡を丁寧に追っていく。
「むやみやたらに暴れてるように見えますが……。普通の民家より大きな商店や宿屋のほうがひどく破壊されている気もします」
ジェーンに言われてルルカも痕跡を追っていく。石畳がめくれているあたりを目印にして、今にも倒壊しそうな商店に入った。
「なるほど……?」
食べ物を売っていた商店らしい。倒壊していないのが不思議なくらいの有様だと思ったところで――。
「あ――」
ルルカが柱に手を置くと商店の屋根がぐらついた。
その場の誰もが思った。
まずい。倒壊する。ルルカが下敷きになる。
一番最初に飛び出したのはジェーンだった。なんとかルルカを助けようと手を伸ばす。
マルシャも意外に早く反応した。さすがウォーリア、ルルカをかばうように全身を乗り出して――。
「あぶなぁぁぁああああああーーーい!!!!!!!!!!!!!!」
危機一髪助かりそうなところで、ゼクシアの大声が炸裂した。
ドンガラガッッシャアアアアアアアアン!!!!!
雪崩みたいだね。
商店跡は崩壊し、全員下敷きになった。
駆け出し冒険者の前途は多難です。
次回、『罠を作ろう』
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