きりちゃん
伊藤沃雪
きりちゃん
「いーれて」
あ、きりちゃんだ。
僕はちょっとだけ嫌だな、と思った。
きりちゃんは、僕らが遊んでいるとどこからかやって来て、一緒に遊ぼうと言ってくる女の子。学校では会わないけど、この公園ではよく会うんだ。
「いいよー」「一緒に遊ぼー!」
他の子たちにそう言われて、きりちゃんは嬉しそうに笑う。お肌が白いんだけど、唇は真っ赤。不思議と僕も、嫌だなとは思っていても、きりちゃんを除け者にしたいとは思わなかった。
「じゃあ、何してあそぶ?」
「鬼ごっこ!」「かくれんぼ!」
みんなが口々にいうので、なかなか決まらない。
「はないちもんめ、しようよ」
きりちゃんがそう言うと、みんながきりちゃんの方を見た。
「でも、5人と6人になっちゃうよ?」
アミちゃんが心配そうに言った。
「5人と、5人だよ」
きりちゃんがそう言った。たしかに、そうだった。
5人と5人、ちょうどよく2チームに分かれた。
僕らのチームは、僕、きりちゃん、エミちゃん、けんと君、じゅん君。
あっちのチームは、たろう君、ナナちゃん、カズ君、ヤマちゃん、ちさちゃん。
『はないちもんめ』を唄いながら前にすすんだり、下がったりする。
「か~ってうれしい、はないちもんめ」
「となりのおばさんちょっときておくれ」
「オニがこわくていかれない」
「あの子がほしい」
「この子がほしい」
「そうだんしましょ、そうしましょ」
みんなでまるく円をつくって、小声で相談をする。
「誰がいい?」
「ぼく、ナナちゃんがいいな。ジャンケン、つよいし!」
「ヤマちゃんにしようよ!」
「カズ君は?」
「わたし、たろう君がいいな。」
きりちゃんが言った。
「いいね、たろう君にしよー!」「たろう君にきまりね!」
僕たちはみんな同じ意見で、すぐに決まった。
「たろう君がほーしい!」
「エミちゃんがほーしい!」
たろう君とエミちゃんがじゃんけんする。僕らのチームの、エミちゃんが勝った。
「やった!」「たろう君はこっち!」
エミちゃんが勝ったので、僕ら側が1人増える。これで6対4だ。
「か~ってうれしい、はないちもんめ」
「おかまかぶってちょいときいておくれ」
「おかまそこぬけいかれない」
「あの子がほしい」
「この子がほしい」
「そうだんしましょ、そうしましょ」
まるく円をつくって、相談をする。
「今度は誰にする?」
「ちさちゃんを仲間にしよう!」
「ナナちゃんはいいの?」
「やっぱり、カズ君がいいなー。」
「わたし、ナナちゃんがいいな。」
きりちゃんが言った。
「ナナちゃん!」「ナナちゃんつよいもんね!」
僕たちはみんな同じ意見で、すぐに決まった。
「ナナちゃんがほーしい!」
「けんと君がほーしい!」
ナナちゃんとけんと君がじゃんけんする。あっちのチームの、ナナちゃんが勝った。
「あ~負けちゃった!」「ナナちゃんはやっぱり強いなあ!」
けんと君が、あちら側に連れていかれる。
これで、僕らのチームが5人、あっちのチームは4人。できれば負けたくないなあ、と僕は思う。
「まけてくやしい、はないちもんめ」
「ふとんかぶってちょいときいておくれ」
「ふとんびりびりいかれない」
「あの子がほしい」
「この子がほしい」
「そうだんしましょ、そうしましょ」
円をつくる。さっきじゃんけんに負けてしまったので、みんなちょっと悔しそうだ。
「……誰にする?」
「ナナちゃんは強いから、あとにしよう」
「ちさちゃんにする?」
「それがいいね」
「わたし、ちさちゃんがいいな。」
きりちゃんが言った。
「そうだね!」「じゃあちさちゃんね!」
僕たちはすごく気が合う。すぐに決まった。
「はじめ君がほーしい!」
「ちさちゃんがほーしい!」
はじめ君は、僕だ。
僕とちさちゃんがじゃんけんする。あっちのチームの、ちさちゃんが勝った。
「はじめ君が連れてかれちゃった~!」「くやしーい!」
僕はちさちゃんに手を引っ張られて、あっちのチームに連れていかれる。悔しいけど、次は負けないぞ。
ブツッ。
───……。
──……。
……。
「そろそろ終わりにしよっか。」
声をあげたのは、きりちゃんだった。
子供達はちょうど4人と4人のチームに分かれていて、引き分けだった。
「けっきょく、スタートしたときの人数と変わんないね」「ひきわけだね~」
「でも、楽しかったね」
「じゃあ、またあしたね」
「うん、きりちゃん。おやすみ~!」
子供達は手を振りながら、公園から離れていく。
公園にはもう誰もいないけれど、ブランコが2つ、きいきいと前後に揺れて動いている。滑り台のローラーは、カラカラと上から順に回っていく。
きりちゃんは公園の真ん中に立っている。首を真反対にまわして、グルリとこちらを向いた。
「かってうれしい、はないちもんめ」
きりちゃん 伊藤沃雪 @yousetsu
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