第2話 視点「バイト暮らしの青年」
昼下がり、俺はオンボロ賃貸アパートに帰宅した。
今日みたいな半休が週に一度あればいい方だ。
今週はついてる。
「ほはえり」
玄関に上がると、リビングで扇風機に当たりながらスマホを見ていた女子高生が振り返る。
溶けかかった棒アイスを咥えていた。
「ニュースか?」
「ほーだよ」
背中側からスマホの画面を覗き込む。
黒いショートカットの毛先がかすかにほほに当たってくすぐったい。
「ハハハッ」
心底楽しそうに笑っている。
「こんなののどこが面白いんだよ」
スマホからは”容疑者に突撃取材”と称した過激な番組が流れていた。
「面白いじゃん。アハハ! 犯罪者相手なら何してもいいと思ってるんだろうなぁ」
リポーターにしつこくつきまとわれる哀れな犯罪者を笑っているのかと思いきや、逆だったようだ。
どちらにせよ笑うところではない気がするが。
「キョウカって、ホント変わってるよな」
「カズキだって」
「は? なんで俺が」
「だって、こんな見知らぬ女子高生を居候させてくれてるじゃん」
そう。コイツは居候で、家族でもなんでもない。
家出した女子高生が体と引き換えに男の家を転々とするなんていうのはたまに聞く話だが、コイツはどうも俺のことが気に入ったらしく、このアパートに居座り続けている。
高卒の俺はまだ二十歳で、年下の恋人と同棲しているような気分だった。
週七のバイトが苦にならないのはコイツの存在が大きい。
今ではちゃんとした仕事を探そうとさえ考えているくらいには、俺はコイツが好きだった。
「そんなの、体目当てに決まってんだろ」
照れ隠しのつもりでつい口走ってしまったが、気にした様子はない。
「いいよ、別に」
アイスを前歯で抜いて食べきり、立ち上がってキッチンに行くキョウカ。
すれ違いざま、俺はぴっちりとした短パンから浮き出る尻の谷間に手をかけた。
「うんっ」
嫌がるように腰を振って通り過ぎていく。
その反応に興奮して、俺は短く笑った。
キッチンへはアイスの棒を捨てにいっただけのようで、キョウカはすぐに戻ってきた。
警戒しているのか、俺から少し離れた床に座る。
「なんだよ、体目当てでもいいんじゃなかったのか?」
「ん? いいよ。追い出されたら困るし」
キョウカは相変わらずクールな表情をしていて、強がっている風ではない。
「なら、しようぜ」
顔を近づけると、察したキョウカが唇を重ねてきた。
「んっ」
黒いノースリーブの隙間から薄い胸を乱暴に揉みしだいて、俺はキョウカを床に押し倒す。
ディープキスを終えたキョウカの湿った口元から、甘く熱を帯びた吐息が漏れ出た。
❇︎
「お、今日は肉じゃがかぁ」
午後六時半。
キョウカの料理がテーブルの上に並ぶ。
今日はいつもの味噌汁と、肉じゃが、そして少し砂糖の入った卵焼きだった。
キョウカは俺と違って料理を作るのがうまい。
俺が早く帰って来られる日は普段の弁当に加えて夕飯も作ってもらっていた。
キョウカのスマホからニュース番組を流しながら二人で囲む食卓は、大抵俺のバイトの愚痴かニュースの内容についてなのだが、今日は少し違った。
「そういえば、また近所で窃盗があったらしい。今度のも家主が家にいる時に盗んでいったんだと」
「へぇー」
反応の薄いキョウカに、俺は少し語気を強める。
「お前も気をつけろよ? 鉢合わせでもしたら、殺されるぞ」
「どうかな?」
キョウカは悪戯っぽく目を細める。俺をからかうときの顔だ。
「案外、仲良くなっちゃったりして」
「は?」
キョウカはときどき普通なら考えもしないようなことを口にする。
反応を楽しんでいるのか、本気なのか、顔に出ないので区別がつかない。
あっという間に食べ終わると、俺たちは脱衣所へ向かった。
二人一緒にシャワーを浴びるのは完全に俺の趣味だ。
明日は早いので、このあとセックスをする予定もない。
とは言ったものの、十八歳のみずみずしい生肌をこれでもかと見せつけられて、俺の下腹部は黙っていない。
屹立したそれを薄い尻肉に背後から押し当てると、キョウカは肩をびくつかせて可愛らしく反応した。
「明日は早いんじゃなかった?」
澄んだ茶色い瞳に見つめられ、俺の下腹部はいよいよはちきれそうだ。
「いいじゃんか、少しくらい」
「んっ」
下腹部を尻の谷間に押しつけて抱きつき、キョウカの鼠蹊部に右手を回す。
左手では膨らみかけの胸を鷲掴みにした。
もみしだきながら腰を前後に揺すると、感じているのかキョウカの息遣いも荒いものになる。まさしく天にも昇るような気分だった。
このまま死ねたならどんなに幸せだろう。
暴発寸前のところで腰を曲げ、溢れ出したものを背中にかけた。
キョウカは少し嫌そうな顔をして半目で振り返る。
被虐心をそそるその表情がたまらなかった。
隆起もおさまり、その後はときたま尻を触ったりする程度にとどめ、入れることはしなかった。
キョウカがその気になっては困るので、キョウカの鼠蹊部に指を入れたりすることもしなかった。
それでも、俺は幸せだった。
キョウカを拾わなかったら俺の人生は今頃どうなっていたことだろう。
週七でバイトして、たまの半休も疲れ果てて眠るだけ。そんな一生にどれほどの意味があるのか。考えるだけで恐ろしい。
俺はキョウカを腰の上に乗せて狭い湯船に浸かった。
キョウカの尻は肉が薄いが柔らかく、そんなものが両の太腿に当たるのだから俺の下腹部は早くもまた軽く勃ち始めてていた。
「変態」
キョウカも感触で気がついたようで、横目で振り返ってつぶやく。
余計に興奮したが、さすがに二回も出すと早起きできる自信がない。
堪えて手のひらで愛撫するに留めた。
それでもキョウカは声を殺して小さく喘ぐので、爆発しそうな気分だった。
いつか、生活も未来も、何もかも捨てて獣のようにキョウカを犯したい。
その一方で今を保ち続けたいと願う理性的な自分がいた。
実際、その方が賢明に決まっている。
キョウカを妊娠させでもしたら堕させる金なんてない。
そのまま俺の人生が終わってしまうばかりか、キョウカまでもを巻き込んでしまうことになる。
キョウカは俺が体目当てて接していると思っているのかもしれないが、俺はこれでもキョウカを愛しているつもりだった。
風呂を上がって脱衣所で水滴を拭い、役得とばかりにキョウカがパンツに足を通すところを見る。
キョウカは俺に着替えを見られたくらいでは無反応を決め込むのだが、それでも目の前の光景が情欲を掻き立てることに変わりはなかった。
俺のいびきがうるさいからと離れて寝ているので、俺とキョウカは脱衣所で別れる。
狭いアパートの一室なので、キョウカがリビングで寝て、俺は自室で寝るだけなのだが、それでも俺は寂しかった。
とはいえ、俺の寝相が悪すぎてキョウカが心底迷惑そうにするので仕方がないのだが。
キョウカいわく、俺はいびきもうるさければ寝言も酷いのだという。
目上の人間に敬語で怒鳴って口論するのだそうだ。
夜中にすぐとなりでそんなことをされたら確かに眠れないどころの騒ぎじゃない。
最近はなくなったそうだが、キョウカとセックスして寝たい時以外は離れた場所で寝るようにしていた。
自室の扉を開け、薄っぺらい布団にくるまって目を閉じると、俺はすぐに泥沼に沈んでいくように眠りに落ちた。
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