祭の後

第61話




 で王宮へ連行されたカミラと第二王子は、その場で王籍からの排除が決められた。

 当然第一王子とは離縁となる。

「愛するカミラと離れるなど耐えられない!」

 議会でカミラの処遇が決まった瞬間、第一王子は席を立ち叫んだ。


「では、ヨエル第一王子殿下も、一緒に市井しせいにくだりますかな?」

 議長……この国の宰相が第一王子へと問う。

 正式な議会での発言である。後から気の迷いだった、と言っても撤回は出来ない。

「当然だ! 俺はカミラを愛している!」

 男らしい宣言に、場からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。



 全ての手続きが迅速に行われ、1ヶ月も経たずに第一、第二王子はただのモンスとヨエルになり、カミラと共に郊外の一軒家へと放逐された。

 王都へは、馬車で丸1日掛かる距離にある一軒家で、近くの村まで歩いて1時間程掛かる。

 周りに家が無いのは、元々は牧場か農場を営んでいた家が、商売を辞めて家だけが残ったからだ。

 石造りの頑丈な家がポツンと建っていた。


 慎ましく暮らせば、三人で一生働かなくても良い程度の金子きんすは持たされていた。

 しかし生まれながらの王子二人と、贅沢を覚えた伯爵令嬢が、監視もいないのに慎ましやかな生活などするはずもなく……直ぐにお金は底をついた。




「辞める? 辞めるとはなんだ」

 荷物をまとめている二人のメイドに、モンスが声を掛ける。

「え? だってもう私達を雇えるお金、無いですよね?」

 メイドの一人が作業の手を止めずに答える。

「働きもしないで朝から晩まで遊んで、しかも高級なドレスだ宝石だって、馬鹿なんですか?」

 もう一人のメイドが鞄を閉め、立ち上がった。


「お前達がいなくなったら、食事はどうしたら良いんだ?」

 ヨエルがメイドに縋り付こうとして、振り払われた。

「知りませんよ」

 ヒラリとかわす身のこなしが妙に軽い事など、愚鈍なモンスもヨエルも気付かない。


「愛する女性と楽しく暮らして行けば良いのでは?」

 メイド二人の視線が、扉の方へと向いた。

 ガチャリと音がして入って来たのは、だらしなく夜着ガウンを羽織っただけのカミラだった。

 昨日の名残が身体中に散っている。

「うるさぃ、何?」

 髪を掻き上げながら怠そうにしているカミラを見て、モンスとヨエルは眉間に皺を寄せた。



 何だ、この阿婆擦れアバズレは。

 昨夜までは、あんなに愛おしく、可愛く、唯一の存在だと感じたのに。


 モンスもヨエルも、同じ事を考えているのが判り、メイド二人がキャラキャラと笑い声をあげる。

「どうしたんですかぁ? 愛しの奥様ですよぉ」

「何でしたっけ? 世界一可愛い俺のカミラ、でしたっけ?」


 笑い声をあげながら、メイド二人はトランクを持ち、カミラの両隣へ並ぶ。

 荷物を持って、古い床の上を移動しているのに、足音1つ鳴らさない。

 その異常さに、ここに居る三人は気付かないだろう。



 カミラの両手を左右から持ったメイドは、それを自分達の目線の高さまで持ち上げた。

「魔封じの腕輪です」

 右側のメイドが告げる。

 カミラの腕には、一見装飾品にしか見えない腕輪が嵌っていた。

「一生外れません」

 左側のメイドが告げた。

 右と同じ腕輪がカミラの左腕に嵌っていた。


「腕を切り落としても、今度は足に移るだけです。足を切ったら首へ」

「首を切り落とした人はいないので、その時はぜひ王宮へ連絡を」

「検証に来ますので」

 最後の言葉は、二人で声を揃えて言った。

 どこ迄が本気で、どこ迄が冗談なのか……いや、全て本気なのだろう。


 カミラの腕を離した二人のメイドは、軽い足取りで家を出て行った。

 すぐにヨエルが追い掛けて玄関から外へ出たが、いくら見回してもその姿はどこにも無かった。

 周りは平原で、遮る物の無い野中の一軒家なのに、である。




 モンスとヨエルは、生まれて初めて自分で井戸から水を汲み、顔を洗って体を拭いた。

 絞ったはずの布はビシャビシャで、体が冷えて寒いが、文句を言っても他にしてくれる者はいないので、黙って作業した。

 台所へ行くと、三人分の朝食が用意してあった。

 モンスは何も言わず、席に着いて朝食を食べ始める。それを見て、ヨエルも席に着いた。


 二人が食べ終わる頃、まだ汚れたままのカミラが台所へと入って来た。

「なんでこんな所で食べてんのよ。食堂で待ってたのに」

 二人が身支度を整え、食事をしている間、カミラは食堂で食事が出て来るのを待っていたらしい。


 既に食べ終わっていた二人は、カミラが食事をする様子を見ていた。

 さすがに肘を突いたり、零したりはしないが、カトラリーが食器にぶつかる音がするし、物を飲み込む大きな音がする。

 まるで貴族ののような食べ方だった。



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