第57話




 本日はおがらも良く……天も祝福しているかのように、素晴らしい晴天である。

 既に学生時代に婚姻届は出されているが、やはり節目としては必要なものであり、特にルードルフはエルランデル侯爵を学園卒業と同時に継承しているので、そちらのお披露目も兼ねている。


 そう。今日はルードルフの結婚式である。


 アッペルマン公爵家の次男であり、エルランデル侯爵当主となったルードルフの結婚式である。

 あの手この手で招待状を手に入れた、本来招待していないやからも来場する。

 貴族としての力関係で、同じ派閥の高位貴族から「同伴者として連れて行け」と言われたら、従わざるを得ない者もいる。


 特にルードルフの友人関係は、まだ貴族家の子息という立場の者が殆どなので、ご家族も一緒に来てくださいね、という当主夫妻も招いている招待状ものだ。

 そこに当主夫妻の代わりに行ってやる、と派閥や親戚が権力をかさに割り込むという事が必ず発生するのだ。

 そういう時は、逆らわずにすぐに公爵家へ連絡するように、と友人達には伝えてあった。 




「はい、招待状を確認させて……はい、ありがとうございます」

 公爵家と侯爵家の使用人が招待状を確認し、客の案内をしている。

「はい、ありがとうございます」

 招待状を受け取った使用人がにこやかに話し掛ける。

「ご本人様とご両親はこちらへ」

 他の来客と同じ方へ、係員に案内される。


「同伴者の方はこちらへ」

 他の係員よりも立派な服を着た使用人に案内され、同伴者と呼ばれた貴族は別方向へと向かう。

「ふん、解っているではないか」

 別室に案内された貴族は招待された家の者ではなく、半ば脅すようにして参加したものだった。



 軽食と酒類が用意された部屋は、待合室にしては広く、パーティー会場には狭かった。他にも何人かの貴族がおり、見知った顔ばかりなのであちらこちらで挨拶を交わす姿が見られる。


「おぉ! そちらも招待されたのか」

「ははは。お互い顔が広くて大変だな」

 伯爵家以上しか居ない為に、そこに居る者達はここが特別な待合室なのだと、勝手に誤解をする。


 確かに特別な部屋ではあった。

 アッペルマン公爵家やエルランデル侯爵家とも、ヴィレーン伯爵とも、ついでに言うとヘルストランド侯爵家とも関係が無く、勝手に押し掛けた貴族達が通された部屋である。

 しかも自分よりも身分が下の貴族家を脅し、友人とその家族を招待し喜びを分かち合いたいというルードルフの純粋な気持ちを無下にした者達だ。



 そこに、一組の夫婦が案内されて来た。

 その場に居た者達は驚き、すぐに臣下の礼をする。

「あぁ、楽にして良い」

 そう告げたのは、横に妃であるカミラを連れた第一王子だった。

 第二王子も王太子の座から外れ、今、王太子の座は空位である。

 また第一王子が返り咲く可能性もゼロでは無い。


「アッペルマン公爵家の結婚式に招待されたという事は……?」

「公侯爵家が後ろ盾に付くのかもしれませんな」

「そういえば、アッペルマン公爵令嬢は公妾になる為に、ヘルストランド侯爵と結婚するのだと第二王子殿下が騒いでいた」

「ヨエル第二王子殿下は、カミラ妃に首ったけらしいですし」

「これはやはりモンス第一王子殿下の……!?」


 気分が良くなり、どんどんと口が軽くなっていく貴族達は、ひっきりなしに提供される酒類をガバガバと無遠慮に空けていく。

 徐々に酒が濃くなっていっている事にも気付いていないだろう。




 時は少し遡り、王家の馬車が会場に到着した時刻である。

 主役の二人は準備中の為、当然出迎えには出ない。

 アッペルマン公爵家とヴィレーン伯爵家、そしてクラウディアの婚約者としてニコラウスが一緒に出迎えた。


 国王と正妃が馬車を降りて来るのを、外のため簡易な臣下の礼で迎える。

「楽にせよ」

 国王が告げると、クラウディア達は顔をあげた。

 後ろの方に居るのを良い事に、クラウディアは嫌悪の表情を隠さずに、横に居るニコラウスに囁き掛ける。

「呼ばれていない客がまた来たわ」

 クラウディアの視線の先には、第一王子夫妻が居た。


 国王と正妃は、正規の待合室へと案内される。

 その時にイェスタフが「第一王子殿下が王太子に?」と確認すると、否、と答えが返ってきた。

「招待状には国王陛下と王妃陛下、そして王太子殿下、と、書いたはずですが?」

 イェスタフが笑顔で告げると、国王は苦虫を噛み潰したような顔になる。


 何度も何度も手紙のやり取りをして決めた事なので、さすがに知らなかった気付かなかったと、とぼけられる内容では無い。

「勝手に付いて来ただけだ。控え室にでも待たせておけば良い」

 国王もばつが悪いのか、王太子を式に参加させろとは言わなかった。



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