第47話




 第一王子の学年の卒業式が行われた。

 送辞も答辞も王族ではなく、一般の生徒が行った。要は通常通り、それぞれの学年の成績が1番だった者が選ばれたのである。

 当初学園側は、送辞をヨエル王太子に、答辞を第一王子に、と声掛けをした。

 しかし、王太子の交代劇があった為なのか、双方から拒否をされたのだ。


 元々二人は仲が良く無いとの噂が有り、学園内で交流している姿も見られなかったので、学園側も特に何も言わずに引き下がった。

 王家の面子を保つ為だけに、打診したようなものだったので尚更だ。

 しかし空気を読まない男は、やはり最後まで気持ち悪かった。


「送辞をクラウディアがやるのなら、引き受けてやっても良いぞ」

 断った際に、そう言っていたのだ。

 無論、クラウディアには引き受ける理由が無いので断った。

 それを伝えると、第一王子は凄く傷付いた顔をしていたらしい。

 なぜ引き受けると思ったのかは謎である。

 そもそもクラウディアは1年生であり、送辞は2年の首席がするものなのである。




「卒業式って、もっと感動するものだと思ってましたわ」

 ポソリと呟いたのは、クラウディアの隣に座るイサベレである。

 因みに反対隣はニコラウスであり、更に向こうにヨエル王太子が座っている。

 在校生側最上位クラスの高位貴族男女2名ずつ、計8名。卒業生に花を配る為に他の生徒とは別に座っていた。


 本来王族は代表以外の係は行わないのに、今回はヨエル王太子が無理矢理割り込んできていた。

 いわく「俺様から花を受け取れば、一生の思い出になるだろう」との事である。

 婚約者のイサベレの意見は真逆で、「貰う相手が選べなくて良かったわ。誰も並ばなかったら不敬だ! とか大騒ぎしそうですもの」と、辛辣な分析をしていた。


 そして肝心の卒業式だが、今、壇上では国王のが三十分も続いている。

 建国の話から、自身の学生時代の話、王太子交代の言い訳や、果ては本当は他国へ行った元婚約者を正妃にしたかった話までしていた。



「着地点のあるお話なのかしら」

 隣のニコラウスへ、クラウディアはそっと問い掛ける。

「無いだろうね。単なる雑談になってる」

 呆れた表情を隠しもせず、ニコラウスは返事をする。

 隣のヨエル王太子など、思いっ切り船を漕いでいた。彼は不敬が無い立場なので、羨ましい限りである。


「あぁ、そうか」

 良い事を思い付いた、と笑ったニコラウスは、隣で眠るヨエル王太子の太腿を軽く2度叩く。すると起こされたヨエル王太子は驚いて体をビクリと揺らし、そのまま椅子から立ち上がった。


 突然立ち上がった自身の息子に驚いた国王は、話を止める。

「どうした? ヨエルよ」

 国王に声を掛けられたヨエル王太子だったが、まさか寝ていて状況が判りません、などと言えるわけも無く……。


「素晴らしいお話でした!」

 話に感動して立ち上がったていで、ヨエル王太子は拍手をした。

 それに便乗してニコラウスも拍手をする。

 ニコラウスの意図を理解したクラウディアとイサベレも、拍手をし始めた。


 会場中に広まってしまった拍手に国王も話を続けられなくなり、咳払いをしてから「卒業おめでとう」と話を締めくくった。

 国王の挨拶が終わり、進行役が式を進める。

 この一瞬だけ、ヨエル王太子の株が爆上がりした。




 式が終わり、卒業生が男女1列ずつに並び退場して行く。

 最上位クラスのくらいが高い者からなので、当然男子生徒の1番前は第一王子になる。そして花を渡すのは本来2年生の係員が先なのだが、恐れ多いと王太子の婚約者であるイサベレに譲られた。


「卒業おめでとうございます」

 イサベレの淑女の笑顔の圧に、何も言えず第一王子は大人しく花を受け取っていた。

 去って行く元夫の背中を見ながら、クラウディアは笑う。

 これでもう個人的に関わる事は無いだろう、と。

 これから何年後かの夜会で顔を合わせても、王族と臣下の妻として挨拶をする程度だろう。



「卒業おめでとうございます」

 クラウディアは満面の笑みで、男子生徒達に花を渡した。

 相手が誰なのかなど関係無く、もう第一王子に学園で会わなくなる事が只々ただただ嬉しくて笑っていた。


 今までに無い明るい笑顔に、「実は彼女は自分の事が好きだったんだ!」と、盛大に勘違いする男子生徒が多数出た事を、クラウディアは知らない。

 嫉妬したニコラウスが、クラウディアが花を渡した生徒全員の顔と名前を記憶した事など、気付いてもいない。



 小さないざこざはあったが、卒業式は概ね問題無く終了した。



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