対決編

第48話:※センシティブな内容が含まれます




 モンス第一王子が学園を卒業した翌日。

 ひっそりと婚姻式が執り行われた。

 王族らしい華々しい結婚式は行わず、あくまでも婚姻を成立させる為だけの儀式である。


 カミラ・リンデル伯爵令嬢は、カミラ・リンデル・ホルムクヴィストへと変わった。今日から正式にモンス・ヴァルナル・ホルムクヴィスト第一王子の正妃と認められた。


「え? これで終わり?」

 書類に署名したカミラは、驚いた声を上げた。

 子供の頃からの憧れの可愛いヒラヒラしたドレスを着て、皆がうらやむ旦那様の隣で幸せに微笑み、何百人という招待客に祝福とほんの少しの嫉妬をされる……はずだった。


 今のカミラの服装は、とても質素なドレスで服装である。

「ねぇ、アタシ、これで王家の仲間入りしたんでしょ? そしたらキラキラな宝石いっぱい買って、可愛いドレスもいっぱいいっぱい着れるんだよね?」

 カミラは横に居るモンスの腕を掴んで引っ張る。


「王子妃として表に出られるようになったら、議会も予算を出してくれるだろう」

 モンスは掴まれた腕を力一杯振り解き、冷めた目でカミラを見下ろした。

 まだ13才のカミラとの婚姻が急がれたのは、例の閨発言のせいだった。

 早々に初夜を済ませ男児を儲け、托卵の不安を払拭しなければならない。



 そもそも男児を儲けても、その子の王位継承権はヨエルの子供より低く、更にその子供に子が生まれれば、継承権はその子供より低くなる。

 ヨエルが直系となり、モンスは傍系となるからだ。


 そして今はまだ王族としてそれなりの予算が出ているが、モンスに爵位が与えられたら、その額は著しく減らされてしまうだろう。


「せめて実家に金があれば」

 吐き捨てたモンスは、新妻を置いて婚姻式が行われた部屋を出て行ってしまった。

 呆然と夫を見送ったカミラは、その後初夜の準備をされる。

 丁寧に湯浴みをさせられ、通常の新妻には無い特殊な道具による洗浄と確認が行われる。


 これは公妾や閨教育係に行われるのと同じ検査であり、変な病気を持っていないか、今現在妊娠していないか、を魔導具を使って調べられるのである。



「嫌だってば! モンス以外とはやってないって言ってるじゃん!」

 検査は同性によって行われるが、それでも13才のカミラには受け入れ難い行為だろう。

 暴れ、泣き叫び、本人も係の女性達も、痣だらけになった。引っ掻かれたりした分、係の者の方が怪我が酷いかもしれない。


 グッタリと疲れきり、両手足に押さえ付けられた痣の残るカミラは、簡素な夜着を着せられ、夫婦の寝室へと送り出された。

「酷い……新婚初夜なのに」

 グズグズと泣きながらベッドにうずくまるカミラを、モンスが気遣う事は無かった。


 まるで鬱憤をぶつけられるかのような初夜に、カミラの心は閉ざされた。

 それから1週間。新婚夫婦は子作り以外の事を免除される。

 要は、寝室に軟禁されるのである。


 湯浴みは、呼べばメイドが来てくれ用意をしてくれる。そこで二人で入るも良し、いつも通りメイドに世話させるも良し。

 モンスは夫婦の寝室ではなく、自室にある浴室でメイドに世話をされて、ゆっくりと入浴した。

 カミラは夫婦の寝室で、やはりメイドに世話されながら入浴した。



 無言で湯浴みを終えたカミラは、一人ベッドの上でモソモソと食事を終わらせた。

 朝食代わりなので、簡単に食べられるサンドイッチとスープ、そしてフルーツだった。

 部屋を出られるような服は着せられていない。

 そのままモンスを待つように告げ、メイド達は去って行った。


 カミラは知らない事だが、夫婦の寝室に送り出されてからの事は、前回のクラウディアが受けた仕打ちとほぼ変わりが無い。

 違うのは、カミラは子供が出来るまでモンスが寝室へ来るが、クラウディアの時は二度とモンスが来なかった事だろうか。

 どちらが幸せなのかは、誰にも判らない。




 その後、カミラは懐妊し、無事とは言えない程の難産で男児を産んだ。

 14才での出産なのだから当然だろう。

 そして授乳の為に、数時間おきに無理矢理起こされる。

 覚悟の無い出産と育児。

 いくら乳母がいても、未熟なカミラには辛いものだった。


 ここである1つの奇跡が起こった。


 魔法が発現する為の条件を覚えているだろうか。

 強い思いや、重い覚悟により、魔法は使えるようになる事が多い、というものである。

 強い思いとは、誰かを救いたい、などの陽の気持ちもあるだろう。

 しかし今回は、自分をこんな状況に落とした相手に復讐したいという、負の感情だった。


 暗殺者ルキフェルと同じである。


 カミラは呪う。

「これ、絶対にあのクラウディアとかいう女のせいだよね」

 と。

「あの女がいなければ、モンスは王太子だったし、アタシはこんな所に閉じ込められなかった」

 それが理不尽で自分勝手な思い込みでも、強い思いに違いは無いのである。



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