第40話
「これで、王家を嫌う理由が更にひとつ増えたわ」
話を聞き終わったクラウディアは、怨嗟のこもった声で囁いた。
当時12才だった第二王女の一存で、公侯爵家当主の暗殺を依頼出来たとは思えない。
おそらく国王が、王女の我儘だと聞き流して、何も考えずに許可したのだろう。
甲高い声で捲し立てる第二王女の話をまともに聞かず、「うるさい、勝手にやれ」とでも言ったに違いない。
あの王ならば有り得る。
「第二王女、今は遠国の妾だっけ?」
どこかの国の後宮へ嫁いだのだが、そこから側妃、ましてや正妃に取り立てられる事など無いだろう。
そもそもが、王宮の裏庭に放置されている水晶と交換での後宮入りである。
「家畜以下の扱いをされていれば良いのに」
今回のニコラウスの話を聞いて、クラウディアは益々第二王女への憎しみを深くした。
例え今回ルードルフが生きていたとしても、第二王女の腐った性根が変化したわけでも、直ったわけでも無い。
こちらが対策を講じただけであり、何もしなければ同じような結果になった、いや、今回はクラウディアが殺されていたかもしれない。
「とにかく、これで明日からは学園でも堂々と婚約者として振る舞えますね」
クラウディアが声の調子を変え、明るく喜んでみせる。
今日はニコラウスの誕生日である。
気持ちを切り替える事にしたのだろう。
今までも婚約者同然の行動をしていたが、正式に契約を結ぶと変わる事もある。
1番判りやすいのが、異性からの誘いを全て断れる事である。
それが上の爵位の、それこそ王族であっても「婚約者に相談します」や「婚約者に確認します」と言って、拒否する事が出来るのだ。
勿論婚約者は許可しない事も出来るし、さもなくば「自分が一緒なら」と同席を求める事も出来る。
今まで王子二人からの誘いを、クラウディアは「忙しい」と断っていた。
明日からは「婚約者がいるので」と言えるのだ。
王子二人に絡まれないように、特に用事も無いのに早々に帰路に着かなければいけない事も無くなるので、クラスの他の生徒とも交流出来るようになる。
男子生徒と交流しようとは思わないが、女子生徒とは友達になりたい、とクラウディアは思っていた。
前回は王妃教育と、それに伴う実践教育をこなす為に、友人を作る暇が無かった。
それに、とクラウディアは微笑む。
「街で噂のカフェに、一緒に行きたいわ」
公共の場で誰に遠慮する事もなく、隣の席に座ったり、又は、前の席に座り互いに食べさせあったり出来るのだ。
周りの目は呆れ、冷たいかもしれないが、それは馬鹿な恋人を見る目であり、不埒な関係を咎める目では無い。
言わなければバレない……などという事は、貴族の世界に関しては無い。
婚約者でも無い異性と二人きりで街のカフェなどに居れば、翌日には学園全体に噂が広がっているだろう。
前回も、王太子と側妃……リンデル伯爵令嬢がそうだったのだ。
尤も、王太子は隠す気など微塵も無かったが。
「カフェ……ディディとカフェ」
クラウディアが物思いにふけっている間に、ニコラウスは他の思考に
俯きながら口元を手で覆い隠し、何やらブツブツと言葉を口にしている。
「嫌なら無理にとは」
「嫌なわけない!」
クラウディアが行かない提案をしようとすると、言葉の途中でニコラウスに否定されてしまった。
下を向いていた顔が上へ上がると、その頬は薔薇色に染まっていた。
「ひとつの菓子を半分ずつ食べたり」
「2種類の味が楽しめますね」
「お互いにケーキを食べさせあったり」
「一口は小さめでお願いします」
「口の端に付いたクリームを舐め取ったり」
「それはさすがに駄目ですね」
ニコラウスが小さく舌打ちをする。
勢いで了承させ、
「物語ではこう親指でクリームを
クラウディアの右手の親指が、ニコラウスの唇の端に触れる。
当然、今はクリームなど付いていない。
「こう、指に付いたクリームを舐め取るようですよ」
何も付いていない自分の親指を、クラウディアは舌でペロリと舐めた。
「ディディ!?」
顔を真っ赤にしたニコラウスは、硬直したまま動けなくなった。
自分はクラウディアの口の端のクリームを直接舐め取る気満々だったくせに、やられる立場になるのは駄目なようである。
「外ではやりませんよ」
予想外に可愛い反応をしたニコラウスを見て、クラウディアもつられて頬を染める。
「最高の誕生日プレゼントだ」
呆然と呟いたニコラウスの声が部屋に響いた。
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