蒐集家 安堂康二の失敗
何でも集めてしまう人間というのはいるもので、困ったことにそれが必要ない物であればまだましで、触れてはいけない物にまでこのような人間は集めてしまいます。
安堂康二という男もまた、辞めれば良いのにところ構わず執着しては集めてしまう人間で、一時はそのことに後悔するも、一晩寝ればまた物を集めてしまうといった事を繰り返していました。
安堂は喫煙所でタバコを吸いながら、またやってしまったな、とポケットに入れたキーホルダーを遊ばせていました。
そんな事をして時間を潰していましたら、喫煙所に一人の男が入ってきました。彼は黒髪長髪を後ろで軽く纏めてヘアゴムで縛っておりました。
安堂は軽く会釈をし、その男がそれに答えます。彼らは見知った間柄でありました。
「次の仕事なんですが……。」
安堂は男がタバコに火をつけるのを待ってから話し掛けました。
男は、ふぅーと紫煙をたゆらせてから
「もう少し待ってくれないか。」
と答えました。
それも仕方ないな、と安堂は思いました。目の前の彼はつい先日に別の仕事を終えたばかりなのを知っていたからです。
「それでは別の人に回しましょうか。」
「いや、もう少しだけ待って貰えれば準備が出来る。その方が他の人間に任せるよりも早いよ。」
と、男が言うものですから安堂も
「わかりました。もう少し待って頂けるように話してみます。」
と、タバコを灰皿に捨てて答えました。そして、喫煙所から出ようとして無意識に男の髪を纏めていたヘアゴムに手を掛けて、それをほどいてしまいました。
ふわっと男の髪が揺れて、纏めていた髪の毛が重力に従い真っ直ぐ下に延びていきました。
それを見た安堂は、またやっちまった、と後悔し男を見つめると
「相変わらず手癖が悪いな。」
と言って、早く出ていけとジェスチャーをしました。安堂もそれに甘えて男から盗んだヘアゴムをポケットに入れて立ち去りました。
安堂は自宅に戻りコーヒーを入れて椅子に座りました。肩に掛かった自分の髪の毛を指で弄りながら、男から盗んだヘアゴムを握りました。
伸びてきたし丁度良いな、と安堂は自分の髪をヘアゴムで結んでからコーヒーを一口飲んで自分の仕事に取り掛かりました。依頼主に期限を延期する言い訳を頭の中で反芻してから、手に持った黒いスマホを操作し電話を掛けました。
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