夜明け

惣山沙樹

夜明け

 諒太りょうたの腕につけた根性焼きの数を数えると、今回で十二個になっていた。彼と共犯者になってもうすぐ一年。なかなかのハイペースだと思う。


さくぅ、今回はそんなにおもろなかったな」


 ヘアゴムを外す諒太。黒髪がばさりと背中に舞った。よく手入れしているらしく、いつ見ても綺麗だ。


「せやな……爪抜いただけで何も喋らんようになってしもうたし」

「最後まで命乞いされる方が楽しいんやけどなぁ」


 諒太はスナックを経営している母親に虐待されていた。俺は小学生の時にキャバ嬢にレイプされた。水商売の女に恨みを持つ者同士意気投合。拷問して殺した女はバラバラにして芦屋浜に捨てていた。


「なあ、朔……」

「まだ風呂場掃除してへんやろ」

「後でええやん、やろうな」


 諒太は俺の唇をぺろりと舐めた。捨ててきたばかりで俺も高揚していた。二人ベッドにもつれこみ服を脱がせあった。


「諒太、どっちがええんや」

「えー、どっちも」

「二回してもたら結局寝てまうやん。血ぃ落とすん、はよした方がええのに……」

「ええから、ええから」


 諒太の髪をかきあげ、首に這っている蛇のタトゥーをあらわにした。そこに口づけるのが好きだ。

 諒太も俺の金髪頭を撫でてきた。脱色を繰り返しているのでプツプツ切れる。でも、諒太は朔には明るい髪色が似合うよと言ってくれているし、当分そのままだ。

 元々、ゲイ用のマッチングアプリで知り合ったので、互いの性癖ならある程度知っていた。初回で相性がいいとわかり、徐々に過去の話をするようになり、今に至る。


「ふぅ……朔ぅ、一服しよ」


 裸のままタバコに火をつけた。諒太の無駄な肉づきのない細い身体には、いくつもの火傷の痕があった。母親に熱湯をかけられていたのだという。それでも、そんな彼を美しいと思ってしまっている自分がいた。


「諒太、やっぱり女やった後は激しいな」

「そういうの、朔好きやろ」


 俺の下腹部には諒太の感覚が残っていた。四つん這いになって突かれたので奥の方までみっちりだ。

 タバコを灰皿に押し付けて、またキスをした。舌を絡め、ねっとりと深く。


「あー眠たい」

「もうすぐ朝やわ、諒太」


 諒太は美容師だ。月曜日は休み。俺は在宅のデザイナーをしているのである程度は都合をつけられた。


「朔ぅ」

「何や」

「愛してる」

「……プッ」

「笑うなや」


 抱き合って互いの熱を感じた。今俺たちは生きているのだという実感がある。


「諒太、もう一回する?」

「無理無理。もう腰ガクガクや」


 俺は諒太の瞳を真っ直ぐに見つめた。


「お前、ほんまに美人やなぁ……」

「朔かてカッコええで。次いつにする?」

「ちょっと休もう。死体切るのしんどいねん」


 風呂場の掃除のことを思うとうんざりだった。ここは俺のマンションだった。諒太のボロアパートではできないから。


「寝る前に、愛してるって言って、朔……」

「嫌や」

「ケチぃ」


 諒太は俺の腕に頭を乗せてきた。長い黒髪がくすぐったい。なでつけてやった。


「捕まったら死刑かなぁ」


 諒太が呟いた。


「まあ、せやろな……」

「おれ、捕まる前に朔に殺されたい」

「ええで。首絞めたるわ」

「頼むで……」


 しばらくすると、すう、すう、と安らかな寝息が聞こえてきた。俺は諒太の前髪をかきわけて額にキスをした。

 あと何人殺せば俺たちの気は済むのだろう。俺はそろそろ死体の処理が面倒になってきたし、やめてもいいのだが、諒太はまだしたがっている。

 身を起こして、諒太の白い首に手をかけた。


「……うん、まだやめとこ」


 決して口には出さないが、俺も諒太を想っているのは事実だ。もう少しだけ、長く楽しみたい。

 カーテンの隙間から朝日が射し込んだ。俺は窓を開けて、ぼおっと紫煙を吐き出した。

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夜明け 惣山沙樹 @saki-souyama

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