第32話
仕切り直しの月曜日。
約束通りネネが兄運転のダブルキャブのトラックで乗り付けアズサを乗せて、モエレ沼ダンジョンに到着。
「いつも通りご迷惑をおかけしてます」
「さすがに慣れた」
「そう言われると複雑な心境」
アズサの場合は生きる上で仕方のない話なので割り切ってはいる。
それでも慣れてしまうほど迷惑をかけ通しの現状をアズサ自身もいいとは思っていない。ただその抜本的な解決策がないのだ。
「気を取り直して今日の予定だけど、改めて中級ポーションを生成可能にしてから、ダンジョンボスのスフィンクス戦っていう感じね」
「うん、問題ない。早ければお昼ごろには終わるかもね」
「今日は終わったらまっすぐ帰ろうぜ。なんたって期末試験が控えてるし」
その一言で、一瞬で表情がゆがむアズサ。
「そこがうちの学校のおかしいところなんだよ。なんで11月に中間で12月に期末なのさ? 普通ありえないでしょ!」
「まあまあ。期末は半分以上が中間で出題された範囲なんだし、さすがのアズサでも赤点にはならないよ。
……ならないでね?」
ツバサの心配する視線を正面から受け止められず顔を背けるアズサ。
それを見て呆れるツバサたち。
ともかく先日と同じように、第3階層ボスエリアに行くまでにウォーミングアップを済ませてからボスエリアに到着。
「ボク先にちょっと周りを確認してくるね」
空に上がり別パーティー、特に男性パーティーがいないかを確認するツバサ。
その間に下ではネネが残り回数をアズサに確認。
「それでアズサ、何個くらいほしいんだ?」
「2個か3個か4個か5個」
「幅広いな!」
「感覚的には2個で行けそうだけど、日を跨いでるから多めにほしいんだよ。
実際前々回は残り2個か3個だと思ってたけど、前回は5個でもまだ足りない感じだったからさ」
「なるほどな。ゲームでも習得する前に止めると時間経過で習得率が下がるってのがあったりするから、分からない話じゃない」
一度では済まないという情報を共有し、ツバサが下りてきて周りに誰もいないことを確認してからボス戦開始。
最初はミノタウロス。
突進が強烈な相手だが直線的な攻撃しかしないため、10戦以上しているアズサたちにとってはもはや敵ではない。
攻撃を誘い、空振りさせて、攻撃。
自然と役割分担も身に付き、安定性も上がった。
「っしゃー1匹目!」
「中級ポーションいただきまーす。……あ。あー……うん」
いつもならば次を催促するアズサだが、今回は微妙な反応。
「まさか終わった?」
「ううん。だけど次で行けそう。今たぶん99%くらい」
「それでその反応ってわけね」
その感覚はアズサしか分からず、そしてアズサ自身もよく分かっていない。
ただ自分の中で行けると確信する瞬間があるという、曖昧極まりない基準なのだ。
第3階層最終ボスはケンタロス。
いつものように攻撃を誘い、空振りさせて攻撃を入れる。
順調に思われていた矢先、油断が牙をむく。
「突進来るよー」
「はいよっと! ハハッ、ケツがガラ空きだっ……ぐはっ!」
「ネネ!」
ケンタロスの後ろ蹴りをもろに食らい吹っ飛ぶネネ。
いつもはケンタロスが柵の近くまで突進するため、自然と側面からの攻撃になっていた。
しかし今回は短い距離で止まったため、背後からの攻撃に。
馬の背後に立つと危険という知識が、昨今なぜか一般にも浸透したが、ネネはまさにこれが原因で強烈な蹴りを食らう羽目になったのだ。
アズサがすぐさまネネを起こして退避しつつ、ツバサとマヤがお互いへの遠慮一切なしの強烈な連続攻撃を浴びせ、ケンタロスを倒す。
「ネネ、大丈夫?」
「胸……息……」
「胸強く打ったから一時的に息できない感じ?」
アズサの問いに頷くネネ。
ネネの服装はチューブトップなので、お腹にくっきりと蹴られた跡が残っている。
と、マヤがドロップした中級ポーションを持って走ってきた。
「飲んで!」
「待った、わたしが飲む」
マヤから半ば強引に中級ポーションを奪い一気飲み。
そして――。
「覚えた。じゃあ……よし、胃に直接流し込む。苦しいかもだけど我慢して!」
言うが早いか触手をネネの口に突っ込み胃に伸ばし、完成したばかりの中級ポーションを流し込むアズサ。
適量を流し込み触手を抜いたところで、ネネが大きく息を吸い込んだ。
「はぁ~、やべー死ぬかと思った……」
「それはこっちのセリフ! 大丈夫?」
「痛みはあるけど、他はもう治った。……いや、肋骨折れてたらまだやべーかな」
ネネはツバサに手を伸ばし、ツバサはその手を引いて立ち上がらせる。
この時点で先ほどまでお腹にあった蹴られた後はすっきり消えており、泥がついていなければどこを蹴られたか分からないほどに回復している。
その後は一旦様子見しようという話になり、ボスエリアを出て軽い筋トレ。
「骨折れてたらこんな運動出来るわけねーから、とりあえず無事そうだぞ」
「まったくもう、心臓に悪いんだから……」
「いやーマジでな、油断してたわ。反省する」
あとは病院でレントゲンを撮れば間違いないが、ネネとしてはそこまで大事ではないという認識である。
「あ、そういや中級ポーションの味、確認しなかったな」
「全部わたしが飲んでるし味は教えてなかったもんね。中級ポーションは普通に飲める味だよ」
「そうは言っても色々あるでしょ。アズサは特に、あんな味の解毒薬を平気で飲めるんだし」
「ひどい言い草。だったらツバサ飲んでみてよ。はい」
「ま、まあそうなるよね……」
ツッコミを入れたことを後悔しつつ、中級ポーションの入った試験管のにおいをかぐツバサ。
「うーん、確かに飲めなくはなさそう。それじゃあ……んっ!」
「ツバサ君一気に行ったー!」
「で、どうよ?」
厳しい表情から一転、舌をペロリと回すツバサ。
「ね、普通に飲める味でしょ?」
「うん、飲めるね。甘さ控えめの野菜スムージーだよ。……あ、でも後味ちょっと青臭いかも。けど初級ポーションに比べたら雲泥の差だよ」
そう聞いて俄然興味を示したのがマヤ。
「次マヤ飲んでみたい!」
「はいどーぞ」
「んじゃあたしも」
「はいはい」
マヤとネネも中級ポーションを飲み、よく味わう。
「青臭さはあるけど、普通に飲める。はちみつ入れたら朝食のお供にいいかも」
「あー分かる。ただ味わうもんじゃねーな」
「それはそう」
とはいうものの、これで初級ポーションを飲まなくて済むという事実は、アズサを除いた3人にとっては思いのほか大きいのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます