第33話

「っしゃー全快絶好調!」


 第4階層への魔法陣を出すためオマケのケンタロスを倒し、ドロップした中級ポーションに宝箱も取って、一行は第4階層へ。


 第4階層は前室とボス部屋、ご褒美部屋の3室のみ。

 ボスはスフィンクスで空を飛ぶことがある。

 たとえ怪我をしても中級ポーションが生成できるアズサさえいればどうにかなる。

 これらの情報が揃っているので、4人に気負いは一切ない。


「前も思ったけど、前室の雰囲気ってまんま第2階層だよね」

「そうだね。壁も同じだし彫刻もあるし」

「その関連で面白い情報があるぜ。そこにある彫刻、何種類かあるんだってよ」


 前室は正方形で、ボス部屋へと向かう両開きの扉の左右に彫刻がある。

 この彫刻が来るごとに変わっているという情報があり、マヤがスレッドを追う。


「彫刻の種類でボスの行動パターン変わる?

 それはない。ある。飛ぶ確率が変わる。それはただの運。

 ……荒れて終わり」

「あるあるだね」

「どっちにしてもわたしたちには関係ないね。なんたって初挑戦なんだから」

「言えてる」


 これも4人に気負いがない理由の一つである。


「っていうことで、西山口高ダンジョン攻略部、行くぞー!」

「「「おー!」」」


 4人元気にボス部屋に入室。


 到着したボス部屋は半地下で、見上げるとガラス張りの天井の先に青空が見える。

 つまりガラスのピラミッド内部が戦場なのだ。


「実物って中に入ったことない」

「終わったら行くか?」

「寒いからいい。っていうかダンジョンボスは最初からいるんだね」


 4人の前には、いわゆる香箱座りのスフィンクスが待っていた。

 薄茶色の胴体はサイズも含めてライオンそのもので、首から上は髪の長い女性で、背中に白い翼が生えている。


「書き込みではミノよりちょっと強い程度だって」

「それ本気にしちゃダメな奴。……来るよ!」


 スフィンクスは眠ったように目を閉じていたが、アズサたちが武器を構えると目を開け立ち上がり、金切り声を上げて戦闘開始。

 そのまま女性の口が恐ろしいほど開き、正面に青色の魔法陣が形成される。


「顔こっわ!」

「いきなり魔法かよ!」

「青だから水!」


 スフィンクスから放たれた水の魔法は壁まで届く超長距離の水鉄砲……を、首を振って広範囲攻撃!

 ツバサは上空に逃げ、ネネとマヤはしゃがんで回避し、アズサは顔面に直撃。


「アズサ!?」

「……っぷはー。スライムに水魔法は無効なんだよなー」

「肝が冷えるから逃げろや!」

「えへへーごめんごめん」


 緊張感の欠片もないアズサ。しかしおかげでツバサたちの緊張もほぐれる。

 事実、その水鉄砲は見た目こそ派手だが威力は人間でも赤く腫れる程度。

 アズサたち亜人にとってはちょっと強めのシャワーくらいの感覚である。


 スフィンクスは次に一歩下がった後、ネネに向かって走り猫パンチ。

 だが腕の振りが大きく猫ほど速いわけでもないため、ミノタウロスで慣れていたネネはバックステップできっちり回避し、側面に強烈な一撃を食らわせる。


「こりゃあれだ、レベルの概念あったらアタシら適正レベル超えてるくせーな」

「はーい飛ぶよー!」

「空はボクの領域。墜ちてもらうよ!」


 翼をはためかせ魔法で浮くスフィンクスだが、次の瞬間にはツバサの急降下斬撃が左翼の付け根に入り、左翼を部位破壊。

 ツバサの宣言通りスフィンクスは墜落。そこにマヤがファイアボールを連発し驚異の命中率をたたき出す。


「いやー、マジで空飛んだらツバサの餌食だねー」

「んで足を止めたらマヤの餌食な」

「隙を見せたらネネの餌食」

「アズサは?」


 ツバサの一言にボス部屋が静寂に包まれる。さらにスフィンクスも空気を読んでなのか静かになる始末。


「……ぃよーし有毒化した中級ポーション投げちゃる!」

「待て待て! 逃げろ逃げろ!!」


 第3階層のような空のあるフィールドならばともかく、密閉空間であるこの場所で毒薬を使えば、ツバサたちにもダメージが来る。

 それはアズサも分かっているのでこれは冗談。

 しかし期せずしてツバサたちがスフィンクスに接近出来てしまい、スフィンクスもツバサたちの想定外の動きについていけず棒立ち状態。。


「えーっと、ごめんね」


 そして回避不能な距離からツバサの強烈な一撃が入り、ネネにマヤも続き、スフィンクスは倒された。


「ふーぃ。なーんか締まらない終わり方だったな」

「むしろマヤたちらしい」

「言えてる。……いたた、翼を切り落とした時掠ったっぽい」


 スフィンクスは墜落時に爪でツバサの足を引っ掻いており、その傷が今になって痛み出したのだ。


「はいはいポーション係ですよー。あなたの飲みたいのはこの初級ポーション? それとも解毒薬?」

「中級ポーションで」

「正直なあなたには全部混ぜをあげましょうー! ……あ、毒になった」

「お願いだから普通の飲ませて?!」


 もちろんこれも冗談である。


 回復後はお待ちかねのご褒美部屋探索。

 部屋にはピラミッドのお宝を模した金銀財宝がドッサリで、アズサたちは大歓喜!

 しかし――。


「おいこの宝箱、発泡スチロールだぞ」

「こっちの金貨もプラスチックっぽい」

「宝石、なめたら甘かった。飴だこれ」


 そう、あくまでも模してあるだけで、本物の金銀財宝ではない。


「お宝はあくまでディスプレイってことだね。んで本命は、真ん中にある宝箱。

 罠があるかもしれないから、一応部屋の入口まで下がっといて」


 アズサの指示で全員部屋の入り口付近に退避し、アズサが細い触手をぐんぐん伸ばして鍵穴に挿入。


「……あー、罠あった。開けたら床がパカッてなって落下する奴」

「古典的だけどめっちゃ殺意高いやつじゃん」

「ほかには……うわ、もう1個ある。これは……砂が落ちてきて埋まるっぽい」

「開けた穴に砂を詰めると安全?」

「その発想はなかった。順番に発動させてみるね」


 マヤのひらめきに従い、まずは2メートル四方ほどで床が開く。

 その穴をネネとマヤが恐る恐る覗き込む。


「結構深いけど、トゲトゲはない。魔法陣だけだ」

「あれ、帰還の魔法陣。お宝没収さっさと帰れ」

「嫌味な罠だなーおい」

「んじゃ砂落とすよ。離れてー」


 次に天井が開き、砂がドサーっと降ってきて穴を埋めていく。


「砂かよって思ったけど、この勢いでこの量は死ねる……」

「俗にいう質量兵器ってやつだね。この場合は肺が潰れて息が出来なくて窒息」

「砂浜でやらかす馬鹿がいるもんな。……そういや来年の夏にみんなで海行くか?」

「まだ冬だよ」

「そうだけどよー」


 そんな話をしていると砂が止まり、マヤの読み通りちょうど穴が砂で埋まった。

 そしていつものように内側から箱を開けた触手がコンニチワ。


「安全確認ヨシ! 開いたよー」

「どれどれー? ……剣だな」

「曲刀シミターだね。エジプトだとシャムシールだったかな?」

「詳しすぎんだろ」

「ちょっとね。やってるゲームにそういうテキストがあって」


 宝箱の中身はツバサの説明通り曲刀。

 全長80センチ以上ある立派なサイズで、先端に向かって幅広のデザインとなっており、その幅の広さを利用してドラゴンの彫刻がされている。

 となれば必然的に手にするのはツバサである。が、ここで意外な人物も興味を持った。


「マヤも持ってみたい!」

「いいけど、結構重いよ?」


 危ないので横に立って剣を渡す。

 するとマヤはそのまま体ごと持っていかれ転びそうになるが、これを予想していたネネが引っ張り事なきを得た。


「無理だった……」

「適正ってもんがあるからな」

「うん。けどその剣、普通じゃない。魔力がこもってる」

「おっと話が変わってくるよそれ。エントランスルームで鑑定してくれるはずだから、確認してみよう」

「だね。それじゃあかえー……」


 帰ろうと言いかけて考え直すアズサ。


「攻略達成、ってのも……うーん、なんか微妙?」

「でもまあいいんじゃない? そのうち肌に合うかもだし」

「だな。つーことで改めて部長、音頭をどうぞ」

「うん」


 アズサは改めて深呼吸。


「西山口高ダンジョン攻略部、モエレ沼ダンジョン、攻略達成!」

「「「おー!」」」


 拳を突き上げ歓喜するアズサたちだった。




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