第30話
週末。
薄曇りゆえに放射冷却が起こらず暖かい朝。
「先生がわざわざすみません」
「いえ、これも顧問の仕事ですから」
「ツバサちゃんもいつも迷惑かけてごめんね」
「気にしないでください。……よしっと。それじゃあアズサもらっていきますね」
「気を付けて行ってらっしゃい」
森本先生の車にアズサを積み込み、アズサの両親に見送られ出発。
「次はネネか?」
「ううん、そのままマヤの家に行っていいって連絡がありました。ネネの新しい武器が重いから、家のトラックで運ぶらしいです」
「どんだけだよ……」
「ピアノくらいの重さがあるって言ってましたよ」
森本先生の脳内に、グランドピアノを振り回すネネの姿がありありと浮かんでしまい大笑い。
「あっはっはっ! さすがはオーガ、人間じゃ考えられないな。
でもいちいち家のトラックを出してもらうのはまずいだろ。そこのところはどうするんだ?」
「マジックボックスを貰える当てがあるって話です」
「なんだ、ずいぶんと手際がいいな」
「大賀家はみんなダンジョン攻略にノリノリで、勝手にいろいろ貰ってくるって言ってましたから、たぶんそれですね」
「そのうち大賀家がダンジョン化しそうだな」
「あはは、ありえるかも」
そんな感じで和気あいあいと進み、次にマヤをピックアップ。
マヤは帽子にさっそく【
「マヤそれは?」
「便利道具。学校にも持ち込みたい」
「内容次第だな」
「アズサを解凍できる」
「「マジ!?」」
「マジ」
ツバサと森本先生が同時に反応し、肝心のアズサは喋れないのでマヤに熱い視線を送る。
「シートに火属性の魔法陣が……いいや」
細かく説明をしようとしたマヤだが、それは自分が分かっていればいいと思い直して話を切ったのだが、アズサはさらにマヤをガン見。
「……ツバサ、たすけて」
「あはは! それじゃあマヤ、それって端的に言ってナニモノ? 例えば?」
「例えば……魔法版のホットカーペット?」
「分かりやすい!」
この答えに納得して、ようやく戻るアズサ。
そうしてダンジョンに着き、ネネとも合流。
細かい話は中でしようということで、アズサが冷える前にエントランスルームに行き、更衣室の床にマヤの持ち込んだ魔法陣シートを敷いてアズサを放り込む。
「なんだ今敷いてたの? 魔法陣書いてあったけど」
「魔法版ホットカーペット」
「あーそういうことか。だから魔法陣が赤かったんだな」
理解の早いネネに、なぜかくっつきに行くマヤ。
「それで大賀、それが新しい武器か? どう見てもギ……ベースだろ」
「よくギターじゃなくてベースだって見抜いたな。もりもっちってバンドでもやってたん?」
「いいや、4弦はベースって知識があっただけだ。それで?」
「細かい部品も含めて全部アダマンタイト製の、250キロの質量兵器だぜ」
「250キロ……」
改めて森本先生の脳内に浮かぶ、グランドピアノを振り回すネネの姿。
だが車の中とは違い、実物を見てしまったために笑えない。
そしてこの超重量ベースにツバサも興味を持った。
「ネネ、ボクも持ってみてもいい?」
「腰やんなよ」
「分かってる。……あー、ボクでも重いって感じる」
それでも軽々と扱ってしまうツバサに、次はネネがあきれ顔。
「これだからワイバーンはよぉー」
「あはは! ごめんごめん」
もちろん本当に呆れているわけではなく、あくまでもそういった遊びである。
それから15分ほどで、ようやくアズサが登場。
「いやーマジでご迷惑をおかけしております」
「久しぶりに声聞いた」
「だな。でも実態知ったら文句言えんくなったわ」
「文句はあのボロい校舎を使い続けてる学校に言ってくれ。それじゃあ私は先に帰る。そっちは竜崎に任せるからな」
「うん、打ち合わせ済みなので任せてください」
「頼もしい限りだ」
アズサの無事が確認できたので、ここで森本先生とはお別れ。
「さて部長、今日の予定は?」
「録プロのダンジョン内での使い心地を確かめつつ第3階層で軽く準備運動した後、中級ポーションのためにボス狩りをして、覚えたらボスを倒して第4階層に行って、今日中のダンジョンクリアを目指す!」
「んでその第4階層がどんな場所なのかは調べてんだろうな?」
「そりゃもちろんですとも!」
怪しむツバサたちに対し、咳払いをして第4階層の説明をするアズサ。
「第4階層はズバリ! ダンジョンボスとの一騎打ちのみ!」
「さすがに予習はしてきてたね。それじゃあそのボスは誰?」
「スフィンクス。胴体がライオンで頭が女性で、翼がある。モエレ沼公園のメインがガラスのピラミッドだからだよね」
「これは部長」
「やった!」
マヤに褒められてくるくる喜ぶアズサ。
まずは第3階層でウォーミングアップ。
「すぅー……はぁー……。ダンジョン、さいこーっ!」
「こういう奴がダンジョン回帰派になるんだろうな」
「わたしは違うもん。……気持ちは分かるけど」
アズサのテンションがいつもより高いのは、ダンジョン内は気温が一定で凍える思いをしなくて済むからである。
一行は録プロの様子をスマホで確認しつつ、ボスエリアに向かう道中で魔物をつまみ食いしてウォーミングアップ。
特にネネの新武器ベース型金棒に、ネネだけでなくアズサたちも慣れる必要があるため、最初は慎重に進む。
「お、ゴブリン」
「マヤ、あいつこっちに呼び寄せてくれ」
「おっけー」
マヤが土魔法でゴブリンを攻撃し、反撃しに近づいてきたゴブリンをネネが攻撃。
相変わらずのアッパースイングなのも手伝い、ゴブリンは嘘のようにホームランされ彼方へと消えた。
「行ったー!」
「自分でもびっくりするくらいきれいに吹っ飛んだぜ」
「アイテムがドロップしてたら拾いに行くの大変」
「い、今のはただのテストだ! 次は叩き潰してやるからな」
ということで次のゴブリン戦、ネネは宣言通りベースの側面で思いっきり叩き潰し、一撃でゴブリンを撃破。
「もりもっちには冗談半分で質量兵器って言ったけど、この威力はマジで兵器だな」
「でもわたしから見てたら、前の鉄骨バットのほうが振りの動きは速かった」
「アタシの慣れもあるけど、そんだけ重い武器だからな。ま、第4階層に行くまでには慣れるだろうよ」
ネネの感覚では楽観できる程度なので、アズサも問題視はしない。
さらには以前の感覚が残っているため、たとえ複数で現れてもアズサたちの敵ではなく、4人はしっかり連携を意識して撃破していく。
「ツバサ、そっち行ったよー」
「見えてるから大丈夫」
「ネネは」
「おらあっとぉ!」
「……マヤは」
「なが○わくんち放火中」
「言い方ぁ!」
なお肝心のアズサの出る幕はない。
そんな感じでボスエリアまで来たところで、先客と遭遇。
あちらは若い男性3人のパーティー。
「ん、進むなら譲るよ」
「いえ、わたしたちは中級ポーションを少し稼ぎたくて。たぶん3個か4個か5個くらい」
「それだったら……」
男性パーティーが軽く相談。
「うん、僕らは休憩させてもらうよ」
「催促したみたいですみません」
「いいのいいの。気にしなーい気にしなーい」
にこやかに場を譲ってくれた男性パーティーにお礼を言いつつ、ボス戦開始と相成った。
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