第29話
放課後。
昨日買ってきた小型カメラ【
カメラの裏面には高校名の入った紙がセロハンテープで雑に貼られており、ツバサたちには大不評。
そのツバサが撮影者で、頭にかぶったニット帽にカメラを固定しての空中撮影。
確認のため森本先生と校長先生も同席するが、アズサはテストの様子が確認できる暖かい教室で留守番。
なお教頭も誘ったのだが「遊んでいる暇はないので」と素気無く断られた。
「へー、SDカードに保存する以外にも、スマホでリアルタイムに確認もできるんだな」
「アプリ入れればパソコンでも出来るから、ライブ配信にも使える」
「通信距離はどれくらい?」
「コレよりは届く」
「了解。それじゃあ軽く一周してくるね」
マヤの言うコレとは学校の備品のトランシーバー。
確認後ツバサは空へと上がり、地上ならば自転車くらいの速さで学校周辺を一周。
次にマヤがトランシーバーでツバサに指示。
「ツバサ、ぐるっと回って」
『はーい』
マヤは見回すようにという意味で指示を出したのだが、ツバサは勘違いして縦にグルンと一回転。
想定外の動きに地上では「おー」という感嘆の声が上がる
次にマヤが「横に」と改めて指示を出して、これで意味を理解したツバサはゆっくりと周囲を見回していく。
テストは順調で、帰ってきたツバサも「違和感なかったよ」と報告。
映像も鮮明で、これならば学校の行事にも使えるだろうと校長先生も太鼓判。
そうしてテストを終え校舎に戻ったところで、ネネのスマホが鳴った。
「アズサからだ。新体操みたいだったってよ」
「空の新体操?」
「空の……あれだ! ブルーイン○ルス!」
「あースモーク炊いて曲芸飛行! いいね!」
そんな3人の会話を聞いていた森本先生は、頭の中でその光景を想像中。
だが校長先生は首を横に振る。
「学校でそれをやると亜人航空法から外れて一般航空法の扱いになる。つまりちゃんと許可を取って、決められた時間だけの練習で息を合わせなきゃダメなんだよ」
「そっか、個人でも事業でもないから法律が違うんだ……」
亜人航空法とは書いて字のごとく、亜人が飛行する場合に適用される法律のこと。
飛行禁止高度や飛行禁止空域のほか、一般航空法を適用外とするケースも内包している。
しかしこの亜人航空法が適用されるのは、個人と運送などの事業者のみ。
飛行そのものを部活動とする場合、亜人航空法ではなく一般航空法が適用されてしまうバグがあるのだ。
ちなみにこの亜人航空法は有翼種族ならば小学校入学までに覚えるのが一般的で、覚える前の子供のことを俗にひよこと呼び、覚えたてを若鳥と呼ぶ。
そして違反することを墜落とも言う。
「それでもやってる高校はあるけどね」
「あるんすか?」
「横田基地って知ってるでしょ? あそこの近くにあるあきる野東高校ってところがやってて、基地の航空祭の時にデモンストレーションをやるんだよ」
校長先生の言葉にさっそくマヤが調べると、その動画がすぐに出てきた。
ワイバーンを筆頭に複数の種族が横一列に並び飛行したり、本物さながらの曲芸飛行を披露したり、さらには魔法飛行だからこそ出来る空中ラインダンスなども。
「面白そう! だけど一般航空法はさすがにハードルが高すぎ……」
「そもそも我が校は有翼種族が少なくて数が揃わないから迫力も出ない。よって校長としてはその提案には頷けません」
「分かりました」
やりたいと言って始まった話ではないので、それ以上の進展は無し。
その後は校長先生とは別れ、アズサを拾って部室へ。
アズサを定位置に置いた後は、マヤが持ち込んでいるパソコンで録画した映像をチェック。
「パソコンの画面で見ても全然きれいだね。……ボクが勘違いした時のだ」
「地上は盛り上がっていたぞ。窓から見てた生徒もいたくらいだし」
「ツバサはただでさえ目立つ存在だからなー。つか単純な強さだったら校内一なんじゃねーの?」
「さすがに校内一はないんじゃない?」
3人の視線が森本先生に集中。
「3年にグリフォンがいるけど、ワイバーンとどっちが強いと思う?」
「「「あー……」」」
逆に質問され、3人揃って考え込んでしまう。
グリフォンもワイバーンと同じ副将級なのだが、ワイバーンは大将級の代表格であるドラゴンに近い姿なのに対し、グリフォンはふわふわした翼と耳羽根を持つため柔らかい雰囲気がある。
そして弱点と言える弱点のないワイバーンに対し、グリフォンは肝心の攻撃面と体力面でワイバーンよりも劣る。
だがそれ以上に、グリフォンは種族的にとある特徴があるため、あまり強者のイメージを持たれない。
「アタシの中でグリフォンって、アホの子のイメージなんだよな……」
「ボクも同じく。ちょっかい出してきたと思ったら自滅して泣いて逃げ帰るイメージがある」
「マヤも」
「……私もだ」
グリフォンは相手がドラゴンだろうと襲い掛かるという、獰猛で好戦的な性格をしている。しかし返り討ちにあって痛い目を見ることもしばしば。
この点が亜人化後は後先考えず突っかかる性格として現れ、そのため見えてる地雷にも突っ込んでいくという、亜人きってのアホの子となってしまっているのだ。
「それはそれとして、これならばダンジョン内も綺麗に撮影できるな」
「そうですね。本格的に活躍するのは来年以降になっちゃいますけど」
「その前に卒業生の撮影っていう重大任務が待ってるぞ」
「あ、もしかしてそれもボクの担当?」
「うちの高校、竜崎以外に魔法飛行いないんだよ。……いや正しくはいるけど。
とにかく今年と来年は竜崎に飛んでもらうだろうから、覚悟しておくように」
「ハァ……」
大きなため息をついたツバサに、大笑いする森本先生。
「はっはっはっ! 学校から予算が下りたのはそれも含めてだぞ」
「だと思った」
改めてため息をつくツバサ。
「んでこいつの実践投入はいつにする? アタシはもう週末は空けるようにしてるからいつでもいいぜ?」
「マヤもスケジュール空けてある」
「ボクもだから、あとはアズサ次第かな」
そのアズサは電気ストーブの前で微動だにせず。
「……仕方ない、私が車を出そう。そうすればアズサを冷やさずに済む」
「顧問の出番があってよかったじゃねーの」
「生徒にあごで使われたらお仕舞いだと思うがね、私は」
そう嘆きつつ、コーヒーを飲む森本先生だった。
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