第27話
引き続き、第3階層の重複ボス狩りの最中。
「牛さん撃破でポーションゲットだぜ! これで何個目だー?」
「17個目。うーん……もうちょい」
「よっしゃ!」
「ちょっと、おふたりさーん」
このままの勢いで行きそうになったところで、ツバサがアズサとネネを呼び止め、目線であれを見ろと指示し、そこには体力切れでペタンと座り込んでいるマヤ。
ここで「休憩しよっか」とアズサが指示し、ネネがマヤを軽々背負いエリア外へ。
「種族差だけじゃなくて、ボスってだけで無意識にも力が入るからその分体力の消費も多いんだよ」
「土山さんは余裕ですね」
「俺の場合は楽な倒し方を知ってるからな。どっちも突撃後のスキが大きいから、そこを狙って叩けばいい。
さっきの通し攻略パーティーみたいに今後長くダンジョンに潜るんだったら、こういった継続力にも目を向けるべきだろうな」
的確な土山のアドバイスに大きく頷くアズサ。
一方マヤを背負っているネネは、その様子からこれ以上は危険と判断。
「アズサ、マヤは戦闘不能だ」
「うーん……じゃあ中途半端ではあるけど、今日はこれくらいで帰ろうか」
「やー、でも……」
「それにわたしの帰り支度が時間かかるから、そろそろ引き上げないと暗くなっちゃうし」
マヤが責任を感じないように気遣うものの、スマホで時間を確認すると本当にタイムリミットが近くて内心焦るアズサ。
ツバサたちも同様に時間を確認してアズサの判断に納得。
「次回は中級ポーションを覚えて、第4階層を攻略して、モエレ沼ダンジョン攻略完了まで行きたいかな。
土山さん、中級ポーションはそのあとになっちゃうんですけど」
「無理強いする気はないよ。それに数もらっても日持ちするか分からないし」
「それは確かに。……それは確かに!」
「2回言ったな」
「2回言ったね」
薬の効果にだけ意識が行って、それ以外に意識が行っていなかったアズサは「実験してみようかな」と呟き、ツバサの表情を曇らせる。
そんなツバサの表情の変化にネネが気付いた。
「なんかあったん?」
「昔アズサが実験だって言って公園の蛇口の水をどんどん飲んでいって……」
「破裂した?」
「した。おかげでボクも巻き込まれて全身ずぶ濡れだし、どうして止めなかったんだってめちゃくちゃ怒られたし、その公園から蛇口が撤去されたし」
「大惨事じゃん。あーでもアズサだったらやりそうな気がする」
「分かってきたじゃん」
「おかげさまで」
苦笑いする2人。
ちなみにその時アズサはというと、一時的にコアだけになったが10秒ほどで元通り。そしてツバサ以上に叱られ、その後しばらくは水圧を上げることを禁止された。
「よーし、それじゃあ帰るよー」
「「「はーい」」」
「土山さんもありがとうございました。機会があればまたお願いします」
「おう、お疲れさん。外に出たら気が抜けて疲れがどっと出るだろうから、帰り道には気をつけろよ」
「はい」
そうして4人は帰還の腕輪を起動して地上へ。
一方土山は――。
「宝箱も結構もらったし……どうせだから攻略しちまうか」
そのまま第4層へと進むのだった。
地上に戻った一行は、アズサの帰り支度が終わるのを待っている。
なにせ重装備なので、着替えるだけでも15分以上かかってしまうのだ。
「……そういや、魔法陣に乗らないと次回第4層に直行できねーな」
「どうせ中級ポーションのためにボス戦を何度かやるんだし、ロスは吸収できるよ」
「そりゃそうだけど、すっきりしねーなって。んでどこに
「家。さすがに3人持つのは不安があるから配送してもらおうかなって。……配送員捕まえた。男性だからマヤはボクが持って飛ぶよ」
「社長令嬢の職権乱用」
「そういうマヤだって、ここからバスで帰るのは嫌でしょ?」
「イヤ」
即答で笑ってしまうツバサ。
それからしばらくして配送員がやってきて、ようやくアズサも準備完了。
「相変わらずスゲーな……。えーっと、ここを持てばいいな」
行きはとにかくガッチリ抱えたが、帰りは学習して重心的に持ちやすい場所をしっかり考えていたネネ。
アズサは親猫に咥えられた子猫のように動かなくなり、これで準備完了。
「よーしいつでもいいぜー」
「マヤはボクが持つから、
「落とさなけりゃ乱暴に持っても大丈夫っすよー」
ネネはそう言うが、寡黙な配送員の
ので、常備しているハーネスでしっかりアズサとネネを繋ぎ直し、さらに自分にも繋ぎ、ツバサとそろって空へ。
「さすがプロ。めっちゃ楽になったわ」
「だったらボクも今年からハーネスを導入するかな」
「むしろ今までしてなかったんだな?」
「アズサひとり運ぶのに大げさだって感覚が頭にあってね。だってボクからすればサッカーボールを持ち運ぶようなものだからさ」
「あーそれはアタシも分かる。マヤなんてマジで引きずってる感覚ねーもん」
「それはさすがにない」
話に乗ったらはしごを外され、思わず笑ってしまうネネ。
そんな話をしているうちにマヤを下ろし、ネネを下ろし、アズサを下ろし我が家へと飛ぶツバサ。
「ただいま。つかれ……そっかボクも疲れたのか」
玄関先で無意識に疲れたと口に出そうになってようやく認識する。
それだけワイバーンは体力も多く、そしてボス狩りは体力を使うのだ。
「……そうだ、今のうちに。お父さーん、余ってるハーネスあるー?」
一方ネネは、帰宅して早々に父親に呼ばれ、資材置き場へと来ていた。
「んだよ。アタシだって疲れてんだぞー」
「コレを見たら疲れも吹っ飛ぶぞー。よっ……と。注文してたネネ専用の金棒だ」
父親が取り出したのは、ネネの持つ4弦ベースにそっくりの金棒。
マット塗装された漆黒のボディに、ネックやヘッドは通常塗装。ブリッジなど細かな部品まで再現されているのだが、すべてアダマンタイト製なのでその耐久力は半端ではない。
「マジか! 疲れ吹っ飛んだわ!」
早速ベース型金棒を受け取るネネ。
「ぅおっ、重っ!!」
「その重さを遠心力で攻撃力に変えてぶん殴るってのが、金棒だからな。
あーちなみに弦を張れば音も鳴らせるらしいぞ。さすがに本格的な演奏には使えないって言ってたけどな」
「チューニングもできるようになってるし、マジで弾けるなこれ。んで、重さは?」
「だいたい250キロだそうだ」
「だから資材置き場に置いてあったのか」
250キロは小さめのグランドピアノに相当する。
そんな重量のベース型金棒のネックを持ってぶんぶん振り回すネネ。
「父さんの使ってた鉄骨バットと、どっちが振りやすい?」
「あっちのほうが軽い分安心感はあったな。こっちはネックに滑り止めがあるけど、それでも遠心力で吹っ飛びそうだ」
「そこは多分慣れだな。父さんが最後に使ってた金棒なんて400キロの超重量級だったけど、安定して振り回せてたからな」
「それはあんたが異常なだけだ」
「はっはっはっ! 否定できねーや!」
手に馴染むにはまだ時間がかかるだろう。そう思いながら、再び元気にぶんぶん振り回すネネだった。
そしてマヤは、さっそく自室のパソコンで今日撮った動画の編集を開始。
「おー、ちゃんと撮れてる。臨場感もよし。
んじゃここにこんなテロップを入れてーの、ここは――」
しかしその作業はあまり長くは続かなかった。
理由は単純明快。体力切れで寝たからである。
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