第26話

「っしゃー! お馬さん撃破!」

「中級ポーションドロップ入りましたー」


 30分かからずミノタウロス3体にケンタロス4体を倒し、絶好調のアズサたち。

 そして宝箱も4つ開けており、これらを売るだけでも4人で焼き肉食べ放題に行ける額になる。


「アズサはどんな按配?」

「うーん……やっぱり上位の薬ほど多く必要になりそう」

「目標20って感じか?」

「うん。いや、うーん……」

「どっちだよ」


 ネネのツッコミに、アズサは眉間にしわを寄せ考え込む。


「なーんか、なんとなーくなんだけど、わたしの覚える効率が悪いから数が多く必要になってる気がするんだよね。

 だから効率的に覚えれば、たぶん10個くらいで生成可能になりそうな予感はあるんだよ」

「勉強嫌いのツケ」

「うっ……」


 マヤに核心を突かれ目線が泳ぐアズサ。

 と、そんなことをしていると土山が帰って来た。


「そっちの調子はどうだ?」

「予想よりも多く必要っぽくて、どうしようかなと」

「アズサの勉強嫌いが祟って覚えが悪くて」

「ちょっ!」

「ハッハッハッ! まー俺も勉強は嫌いだったから気持ちは分かる。

 そんでこっちはドロップ運が妙に良くってな、もう5個手に入った」

「ありがたいけど複雑な気持ちー」


 土山から目薬を受け取り、いつも通り飲みこむ。


「……行ける」

「その判断をどうつけてるのかも含めて不思議でならないよ」

「んーなんかね、行ける! ってなるんだよ」

「微塵も参考にならねーな。んで出せるか?」

「ちょい待って」


 手のひらから試験管を取り出し、青い薬をそそぐ。

 そしてチェックのため自分で匂いをかぐアズサ。


「うーん……多分大丈夫。誰か実験台になる人ー?」

「それじゃあ俺が実験台になってやるよ。ちょっと興味もあるし」

「味も再現されちゃってますよ?」

「石狩ダンジョンに行ったら嫌でも飲むことになるから慣れてるよ」


 それを聞いて未来の光景が頭をよぎり、苦い表情になるツバサとネネとマヤ。

 そんな3人を見て笑ったあと、一気に飲み干す土山。


「大丈夫だとは思いますけど、異変があったらすぐ言ってくださいね」

「……問題ない。味も再現されていたし」

「味……」


 意地悪に笑う土山は、ふくれっ面を見せるマヤをちらりと見て「娘もいいなぁ」と呟く。


「でもボス狩りはまだまだだね」

「あー忘れかけてたのにー」

「そんなお前らにちょっとした裏技を教えてやろう」

「「「「裏技!?」」」」


 みんな一斉に興味津々。


「先に言っておくけど、これは本来ならマナー違反の危険行為で、俺とお前らっていう別パーティーが手を組むからこそ出来る裏技だ。

 だからもしもこの先同じことをやるつもりならば、別パーティーが命を預けられる相手かどうか、しっかりと見極めろ」


 土山の警告に危険性を理解し、真剣な表情で頷くアズサたち。


「じゃあやり方だ。これは簡単でな、別のパーティーがタイミングを少しずらしてボスエリアに入ればいい。そうするとボスが2体分出てくるんだ」

「2体相手にすることにはなるけど、その分時間短縮になる?」

「ああ。だからこそ相手に信用と信頼がなければ成り立たない裏技なんだよ。

 なにせボス2体で危険も2倍なのに、混戦からの騙し討ちで獲物の横取りまで発生しかねないんだ。

 さて、お前らは俺を信用できるか?」

「ハイリスクすぎるゲームだな……」


 アズサは他の3人に意思確認。

 そして複数体相手の戦闘訓練にもなるという判断で、土山の提案に頷いた。


 まずはアズサたちがボスエリアに入り、ミノタウロスが出てきたのを確認してから土山もボスエリアに入り、ミノタウロスがおかわり。

 2体のミノタウロスは一度は戸惑う様子を見せたが、その後は仲違いも共闘もせず別々に行動。


「他人のふりなんだ」

「時と場合によるんじゃね?」


 一方のアズサたちは会話をしながらも、順調に攻撃を当てていく。


「オッサンそっちは?」

「……今片付いた」

「はやっ!」


 伊達にソロ攻略者ではない土山。

 土山はカマを武器にしているのだが、これは最初から武器として作られた戦闘用のカマなので、ワイバーンの爪よりも高い攻撃力を誇る。

 そんな土山に刺激され、アズサたちもより攻撃的な戦闘を繰り広げ、ミノタウロスを撃破。


「ふう……痛っ」

「ネネ、突撃掠ってたもんね。あーちょっと血がにじんでる」

「この程度って言いたいところだけど、アズサにも仕事やらねーとな」

「あざまーす。ってことではい、飲んで」

「味をどうにかしてくれりゃーな……」


 味以上に苦い表情で仕方なく飲むネネ。

 おかげで傷は治ったが、しばらく口の中に苦みが残った。


「さてと、試しに2体同時やってみてどうだった?」

「行けそうではあったよね?」

「ボクは余裕だったよ。むしろもっと積極的に行っても良かったって思ってる」

「アタシもそうだな。さっきの傷も慎重に行き過ぎたからだし」

「マヤも」


 つまりこのままのペースで行くことに全員同意。

 と、そこにアズサたちと同年代の5人パーティーが来た。


「すみません、稼ぎ中ならば先に一戦やらせてもらってもいいですか?」

「えーっと先に進むのにってこと?」

「はい。1日での通し攻略中なんです」

「だったらどうぞどうぞー」

「ありがとうございます」


 相手パーティーと入れ替わり、アズサたちはエリア外へ。


「1日での通し攻略かー。そういうのもあるんだね」

「むしろマヤたちがペース遅すぎ」

「ボクたちの場合、アズサが薬のラーニングをする手間があるから仕方ないけどね」

「早さは安全とのトレードオフだからな」

「おー、ネネが難しい言葉使ってるー」


 茶化したアズサはネネに頭を小突かれ「あいたっ」と声が出た。


「それよりもお前ら、今後の参考にあいつらの戦い方を見たほうがいいぞ」


 土山言葉に、全員が柵越しに先ほどの5人の戦闘を見守る。

 5人が引いたのはケンタロス。

 上半身が人で下半身が馬のケンタロスは、ミノタウロスと比べて動きが速く、突進攻撃を頻繁に使う。

 しかし相変わらず直線的な動きなので避けるのに苦労はせず、5人も余裕をもって避けている。


「……わたしたちとそんなに変わらないね」

「ううん、全然違う」

「マヤには分かるんだ?」

「うん。ケンタロスが誰を狙ってるか、注目」


 マヤのアドバイスを聞きその通り注目すると、ケンタロスは必ず他から離れた1人を狙っていることに気づくアズサ。

 だが同時に逆なのだとも理解する。


「なーるほど。わざと1人だけ離れて狙わせれば、他が安全に攻撃できるんだ。

 ……ってそれわたしたちもやってない?」

「練度が違う。それにあの人たちは……ね、言ってる」

「え?」

「あの人たち、『の』とか『い』とか言ってるでしょ。あれで意思疎通してる」


 マヤの指摘に耳を澄ませるアズサたち。

 すると確かに1文字2文字の短い言葉で意思疎通を図っているのが分かる。


「そのパーティーだけに通じる合図みたいなもんだな。けど俺から言わせりゃあいつらのは見よう見まねのファッションに過ぎない。

 なにせマジの上級パーティーは気配だけで動くから、戦闘中ほど静かなんだよ」

「……それを知る土山さんは何者?」

「農協勤務の一児の父親だよ」


 アズサたちは土山にコワモテのおじさん以上のイメージは持っていなかった。

 しかしこの一言で、隠れ強者のイメージも追加された。

 そんな話をしていると戦闘が終わり、5人パーティーがアズサたちに手を振って「次どうぞ」と言いつつ魔法陣で次の階層へと消えた。


「それじゃ続きやろっか」

「んでアタシらもアレやってみるのか?」

「ううん。正直なところわたしたちにあの真似ができるとは思えないもん。だからわたしたちはわたしたちらしく戦えばいいよ」

「そうそう。ボクたちはボクたちらしく」

「気取らず気負わずレッツゴー」


 結局はいつも通りの4人。

 そんな4人を眺めながら「ま、それが一番だな」と微笑む土山だった。




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