第25話

 ちょっとした騒動はあったが、ドリアード狩りとマップ埋めを再開。


「そういえばアズサ、新しい技を覚えたとか言ってたけど」

「うん。そのために今は200リットル持ってるんだ」

「どれ、いよっ……?」


 またアズサの脇に手を入れヒョイと持ち上げ、首をかしげるネネ。


「重さ変わってる気がしねーんだけど」

「100リットルの差なら能力で相殺できるからね。それよりもわたしの足元見て」


 アズサの足元を見ると、両足それぞれのふくらはぎ辺りから地面に向かって親指ほどの太さの水管が伸びており、その先が左右の畑へと向かっている。


「畑に水やりしてる?」

「違う。畑の中に細い管を通して、振動で敵の位置を把握してる」

「つまり振動レーダーだね。精度は?」

「残念ながら、昨日今日の思い付きでは精度と言えるほどの成果は出ておりません。

 さっきのもなんか大勢いるなー程度だったし、せいぜい左右どっちにいるのかくらいしか分からない」


 アズサがこの方法を思いついたのは2日前。テレビ番組で振動を足で捉えて獲物を探す虫が紹介されていたから。

 なので現状では、左右どちらにいるかという判断すらも怪しい精度である。


「使い方はマヤたちで考える」

「おっ、頼もしい。ってことであっちに反応アリ。……こっちかな?」

「前言撤回」

「あははー」


 とはいえ敵の有無が分かるだけでも多少は効率が良くなるのだった。


 その後もマップ埋めを続けていると、柵に囲まれた牧草地を発見。


「明らかにボスエリアだ」

「えーっと、出てくんのは……ミノタウロスかケンタロス。一気に難易度跳ね上がったな」

「だからミノタウロスには注意しろって言ったろ」


 聞いたことのある男性の声に振り返ると、江別に住む男性ノームの土山がいた。

 土山の装備は麦わら帽子の農家スタイルなので、農地モチーフのこの階層との親和性がとても高い。


「土山さん……似合い過ぎ」

「ハッハッハッ! 実際俺もここに一番来てるからな。んでそっちはこれからボス戦か?」

「いえ、マップ埋めとドリアード狩りで目薬調達中です」

「目薬なんてモエレ沼じゃ使い道ないぞ?」

「わたし特異体質で――」


 その旨を説明。


「なるほどな。だったら俺の持ってる分やるよ」

「ありがとうございます。……って10本も! いいんですか?」

「気にするな。それ全部売ってようやく缶コーヒー1本分だからな」

「世知辛い……。ともかくありがたくいただきます」


 いつも通り試験管ごと飲みこむアズサに、土山が少し心配の表情。


「そのまま行くのか」

「スライムですから。うーん味は……甘くもないし酸っぱくもないブドウ?」

「もはやブドウじゃない何かだろそれ」

「うん。だけどなぜかブドウって分かるんだよ。脳内補完ってやつかも」


 結局何味かよく分からないが、ポーションよりは飲みやすいという結論に。

 そうして手持ちのすべて飲みこんだアズサだが、「まだ何本か欲しい」と一言。


「数がいるんだな。他もなのか?」

「そうですね。ポーションは確か12本だったかな」

「……だったら第4階層の前哨戦として、ここでボス狩りをするといい。どっちも確定で中級ポーションをドロップするんだ。

 再戦はボスエリアに入り直すだけでいいから、1時間もかからないはずだぞ」


 中級ポーションと聞いて目を輝かせたのはマヤ。

 それを見てアズサがマヤに質問。


「マヤから見て、わたしたちで行けると思う?」

「うん。牛も馬も倒し方を知れば簡単だから」

「どんな感じで?」

「どっちも攻撃が直線的。横一直線、縦一直線、前に一直線」

「避けやすいってことね」

「うん。しかもモーションが大きくて隙も大きい」


 一応土山にも確認するが、マヤの言う通りだと頷いた。


「どうせだ、俺が見ていてやるから1回戦ってみろ。それでお前らの感覚でも問題ないとなれば、お前らがボス狩りしてる間に俺が目薬を手に入れてやる」

「……何が狙いですか?」

「人聞きの悪いこと言うなぁ……。

 中級ポーションを作れるようになったら何本か持ち帰りたいんだよ。うちのチビ助が何かと無茶するタイプで生傷が絶えなくて。ハァ……」


 親ならではの悩みに思わず笑ってしまうアズサたち。

 そしてアズサたちはこの取引に応じ、ボスエリアの中へ。


「出現方法は同じみたいだね。さーてどっちが出るか……牛!」


 他の階層と同じ演出で漆黒のワームホールから出現したのは、ミノタウロス。

 2メートル以上ある筋骨隆々漆黒の巨体に鋭い角と、血走る赤い目でアズサたちを睨み、さらに右手には巨大な石斧を携えている。


「いいな、あの斧。アタシも欲しい」

「黒毛和牛。おいしそう……」

「マヤさっきからお腹空いてる?」

「うん」

「じゃーさっさとぶっ倒して、昼飯にすんぞ」

「「「おー!」」」


 ミノタウロスが咆哮し、戦闘開始。

 まずミノタウロスはこちらの出方を伺うように、構えつつ距離を取っている。


「ねえツバサ、マヤ持って飛んで」

「分かった」


 静かな開幕の直後、マヤが何か閃きツバサに抱えられ空へ。

 これでターゲットが減ったミノタウロスは、頭を下げアズサに向かって突撃!

 しかしモーションがあからさまだったのでアズサはしっかり回避し、自然と背後を取れたネネがすねに一撃をお見舞い。

 これが足払いになってミノタウロスが転んだ。


「意外と簡単に避けられた」

「な。こりゃアタシら2人でも行けんじゃね?」


 そう余裕の発言をした直後、空から直径が人間サイズの巨大な火球が落ちてきて、立ち上がろうとしたミノタウロスに直撃し爆発。

 アズサとネネも爆風に巻き込まれる位置にいたが、魔法シールドで事なきを得た。

 そんな2人に空から「ごめーん!」と謝るマヤ。


「空から攻撃するんだろうとは思ったけど……」

「フレンドリーファイアは頂けねーな。っとミノさんまだ生きてやがるぞ!」

「さすがボス」


 上半身が焼かれ、なんとも言えない香ばしいかおりが漂っているものの、大きく咆哮してやる気がまだあることをアピールするミノタウロス。

 しかし無情にもその咆哮が仇となる。

 上を向き大きく口を開けることになったため、マヤの二撃目を顔面に受けてしまったのだ。


「……倒れた」

「マヤの魔法が完全にバランスブレイカーになってら」


 そうしてミノタウロスが倒れると、ポーションよりも色の澄んでいる緑の液体がドロップし、魔法陣と宝箱も出現した。


「なーるほど。これは確かに稼ぎになるね」


 そこにツバサとマヤが降りてきて、マヤのあまりにも神妙な面持ちに思わず笑ってしまうアズサとネネ。


「あはは! ってことだそうですよー、ネネさん」

「ま、反省してんなら怒る気はねーけど。ツバサは?」

「ボクからは何も。ただ……動揺がすごかったとだけ」

「やーぁ! バラさないでって!」


 ツバサの裏切りに、再び大笑いするアズサたちだった。


 落ち着いたので宝箱をオープン。

 中身はなんとツノの付いた鉄の兜。


「物語のドワーフがこんなの被ってそうだよな」

「うん、分かる。けどボクたちには不要だね」

「ファッション的にもありえない」

「うーん……あ、そうだ。土山さーん」


 エリアの外で眺めていた土山に「今回のお礼です」と兜を渡すアズサ。

 土山は麦わら帽子を脱いで兜を装備して「似合うか?」と訊ねひと笑い取ってから、「売ってもいいならもらっておく」と。

 アズサもそのつもりだったので頷き、このツノ付き兜は土山の手に渡った。


「傍から見てた感じ、危なっかしい場面はあったけど大丈夫そうだな」

「はい。なのでさっきの話、お願いします」

「よしそれじゃあ……1時間後にここで落ち合おう」

「はい、分かりました」


 こうしてアズサたちはボスを狩って中級ポーション入手、土山は協力者としてドリアードを狩って目薬入手に励むことになった。




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