第24話
約1か月ぶりのモエレ沼ダンジョン第3階層。
相変わらず、細い農道に仕切られた広大な畑が4人を出迎える。
「今日は平和なスタート地点」
「前は奴らのせいでイレギュラーだったからな。んでどっちに進む?」
「西」
「というマヤのリクエストを採用して西に向かって進みまーす」
まずは畑から出て農道へ。そこから西へ。
「そうだ、もりもっちに依頼された撮影もしないと。どうせ攻撃することないだろうし、わたしが撮影するね」
「撮り方は分かってる?」
「さすがにそれくらいは分かってるって」
スマホを構えてまずは自己紹介を撮り、みんなで確認してから進む。
「それじゃあ戦術は前回と同じで、農道に陣取って遠距離攻撃しーの、魔物が近づいてきたらツバサとネネで殴る」
「うん、問題ない」
「でも1か月ぶりだから、慎重に」
「そうだね」
マヤが釘を刺してみんな頷き、周囲を見渡し警戒を怠らない。
一方そのころ。
「来た。奴らだ」
悪巧みを企てている一団も動き出した。
アズサたちの歩みは順調そのもの。
遠くからチクチク戦術が大いにハマり、無傷のままマップが半分以上埋まった。
魔物からのドロップは少なく、また素材として取引されるようなものだけ。
しかし宝箱運がよく、3つ開けて鉄の斧、ポーション、目薬を入手。
「これが目薬? どう見ても青いポーションだけど」
「飲む目薬。盲目の状態異常を治す」
モグルールで盲目の状態異常をチェックするアズサ。
盲目は視界が暗くなる魔法由来の状態異常。時間経過で治るが、明るいフィールドでも深夜のように暗くなるので敵を狙いにくくなり、不意打ちの危険性も高まる。
「――だって。コメントにも早急に治したい状態異常のひとつってある」
「要するに目を閉じて戦うのと同じだからね」
「そう聞くと危険性がよく分かる。けど目薬ってこれだけだし、わたしが覚えるのは先が長そう」
「ところがドリアードのドロップが目薬」
「さすがプルーンの苗木だな。あれ、目にいいのはブルーベリーだっけ?」
「どっちでもいいよ。ドリアードは危険が少ないからスルーしてたけど、積極的に狩ったほうがいいね」
全員が頷いて移動開始……と行こうとしたところで、ガラの悪い男たちが近づいてきた。
その数10人以上。
男たちの先頭には見覚えのある赤髪の犬、
「よぉ、大賀ネネ。また会ったな!」
「この近くにドリアードはいないみたいだな」
「って聞けぇ!」
ため息をついて、仕方なく相手をしようとするネネ。
だが口火を切ったのは最も意外な人物、マヤだった。
「弱い犬ほどよく吠える」
「ぁあん? なんだこのチビ」
「ちょ、ちょーっと待った!」
男性恐怖症、かつ不良とは最も縁遠いところにいるはずのマヤが一番に行くとはアズサたちの誰も予想しておらず、アズサとツバサも加わり一旦あちらには待ってもらう。
「マヤお前マジ?」
「前回からムカついてた」
「確かにお前声張り上げるタイプの男が一番嫌いだけど、だからって……」
と、マヤがネネに耳打ち。
それを聞いたネネは「えげつねーこと考えるな……」とドン引きしたあと、アズサとツバサの間を割って男たちの前へ。
その間にマヤはアズサにも耳打ちで何かを打ち合わせ。
「えーっと、アタシはこれでも慈悲があるんで言っておく。うちのマヤは怒らせたら怖い。だからマジで帰ってくれないか?」
「は? なーにお前、日和ってんの?」
「そのミームとっくに周回遅れだぞ。ってそうじゃなくって、アタシこういうのは嘘つかないから。あんたらのことを思って帰れって言ってんの。マジで」
「ハッ! んな話聞いてはいそうですかって帰る馬鹿がいるかよ。囲め!」
ネネの忠告を聞かず、男たちはアズサたちを取り囲む。
そして――。
「あーぁあ。アタシは確かに忠告したからな……」
「ほざけ。大賀ネネはオレたちが倒す。やっちまえ!」
「正当防衛開始」
マヤがそう言うとアズサが複数の試験管を空に投げ、直後マヤの魔法でアズサたちを守るようにドーム状のシールドが展開され、攻撃しようとした男たちが弾かれる。
そして落ちてきた試験管がシールドに当たって砕け、中に入っていた液体が辺りに飛び散り、囲んでいた男たちがもろに浴びてしまう。
すると――。
「うわっ、ちょークセー!?」
「しかもネバついてるぞ。うわっ最悪……」
「やべ、なんか目痛いんだけど! 涙出てくる!」
「くっさ! マジかよオレ着替え持ってきてねーんだけど……」
阿鼻叫喚の男たち。
それもそもはず。
アズサが放り投げた液体は、ポーションと解毒薬、そして先ほど倒したワーニオンからドロップしたタマネギ汁の原液を混ぜたもの。
しかも臭い付けに朝食の納豆を使っているため、激臭なのだ。
そんな激臭ネバネバ液体を浴びた男たちの戦意は一瞬で消し飛び、1人が逃げ帰れば連鎖的にいなくなる。
残ったのは自分だけは攻撃に参加せず後ろで見ていた結果液体を浴びずに済んだ、赤髪の犬
「はい、チェックメイト。……マジくっさ! だから忠告したんだからな!」
「知るか! こうなるなんて……くっさ! 分かるわけ……マジでくさっ!!」
「ボク空に逃げるね。マヤもおいで。……ほんとにすごい臭い」
「提案した自分でも後悔してる」
マヤの手を引いて臭いのない上空へと逃げるツバサ。
こんな激臭の中で平気な顔をしているのは嗅覚を遮断できるアズサと、そもそも嗅覚のない魔物スライムだけで、実は他の魔物も逃げまどっていた。
臭いで喧嘩どころではない
「じゃあ最後通告ね。次わたしたちの前に現れた時は、もっとヤバい液体を頭から浴びせるよ。それが嫌なら二度とストーキングなんてしないこと。分かった?」
「あ? こんなもんで勝ったと思ってんのか? 調子乗ってんじゃ――」
次の瞬間、
「もう1回言う?」
「も、もういい! 勘弁して! 目痛い! めっちゃ痛い!! 助けて!!」
「……さすがに可哀想だから洗い流すよ」
こうして
なおその
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