第23話
ダンジョン攻略を明日に控えた日の夜。
『明日ほんとに行くの?』
『行く』
『あの服装で外に出られる?』
『ムリ!』
その理由は、天気予報についに雪だるまマークが出現したため。
スライムは体の99%が水なので、当然しっかりと対策をしなければ、凍る。
一方アズサの選んだダンジョン服は気温20度前後が丁度いいくらいの軽装。
そのダンジョン服のままマイナス気温の屋外に出れば、アズサの氷像の出来上がりである。
ちなみに札幌の初雪の平均は11月第1週だが、天気予報に雪だるまが出現するのは中旬ほどで、さらに根雪(春まで雪が残る状態)になるのは12月に入ってから。
なので11月の雪は、たまに降ってもすぐ溶ける。
とはいえこれはあくまでも平均の話なので、油断は禁物である。
『だと思ってお父さんに箱借りたよ』
『箱って何』
『荷物を圧縮して収納できる魔法の箱。高価だから絶対に壊せないよ』
『何円くらい』
『お父さんが買った時は新車が買えるくらいっだって』
『やば』
そんなやり取りをしているツバサの部屋にて。
ツバサはベッドにうつ伏せ状態でスマホをいじっていた。
「うーん、短文ばっかりってことは、やる気はあるのか」
幼馴染ゆえの能力で、アズサの心情を分析するツバサ。
実際アズサは出発準備を整え、いつでも出られる状態にいた。
『明日まずボクがアズサの家に行く』
『うん』
『箱にダンジョンの服を入れて出発』
『あ。り』
『向こうで』
「あ。……はぁ」
相手が全てを言う前に理解して話を切るのはアズサの悪い癖。
ツバサは散々慣れているのでもう何とも思わないが、それでもため息は漏れる。
「だったらたぶん……そうだ」
ツバサは次にネネに連絡。
『ネネ、明日ちょっと早く出て。ボクが拾う』
『なんで?』
『アズサ運ぶのにネネがいると助かるんだよ』
『よく分からんけど、よく分かった』
『30分くらい早いと助かる』
『まかせとけ』
「あとは……お父さんを頼るかな」
他にも追加で連絡が必要と判断したツバサは、父親に頭を下げるのだった。
翌日。
「出たな第三形態」
「あはははは!! これが第三形態か!!」
アズサの家に迎えに来たツバサは、連絡どおり事前にネネを拾っていた。
その理由はアズサが第二形態をスキップして第三形態になると予想したから。
アズサの第三形態は、もはや元の体型が分からないほどの超厚着。
上半身は肌着にトレーナーにロングコートでさらにフード付きダウンジャケット、モコモコの手袋。
下半身は厚手のタイツに裏地モコモコのスウェットに断熱生地の別のズボンという2重履きに、靴はファーの付いたロングブーツ。
首元もロングコートのファーとマフラーの2重で、他とは明らかに違うド派手なニット帽に耳当て、口にはマスクを2重にして、スノーゴーグルまで装備。
徹底して外気に触れない見事な完全武装に、ネネの笑いが止まらない。
「体力の問題じゃないって言った意味が分かったでしょ?」
「めっちゃ分かった! いやーここまで来ると可哀想通り越して面白い以外の感想が出てこねーや!」
「ちなみになんだけど、口元に手を当ててみて」
棒立ちして一言もしゃべらないアズサの口元に手をやるネネ。
「んー……息してなくね? 死んでる?」
「こうなったアズサは鎖骨の下辺りに呼吸用の穴を作って息をしてるんだよ。じゃないと体の中から凍るからね。
おかげでこうなったアズサは喋れなくなって、セリフがなくなる」
「メタ発言だぞそれ。つーかアタシ、今初めて人間って万能なんだなって思ったわ」
「あはは。確かに、欠点はあってもボクたちみたいな弱点は無いからね」
第三形態のアズサを一通り堪能した後は、アズサを抱えたネネをツバサが持つという三色団子状態で空に上がり、モエレ沼ダンジョンに向けて飛行開始。
「ネネは大丈夫?」
「余裕。つかこいつマジで1ミリも動かねーんだけど。凍ってんじゃね?」
「そのほうが輸送しやすくて助かる」
「うわー辛らつー!」
幼馴染ゆえの一方的かつ容赦のない言葉に笑うしかないネネ。
そうして普段よりも慎重に飛行し約40分でモエレ沼ダンジョン入り口に到着。
入り口にはマヤと、その横に竜崎運送の帽子をかぶった女性。
女性はハーピーで、ツバサと挨拶を交わすと手を翼に変えて空へ。
一方アズサの第三形態を見たマヤの感想は「謎の物体Aが現れた」で、改めてネネに笑われている。
「そういやマヤのこと、アタシいなくて大丈夫かと思ったんだけど、竜崎運送で手配してくれたんだな」
「無理を言ってだけどね。ワイバーンは全員男性で女性はハーピーだけなんだけど、ハーピーの積載重量だとマヤでもギリギリだから」
「2回休憩した。止まり木制度サマサマ」
止まり木制度とは、ビルの屋上を有翼種族の休憩地点として解放している場合、ビルの固定資産税が割り引かれるというもの。
ハーピーは物理飛行なのでただ飛ぶだけならば体力も魔力も最小限で済むのだが、重量物の運搬となると高度を保つために羽ばたきが増え、体力の消費が多くなる。
そのためこの止まり木制度が無ければ、わざわざ地上に降りてから羽ばたいて高度を獲得しなければならず、積載重量にも大きな制限が掛かるのだ。
それはそれとしてエントランスルームへ。
アズサは相変わらずネネに抱えられて移動し、一足先に更衣室に放り込まれる。
それから15分ほどで、ようやくダンジョン服に着替えたアズサが出てきた。
「おまたせー。あと色々ごめーん」
「これからはほぼ毎日なんだから、ほんと苦労するよ」
「マジで毎年ご迷惑をおかけします」
アズサの生活にツバサがいないと仮定し場合、アズサの運送は両親か、あるいはそもそも別の高校を選択していただろう。
それほどまでに、アズサにとってツバサは必要不可欠な存在なのである。
「え、もしかして毎日アタシが抱えるのか?」
「いや、学校までだったらボクか配送員の誰かに頼むから大丈夫。今回は距離があったからネネに頼んだんだよ。ネネのほうがアズサをホールドしやすいでしょ?」
「確かにな」
ツバサならばアズサたち3人を一気に運ぶことも可能だが、安全に運ぶとなると話が違ってくる。
そのため今回ツバサは重量が増えるのを承知で、ネネにアズサを持ってもらうことでより安全に運べるようにしたのだ。
「つかよ、いっそ冷凍庫で凍らせてからマジックボックスに入れて運べばよくね?」
「それいいね。今度試してみようかな」
「ちょっ、わたしモノじゃないんですけど? これでも生きてるんですけど?」
「雪まつりに並べる」
「おーナイスアイディア」
「雪像でもないんですけど!」
ネネから始まりアズサ弄りの流れが出来てしまう。
その流れを変えようとするアズサ。
「それじゃ改めまして、本日の目標を発表しまーす」
「どうせ第3階層攻略して帰るんだろ」
「そうだけど! これ数少ない
「はいはい。つかもう受付済んでるんだから、さっさと行こうぜ」
「「おー!」」
「ねーえーっ! んもー、わたしだって新しい技覚えたんだから!」
「へいへい。期待してるぜー」
だが結局流れは止められず仕舞いなのだった。
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