第15話
水曜日の放課後、アズサの自室。
昨日歴史の授業で小テストがあり、亜人の歴史問題が集中して出された。
この時の答案が返ってきたので、アズサの家に4人集まり復習と相成った。
「もりもっちぜってーアタシら意識してテスト出したよな」
「うん、それはボクも思った」
「マヤもそう思う」
「……そうなの?」
1人だけ気付かなかったアズサを放っておいて、解答の確認を始める3人。
問題を読むのは、満点を取ったツバサ。
「まずは穴埋め問題だね。西暦[問1]年頃、スイスの[問2]近郊の森に最初のダンジョンが出現した」
「問1は1100年だな。覚え方は十字軍第一次遠征だ」
「問2はジュネーブ。もりもっちの『ジュテームジュネーブ』が強烈過ぎた」
「あん時の空気、ヤバかったもんな」
「空気のヤバさが強烈過ぎて何言ったのか覚えてない……」
「アズサには逆効果だったか」
既に赤点が見え隠れしているアズサ。
「次、問3。1230年に開かれた人間と亜人との初めての会議は何?」
「韻踏んでるから覚えやすいんだよなこれ。正解はベルン亜人会談」
「ベルンで亜人と会談! イェア!」
「あはは! マヤ結構似合う!」
手の形も含めてラッパーの真似をするマヤに盛り上がる一同。
一方マヤは恥ずかしくなり、シロとクロを捕まえて顔を隠した。
「はいはい次行くよ。
問4。問3で締結された条約の名前にもなった、この会議に出席した亜人側代表団の名前は?」
問4は四択問題。
A レジェンド
B モンスターズ
C エルダー
B モルダー
「Bが2つあるっていうな」
「モルダーあなた疲れてるのよ」
「疲れてるのはもりもっちでしょ」
「ネタだよ。昔アメリカのドラマでそういうセリフがあったんだ。
んで正解はCのエルダーだな」
アズサのエンタメ知識の無さには、もはや誰も突っ込まない。
当時、人間との講和会談に【エルダー】と名乗る13体の魔物が出席した。
エルダーにはドラゴンやポセイドンなど、日本で言う大将級が連なっており、その光景を描いた絵画は、さながら大怪獣バトルである。
しかしエルダーたちは知能も高く、ダンジョンの口が閉じた時点で魔物側に勝機はないと悟り、魔物側からこの講和会談を持ちかけたのだ。
その結果魔物と人間との間に【エルダー条約】が結ばれ、全魔物が亜人化へと歩みを進めることとなった。
なお当時の13体の魔物は全員が存命で、種族名にエルダーを冠することで他者との差別化を図っている。
また現在【エルダー】とだけ言った場合、世界を13の地域に分け各エルダー種族が地域の代表として活動するという、亜人の管理体制のことを示す。
「問5。日本のエルダーは他の地域とは異なり一国一地域の体制となっている。その理由を以下から選べ」
「これはわたしでも分かった。Bだ」
「うん。正解はBの、鎖国により亜人の入国が明治以降と遅いため」
「織田信長亜人説」
「ノッブ忙しすぎて過労死しそうだな」
織田信長に付いてまわる様々な説やネタはこの世界にもある。
例えばマヤの言った亜人説や、エルダーに喧嘩売ったから焼き殺された説、明智光秀亜人説もある。
しかし、そのどれもが確証のない戯言である。
「そういや日本のエルダー種族って見たことないよな」
「種族は黒いドラゴン」
「それはアタシも知ってる。他のエルダーは結構メディア露出ってのするけど、日本のはまったくそういう話聞かないだろ?」
「確かに全然聞かないね」
エルダーは地域の亜人代表として国際会議や地域内の国の議会に出席することもあるのだが、日本のエルダーは10年以上そのような場に出席したことがなく、いつも代役を立てている状態なのだ。
「噂では中学生」
「どう考えても100%デマじゃん。エルダーったら亜人化以前から生きてる歴史の生き証人だぜ?」
「他のエルダーと仲が悪いっていう噂もあるけどね」
「仲悪いかは分からんけど、ポンセさんには迷惑かけてると思うな」
ポンセとは太平洋とオセアニア一帯を取り仕切るエルダーポセイドンのこと。
広大な海洋地域を1人でまとめ上げる姿は海神とも称されるが、当人は麦わら帽子にサングラスとアロハシャツのよく似合う、南国のイカしたおっちゃんである。
そして日本も太平洋に面した島国であるため、国際会議には日本エルダーの代役も兼ねて出席してくれている。
「はい、問6行くよ。問3の会議により締結された条約のうち、近年最も大きな影響を与えたのは第何項か。またその内容は何か」
「アタシは正解してる。アズサは?」
「正解したよ。第二項、亜人の戦争参加の禁止。もりもっちが知らないのは亜人としてヤバいって言ってたもんね」
「じゃあ問7も正解してる?」
「うん。近年最も大きな影響を与えた事件とは何か。正解は第二次世界大戦」
「それしかねーよな」
この2問は全員正解。
第一次及び第二次世界大戦勃発時、エルダーは【エルダー条約】を盾に亜人の戦争参加を禁止し、これに違反した国には一切の容赦を認めないと強烈な脅しをかけた。
結果、二つの世界大戦はどちらも史実をなぞることとなった。
「実際のところ亜人と人間が戦争したら、どっちが勝つんだろう?」
「人間だろ。アタシらだって銃で撃たれりゃ死ぬからな」
「例えば町ひとつを一瞬で消し炭に出来るドラゴンでも、何十発もミサイルを打たれたら負けるからね」
「数の暴力」
「そう言われたら納得」
冷戦時代、実際に米国でドラゴンと当時最新鋭だったF-4戦闘機5機で模擬演習を行ったところ、ドラゴンは10分と持たずに白旗を上げた。
この戦闘結果は近年まで軍事機密として秘匿されていたが、50年の経過をもって一般に公開された。
なおこの戦闘結果を元に米国がベトナム戦争に介入したという説もあるが、これについては正式に否定されている。
「最終問題の問8。1346年、世界で初めて人間と亜人が婚姻を結んだ。現在の国際亜人法にも名を残すこの夫婦の名前を答えよ」
「エルダー条約からしれっと100年以上かかってんのエグいよな」
「当時ってまだ亜人ってより獣人に近いんだっけ。だとしたら100年って短い気もするけど」
「
「そういう話じゃないと思うぞ。んでアズサは? アタシは間違えた」
「ふっふっふっ。当然間違えましたっ!」
「「「だと思った」」」
もはや驚きすらもしないツバサたち。
「んでマヤ、正解は?」
「ベンソン夫婦」
「正解。だから国際亜人法にある亜人と人間との結婚を規制する法律をベンソン法って言うんだよ」
「法律なくても子供は出来ないって結論出てる」
ベンソン法の内容を大まかに説明すると、人間と亜人が結婚するのは構わないが、子供を作るのは禁止するというもの。
これはベンソン夫婦に子供が出来なかったことに起因するが、近年の研究でそもそも遺伝子構造が全く異なるため、子供が出来る可能性はないと結論付けられた。
「でもツバサも言ってたじゃん、オーガなら可能性あるって」
「小数点以下で盗める」
「えーっと……アタシでも分からないネタだ」
「とあるゲームの攻略本に堂々と乗ってたガセネタだね。つまり説はあっても可能性はないってこと」
「……悲しいなぁ」
カクッと首を垂れるネネ。
なおネネの狙いは亜人だけで、普通の人間に興味はない。
「さて、小テストの答え合わせも終わったし……なにする?」
「「「予習」」」
「やーだー!」
真面目な3人に対し、アズサは相変わらず勉強をする気が無いのだった。
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