ポーション乱舞
第14話
初ダンジョンの翌日。
「……ん? え、マヤ?」
このままでは赤点確実なアズサが自室で勉強をしているとスマホが鳴り、名前を見てみると普段はグループチャットの文字上でしかやり取りしないマヤからだった。
「もしもし。マヤどうしたの?」
『たす……け……』
「!? だ、大丈夫!!?」
『から……だ……うごか……』
「体が動かない……?」
唐突な展開に一度は焦ったアズサだが、すぐに閃きこう返した。
「もしかして、筋肉痛で体が動かないからポーション欲しいっていうこと?」
『あじ……かえて……』
「あはは、それは無理な相談。ねえツバサ、マヤの家まで送ってもらえる?」
「仕方ないなぁ」
『……ツバサ?』
「うん、アズサに勉強を教えてたんだよ。このままだったら赤点確実だからね」
視線だけアズサに向けて苦笑いをするツバサ。
アズサとツバサは幼馴染で、この光景は小中と続いた恒例行事である。
「それじゃ準備できたら行くから、しばらく筋肉痛と仲良くしててね」
『うん……』
電話を切った後、マヤの消え入りそうな返事にアズサもツバサも笑ってしまう。
もちろん悪意などなく、むしろ2人の持つ保護欲をこれでもかと刺激したための笑いである。
そして準備を整え、ツバサがアズサを持ち空からマヤの家へ。
マヤの家はアズサたちとは4駅以上離れており、ツバサがいなければ1時間以上かかるのだが、空から向かえば半分以下の時間で着く。
「もうちょい厚着すればよかった……」
「この時期、道民はみんな憂鬱になるよね。そういえば今年の冬はどうするの? 冬眠申請出す?」
「たぶん出す」
亜人の中には冬眠する種族もいる。そういった種族は冬休みを1か月ほど延長する冬眠申請が行える。
一方スライムは冬眠する種族ではないのだが、寒さに弱いためアズサは例外的に申請を出すことにしている。
そして冬眠して遅れた分の勉強は放課後に加えて休日返上で追いかけることになるのだが、アズサは毎年ここで引っ掛かって勉強が遅れる。
「なんでみんな勉強あんなにスムーズに進むかなぁ……」
「冬眠前に予習してるからだよ。毎年言ってるじゃん」
「勉強やだぁー!」
アズサの情けない声が冬を目前にした空に響いた、そのころ。
「おう、マヤ」
「ネネ……どして……?」
「見舞いだよ。ほんと、予想通り過ぎて……ははっ」
ベッドから動けないマヤを見て、堪えながら笑うネネ。
マヤは恥ずかしさから布団で顔を隠した。
「しっかしまー相変わらず、節操のない部屋だなぁ」
マヤの部屋は壁の一方がパソコンやオタク趣味全開で、もう一方は将来の夢のためにメイク関連の専門書や道具などが並ぶ。
「スポーツドリンク持ってきたけど、もうあるな」
「アズサ、ツバサも、来る」
「マジか。そっちは予想外だわ。軽く顔だけ見たらさっさと帰るつもりだったけど、あの2人が来るならのんびりさせてもらうわ」
上着を脱いで自分の部屋のようにくつろぐネネ。
その音を合図に、ようやく布団から顔を出すマヤだが、目の前にネネの顔が。
「!!?」
「ぷっ、ハッハッハッ! 引っ掛かった引っ掛かった!」
子供のようにはしゃぐネネは、マヤの顔が真っ赤になっていることには気づかなかった。
それから数分。
「マヤー来たよー……って不良に部屋を占拠されてる!」
「誰が不良だ! 元不良だ!」
「不良だったのは認めるんだね。それで、その元不良はなんでここに?」
「どうせこうなってんだろうと思ったから見舞いに来たんだよ。車から降りる時もう腕に力入ってなかったからな」
よく気付くなと感心するアズサとツバサ。
「それじゃマヤ、さっそく飲む?」
「あじ……」
「マヤ、諦めも必要だよ」
ゆっくり反対側を向いて布団をかぶるマヤ。
一方アズサたち3人は目配せ。
そしてネネとツバサで布団を剥ぎ、すかさずアズサが指をマヤの口に直接突っ込みポーションを流し込んだ!
「んー! んーーー!! ん…………ん?」
「ん?」
「んん、んーんん」
「んー、わからん」
「「それはそう」」
最初は抵抗したマヤだが、すぐに落ち着いて何か言いたげに。
一旦指を引き抜いて、話を聞く。
「味、問題なし」
「改変はしてないよ?」
「アズサ、もしかして胃に直接流し込んだ?」
「胃じゃないけど、誤飲しないように食道に流し込んだ。……あ、舌で味を感じなかったからか」
「だろうね」
全員納得。
そして起き上がろうとしたマヤの腕をネネが引っ張り、マヤはベッドに座る形に。
「体調は?」
「まだ痛いけど、だいぶ楽になった」
「即効性やべーな」
「ダンジョン産のもすぐ効くから、たぶん同じ」
ダンジョン内では何度か飲んで効果を実証したが、これでダンジョン外でもアズサが作ればその効果が出ると実証された。
ようやく胸をなでおろすアズサと、なおも「味は変えて」と訴えるマヤ。
だがその願いが叶うのは当分先である。
「予定では今週末にもリベンジだったけど、マヤ次第では11月にずらしてもいいかもね」
「待て待て、11月入ったら期末試験でそれどころじゃねーぞ」
「冬休みは?」
「わたしが動けなくなる。さっきツバサとも話してたんだけど、冬眠申請出すから」
となるとマヤに早く元気になってもらうほかない。
次の瞬間、棚の上で大人しくしていたシロとクロがマヤの腕を抑えで身動きを封じアズサに目線で訴え、マヤは「う、うらぎりものー!」と叫ぶのだった。
3人はそのままマヤの部屋に入り浸り、なぜかそのまま勉強会になり、なぜかアズサに勉強を教える会になっていた。
「おい、これ中2で覚える範囲だぞ……」
「どうやって入学できたのか、疑問」
「アズサは一夜漬けして、翌日全部忘れるタイプなんだよ。ちなみに試験勉強もしないタイプ」
「「ダメじゃん!」」
ネネとマヤにツッコミを食らい、目線を外すアズサ。
と、そんなアズサの目にとあるアニメのフィギュアがが入った。
「前来た時これあったっけ?」
「最近増えた」
「やっぱり」
アズサが気になったのは、ツンツン白髪で両手にクナイを持ちファイティングポーズを決めている青年。
「クナイだから忍者?」
「うん。クナイを投げて、糸で操る」
「ふーん、糸で……」
彼の名は
だがその荒唐無稽な設定から、SNS等では『糸が絡むだろ』『絡ませないから天才なんだろ』という不毛なツッコミが日夜繰り広げられているらしい。
「そんなことよりアズサは勉強だよ。もしアズサが赤点取ったら教頭に間違いなく部活のこと言われるんだから」
「はーい」
その後はそれなりに真面目に勉強にいそしむアズサたちなのだった、
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