第12話

「うーん、これはまさしく解毒薬」

「で、味は?」

「原作を忠実に再現」

「ダメじゃん!」


 既に何度か試しているのだが、回復薬の味の変更が上手く行かない。

 おかげでアズサ以外、普通の舌を持つ3人はその味にやられてしまい、回復薬がダメージ薬に早変わりしている。

 と、そこでマヤが閃いた。


「そういえば、ゲームだったらゾンビにポーション投げてもダメージ入る」

「アンデッドだと効果が反転するやつだね。それで?」

「元々効果を反転させた薬が作れたら、アズサのメイン武器になる?」

「「あぁ~」」


 相変わらずそっち方面の知識が無いアズサは首をかしげている。


「要するに、ポーションの効果を反転させて毒薬を生成できないかってことだね」

「あーそういうこと。出来るよ」

「「「出来るの!?」」」


 余っている試験管に、実際に毒薬を注ぐアズサ。

 見た目はポーションと同じ緑色だが、ブクブクと泡立っていて、かつ強烈な刺激臭がしており、アズサ以外の3人は5メートル以上離れてなお鼻をつまんで口で息をしている。


「考え方が逆なんだよね。ポーションから毒薬を作るんじゃなくって、そもそもポーションの元になっているのがこの毒なんだよ」

「分かったからそれどっかにやって!」

「……飲む?」

「「「飲まない!!」」」


 3人のリアクションを堪能したアズサは、その試験管を近くを通りかかった大青虫に投げつけた。

 全身に毒薬を浴びた大青虫は、ギュルギュルと苦しそうな声を上げ絶命。

 そしてドロップするポーション。


「飲む?」

「飲まない! ったく、鼻の奥のニオイが取れないぜ……」

「アズサの武器にはなるけど、ボクたちの鼻にもダメージ来ちゃうね……」

「水分は消費されるから、どっちにしてもメイン武器としては厳しいと思うよ」

「インベントリがポーションと共有」

「いん……よく分からないけど、多分そういうこと」


 武器としては成立するが、敵味方関わらず鼻にダメージが行くのと、アズサの持つ水分を使う以上は打ち止めがある。

 この2点から、毒薬投擲攻撃は封印されることとなった。


 さらにしばらく進み、14本目のエーテルを飲みこんだアズサ。


「うん、多分エーテルも覚えた」


 さっそく試験管に青色のエーテルを注ぎ、マヤが一気飲み。


「……虚無の味」

「味はそのうちね。効果はどう?」

「なんとなく魔力回復した」

「なんとなくかぁ……」

「あ、ううん。成功」


 マヤが言い直した理由は分かっているので、笑顔で頷くアズサ。

 ワイトであるマヤは魔力の保有量も大きく、ただのエーテルでは割合的に回復量が少なく感じてしまい、なんとなくという言葉に繋がってしまったのだ。

 とはいえ少ないながらも魔力回復薬が無制限に作れるようになったのは大きい。


 ツバサの総合力、ネネの攻撃力、マヤの魔法、そしてアズサの不味い回復薬。

 魔物は難なく倒せる強さで、そのドロップアイテムはもう必要ない。

 これらが揃ったので、一行は一気にボスまで突き進むことに。

 体力のないマヤをネネとツバサで交互に背負いながらダンジョンを駆け抜ける。

 そんな一行の前に、エントランスで声を掛けてきたノームの男性が現れ、サッとネネの後ろに隠れるマヤ。


「おう、さっきの。まだまだ元気そうだな」

「はい。今日の目標を達成したので、このままボスを倒しに行きます」

「そうか。ところでボスの居場所は分かってるのか?」

「……道なりに来たんですけど」


 アズサの答えに意地悪そうに笑う男性。


「それだったら一生ボスにはたどり着けないぞ。

 スマホに【モグルール】は入れてあるか? それでマップを見てみろ」


 モグルールにはオートマッピング機能があるのだが、それによると一行のマッピングした範囲は東西に一直線で、かつこの先は既にマッピングしたことになっている。


「道が……え、なにこれ? どういう意味?」

「そういうことか。東西南北で世界がループしてるんだ。道理で歩いても歩いても公園なわけだよ」


 ツバサの答えに大きく頷く男性。


「さすがワイバーン、察しがいいな。ちなみにあそこに十字路があるだろ。あそこがこの階層の入口だ」

「わたしたちループして戻って来ちゃったってこと!? なんだよぉ~……」


 しなしなと膝を突くアズサたち。


「ハッハッハッ! まっ、いい勉強になったろ。

 ダンジョンには箱庭型とループ型があってな、モエレ沼ダンジョンは3階層ともループ型だ。

 特にこの階層は目印になる物がほとんど無いから、気づかなくても仕方ない」

「じゃあ札幌の他のダンジョンはどうなんですか?」

「石狩は混合だったかな。定山渓は行ったことないから知らんけど、それもモグルールに書いてあるはずだから、よく読んでみるといい」

「分かりました」


 徒労感に大きなため息をつくアズサたち。

 それを見て、男性はやる気を出させるつもりで話題を変更。


「ところで宝箱は見つけたか?」

「宝箱……? ツバサは見つけた?」

「見てないね。ネネとマヤ……も見つけてないって」


 話を振られて仲良く首を横に振る2人。

 宝箱と言ってもダンジョンごとにその姿は異なるが、大抵はダンボール箱サイズで装飾も施されているので見つけやすく、4人全員が見落とす可能性は低い。


「中身次第だけど、出た装備を売れば遠征費になるし、いっぱい見つければ小遣いにもなる。

 ただ鍵が掛かっていたり罠が仕掛けられている場合もあるから、開ける時は慎重にな。場合によっては別のパーティーに開けてもらうのも手だ」

「鍵はわたしが開けられるはず」

「あー、スライムはそういうの得意だものな。

 それと別のパーティーとかち合った場合はじゃんけんで決める」

「平和だ……」

「殴り合いをスマホで撮られて通報されたら決闘罪だからな」

「あ、ちゃんと罪になるんだ」


 銃刀法などの例外もあるが、基本的にダンジョン内でも国の法律はそのまま適用される。

 そして亜人ならではの法律もあるのだが、それはまた別の話。


「まあそんなところだな。ボス討伐頑張れよ」

「はい。あ、連絡先交換しませんか? 情報源は多いほうが助かるので」

「……かーちゃんに見られた時はかばってくれよ?」

「あはは、分かりました」


 冗談っぽく言う男性だが、内心はマジである。


「それじゃあ名刺を渡しておく。俺は土山つちやまコウキ。江別えべつの農協職員だよ」

「土山さんですね。よろしくお願いします」


 これで小鬼童おきどう先輩に続き、ノームの男性土山つちやまとも知り合いになったのだった。




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