第11話
先輩との遭遇からしばらく。
「うーん……行けるかも」
「おっ!」
当初の想定よりも多く、試験管を12本飲みこんだところでついにアズサから待望の言葉が出た。
まずはアズサが手のひらから手品のように試験管を取り出し、そこに指の先から緑色の液体を流し込む。
「たぶん、行ける」
「これで劇薬だったら笑えねーぞ」
「アズサをよく知る身として、それは無い」
断言したツバサが手を伸ばしてアズサ産のポーション(仮)を受け取り、自分の爪で腕に切り傷を作ってから一気飲み。
固唾を呑んで見守る一同。
すると切り傷がみるみる塞がっていき、血を拭き取れば痕が分からないほど完璧に元通り。
「成功。マヤの知るポーションと同じ」
「はぁ~良かった。ダンジョン産の薬って普通のとは全然違うんだもん」
マヤの言葉に、ようやくほっと胸をなでおろすアズサ。
これでアズサは名実ともに、自身の水分がある限りポーションを量産できる
「んで、何本くらい作れそうなんだ?」
「今回は100リットル持ってきてるから、それだけ作れるよ」
「100か。どれ、いよっ……?」
アズサの脇に手を入れヒョイと持ち上げ、首をかしげるネネ。
「スライムは種族特性で水の重量を軽く出来るから、わたしを直接持っても100キロはないよ。
それよりもマヤの目が怖いんだけど」
「あん? なんだ妬いてんのか?」
「違うし」
妬いている。
そんなマヤを軽々と持ち上げ、「これで満足だろ」と仕方なさげに言うネネだが、直後に「だからネネはモテない」という直球の一撃を食らい撃沈。
「ネネは乙女心が分かってないね」
「うんうん。ってそうなるとマヤの矢印の向く先がネネになっちゃうじゃん」
「あはは、さすがにそれはないか」
恋愛感情そのものが希薄故に気付かないアズサと、恋愛感情はあるが価値観がズレているため気付かないツバサ。
一方マヤは思わず赤面し、それを肝心のネネに見られてしまう。
……が、ネネも恋愛価値観が大幅にズレている娘なので気付かず仕舞い!
それはそれとしてダンジョン攻略は続く。
道中では大ウサギとスライムの他に、抱き枕ほどの青虫や赤い花の魔物にも出会ったが、どれもアイテムはドロップせず。
「おーい誰だー? ドロップ運ねーヤツはよぉー?」
「魔物からのドロップって
「最近のフィニッシャーは……ってアタシじゃん!」
そういった統計はないが、攻略者たちの感覚としてはそうであるらしい。
だがこれは、フィニッシャーが固定されがちなパーティー編成だからこその感覚であり、フィニッシャーを選ばない編成ではあまり聞かない話である。
ただし、明らかに幸運を背負っている種族というのもいたりする。有名なのはフルムーン(ウサギの亜人)やカーバンクルといった幻獣系。
逆にグールやレイスにワイトなどの不死系・死霊系は不運な種族だと言われているが、こちらについては種族のイメージからそう思われているだけである。
「アタシのせいにされちゃかなわねーから、ここからはツバサがフィニッシャー担当な」
「いいけど、これでドロップが多くなっても恨まないでよ?」
「恨みはしないけど
「泣くのかぁ」
ネネの泣く姿を想像する3人。
そんな3人の想像した『泣くネネ』は一様に失恋しての号泣で、思わず噴き出して笑ってしまい「マジで泣くぞ!?」とネネを憤怒させた。
さて実際その効果はと言うと?
「今度は解毒薬ドロップしたよ」
「よし、アタシは泣くことにした!」
偶然ではあるものの、ドロップ数はネネの時と比べ明らかに増えるのだった。
ちなみにダンジョン産の解毒薬は食中毒などには効かず、あくまでもダンジョン内の魔物が使う毒に対してのみの効果なので、値段はポーション以下となっている。
「解毒薬はどんな味?」
「どこかで飲んだことのある味なんだけど、なんだったかな……」
「美味しい? 不味い?」
「正直言って不味い。けど効きそうな感じはあるんだよ。
においは正露丸みたいな……ってそうだ! 正露丸だ!」
「「「あ~」」」
答えが分かったところで味が想像できてしまい、一様に文字通りの苦い顔をしてしまう3人。
「あと5本くらいで作れるようになるかな」
「味は変えてね」
「努力はするけど期待しないで」
さらに進むとマヤよりも大きい赤い甲虫、ホットビートルが出現。
ホットビートルは口から火を吹き、モエレ沼ダンジョン第1層で一番の防御力を持ち、ピンチの際には飛ぶこともある。
このうち火吹き攻撃は魔法攻撃に分類されるため、このホットビートルを倒すと魔力回復薬のエーテルがドロップすることがある。
「硬い敵ってことは」
「マヤの出番」
マヤは魔導書を両手で持ち、差し出すように構えて「虫はしばれるのが苦手」と一言、またもや無詠唱で【アイスショット】という氷の魔法で攻撃。
アイスショットは属性相性と種族相性の両方で有利。
おかげでまたもや一撃でホットビートルを撃破し、ついでに青色の薬もドロップ。
「ほんとマヤの魔法は当たればめちゃつよだよなー」
「相性を覚えてるから」
「火と水、風と土、光と闇。あと相手の種族によっても有利不利があるんだよね」
「あーそれな。前にウチの父親が石狩ダンジョンに行ってキレて帰ってきたって話したけど、あれも相性の話だったわ。
石狩ダンジョンの第4階層って幽霊が出るんだよ。マジもんじゃなくて魔物な。
んでその幽霊には魔法攻撃しか効かない。つまり物理特化のオーガは無力だったってオチ。
調子こいてソロで突っ込んだ報いだよ」
「そういう点でもボクたちみたいにパーティーを組むのって利点が大きいね」
みんなで頷きつつ、アズサは相変わらず瓶ごと薬を飲みこむ。
「……爽やかな酸味に、ほのかな甘み。これは青リンゴ味」
「マジ!?」
「次マヤ飲みたい!」
「ホットビートル狩りするぞー!」
「おー!」
ノリノリのネネとマヤを見送り、アズサは静かに「の、めっちゃ薄いやつ」と言葉を繋げ、隣に立つツバサを大笑いさせた。
なおその後。
「ダマしたな!」
「ダマされた!」
「最後まで話聞かなかったのが悪い」
「「うっ……」」
ホットビートルから
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