第10話
初戦を無事に終えて、勢いづくツバサとネネ。
一方アズサは何もしなかったことに罪悪感を覚え始めていた。
「えっと、次はわたしも……」
「アズサの出番はまだ先だよ。
「いや、でも……」
ツバサの説得にも納得いかないアズサ。
と、その口に唐突に棒付きのアメをねじ込むマヤ。
「アズサ、そのアメが溶けるまで行動禁止」
「スライムだから一瞬で溶かせるけど? って待った待ったそんなに出さなくていいから! 分かったから!」
ポケットから大量のアメを出すマヤに、アズサも根負け。
だが臨機応変なアズサは頭の回転も速かった。
「……あー、なんとなく理解。わたしは常備薬みたいなものだから、使われないのが一番いいんだ」
「今のマヤの行動から何がどうなったらその答えにたどり着くんだ?」
「アズサって昔からたまにこういうところがあるんだよね」
「はぁ? わっかんねー」
達観しているツバサに、首をかしげるネネ。
ちなみにネネはアズサとは違い、これでもそれなりに勉強が出来る。
少し進むと、とても見覚えのあるシルエットの魔物が現れた。
「アズサの親戚だよー」
「言うと思った」
相手はおなじみスライム。
この世界ではツノの無い半透明の水饅頭スタイルで、中央に小さなコアを持っているのはアズサたち亜人スライムと同じ。
だが原種に近いアズサたちとは違い、このスライムはテレビゲームの影響を大いに受けた、最弱の魔物である。
「同族意識ってあんの?」
「ないよ。あと部長としてここはマヤに任せるね」
「ん。おっけー」
マヤの武器である魔導書は持っているだけでも効果があるのだが、マヤは魔導書に描かれている魔法陣を利用して、かつ無詠唱で【ファイアボール】を放つ。
魔導書の弱点である発動ラグが無く、かつほぼノーモーションで放たれた火球は見事スライムを一撃で吹き飛ばした。
「だと思ったけど、アタシとやった時は手を抜いてたな」
「仕方ないよ。相手は友達だし、みんな見てたからね」
「それくらい分かってるよ。……ん? なんか落としたな」
アズサに諫められるネネが発見したのは、試験管に入っている緑色の液体。
ダンジョン攻略支援アプリ【モグルール】には魔物がドロップするアイテム一覧もあるため、この液体の正体もすぐに判明。
「へぇーこれがポーションなんだ。わたしがもらっちゃっていいよね?」
「それが今日の目標だからね」
「んじゃいただきまーす」
試験管ごと飲みこむアズサ。
そうして数秒、アズサからこんな感想が出てきた。
「キュウリのような青臭さの中にほんのりミントのような爽やかさと人参のような甘さがある。はっきり言って不味い」
「不味いのかよっ!」
ポーションは薬草を煎じた飲み薬という設定があるため、味は一切考慮されていないのだ。
「生成は出来そう?」
「うーん……思ってたのとかなり違うから、どうだろう。分からなくなった。
どっちみち分析するにも数が足りないから、あと10個は欲しい」
「10個か。しばらくはスライム狩りだね」
「見回すだけでも何匹かは見えるし……さっそく分かれて狩るか!」
「あ待って! 余裕を見せるのはまだ早いと思うから、分散行動はダメ」
こういう時は慎重派なアズサの指示に「だりーな」と呟きつつも従うネネ。
とはいえ容赦のない一撃で次々に狩って行くので、その進行速度は分かれて狩るのとそう変わらない。
そしてポーションがドロップするとアズサが試験管ごと丸のみ。
「これで5本目っと。うーん……うん、やっぱりあと5本は欲しい」
「ねえアズサ。味、変えてほしい」
「出来ると思うけど、効果が変わる可能性もあるから、今すぐは頷けないよ?」
「うん。出来たらでいい」
マヤのお願いに、アズサ含め3人とも内心頷く。
いくら即効性のある回復薬だとしても、不味い薬は飲みたくないのが道理なのだ。
「見える範囲ではスライムは狩り尽したっぽいね。空から確認するからちょっと待ってて」
周囲を見回した後、言うが早いか翼を広げて空に上がるツバサ。
「自分が格好いいの分かってる振舞い方」
「「あはは!」」
マヤの的を射た一言に思わず笑ってしまうアズサとネネ。
なおツバサにそんなつもりは毛頭なく、普段からこの調子なのだ。
「でも、だからこその【クイーン】なんだよね」
「これ以上なく納得した」
以前も説明したが、ツバサは数少ない副将級上位種族のワイバーンであると同時に、そのスタイルに性格なので学校中で有名で、ひそかに【クイーン】の二つ名で呼ばれている。
ちなみにこの二つ名はツバサ本人もとっくに知っているのだが、あえて知らないふりをしている。
ツバサが下りてきた。
「進めば出会えそうだったよ。あとあっちに行くと別の攻略者がいた」
「別の奴か。なあマヤ、ゲームだと混ざるのってマナー違反だけど、ダンジョンだとどうなんだ?」
「獲物の横取りしなければ大丈夫」
「わたしたちの場合、諸先輩からの情報収集も部活動の一環だね」
「……そっか、アタシら部活で来てるんだった」
「おいおい」
ネネに呆れつつ、まずは別の攻略者からの情報収集を選択した一行。
向かってみると小柄な体躯で額に小さな角が1本生えている若い女性が、ボクシングスタイルで大ウサギと戦闘していた。
救援要請が無いまま混ざるのは横取り行為と同じなため、4人は相手が気を散らさない程度に距離を開けて戦闘を見守る。
「あの角はゴブリンかな?」
「だろうね。うーん……手慣れたいい動きしてる」
ゴブリンは現代ダンジョンではスライムに次ぐ弱い魔物だが、亜人は原種に近いので武器に魔法も使えるオールラウンダーである。
欠点としては全体的な能力が人間程度なのと、男性でも160センチ程度の小柄な身長、そしていわゆる脳筋思考なところ。
女性はわざと大ウサギの攻撃を待ち、カウンターで攻めていく。
その隙の無い動きは低難易度のモエレ沼ダンジョンには似つかわしくない。
最後の一撃が決まり大ウサギが倒れると、女性はすぐさま4人に振り向き、少々警戒しながらこちらへ。
「ずっと見てたけどなんか用?」
「気が散ったならごめんなさい。わたしたち部活で来ていて、お話聞けないかなって思ったんです」
「部活? 高校生?」
「はい。西山口高です」
「おあっ!? 後輩じゃん!!」
まさかの展開に、女性の警戒心が一瞬で解かれた。
「え、っていうかダンジョン部って廃部になったんじゃなかった?」
「わたしたちが復活させました」
「マジかーやるなぁ! あ、私は【
「
彼女は昔からスポーツ、特に格闘技が好きで、ボクシング部に所属していた。
そのため当時のダンジョン攻略部と校長とのいざこざはあまり詳しくなく、ただ無理やり廃部にされたという話を知っている程度。
しかしそこでダンジョンというものに興味を抱いた彼女は、大学ではダンジョン部に所属し、今では立派なプロのダンジョン攻略者として活動している。
「切っ掛けってどこに落ちてるか分からないものですね」
「本当にね。ところでそっちはどうなの? なんでダンジョン部を復活させたの?」
「わたしスライムなんですけど、特異体質なんですよ。それが切っ掛けです」
こちらも事の顛末を説明。
「そっか。だったらお近づきの印に……はい、今持ってる分のポーションあげる」
「いいんですか? ありがとうございます!」
もらったポーションは4個。それらをアズサが飲み込み、数秒。
「……うん、やっぱりあと1個か2個欲しいな」
「だったら後は
「だね。小鬼童先輩、本当に助かりました」
「いいのいいの。あ、ちなみにこの階層では解毒薬と魔力回復薬のエーテルも手に入るから、後々を考えたら今のうちに狙ったほうがいいよ」
「分かりました」
最後に連絡先を交換し、小鬼童アコと別れ先へと進む4人だった。
※ 次回から月水金更新になります。次回更新は1/22日です。
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