初ダンジョン!
第9話
服装の浮き具合に一抹の不安を抱えながら、エントランスルームへと進む4人。
モエレ沼ダンジョンのエントランスルームは市立病院の待合室のような造り。
ここで受付をして、職員が【帰還の腕輪】の起動を確認すれば、ダンジョン攻略開始となる。
またアイテム店も併設されており、ダンジョン用の回復薬もここで購入できる。
「えーっと、初ダンジョンなんですけど」
「ではこちらに氏名の記入と、身分証明の出来るものの提示をお願いします」
「学生証でもいいんですよね?」
「はい」
書類に4人の名前を書き、学生証を提示し受付完了。
ちなみに役所で申請してライセンスカードを発行すれば、以降はカードの提示だけで済む。
次に帰還の腕輪の確認だが、アズサとネネは初ダンジョンで登録に時間がかかるため、4人はイスに座ってしばらく待機。
その間マヤはキョロキョロと落ち着かない様子。
「マヤどうしたの? 緊張してる?」
「ううん。周りの服見てる。マヤたち浮いてると思ってたけど、意外とそうじゃないっぽい」
アズサたちも改めて周りを確認すれば、浮いてるというほどではないと気づく。
それどころかしっかり甲冑を着込んだ男性や、エプロン姿の主婦、どう見てもコスプレにしか思えないゴスロリ集団まで。
そんな感じで周りを見ていると、30代前後のコワモテ男性と目が合ってしまい、固まるマヤ。
「なんか用か?」
「おっとアタシの連れが悪いね」
ネネが即インターセプトし座席を変更、マヤをツバサとネネで挟む。
男性も喧嘩腰というわけではないので、それ以上の接触は無し。と思わせておいて4人の前のイスに座り、こちらに振り向く。
「見ない顔だな。学生か?」
「悪いか?」
「いいや。俺だって最初にダンジョン潜ったのは高校の時だからな。
これも何かの縁だ、質問あれば答えてやるぞ」
「……なんでまた?」
「顔は怖くても心は優しくありたいんだよ。実際、そこまで怖がられちゃ申し訳なくなってくるし」
「そういうことか。ちなみに言っておくけど、こいつは男性恐怖症だ」
「あっ、本当にごめん」
震えるマヤに頭を下げ、少し位置を変えてマヤから距離を取る男性。
コワモテの男性は、札幌の東隣にある
ノームは土の精霊とも呼ばれ、そのため彼の装備は農家のおっちゃんそのもの。
ダンジョンへは日々のストレス発散で来ており、モエレ沼ダンジョンはソロ攻略達成済みの、中~上級者である。
「服装見てた? あーそういうことか。
真面目な格好してるのはダンジョン攻略で稼いでる奴らだ。性能だとか効率だとかで選んでるから見た目度外視なんだよ」
「じゃあわたしたちみたいなのも問題ないんですね」
「問題ないっつーか、たまたま今ここにいないって感じだな」
ほっと胸をなでおろす一同。
「ところで君、もしかしてスライムか?」
「はい、そうです」
「北海道にもいるとは聞いていたけど、本当にいるんだな」
「札幌でも20人くらいですからね」
スライムは暑さ寒さに弱い。
つまり北海道の気候はスライムにとっては最悪とも言えるので、その数は北海道全体で50人ほどしかいない。
そのためスライムの掃除屋自体は知っていても、実際にスライムを見たことのある道民はそう多くはないのだ。
そんな話をしていると出発時間が来た。
礼儀正しく男性に挨拶をした4人に、男性は「ミノタウロスには注意しろ」とアドバイスをして手を振り見送ってくれた。
4人が向かった転送部屋は、床に直径5メートルほどの魔法陣が描かれただけの無機質な小部屋で、壁にあるタッチパネルを操作して転送する。
『10秒後に転送を開始します。魔法陣の中に立ち、動かないようにお願いします』
アナウンスにわずかな緊張と興奮を覚えつつ、モエレ沼ダンジョン第1階層に転送される4人だった。
「ここがダンジョンの中? めっちゃいい天気なんだけど」
「お散歩日和だね」
「正しくは、ダンジョンコアが作り出す異空間の中。だから空も海も山もある」
「さすがマヤ、詳しいな」
到着した先は、一見してダンジョン内とは思えない、空と芝生と木立のある平和な公園。
地上と違うところと言えば、地平線まで果てしなく公園であることと、魔物が徘徊していること。そしてその魔物をエプロン姿のエルフのお姉さんが容赦なく包丁でめった刺しにしていること。
「な、なんかあったのかな……」
「触らない触らない。ボクたちは道なりに、あっちに行ってみよう」
スタート地点から四方へと延びる石畳の道。
その先は公園。どこまで行っても公園。
「……ダンジョンって、精神攻撃してくるタイプの人?」
「物理攻撃もしてくる。魔物こっちに来るよ」
「おぉ!? えっウサギ??」
ダンジョン攻略部、最初の敵は大ウサギ。
人の腰ほどまである文字通り大きなウサギだが、かの有名な首狩りウサギとは違い体当たり攻撃しかしてこない。その体当たり攻撃もウサギとは思えないほど鈍重な動きなので簡単に回避が出来る。
ある意味で普通のウサギよりも弱い大ウサギであるが、人生初戦闘のアズサは軽くパニック状態。
「わ、わたしどうしたらいい!?」
「立ってるだけでいいよ。ネネ、ボクが引き付けるから一撃でよろしく」
「任せな!」
まずはツバサが大ウサギのターゲットになり視線を誘導。
「可愛いウサギちゃん、こっちだよー」
「ブー!」
鼻を鳴らしツバサに釣られる大ウサギ。
次の瞬間、ネネの鉄骨バットが大ウサギの尻にジャストミート!
アッパースイングだったのも手伝い大ウサギは自身でも出来ないほどの大跳躍を見せ、頭から地面に突き刺さって倒れた。
「っしゃー! 一撃ぃ!」
「さすがはリミッターの外れたオーガの本気。5メートルくらいは飛んだね。
さてアズサ、感想をどうぞ」
「え……ウサギの毛、温かそう……?」
絶妙に芯を外した感想に、思わず笑ってしまう3人。
一方、倒した大ウサギは溶けるように地面に沈んで消えるのだった。
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