第8話

 週末。

 今日は予定通り、4人でダンジョン用の服を見繕いに街に出ている。

 ちなみに札幌市民が『街に出る』と言った場合、札幌駅から大通公園、狸小路、すすきのまでの中心街に行くことを示している。


「へーこんな街のど真ん中にあるんだ」

「しかも札幌本店。品揃えは道内一だよ」

「つべこべ言ってねーで入ろうぜー」

「はいろー」


 アズサはネネに、ツバサはマヤに押されて店内へ。


 4人がやって来たのは、ダンジョン専門店【イスカンダル倶楽部】札幌本店。

 イスカンダル倶楽部は北海道と東北地方を中心に展開しており、総店舗数は80を超える。

 店名のイスカンダルはアレキサンダー大王のラテン語読みで、倶楽部なのはトランプのクラブのキングが彼をモデルとしているという話から来ており、お店のトレードマークにもクラブのマークが使われている。

 のだが――。


「それにしても、お店の名前ちょっとアレだよね」

「ちゃんとした由来はあるらしいけど、倶楽部だからね」


 一見してにしか思えない店名は、社内でも賛否両論なのだとか。


 それはそれとして商品を見ていく4人。

 真っ先に向かったのは、お目当てのダンジョン服フロア。


「見た目はマジで普通の服と変わらないね。

 Tシャツポロシャツ、ボトムにスカート。ダウンジャケットなんてのもあるんだ」

「説明あったよ。えーっと、特殊な素材を使っているから頑丈で、自動修復の魔法陣が刻まれているから魔力を与えれば修復するらしい」


 厳密には糸は蜘蛛の魔物、綿は羊の魔物、羽毛は鳥の魔物といったように、ダンジョン産の魔物由来の素材のみという注釈が付く。

 そのため昔は10倍以上の値段だったのだが、技術の進歩により今では普通の洋服より少し高い程度で買えるようになった。


「なーこれ、追加効果で魔力上昇だってよ。マヤにいいんじゃね?」

「でもダサい」

「ないね」

「ないない」

「性能の話だっつーの! つーかそんな言うんならお前らはどれ選ぶんだよ?」


 売り言葉に買い言葉。

 それでもわいわいと楽しげに、それぞれがモデルになって服の選び合いを開始。

 まずはアズサ。


「スライムあるある。何故かみんな水色のワンピースを着させたがる」

「「「うっ……」」」


 あまりの直球に3人揃って目を逸らすが、これは偶然ではない。

 テレビがカラー化したころ、『水色のあなたへ』という画家を題材にした恋愛ドラマが大ブームになり、スライムの女性=水色ワンピースというイメージが深く刻まれた結果が、世代を超えてなお影響しているのだ。


「それで、アズサが自分で選んだのはそれ?」


 アズサは上は明るいモノトーンで揃え、ワンポイントに黄色いショートサイズのネクタイ。下は水色に白でひし形ラインの入ったダブルのスカート。


「とりあえず動きやすいほうがいいかなって」

「アズサ、素材は悪くない」

「……遠回しにマヤにディスられてる?」

「ううん! 違って、似合ってるって意味!」


 大焦りのマヤ。

 アズサは目線で2人にも意見を伺うが、2人の興味は既に次に移っている。


「わたし自身気に入ってるし、マヤを信用してこれで決めちゃおうかな」

「うん。ただ上着の丈がもう少しあったほうが、スカートが映えるかも」

「そういうアドバイス助かるー」


 これでアズサの服選びは終わり。

 次にツバサの服を選ぶ4人だが、有翼種族かつ太い尻尾もあるため、選択範囲は思った以上に狭い。


「普段あんま意識してねーけど、有翼種族ってめっちゃ割り食ってんだな」

「左利きと同じくらいって言うよね」

「しかもツバサは尻尾もある」

「型紙が専用になるから値段も高いんだよ」


 背中に翼を持って太い尻尾を備えている亜人は、全体の約1%と言われている。

 なのでツバサは服を自分で改造するようになり、おかげで裁縫が上達した。


「……うん、ツバサの服はツバサが選んだほうがいいね。わたしたちじゃ感覚が分からないもん」

「そうなると思った」


 優しく笑うツバサ。

 そんなツバサが選んだのは、ベージュのセーターに白いコート、黒いホットパンツに同じく黒いスパッツ。

 翼を通せるように背中にセーターはボタン、コートはファスナーが付いている。

 ホットパンツとスパッツはツバサが自分で改造する予定。


「スタイルがいいからどれ着ても似合うのは分かった」

「なんかマジで欠点ないよな、ツバサって」

「名付けてワイルドワイバーン」

「モデル立ちしちゃおうっかなー♪」

「「「チッ」」」

「えぇ~」


 褒められて調子に乗り、直後3人から一斉に舌打ちを食らうツバサだった。

 次、ネネ。


「赤い特攻服あったよ」

「おい」


 まずはアズサが定番のボケをかましてから本番の服選びへ。

 しかし3人ともがどうしてもそちら側に引っ張られ、ツナギを選んではネネに追い返される。

 それでもどうにか絞り出した服からネネが選んだのは、マヤセレクトの服装。

 黒チューブトップに赤いパイロットジャケット、黒革のタイトなボトムに白ベルト、そして首に刺付きのチョーク。


「ベース型金棒付きで考えてみた」

「あー、ロックスター風ってことね」

「動きやすいしアタシらしい色合いだしで、さすがマヤって感じだな」

「えへへ」


 ネネに褒められてマヤ照れ笑い。

 そして最後にそのマヤ。


「めっちゃ魔女にするか全く関係ないのにするか迷う……」

「マヤも何を着ても似合うタイプだからね」

「方向性が違うけどな。ツバサは格好いい方面でマヤは可愛い方面だ」

「「分かる」」


 そんな話し合いの結果、マヤに関しては3人それぞれが選ぶのではなく、3人で協力してセレクトすることに。


「シロ、クロ。これとこれ、どっちがいいと思う?」


 さらにはマヤのお供のシロとクロも参加し、合計5人でデザインを詰める。

 そうして出来上がったマヤの戦闘服姿は、ストリート系で決定。

 お供の名前から取った白と黒のキャップ、紫のフード付きパーカー、黒いスカートに長さが非対称の柄タイツ。そこに標準装備のメガネである。


「わたしたちの中で一番決まってるんじゃない?」

「同感。フーセンガム膨らませてほしいよね」

「「めっちゃ分かる!」」


 ツバサの感想にアズサとネネも共感したところで、マヤも「満足」とつぶやき笑顔が止まらないのだった。




 一週間後、モエレ沼公園ダンジョン入り口前。


「……改めてわたしたち見たらさ」

「言うなアズサ!」

「言いたいことは分かるよ」

「サンダルで登山」

「的確ぅ!」


 いざダンジョン前まで来て他の攻略者の服装を見て、冷静になる4人。

 他の攻略者の服装は実用性重視でファッション的要素はほぼ無い。

 一方自分たちの服装は遊びに行く格好そのもの。

 それこそマヤの言うように、サンダルで登山するようなものとしか思えないのだ。


「はっはっはっ。これも勉強だよ諸君。

 それじゃあ私は適当に時間を潰すから、せいぜい大けがをしないように頑張りたまえ」

「のんきだなーもりもっち」

「本当にのんきだったらここまで見送りには来ないよ。

 よーしそれじゃあ【西山口高校ダンジョン攻略部】、いくぞー」

「「「おー!」」」


 こうして一抹の不安を抱えながら、ダンジョン攻略部の初めての活動が始まった。




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