第6話
新生【ダンジョン攻略部】始動から数日。
「なあ、部室に物は揃ってきたけど、アタシら活動っていう活動何もしてなくね?」
ネネの言葉に、愕然とする3人。
「もりもっちにキレられても知らねーぞ……」
「それはマズいね。怒ったら泣くって聞くし」
「「「マジ!?」」」
ツバサのせいで森本先生の知られたくない一面が3人に拡散されたのだった。
「とりあえず、ダンジョン攻略に必要な情報を集める?」
「それが一番だね」
「マヤはPCで調べる」
ということでそれぞれで情報を集めて行く。
「ボクたちが最初に向かうのはモエレ沼ダンジョンでいいんだよね?」
「うん。まずはわたしがポーション生成できるようになりたいから」
モエレ沼ダンジョンについて。
まず名前にもなっているモエレ沼とは、札幌市の北東の端にあるU字型の三日月湖で、石狩川と豊平川から切り離された
U字の内側はモエレ沼公園になっており、南西に隣接する場所にはサッポロさとらんどという農業体験施設がある。また札幌駅からバス1本で来られる交通の便の良さも特徴。
ダンジョンはモエレ沼の南に入り口があり、階層数は4つ。
難易度は一番簡単な星1。
前出の利便性と難易度の低さも相まって、本格的なダンジョンというよりは亜人専用の運動場という感じの扱いを受けている。
「ツバサも行ったことがあるんだっけ?」
「うん。あとマヤも経験者だよね」
「……マヤはいきなり
「うわっ。それはダンジョン嫌いになっても仕方ないよ」
ちなみに南区は、200万人近くの人口を抱える札幌市の『平均』をぶっ壊す存在で、同市で一番小さな
ダンジョンは定山渓温泉のさらに奥、定山渓ダムへの道の途中にあり、難易度は最高の星5。階層数も26とかなり多い。
他の星5ダンジョンとの最大の違いは、ダンジョン専門店が地元の温泉宿と提携しているため、攻略者は割引価格で宿泊できること。
つまり攻略者は『温泉宿に泊まりながらダンジョン攻略』という贅沢を、お財布に無理をさせずに出来るのだ。
「星5はともかく、温泉は魅力だなぁ」
「わたしは温泉よりも星5のほうが重要だけど……。あと札幌周辺でわたしたちが行けそうなのは、石狩ダンジョンだね」
石狩市は札幌の北隣にある衛星都市のひとつで、石狩湾新港という工業港を備えており、意外にも海に面していない札幌市の工業とエネルギーを支えている。
この石狩湾新港の工業団地と海岸との間には防風林があり、その防風林の中に石狩ダンジョンがある。
階層数は13、難易度は星3と平均的だが、出現する魔物に大きな偏りがあり、かつ工業団地のど真ん中なため人気はあまりない。
ちなみにダンジョンの近くには、あえてルビは振らないが『花畔』という、読めそうで読めない難読地名がある。
「石狩ダンジョンはウチの父親が入ったことあるって言ってたな。途中で負けて帰って二度と行かないってキレてたわ」
「ソロだったの?」
「……すまん、帰ったら詳しく聞いておく」
「ボクもお母さんに細かく聞き取りしないと」
「つまりわたしたちに一番足りないのは【自覚】だね」
「「「うっ……」」」
アズサの鋭い言葉の刃に串刺しになる3人。
と、マヤがPCで何かを見つけ自分のスマホを操作。
数分後、他の3人にスマホを見せた。
「今ダンジョン行くなら、このアプリ入れたほうがいいって」
「【モグルール】? アイコンから既に怪しさが漂ってるんだけど」
「詐欺アプリじゃねーの?」
「アプリ製作者、日本国防衛省」
「ガチのやつじゃん……」
各々で再確認するも問題は無く、今では必須アプリでいの一番に名前の出る物であるため、3人も安心して導入。
この【モグルール】はダンジョン攻略支援アプリで、ダンジョン情報の検索からオートマッピング機能にカメラ認識での魔物検索機能、果ては音声認識での魔法陣の表示機能まである。
またこのアプリからも分かるように、大抵の国でダンジョンの管轄は軍やそれに該当する組織が担っている。
「現代の魔導書だこれ」
「充電切れたらスマホは使えない。だからマヤは現物派」
「現代の女子高生は現実的だねー」
「あんたも現代の女子高生でしょうが」
アズサのボケにツバサのツッコミが炸裂。
そんなやり取りを気にせずアプリをチェックしていたネネが、あることに気付く。
「……これ、登録してる人にアタシらの入退場記録が通知できるんだな」
「見守り機能ってこと? 子供じゃないんだから……」
「アタシらはまだ子供だ」
「通知が来なくて親が心配する光景が目に浮かぶでしょ?」
「あー、そう言われたら納得」
「泣く親父お袋は見たくない」
親子の仲があまり良くないアズサとマヤでも、相手を不安にさせるのは違うと理解している。
なので全会一致でそれぞれの親と、部長であるアズサはさらに森本先生の連絡先も登録することに。
丁度そこに本人も登場。
「もりもっち、わたしたちの入退場通知行くようにしたから」
「ん? ああ、私もそれを言いに来たんだよ。おかげで用事がなくなった」
そう言うと、森本先生は部室に置いてある自分のマグカップにポットのお湯を注いでコーヒーを飲み始める。
「顧問による部室の私物化が深刻」
「大目に見てやれって。第3職員室のメンツ見てみろよ。泉先生はともかく、他はお
そりゃここのほうがよっぽど居心地いいだろよ」
マヤのツッコミに自分の代わりに返すネネに、森本先生も笑ってしまう。
「おかげさまでね。とはいえ顧問の仕事もしないとな。
水月、そろそろ活動計画立てろ。じゃないと冬休みが明けたら部室が消えてるぞ」
「あ、教頭に目つけられた?」
「バッチリな。だからお前らは部の価値を示す必要があるんだよ」
本校の教頭を一言で表せば、絶対に校長になれないジジイ。
そんな人物に目をつけられるのは面倒以外の何物でもないので、急きょ今月分の予定を組むことになった。
「っていうことで、今週末に初めてのダンジョン攻略!」
「いや待て! さすがにいきなり過ぎねーか!?」
「これこそがみんな覚えておくべきアズサの悪い部分。切り替えが早すぎて周りが付いていけないんだよ」
「猪突猛進の反動で自滅するタイプ」
「そうそう、まさにそんな感じ」
「さすが
言われたい放題のアズサ。
しかし本人もそこは自覚しているため、反論できない。
「じゃ、じゃあ来週の週末にしよう。それまでは……練習?」
「練習が一番必要なのはアズサだよ。ボクはシャドーボクシングで済むし」
「アタシはハンマー素振りできるし」
「マヤも魔法の試し打ちできる環境あるし」
次の人に視線を持って行き上手く繋げる3人。
「そもそもアズサ、武器はどうするの?
いくら
「ダンジョン攻略してる他のスライムの話を調べた限りだけど、後ろから水鉄砲が基本みたいだから、わたしも多分そうする。
ただスライムってさ、体を自由に変形できるから刃みたいにも出来るんだよね。威力は弱いけど」
実際に腕を剣のように変形させて振るアズサだが、その振りはお世辞にも才能があるとは言えない稚拙なもの。
「アズサに近接は無理だ。つかアタシとツバサの邪魔になるのがオチだ」
「アハハ……うん、分かった」
ネネの容赦のない本音に、アズサも素直に近接攻撃を諦める。
と、意見がまとまったと見て森本先生が手を叩いた。
「それじゃあ部長、改めて直近の活動計画よろしく」
「うん。えー来週の週末に初めてのダンジョン攻略で、それまでは練習。
初ダンジョンの目標は、第1階層クリアが理想だけど、まずはダンジョンを実践で学ぶのが一番。
で、その最中にわたしがポーションを生成できるようになると嬉しい。
以上!」
「大雑把だけど、まずはいいだろう。あとはその計画をファイルに記入すること。
そのファイルは後輩たちにとっての攻略本だ。手を抜くなよ」
「「「「はーい」」」」
4人の返事に満足し、森本先生は少しだけ残っていた冷めたコーヒーを一気飲みするのだった。
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