第3話
【伝説の学祭】を堪能したアズサたちは今、一転して腹を抱えて笑い転げていた。
「わ、わたし生徒会長の話が一番好き!」
中二の冬、引退する生徒会長に告白するため生徒会室に乗り込んだネネは、ドアを開け生徒会長と目が合った瞬間「ごめん無理!」とフラれた。0.5秒の恋だった。
「ボクは遠隔失恋! そんなことある?って!」
中三の夏、二年の男子に告白したところ「それ多分双子の弟です。あと弟彼女います」と告げられ、本人の知らぬ間に失恋した。
「マヤは宇宙規模の失恋! 絶対イヤだったんだなって!」
中三の春、ヤンチャ仲間に告白したところ「ごめんオレ宇宙飛行士になるのに明日からNASAに行くんだ」と宇宙規模のフラれ方をした。
結論から言おう。
大賀ネネは恋に恋する恋多き女なのである!
とはいえそれ自体はよくある話。
ネネが違うのはその量と報われなさ、そしてフラれ方。。
ほぼ月1で恋をして、その全てにフラれ続け、しかもフラれ方が面白すぎるのだ。
「わ、笑うんじゃねーよ! こっちは真剣なんだよ!」
耐えられなくなり立ち上がったネネに、ようやくアズサたちも笑いを止める。
「あ~笑った。そっかーネネの弱点はそこかー」
「気持ちは分かるよ。可能性として一番あるのはオーガだって言われてるし、オーガ自体がそういう傾向にあるって研究結果もあるからね」
「あ? ツバサ妙に詳しいな。つーか笑ってるそっちはどうなんだよ?」
「ボクも恋はするけど、ワイバーンの適齢期は遅いから焦りは全くないよ」
「じゃあアズサはどうなんだよ?」
「スライムは
「マヤは……しゃーねーか」
ネネの言葉にコクリと頷くマヤ。
マヤは普段はメガネで隠しているが、その素顔はお人形のように可愛らしい。
そのため小学生の時からモデルやアイドルにスカウトされることが多々あり、それらがきっかけで男性恐怖症なのだ。
なおアズサたちと仲良くなった理由も、上級生から言い寄られて恐怖で動けなくなっていたところをアズサとツバサが助けたから。
そして今は”男が逃げる”という理由でネネにくっ付いて離れない。
……が、それ以上の感情があることには、誰も気づいていない。
「じゃあ……そうだネネ、ダンジョンに出会いを求めるのはどう?」
「別の何かが始まりそうだぞ、それ」
「ネネ、それアズサには通じない」
「あーアズサはそういうの何も知らないんだっけか」
ネネとマヤはそっち方面の知識を持っているがアズサはゼロ。なのでこの会話にもアズサは首をかしげるのみ。
「まあいいや。けど確かにそっち方面の男は見てなかったから、ワンチャンありかもな」
「そもそもボクたちは本能的に強い異性に惹かれるって言うからね」
「……やっぱりツバサ妙に詳しくねーか?」
「気のせい気のせい。アハハー」
分かりやすすぎる作り笑いで誤魔化そうとするツバサだが、目の前にいるのは花の女子高生たち。
しかもツバサは種族・性格・プロポーションにボクっ
となればスッポンのように食いついて離さないのが道理。
「ツバサの恋愛事情はわたしも知らないなー?」
「アタシも言ったんだから離しはしないぜ?」
「等価交換! 等価交換!」
「クッ……」
逃げ場を失ったツバサは、恥じらう花のように頬を赤らめ、他には聞こえないように小声で「うちの、配送員」と一言。
これにはお兄さんに恋する乙女だとネネとマヤのテンションが一気に上がる!
だが一方アズサは感情を無くした瞳でツバサをただ見つめ、盛り上がりかけていた2人もそれに気づき、テンション一旦停止。
「なんか問題でもあんの?」
「竜崎運送の配送員、全員オッサン」
「「あっ……」」
「だっ、だから言いたくなかったんだよっ!」
これはツバサの趣味というよりもワイバーンという種族の性質が大きい。
ワイバーンは人間の3倍近い寿命を持つため適齢期に入るのが40歳以降と遅く、若い女性は必然的に年上好みになってしまうのだ。
これが先ほどの「焦りは全くない」という言葉の真相である。
「それで? ネネは結局どうするの?」
「あーまあ、付き合ってやってもいいかな。
アタシが家の手伝いやってんのはストレス発散目的だから、そいつをダンジョンに向ければいいわけだし。それに母ちゃんからも『お前は危なっかしいからストレスなら部活で発散しろ』なんて言われてるし」
これで2人目を確保できたと確信し、ようやくほっとするアズサ。
と、ここでマヤが一言。
「ついでに新しい男を見つける」
「言うなよ。つかマヤはどうすんだよ? アタシにくっ付きたいから、なんて理由じゃアタシが願い下げだ」
話を振ったつもりが振られ、3人の視線を集めるマヤ。
ついでにシロとクロの視線もマヤに行っている。
「マヤの目的は……お金?」
「おっとマヤのイメージから一番遠い答えが来たね」
「だね。それで、なんでお金?」
「化粧品とかメイク道具」
「「「あ~」」」
全員納得。
女子高生ともなればそれなりにお高い化粧品も使うようになるが、マヤの場合は将来の夢がメイクアップアーティストなので、化粧道具なども必然的に多くなる。
つまりマヤの目指す夢に一番必要なのがお金なのだ。
「でもダンジョンって稼げるの?」
「アタシに聞くなよ。それこそマヤが一番詳しいんじゃねーの?」
「1回潜っただけで車買った人もいる、らしい」
「めっちゃ稼げるじゃん!」
マヤの出した例は極端なものだが、ダンジョン内にはランダムに宝箱がポップし、難易度が高いダンジョンほどその中身も高額になるため、不可能な話ではない。
「なるほどね、それならばマヤの目的がお金だとしてもおかしくない」
「ってことでマヤも参加でいい?」
「……うん」
「ちょっと考えたね」
「ダンジョン嫌いなのはスパルタが嫌だったから。けどそれはスパルタが嫌だったからでダンジョンが嫌とは別だなって」
「哲学?」
「アズサ、もう少し頭使おう」
「ひどっ!」
ここで残念なお知らせ。アズサは赤点の常連なのだ。
「とにかく、これでダンジョン攻略部初期メンバー4人が決まったね。わたし申請書貰いに行ってくる」
嬉しそうに走っていくアズサを送り出し、直後に教頭の「廊下を走るな!!」という怒声にビクッとするツバサ達3人。
「……ところでよ、結局ツバサがダンジョンに行く理由は何なんだ?」
「決まってるでしょ。あの子を放っておけないからだよ」
「母親の目」
「だな」
「そういうのじゃないんだけどなぁ」
ため息交じりの苦笑いだが、それ自体が仕方がないと我が子を見守る母親そのものであるとは気づかないツバサだった。
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