第11話 波

遠い水平線の向こうから




この砂浜へと




幾つもの波が辿り着いては消えていった。




月の明るさも届かない圧倒的な闇の向こうに




水平線はどこまでもあって




波はそのまた向こうからやってくる。


ただ、この浜辺の砂の上に消えていくために。




頭の遥か上で

風が椰子の葉を鳴らしている。


心の窓を揺らすのは




風の音なのか


波の響きなのか




どちらにしても




それは僕らが生まれるよりずっと


ずっと前の



この星の鼓動に似た音楽なんだろう。


君と出会ったのはいくつ前の夏だったかな。


それとも、この夏のはじめだったかな。


とてもよく知っているようなのに




考えてみたら、僕は君の名前を知らない。




頬にかかる夜の風は




昼間の熱をまだ孕んでいる。


腕にふれる




君の指先だけが少しひんやりしてる。


このまま波の音に揺られて




歩いていこうか。


いつまでも覚めない夢のように。

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