第2話

「最初はただ、面白い人だなって思っただけなんだよね。ヤクザが親の人なんて普通全然関わらないじゃん?でも話したら全然悪い感じしないし、普通にいい人だから一緒に過ごしてた、ただそれだけ。タバコは吸ってみたけどおいしいと思えなかったよ。お酒もよくわかんない」


いじめの標的が松本君にシフトしてからは、小沢君は以前よりかはクラスの中に溶け込めるようになりました。


ある日勇気を振り絞って小沢君に話しかけてみたら、まるで無視されていた時期などなかったかのように、小沢君は私と普通に話をしてくれました。


私は小沢君のことが嫌いではなかったし、むしろ心を許して話せる数少ない生徒のひとりでしたから、それからは小沢君と日常的に過ごすようになりました。


私もそれなりに好奇心がありましたから、よく黒崎先輩たちについて小沢君から話を聞きました。


小沢君がしてくれたのは、バイクに乗せてもらって湖畔を一周したとか、事務所の日本刀を触らせてもらったとか、実は密かに極道に憧れを抱いていた私にとっては、なかなかに胸を躍らせられるものでした。(もちろん私自身は反社と関りをもったことはありません、念の為)


「もし黒崎先輩が戻ってきたら、また先輩と一緒に過ごしたいと思う?」


「ないかな。悪い人だとは思わないけど、ああいう人と関わると皆にどう思われるか分かったし」


***


3年生になり、受験が近づいてきました。


小沢君は、勉強を教えて欲しいと私に言いました。


小沢君は頭は悪くありませんがそれまで学校の勉強を全くやってこなかったので、テストの点数はほぼ0点に近いものでした。


小沢君の志望校は、私の志望校の2つ下の学校でしたが、今の小沢君の成績では間違いなく落とされるであろうと思われました。


私と小沢君は放課後、一緒に勉強をするようになりました。教えあうというよりは、私が先生役になり小沢君が分からないところを教えるようなスタイルでした。


私も自分の勉強をしなければいけませんから、こんなことしてて大丈夫かな、とはじめは思いましたが、人に勉強を教えるというのは自分にとっても非常に良い勉強になるのだ、ということをこの時知りました。


放課後の勉強の成果もあってか、私たちの成績は少しずつ伸びていき、なんとか2人とも志望校に合格することができました。


***


松本君はというと、斎藤君たちからイジメの標的にされてすぐに、不登校になり学校に姿を現すことはなくなりました。


イジメの主犯格だった松本君がいなくなったことで、小沢君はかなり学校生活を送りやすくなりました。(自分を含め元々ニュートラルだったクラスメイトは普通に話をしてくれるようになった)


松本君が消えてからは、私も小沢君も彼のことは会話に出さず、元々いなかったものとして扱うようになりました。



卒業式の日、不可解なことが起こりました。


朝学校へ登校すると、もう1年ほど学校に来ていなかった松本君の机の上に、一輪の彼岸花が置かれていました。


皆はなんとなく、斎藤君あたりがいたずらでやったんじゃないかなと思いましたが、校舎の中庭で血まみれになった松本君の遺体が発見されました。


その前日の夜、松本君は校舎の屋上から飛び降り自殺を犯したのでした。


彼岸花に添えられていた手紙の中には、斎藤君を含め自分をいじめていたメンバーの名前、そして彼らへの憎悪のメッセージが記されており、最後に


【皆のこと、絶対に許さないから】


と締められていました。














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