四章 静真和花
第17話
学校の昼休み。
俺は弁当箱を持って、用務員室の戸を開いた。
「待っていたぞ」
部屋の奥からハナコさんの声が聞こえる。
隣の席では、俺より少し早くに来たらしい凛音が、机の上で弁当箱を開けていた。
その隣に腰掛けようとして、ふと、疑問を抱く。
俺は――ここで何をすればいいんだっけ?
「いつまで突っ立っている。さっさと報告したらどうだ」
「あ、そう、ですね……」
そうだ、報告だ。
俺は神事会の一員として、ハナコさんから指示を受けていた。
「神痕の持ち主を、探すんですよね。……すみません、まだ見つかっていなくて」
祟りの原因となる神痕。その持ち主を探す任務に俺は就いていた。しかし、残念ながらまだ成果は出ていない。
申し訳ない気持ちと共に、報告すると……何故か、ハナコさんと凛音は目を見開いた。
「――来たか」
意味深に呟くハナコさんに、俺は首を傾げた。
「来たって、何がですか?」
「何でもない。こちらの話だ」
突き放すようにハナコさんが言う。
同時に、隣に座っていた凛音が徐に立ち上がり、ハナコさんの傍まで近づいた。
「ハナコさん。これは……失敗したということでしょうか」
「ああ。ハズレを引いたな。……焦る必要はない。予定通り二巡目に入るぞ」
二人の会話は殆ど聞こえてこなかったが、どうやら事態に変化があったらしい。
「悠弥、神痕の持ち主はもう探さなくていい。今日からは次のステップへ進んでもらう」
急に話が先へ進んだ。
「神痕の持ち主は、静真和花。天原高校の三年生、写真部の部長だ」
「静真って……凛音と同じ名字ですよね?」
「そうだ。静真和花は、凛音の姉だ」
ハナコさんの言葉を聞いて、俺は凛音の方を見る。
凛音は小さく頷いた。今まで知らなかったが、どうやら凛音には姉がいたらしい。
「それで、俺は何をしたらいいんですか?」
「なに、単純だ」
ハナコさんは不敵に笑んで答える。
「――静真和花と親密になれ」
◆
ハナコさんの指示は単純明快だった。
しかし、単純だからと言って、決して簡単ではない。
「親密になれと言われてもな……」
いきなり人の名前を伝えられて、仲良くなれと言われても……。
幸い、静真和花は写真部の部長らしい。それなら入部希望の後輩という立場で接触してみればどうだとハナコさんから助言を受け、俺は放課後、一人で写真部の部室を尋ねた。
緊張を押し殺し、俺は部室の扉をノックする。
「失礼します」
「はーい」
返事が聞こえた後、ガラリと部室の扉を開ける。
その部屋の壁面には様々な写真が飾られていた。外の風景を写したものもあれば、人物や小物を写したものもある。大小も様々あり、いつも俺たちが触れているような掌サイズの写真ばかりではなく、額縁に入れられたB4サイズの写真も――――。
――あれ?
この光景、何処かで見たような……。
「こんにちは。何か用かな?」
部屋の中心には、一人の女子生徒がいた。
静真和花だ。凛音と同じく整った目鼻立ちをしている。
「その……ここ、写真部ですよね? 実は俺、写真部に興味があるんですけど……」
「ほ、本当に!?」
椅子に座っていた和花さんが勢い良く立ち上がると、ガタン! と大きな音がした。どうやら膝をテーブルに打ってしまったらしい。
ハナコさんたちの話が真実なら、この少女が祟りの渦中であり、原因だ。
今のところ彼女が祟りの中心とは全く思えないが……いや、下手な疑いは持たない方がいいだろう。まずは彼女の人となりを知らなければ判断もできない。
「えっと、まずは自己紹介しようか」
膝の痛みが引いた後、和花さんが言った。
「初めまして。写真部部長の、静真和花です」
「御嵩悠弥です。よろしくお願いします」
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