第4話
夜の学校で二人の不審者と出会った、次の日。
「来たか」
待ち合わせ場所である駅前に到着すると、そこには既に先日出会った二人がいた。
赤髪の女性は昨晩と同じく背中に虎の刺繍が入ったスカジャンを羽織っている。その傍にいる少女は昨晩の巫女装束と違って、白を基調とした私服に身を包んでいた。
「そう言えば、まだ自己紹介は済んでいなかったな。私は
駅構内へ向かいながら、スカジャンの女性は言う。一瞬、トイレの花子さんを連想するが、すぐにそのイメージは消えた。赤髪にスカジャンという目立った容姿であるこの女性が、トイレの個室に籠るような陰気な妖怪とは思えない。
「
少女が礼儀正しくお辞儀した。
「同じ学校?」
「はい」
「……俺は、天原高校の生徒なんだが」
「知っていますが」
だから何だと言わんばかりに少女はこちらを見る。
しかし、彼女が俺と同じ高校の生徒である筈がない。だって――。
「……中学生だよな?」
「なっ!?」
驚く少女の隣で、ハナコさんが「ぶふっ」と吹き出した。
「こ、高校生、ですけど……」
「え?」
「高校生ですけどッ!!」
涙目になって少女は叫ぶ。
しまった。見た目の幼さから、中学生だと思っていたが……そうか、高校生だったのか。
「……私のことは凛音とお呼びください」
「あ、ああ。じゃあ俺のことも悠弥で」
「分かりました、御嵩先輩」
刺々しい声音で告げられる。出会って早々、不機嫌にさせてしまった。
取り敢えず、時間を置いてから改めて色々話してみよう。
「それで、これから何処に行って何をするんですか?」
「道すがら説明しよう」
階段を上ると改札口が見える。
切符を購入した俺は、改札口を通る瞬間、僅かに前へ進むのを躊躇した。
「今更、臆することはない」
先に改札の向こうに渡っていたハナコさんが告げる。
「知りたいんだろう? 自分の力の正体を」
「……ええ」
俺は意を決し、改札を通った。
自分の力の正体。それを知るために俺は今日、彼女たちと行動を共にしている。
本当は今日もバイトの予定だったが、今朝早くに同じ職場で働いている知人の家を訪れ、代理を務めてもらうことにした。
「この電車に乗るぞ」
ハナコさんと凛音に続き、俺は久々に電車に乗った。
「悠弥。神道は知っているか?」
窓の外で流れる風景を見る俺に、ハナコさんは言う。
「ええと……八百万の神とか、そういうのですよね」
「……まあ、高校生の知識ならそのくらいか」
ハナコさんが首を縦に振る。及第点は取れたらしい。
「神道とは、ありていに言えばこの国の宗教だ。古事記や日本書紀くらいは聞き覚えがあるだろう? あれらを原点にした文化と考えればいい。例えば神社なんかは、神道に基づき神を祀るために造られた建物だ。他にも、相撲も神道に含まれる」
「相撲、ですか?」
「ああ。あれはスポーツである以前に神事だ」
初耳だが納得する。相撲は、ただのスポーツにしては独特な所作が多い。塩をまいたり四股を踏んだりする動作は、パフォーマンスというより儀礼的なものを感じる。
「我々は普通に生活しているだけでも、思わぬところで神道と関わっていることが多い。しかし科学によって統治されている今の時代、神道は身近に感じられなくなってしまった。正直お前も、神道だの八百万の神だの言われてもピンと来ないだろう?」
「……まぁ」
「だが、神は実在する」
ハナコさんは改めて、はっきりと言った。
「神は、この世界に実在する。見ることも、言葉を交わすことも可能だし、その気になれば触れ合うことも可能だ」
ガラスに映る俺の表情は、目を丸くして驚いていた。
「神が実在すると、どうなると思う?」
「どうなるって言われても……なんか、漫画とかゲームみたいな世界になるんじゃ……」
答えると、それまで黙っていた凛音が「ぷっ」と馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「先輩、中二病ですか?」
「……今のは一般的な感性だろ」
中二みたいな体型しているくせに。
睨み合う俺と凛音を無視して、ハナコさんは説明を続けた。
「神と接するには礼儀作法が重要だ。神に祈ったり、伺いを立てたりする儀式のことを神事という。だが知っての通り、今の世において神は実在しないことになっている。神事を職掌とする人間――神職の者ですら、残念ながら半数以上がその認識だ。現存する神事の大半は形骸化しており、虚像の神に対するものとなっている」
つまり一般的な神事は、神に対してというより形式に拘ったものということか。
「要するに、神が実在すると、本物の神事も必要になるわけだ。……本物の神事は気休めではなく確かな効果を発揮する。厄払いをすれば本当に暫くの間、不幸な目に遭わなくなるし、豊作を祈願すれば作物の収穫量も目に見えて増える」
「……ファンタジーじゃないですか」
「そうだな、ファンタジーだ。お前の力と同じだ」
その言葉を聞いて俺は目を見開いた。
まさか、同じだというのか。
今、ハナコさんが話した神々のファンタジーと、俺の身の回りで起こる
「降りるぞ」
電車が目的の駅へ到着した。
「あれが今回の目的地、神社庁だ」
「神社庁?」
「簡単に言えば、各地に存在する神社を管理するための組織だ」
駅を出た後ハナコさんが指さしたのは、何の変哲もない、都会の街並みによくあるビルだった。高さはあまりない。ひとつの会社が所有する事務所のように見える。
「我々がこれから向かうのは、神社庁の中でも、本物の神事を担う組織――」
そのビルを背に、ハナコさんはこちらに振り返って告げる。
「その名を、
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