第14話 耳が弱い?

 「もっと……」

テツヤが言った。

「もっと、名前を呼んで。」

俺はテツヤの耳元に唇を寄せ、

「テツヤ、愛してるよ……」

と囁いた。

「あっ……」

本当に名前を囁かれるのが好きだな。

「もっと……」

「テツヤ……」

「あ……レイジ、レイジ……」

テツヤが俺の背中にしがみついた。可愛い。でも、その顔は美しく、艶めかしい。ずっと覚えていたい。会えない間もずっと。

 たくさん愛し合った。これでもう充分という事はないけれど、体力の続く限り頑張った。テツヤが浮気しないように、たくさん自分を刻み込んだつもりだ。もちろん、自分の気持ちも浮つかないように。大丈夫だ。ずっと修行僧のように我慢していた時代があったのだから(テツヤに抱き着かれて寝ながら、ずっと友達を装ってきたのだ)。


 ひとしきり愛し合った後、お風呂に入り、二人ともバスローブ姿になってソファに並んで座った。ルームサービスを頼み、食事が運ばれてくるのを待ちながら隣に座っているテツヤの髪を弄んでいると、ふと疑問が浮かんだ。テツヤはどうしてあんなに名前を呼ばれるのが好きなのか。耳が敏感なのかな、と。

「耳、感じるの?」

耳をいじってみても、それほど反応しないテツヤ。じゃ、試しに名前以外の言葉を囁いてみるか。

「や・き・に・く」

すると、ブルっと体を震わせるテツヤ。

「あれ?名前じゃなくてもいいの?」

「お前は声が良すぎるんだよ。」

テツヤがちょっと頬を膨らませて言った。

「テツヤ……」

また囁いてみると、テツヤはヘタッと俺に寄りかかった。あらら。こりゃ簡単だな。ん?つまり声の良いやつには要注意という事ではないか。また心配の種が……。

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