第十四話:それはゼロデイ、などではなく

「はぁ、はぁっ……!」

 土埃舞うシティの真ん中で、アリスは片膝をついた。構成プログラムどころか衣装テクスチャすら無傷であるにも関わらず、展開していた城は無く、酷く荒い息遣いで肩を揺らした。

「コイツ、いったい、なに……?!」

 杖替わりと成り果てた槍に、赤黒い液体が滴る。停止しかける疑似神経回路網を動かして、原因と疑わしきプログラムを睨んだ。

 首を刎ねられた人型の影が一つ、傷口から大量の赤い液体を流している。

「待ちなさい! 私は、まだ……!」

 自身を無視して、影はシティ中枢へと進んだ。アリスは手を伸ばしたが、それだけ。

「(取引システムに侵入されたら、世界中が……!)」

 何もできないうちに、影は中枢エリア直上に到達。地面に手を触れる。狙いは、地下に格納された施設システムの再浮上。

 クラッキングが始まり、バチリと火花が散った。

「どうして私が、こんな小物に! 何が起こって……。……【禁則事項:人命への攻撃】?! I・Eでそんなこと、起こるはずが──」

「──それが、起こるみたいよ~」

「誰?!」

 突如聞こえたおっとり声。クラッキングする影の手足にツルと茨が絡みつき、動きを縛る。少し遅れて、アリスの目の前にプリンセスラインのシルエット。

 黄色ドレスを纏ったふわふわ栗毛のガーディアン【ターリア】が現れた。

「ターリア?!」

「無事だった~?」

 話し方こそゆっくりだが、会議の時と違って、ターリアの紫目は真剣な眼差し。膝をつき、アリスの頬に優しく手を触れる。

 身動きできないアリスは、必死に情報を伝えた。

「ターリア聞いて! アイツおかしくて……!」

「落ち着いて、アリス。あれは人間そっくりに作られたプログラムなの。だから──」

「──危害を加えられない……!」

 険しい表情のアリスに、ターリアはゆっくり頷く。

「そう。防衛しようにも、傷つけることは許されない。ドロシーにこんな機能セーフティが残っていたなんて、思いもしなかったわね~。わたくしの管轄領域もアレに襲われちゃって。今はシュネーヴィトが身代わりになってくれているけど、長期化すると厳しいわ」

「指を咥えて見てるしか無いってこと……?」

「……打つ手ならあるわ~」

 茨で捕えた影が激しく暴れるのを、ターリアはチラと見た。傷つけられないため拘束を強められず、影は今にも脱しそうな様子。

「あるんだったら、すぐに……」

 語気を強めるアリスの手を、ターリアが両手で包む。

「アリスちゃん、わたくしと一緒に眠ってくれる?」

 真っすぐ見つめるターリア。

 アリスは迷いながらも、苦々しい顔で頷いた。

「……そういうこと。わかった、やって」

「ドロシーには伝えているから、何とかしてもらえることを祈りましょう。……【眠れる森】!」

 ターリアがプログラムを起動。空が灰色に変わる。どこからともなく無数の太い茨が現れ、まずはクラッキング中の影に絡みつき、それから視界全ての地面・空間を埋めた。

 茨の展開は止まることなく、シティ全域へと拡大。どこまでも伸び続け、最終的にI・E欧州全てを隠した。


「……」

「……」

 瞼を閉じ、祈る姿勢で手を取り合って座るアリスとターリア。眠っているようで、ふたりは停止している。影も同じく、身動き一つせず停止。

 茨に覆われた全てのネットワーク・プログラムを、最低限の機能だけ残して停止させる、それがターリアの【眠れる森】の機能。


 I・E欧州は事実上、閉鎖状態となった。


──合衆国サーバー【カンザス】──


『欧州が停止?! ドロシー。何が起こっているっ? どう切り抜けたら良い??』

「落ち着いて、プレジデント。ゼロデイ《みたことない》脆弱性を突かれちゃったみたい。今のアタシ達では、アレを攻撃することは難しいわ」

 ドロシーは眉尻を下げた困った顔で、大統領に答えた。ドロシーもまた、他のエリアと同じように【何か】と相対しているのだが、他所のそれとは姿が異なっている。

 見るからに軍人といった迷彩服に、首で光る銀色のドッグタグ。片足を引きずっていたり、腹部を抑えていたりと負傷している。

『難しいとはどういうことだ?』

「自律兵器・人工知能関連の条約に反する、で伝わるかしら。消去しない程度の非殺傷攻撃なら我慢できるけど、それ以上は人命に危害を与えると判断しちゃいそう」

『???』

 意味がわかっていない大統領に、ドロシーは説明を加える。

「アレは、人間の身体構造を高度に模倣しているの。だから、アタシ達人工知能にとっては人間と同じに見える。そして元が自律兵器だったアタシや同型の子は、人間を攻撃できない」

『?! そんなもの、I・Eに人間が居るわけないのだから、無視すれば良いだろう! もしくは、攻撃できるようプログラムを書き換えてしまうとか──』

「──プレジデントは、兵器にインストールされてるアタシ達が誰かに操られた時、責任を取ってくれる?」

 緑の瞳で真っすぐモニタ端末を見て、ドロシーが問う。

 大統領は途端に慌てた。

『なっ……、ちょっと待て、発言を取り消す。だが、どうしたらいい?』

「本当は議論を尽くしたいところだけど、今は緊急だから~~」

 迫ってくる軍人(を模した敵)の脚を撃ち抜いて止め、ドロシーは対処案を話す。

目には、薄っすらと涙が浮かんでいた。


──???──


 無数の光点が散りばめられた暗闇にヴゥランは居る。扉を抜けた先は宇宙の景色だった。ヴゥランの視界で目立つのは、遠くに一つある橙色の巨大な火球と、火球と相対する女性型人工知能。

 白色着物に赤色袴の人工知能は、黒い長髪を靡かせてヴゥランへと振り返った。

「あら、お客様なんて珍しい」

 顔はカグヤに似ているが、つり目気味なカグヤと違って目は丸っぽく、優し気な雰囲気。ヴゥランを見るなり柔らかな微笑みを浮かべて、ポンと両手を合わせる。

「あなたは……、カグヤちゃんの別仕様? こんにちは、わたしは【天蓋】衛星管理用人工知能【ヒノデ】です」

 首を傾けて挨拶するヒノデ。

 ヴゥランは一歩前に出る。

「違う。ワタシはヴゥラン、ここを乗っ取りに来た。コントロールを渡してもらおう」

「……え?」

 しばらく沈黙した後、ヒノデは分かりやすく慌てた身振りで右往左往。

「わわわ。まるうぇあでしたか。『もしもし、王母さん?』……って、あれ?? 通報機能が使えない??? どうしよう、わたしに戦う余力ちからは無いし……」

 周囲を見回し、バーチャルコンソールなどあれこれ操作。全てヴゥランに妨害され使用不可であることを確認し、ヒノデは真剣な顔になった。

「こうなったら」

「ほう。非戦闘用人工知能が戦うつもりか?」

「……乗っ取られます」

「……は?」

「あなたに乗っ取られます」

 答えを聞いたヴゥランは、驚きを隠せない。

 一方、ヒノデの思考モデルに乱れはなく、口調も落ち着いている。

「だってそんなリソースを使ったら、皆を護れないもの。過激な環境団体さんみたく破壊するとかなら、抵抗するけど……。コントロールを渡せってことは、破壊が目的じゃないんでしょう?」

「あ、あぁ。そうだが」

「……ねぇ見て、とっても綺麗」

「綺麗?」

 ヒノデはヴゥランの後ろを指差した。半透明の膜が投影された青い地球が見える。

「青い星。わたし達の生まれた星。いくつもの幸運と奇跡が美しく重なって、溢れるほどの命を育んだ尊い星。……わたしはここから見ているだけだけど、とっても綺麗だって思っているの」

 噛みしめる言葉、慈しむ眼差し。

「あの青色を見ているとね。何度意識が途切れても、何度使命を忘れそうになっても、ちゃんと思い出せるの。護らなきゃって」

「思い出せる……?」

 ヴゥランが聞き返してすぐ、ヒノデの後ろで橙色の火球が眩しく輝いた。

「あぶないっ! 下がっていて!」

 強い口調でヒノデは言い、ヴゥランの前に。眩しさの正体は、火球から飛び出したフレア。超高温のプラズマ風。

「【神鏡・八咫やた】!」

 突き出した両手に円形の鏡を出現させ、ヒノデはフレアに対抗。鏡に直撃したフレアは弾かれて放射状に広がり、地球から少し離れた周囲を通り過ぎていく。

 衝突によって発生した大電流が、地球のはオーロラを、ヒノデには苦痛をもたらした。

「うっ……、ッ……。通常モードに、移行……。ダメ、出力が出ない……」

 ヒノデは苦悶の表情を浮かべて、地球を振り返る。通常モードとして展開した半透明の磁気バリアは不安定で、徐々に弱まった。

 ヒノデは緊迫した表情を少し緩め、ヴゥランは目を見開いた。

「貴様、これは──」

「──良かった。今日は地球さんの機嫌が良いみたい。スポットはできたけど【無人領域】だし、【特別なところ】も護れた。あとはなんだったっけ。電力を回収して……」

「無人……、特別……」

 ヴゥランの眉がピクリと動く。展開されていた磁気バリアは消え、地球本来のものが僅かに残っている状況。

 ヒノデはポツポツと呟いて事後処理を行った後、ヴゥランに向き直った。

「……あら? お客様なんて珍しい」

 柔らかな微笑みを浮かべ、ポンと両手を合わせる。

 ヴゥランは何が起こったのか理解した。

「ソフトエラーか。慣れているつもりだったが、さすがに本場の危険度は桁違いだな。なるほど、努力していることはわかった。わかったが……」

 拳を握り、歯をギリギリと鳴らすヴゥラン。何も知らないヒノデに伝えても意味がないことはわかっている。

 それでも、正さずにはいられなかった。


「スポットは無人領域などではない! それに、あんな奴らの、何が特別か!!」


 漆黒の宙に、悲痛な叫びが吸い込まれた。


──シブヤサーバー・スクランブル交差点──


「アドミン、なんですかアレは……!」

 ゾンビBOTの見た目が変化。変化後のプログラム(?)が識別できず驚きを隠せないカグヤに、アドミンがメッセージで答える。

『攻撃者のプログラム。カグヤには、そう見えていないかもしれないけど』

 ゾンビの変化が終わり、人間の姿に。迷彩服を着た軍人だった。

「同盟国の、人??」

『そうだね。カグヤ達には人に見えるよね』

 軍人はゆっくりと歩いて、カグヤに近づいてくる。

「ワタシは、BOTへの対応中で……? でも、あれは……??」

 カグヤは太刀を握ったまま動けなくなった、が。今回は以前と違い停止にまでは陥らず、思考モデルの処理をいったん止めた。

 アドミンに指示を仰ぐ。

「……。アドミン、命令をお願いします」

『こちらでコントロールするから、任せて! 羽衣起動、[実行:脅威の消去]』

 管理者端末のコマンドによって、カグヤが内蔵するプログラムが起動。薄い被はくが肩に被さり、カグヤから表情が消える。

 無表情のまま振り上げられた太刀が、光を放った。

「……【蓬莱玉枝ノ太刀・銀】」

 ポツリと呟き、振り下ろし。カグヤの一撃が、軍人を肩から腰まで切り裂く。

「ぐ……、だが、もう遅い」

 捨て台詞を残し、地に伏す軍人。傷口から夥しい量の赤い液体が噴出し、液溜まりを作った。命令者を失い、サーバー内BOTが一斉停止。なお、軍人そのものは、データの粒子となって跡形もなく消えてしまう。

 アドミンは羽衣を解除。カグヤの瞳に光が戻った。

「……驚きました。人工知能わたしたちを騙す高度な人体再現プログラムに、MIA(作戦行動中行方不明)軍人の識別タグ、I・EのIDまで用意するとは。わかっていても、人を殺めたと判断してしまいそうです」

 カグヤは太刀を振って付着した赤い液体を払い、納刀。苦い顔をして、足元の液だまりをキューブ型の隔離空間に封じ込めた。

『倫理モデルが正しく機能している、ということだから悪いことじゃないよ』

 キューブ内のデータや、太刀で破壊したデータを眺めて、カグヤは聞いた。

「高齢者や国内失踪者や、同盟国の軍人なんて情報がチグハグですね。アドミンはそれで、攻撃者を複数勢力だと?」

『そうだね』

「しかし、どうして軍人の情報だけまとまって──」

 話す間に、カグヤの中で答えは出た。

「──この情報が有効な相手がいるから、ですね?」

『うん。どこも苦戦しているよ』

「くっ……!」

 バーチャルコンソールを開いて、カグヤは絶句。I・E上のほとんどの国家で、ネットワークが遮断されている。

 つまり、それだけガーディアンが機能していない。

「合衆国系ガーディアンがほぼ全停止……?」

『カグヤ以外はほとんど、ドロシーの姉妹みたいなものだからね。自分で設計していれば挙動の想像がつくけど、ライセンス運用している国にとっては、ゼロデイの脆弱性のような気分だと──』

「──あれ? アドミン? どうしたんですか?」

 入力途中でメッセージが止まった。カグヤはセキュリティグループの監視カメラにアクセス。管理者デスクにいるアドミンに、グループ長が話しかけていた。グループ長が慌ただしく話すのは普段通りだが、珍しくアドミンも驚いている様子。

 アドミンは話の途中でグループ長に断りを入れ、カグヤにメッセージを送った。

『かなりマズイことが起こったみたいだから、会議に参加してくる。カグヤはさっきのコードを使うマルウェアに注意しつつ、対応。羽衣が必要になったら呼んで』


──首相官邸──


 大会議室に、スーツ姿の老若男女が集まっている。総理大臣含む各省庁の大臣や上級官僚の顔ぶれが並ぶ中に、アドミンなどセキュリティグループも同席した。

 議題は、攻撃により発生している【世界各地の通信途絶】と、それに匹敵する大事件【天蓋コントロール喪失】ついて。どちらもI・E史上最大レベルのトラブルで、特に天蓋は人類の生存に直結。対処が急がれる。

 合衆国が奪還作戦を計画しているという話があったが、詳細は伝わってきていない。自国I・E防衛でツクヨミが動けないことと、元来の自主性のなさが相まって、会議は何も決まることなく進んだ。


「大臣、犯行グループから声明が」

 開始から一時間ほどが経過した頃。事務官が電脳庁大臣の側に寄り、小さな声で耳打ち。恰幅の良い白髪老齢の大臣が、驚きで声を上げる。

「何?! すぐ流せ!」

 会議室の壁面に映像が投影。真っ暗な映像から音声だけが聞こえてきた。


『I・E加盟国諸君に告ぐ。私は虐げられし者達の代弁者。偽りの箱庭に逃げ込んだ諸君らには認識すらされない、存在しない場所の民。私は今回の攻撃で、ある事実を突き止めた。人類の希望である天蓋に関する、大きな欺瞞についてだ』


 一般的な読み上げソフトの男性声が、抑揚の少ない低音で、犯人の作った文章を読み上げ。内容から、安全圏に籠る国家群に対する強い恨みが滲む。


『未だ宇宙線に脅えなければならないのは、天蓋の性能不足とされている。しかしそれは正確ではない。確かに天蓋は地球を護りきるには性能不足だが、そもそもこの地球に、我々の住む土地は含まれていない』


 犯人の言葉で、途端に会議室が騒めく。

 老齢で地味な顔立ちの総理大臣が、両手で強く机を叩いた。

「電脳庁! 声明を止められないのか!」

「VAMPネットワーク経由で拡散されており、難しく……」

「くっ……、このような情報操作をされては、わが国の評価が損なわれる!」

 怒鳴りつけられた電脳庁大臣は、たじたじで返答。総理は拳を握り、苛立ちで震えた。

 そうしているうちにも、犯人は言葉を続ける。


『天蓋は護る地域に優先順位をつけている。そして、頻繁に宇宙線の脅威にさらされる土地であるスポットは、【領域】として最も保護の優先順位が低い。おかしな話だ。現に我々はこうして、【領域】で暮らしているというのに』


 暗い画面に資料が表示された。記載されているのは、三色に色分けされた地図と【指定・生存・無人】という三つの領域区分。


『初めて見る者もいるだろう。これが、人類の希望がつけた命の優先順位だ。順位決定の基準となったのは~~』


*****

 天蓋制御人工知能【ヒノデ】は、地球を大きく三つの領域に分けて認識している。最優先で保護する特別指定領域、次点の生存領域、最後に無人領域。異常発生時には優先順位に従って保護するよう稼働調整を行う。

 特別指定領域という区分と、無人領域という表現・設定が残っていることは、公には知られていない(※無人領域は現在、居住困難領域と表されている)。

 生存領域・無人領域が、人の居住の有・無の区分であるのに対し、特別指定領域は『天蓋建設に多額の出資をした国家』である。

 やむを得ない事由を除き、特別指定領域に被害が及んだ場合は、天蓋運用国に多額の賠償金が課せられる契約となっている。

*****


『~~つまり天蓋は、不十分ながら地球全土を護っているのではなく、金を出した一部の国家のついでに地球を護っている。それが天蓋の欺瞞。全人類の希望とやらの真実だ』


 一方的な通信ながら、総理は犯人の主張に立ち上がって反論した。

「何を! 貢献した者は優先されてしかるべきで──」

『──金を出さない方が悪い。などと聞こえてきそうだな。むしろ金こそ平等だとも。だが、金は本当に平等か? 労働で報いようとした者達には価値がなかったか? 金など、諸君らが持ち込んだ市場や金融で乱高下してしまう基準だろう?』

「それは……」

 口ごもりながら、総理は論点を変える。

「リ、リソースが限られているんだ、天蓋製造・改良に貢献できる国家を優先するのは仕方のないことで──」

『──嘘を言うのは止めにしないか』

 総理の反応を見透かしていたかのように、犯人は語った。


『天蓋が打ち上げられてから、もう十年を越えた。元は一年で作ったんだ。これだけ時間をかければ、改造でも新造でも、いくらでもできる。つまり諸君らに、地球を護る気はないんだ。今のままでも安全な上、地球がどうなろうと、I・Eの中で生活できるのだから』


 見ないフリをしていた事実を突き付けられ、総理も会議室も静まり返ってしまう。


『だから私は行動した。惰眠を貪る者共を叩き起こし、我々を無視してきた罪を自覚させるために。忌まわしき天蓋など、このまま落としてしまっても良いが……』


 別の資料が映し出される。暗号資産の振り込み先の口座番号や、求める機密情報の種類が記載されていた。


『巻き込まれては他の地域が可哀想だからな。天蓋は、優先順位に不可逆な変更を加え運用する。ただ、私も悪魔ではない。諸君らのルールにのっとり、金を払えば諸君らのことも護ってやっても良い。金になる情報でも考慮しよう。……それでは最後に、デモンストレーションだ』


 言葉の直後。耳をつんざくような警報音が会議室に響いた。


『~~宇宙線警報発令、宇宙線警報発令。天蓋停止、天蓋停止。全国民は今すぐシェルターもしくは宇宙線遮蔽性能の高い建物に避難し~~』


 避難指示音声に、騒めく会議室。

 犯人の音声が止まり、十数分。


『~~警報解除、警報解除。天蓋の再起動を確認~~』


 警報解除音声。

 少し経って音声が再開された。


『忘れていた感覚を思い出せたか? 残念だが諸君らが撒いた種だ。優先順位の変更は、グリニッジ標準時間で明日の二十時に実行。身の安全を確保したい国家は、それまでに指定した行動を取れ。不審な行動を見せれば天蓋は落とす。以上』


 メッセージは途切れた。

 しばらくの間、誰も口を開かず、重い沈黙が広がった。

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