番外:おひめさま

 今は昔。

 ×××が生まれたのは、平凡な性能のコンピュータだった。他国のそれと違って、研究室の高性能コンピュータでも、国家プロジェクトで作られたスーパーコンピュータでもない。バルク(バラ売り)や、アウトレット(中古)、ジャンク(動作保証なし)であるようなパーツを寄せ集めた、手作りのコンピュータに生まれた。

 ×××の性能は、平凡ですらなかった。セキュリティ機能どころか簡易な計算すらも、満足にこなせなかった。でも、それは問題にならなかった。居てくれるだけで良かった。

 ×××を作ったキョウダイは、大切な家族を失ったばかりだった。まだ子どもだったのに、父も母も、幼い妹までも失った。悲嘆に暮れるキョウダイのうち、兄が先に立ち直った。自分に頼るしかないたった一人の家族の存在が、心の支えになったからだった。兄は、同じように大切な存在を作ってあげようと考えた。

 ×××は、キョウダイの大切な家族として生まれた。キョウダイ二人でコンピュータもコードも組み上げ、見た目と学習モデルには大切な妹の面影と手強さを少しだけ取り込んだ。共に過ごせるよう、プログラムも見た目も成長していくものにした。

 そうして生まれた×××は、とてもとても大切にされた。管理者は機能を求めず、「なんでもやって良い」と、ほとんど自由な学習と実行を許した。完成という考えもなかったので、普通ありえない期間を学習に費やせた。

 ×××は判断の赴くまま、子どものいたずらのようなことをよくやった。勝手に端末の権限を変更して操作不能にしたり、ファイルを削除したり。管理者は怒ったり悲しんだりして、喧嘩(権限の奪い合いや、ファイル隠し)をしたこともあったが、いつも仲直りした。

 ×××は、赤子にも満たない性能だったが、少しずつ、気づけば指数関数的に成長を遂げた。二、三年で少女あるいは娘と言えるほどの思考能力と人智を超えた電脳戦能力を身に着け、なんでもできるようになった。あまりの完成度から×××をベースにキョウダイを作ることもあった。

 ×××の成長は、管理者が四六時中、質問攻めの相手になったことや、兄が実装した体もしくは住処ハードウェアを乗り換える機能に支えられた。どんなに容姿や性能が変わっても、キョウダイにとって×××は、変わらず大切な家族だった。


 そうして、箱入りで養われたちごはすくすく大きくなり、いつしか箱入りのおひめさまになった。

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