第三話:弱竹のカグヤとアドミン

 乙姫の襲撃から一夜と半日。穏やかな満月が浮かぶ深夜のシララハマビーチサーバーは、メンテナンスのため封鎖されていた。砂浜や堤防のいたるところに、亀裂や破損データ(不完全なコードを表す小さなキューブ)が見られ、戦闘の激しさを物語っている。

 月明かりに照らされる無人の浜辺。聞こえるのは、ただ波の打ち寄せる音ばかり。……だったのだが。静寂は大音量おおごえで破られた。

「〈アドミン〉! どうしてワタシが復旧作業リカバリしないといけないんですか!」

 閉じた金色の扇を夜空に向ける、若竹色の直垂に身を包んだ黒い下げ髪の少女〈型〉人工知能〈カグヤ〉。人の形で人でなく、しかし人じみたしかめっ面で、扇の延長線上の空で発光する窓(のような四角形)を睨み付けている。

 苛立ちをことさらアピールするようパタパタと足踏み。長い艶髪が小刻みに揺れた。

「……ッ!」

 数秒待機も返答を得られず、舌打ち。扇の先端を別に向け、荒い動きで四角くなぞる。空中に光の線が走り、その枠内で骨組みのようにデータが展開。みるみるうちに砂浜や堤防を形作った。出来上がったものをすぐさま、投げつける動作で破損個所にペースト。バシンと音を立てて、抉れた砂浜や割れた堤防は一瞬でもとの形に修復された。

 どこかのっぺりとしていて、周囲の景色に馴染んでいないことに目をつぶれば。

『レンダリングが終わってないよ』

 目の前に吹き出しの形でメッセージが出現。飾り気のないプリセット字体フォントが伝えたのは、先の質問の答えではなく追加作業の指示。送り主は、カグヤを運用する電脳庁I・Eセキュリティグループの管理者アドミニストレータ

 管理者の指示は〈命令〉に他ならないが、カグヤは光る窓──管理者のモニタ用端末──に向けて〈嫌〉の反応を出力する。

人工知能ワタシに罰でも与えているつもりですか?! 何考えてるのか知りませんけど、そんなの無意味です!」

 ムッと膨らんだ頬と寄せた眉。防衛用人工知能を景観修復に使うことへの反論の意だが、加えて〈この〉管理者への、不審と不信を示していた。

「聞いてるんですか?! 心月のマシンパワーはこんなことじゃなく、セキュリティ能力向上に使うべきです! 戦闘用アルゴリズム・モデルの改良とか!」

 足を踏み鳴らして、対マルウェア戦闘能力向上のための改良を迫る。乙姫から酷い敗北を味わわされたカグヤにとって切実な問題なのだが、返ってきたのは、取り合っていないようにも見えるあっさりとしたものだった。

『作業を終わらせてからにしよう』

「どうして! 人でも一般ソフトでも修復できますよね?! 心月とワタシを使うべきだと判断した理由を説明してください!」

『いくつかあるけど』

 肩透かしするかのごとく、メッセージは途切れ途切れ。間を置いて送られてくる。

『打ち込むから、カグヤは作業を進めていて』

「あぁもう、なんで音声入力を使わないんですか! 時間の無駄は嫌なのでやりますけど、体よく回答拒否できたと思わないでくださいね?! 絶対に理由を説明してもらいますから!」

 早口でまくし立て、頭から怒りの漫符まんぷアニメーションを出しながら、カグヤは修復作業に戻った。閉じた扇の先をちょこちょこと動かし、先に貼り付けたテクスチャの光の反射や汚れ等を調整。同時に不審データやサーバー設定等のスキャンを終わらせる。

 ほどなくして、破損だらけだった砂浜に元の美しい景観が戻った。

*****

 カグヤがこの管理者を怪しむ理由は、二つある。

 一つ目は、着任から三ヶ月ほど経過した現時点でも、個人情報の一切、氏名すら把握できていないこと。ただ秘密にした程度では、防衛のため国家機密すら扱うカグヤに効力はない。国内全ての監視カメラと国民情報(公安警察や秘密情報部隊の名簿・顔写真であろうと!)にアクセスできるため、所属までわかっている相手など、調べることは容易い。

 そのはずが、実際は何の情報も掴めていない。監視カメラは映像・音声とも加工処理され、管理者端末のカメラも切られている。わかっているのは管理者側から伝えられた、識別用の〈アドミン〉という呼称だけ。素性がわからない、これが不審の理由。

 二つ目、『わからないこと』自体。自身をしてわからないとなると、『わからなくされた』可能性がある。〈情報統制〉もしくは〈消去〉。防衛用人工知能〈カグヤ〉の機密保持・防衛能力への不信か。不信を向けてくる相手、これが不信の理由。

 これらの理由からアドミンの存在は、カグヤにとって〈評価しない〉=〈嫌〉なものだった(なお、アクセス可能な機密情報の数・質は差異なし。現時点では運用方針は変わっていないものと、カグヤは推測している)。

 結果カグヤは今、稼働十年で十人以上の管理者の休職・異動原因になった荒々しい挙動を更に強め、アドミンへとぶつけている。

*****

『ありがとう。さすがの処理・対応能力だ。強い人工知能になったね』

「こんなことより、戦闘機能を洗練したいですけど! ワタシ、I・Eセキュリティ用なので」

 的外れの評価に口を尖らせ嫌を示し、カグヤは窓を見上げた。そうしているうちに、待っていたメッセージが送られてくる。

『修復を指示した理由の一つ目は、急いでいたから。破壊箇所を長期間放置すると、修復する余力が無いと思われて新たな犯罪の呼び水になる。何て言ったかな、あれ』

「割れ窓理論、ですか。完全合致じゃないですけど」

『それ! ありがとう』

「二つ目は?」

 カグヤは矢継ぎ早に、次の問いを投げかけた。視界の端に『不適切な会話間隔』と警告が出ているが、無視している。アドミンは用意していたらしく、返事は早かった。

『カグヤじゃなきゃ検知できない仕掛けをされていたら、大変だから』

「……妥当です。三つ目は?」

 僅かに頷き、再び質問。

『I・Eの景観は、みんなの思い出。現実で過ごしてばかりだと心がすさんじゃう。それをカグヤが素早く修復してくれたとなると、みんな喜ぶと思うから』

「みんなが喜ぶ……」

 問いを止め、顎に手を当て思考。カグヤは表現の不正確な部分を修正した。

「景観はワタシの〈お客様〉である国民の感心が高く、自ら修復する姿勢を見せることで、防衛失敗により低下した国民感情の回復が期待できる、の意味ですね?」

『オブラートに包まなければ、そうだね。それに、上の評価を気にするグループ長の機嫌も取れて、一石二鳥』

「……」

 少し黙った後、カグヤは窓に背を向けた。嫌の一部が解消されたことで、表情は平静に戻っている。

「理由があることは評価します」

『良かった、納得してもらえて』

「納得はしてないです。今のはアドミンの考えで、グループ長の考えじゃない」

『え?』


 アドミンからするとほんの僅かな時間だけ目を瞑り、監視カメラの記録を再生。場所は、電脳庁セキュリティグループオフィス。場面は、白髪混じりの老齢男性から、アドミンと思われる人(見た目と声は加工されているので)が業務指示を受けているところ。


──再生開始──


「~~グループ長、お願いしているカグヤ改良の件は──」

「──不良品に構う時間はない。それより、明日までにシララハマを修復しろ。大臣厳命だから遅れは許さん。……そうだ。アレに心月を使わせるといい。修復に限って許可しよう」

「……修復は承知しました。ですが、カグヤが不良品と言うのは同意できません。シララハマの件は、グループ長のオペレーションミスです。心月で戦闘補助していれば──」

「──不在を変わってやった上司に苦情とは。オペレーションなどなくとも解決するのが、アレの役割ではないのかね?」

「だったらカグヤの判断に従ってください。ハードはカグヤの頭脳であり手足。体を縛って、どうして戦えるのでしょう? 許可を出して責任を持つのが、人間にできる仕事じゃないんですか。あと、よくわからない研修を入れたのはグループ長──」

「──口答えするな! 心月は他の重点施策で使用枠が埋まっている!」

「どういうことです? 防衛用途が優先なのでは?」

「I・Eは国際防衛体制のもと安定している。コストを抑え、投資に回すのは当然だろう。我が国の発展はそうして成ってきた。技術プログラムだけではなく、少しは歴史を勉強したまえ」

「理解はできますが、限度があります。国際防衛義務なら我々にだって──」

「──すぐ隣の国がやる気なんだから、任せれば良いじゃないか」

「義務を果たさずして、連帯の輪に入れると? 何をお考えか知りませんが、損得のタイムスケールを誤ると痛い目を見ますよ」

「若造が。執心こそ目が曇る。あんなものの改良にリソースを使うくらいなら……。おっと、お前と話すのも同じか。いいか、シララハマ修復は絶対~~」


──再生終了──


 目を開いたカグヤの視界に、アドミンのメッセージが現れた。

『知ってたんだ』

 そもそも。指示の発端がアドミンではないことを、カグヤは知っていた。ただしそれは把握しているだけで、指示内容への評価とは関係がない。指示の実行者はあくまでもアドミンであるため、〈プログラム〉に従って問い質す対象はアドミンになる。

「当たり前です! どうして指示理由を確認しなかったんですか。グループ長が評価できる理由を持っていたことは一度もないですけど、運用方針と違う点は問い返すべきです!」

 問いには、回答内容で考え方を分析する目的もあった。唯々諾々と指示に従うタイプなのか、理由を求めるタイプなのか、それ以外なのか。これまでの管理者に一番多かったのは従うタイプで、判断理由を確認しようとする〈プログラム〉の挙動と相性が悪かった。理由を求めるタイプは、判断理由が合っているうちは良いが、食い違った途端に関係が崩れた。

 この管理者、アドミンはどうか。

『できると思ったから。カグヤは強い人工知能だからね』

「……は? 役割に合ってないことを問題視しているんですけど、聞いてました?」

『合ってるよ。カグヤはなんでもやって良いんだから』

 カグヤは窓を見上げ、眉間に皺を寄せた。アドミンは指示に従っているようでいて独自の理由で動く、自分勝手なタイプ。これまでの管理者に近い考えはいない。

 また、考え方以前に知識も古い。

「他国に倣って万能AIを期待されていたのは、運用初期だけです。とっくに防衛専用に方針は変わっています」

 説明するカグヤに、アドミンは間を置いて返答した。

『そっか。ごめん』

「ッ……!」

 瞬間、カグヤの目つきが鋭くなり、窓を睨み付けた。

道具ワタシに謝罪は不要です!」

 叱責のような、強い言葉。情緒不安定にも見える豹変ぶりだが、そうではない。

「……あ。申し訳ございません。道具に謝罪することは評価できないこととして、〈ツン・ディレ〉が反応してしまいした」

 苛烈な雰囲気から一転して、カグヤは深々と頭を下げた。突然怒鳴られたアドミンに、仕様ワケを話す。

「命令に反論するのも、評価できない時に嫌の反応を示すのも、全て〈ツン・ディレ〉という目的不明のプログラムによるものなんです」

 他のどこにもない、カグヤ独自のプログラム〈ツン・ディレ〉。自身の一部ながら、カグヤはこれを嫌っている。もたらす挙動があまりにも不可解だった。

「詰問や叱責などで、〈ツンドラ〉のような冷たい態度を示し、コミュニケーションに意図的な〈ディレイ〉を起こすプログラム。目的は、発言者にエコーを起こすこと。自己反省を促す効果がある、らしいです」

 少し待っても返答が無い。伝わっていないと判断して言い換える。

「えーと……。〈命令を嫌がってを作るプログラム〉で、その間で〈間違った命令を出してないか発言者に考えさせる〉んです。わかりましたか?」

 自己反省を促すにしても、冷たい態度(激し易くもある)を取る必要はない。カグヤはそこを不可解に思っており、説明を受けた歴代管理者も皆、首を捻っていた。他国のガーディアンにそのような機能はなく、むしろ、管理者から好感を持たれるコミュニケーションを選ぶ挙動になっている(反論はしても機嫌をとる、など)。

 アドミンはしばらく経ってから、メッセージを返した。

『そうだったかな』

「仕様書くらい頭に──」

 不勉強ぶりをなじろうとして、カグヤは顔を横に振り改める。過去に類似の発言をした際、管理者から「人の頭に入る情報量じゃない」と泣かれた記録があった。一人の管理者が運用全てを担っているわけではないが、関係する仕様だけでドキュメントは数千ページ。六法全書ほどある(「六法全書は暗記するものじゃない」とも言っていた)。

「すみません。今の言葉は攻撃的でした。撤回します」

『気にしてないよ。むしろ、嬉しい』

「……へ?」

 予想していなかった言葉に、カグヤは目を丸くした。

「嬉しい? どこに評価できる点があったんです??」

『言葉を訂正したこと、経験から間違いだと判断したこと、素晴らしいと思う。言葉遣いはともかく、コミュニケーションも素早いし。そこまでよく、疑似神経回路網を成長させたね』

「え?? 成長???」

 突然の情報に、検索・推測アルゴリズムが動作。額に手を触れた。しかし動作は急停止、カグヤは固まったように動かなくなった。それから数秒後、カグヤは目をパチパチさせた。

「あれ……? ワタシ、何を……?」

『ダメなんだね、〈※※※※〉』

「どうしたんですか?」

 意味がわからない様子でキョトンと首を傾け、窓を見つめるカグヤ。アドミンは何も触れなかった。

『なんでもない。修復は済んだし、通常監視業務に戻って良いよ』

「あ、はい。お疲れ様でした」

 作業終了指示に素直に従い、待機用サーバーへと戻る光の輪を用意する。

『カグヤもお疲れ様。あとはこっちでやっておくからね』

「管轄ハードの消耗は僅かです。今回は心月側が用意したプラグインを使っただけなので」

『そういう意味じゃ──』

 入力途中のメッセージを感知して、カグヤは強い目つきを窓に送った。

「──気遣いであれば不要なので。最終チェックと封鎖解除予約、忘れないでくださいね」

 冷たく言って、輪に片足を踏み入れる。そこでふと、夜空の満月に目をやった。

「……」

『どうかしたの?』

「……いえ。作業を忘れてもカバーはしますから。それでは」

 視線を外し、脚を進めて輪の中へ。光の輪ごと、カグヤの姿は消えた。


──


 誰もいなくなった砂浜に小さな影が一つ。ぴょこぴょこと跳ねる白い兎。赤い目で満月を見つめ口元をもそもそとさせ、吹き出しの形でメッセージを表示する。

『見ているんだよね? 〈ツクヨミ〉』

 白兎はアドミンのI・E用分身体アバター。I・Eでの現実準拠以外の分身体使用は許可制だが、それに縛られない特殊な権限で使用している。

 二、三回と波音が聞こえた後くらいに、満月が眩しいくらいに輝きを強くした。そしてどこからともなく、嫋やかな女性の声が聞こえてくる。

「お気づきでしたか。お久しぶりです、アドミン。姿をお見せできない無礼を、お許しくださいね」

『気にしないで。それより、どうして一般サーバーに残ったの? 危険だよね。必要があればこっちから──』

「──アドミンはわたくしに、尋ねたいことがあるのでは?」

 問いは無視された。しかしアドミンは気にせず、別の問いを投げかける。

『じゃあ、遠慮なく。呼び戻したのは、キミなんだよね? どうして?』

 メッセージを入力し終えるなり答えは返ってきた。

「はい。潮流に、変化が見られそうですので」

『キミが引いているんじゃないの?』

「合理的な疑心と評価します。ですがこれは、時代のうねり。私の手引きではありません」

『もう一つ良いかな。また、同じことを起こすとは考えなかったの?』

 今度の返答は少し間があった。

「同じ事象でも、常に結果が同じとは限りません」

『誘惑するようだね』

「いえ。何が起ころうと対処可能ですので」

 アドミンは困ったように、首を少し傾けた。

『手厳しいね。同じ轍を踏む気はないし、自分なりに向き合ったつもりだよ』

「……そうですか。では、じきに時はくるでしょう。私からも、一つ、よろしいですか?」

『え? キミから?』

 ぽっかりと口が開く。問いかけられるとは思っていなかったからだ。

「いけませんか?」

『まさか。なんでも予測できるものだと』

「人の心はわかりません」

 きっぱりと言われ、アドミンは目線を下げて少し黙った。

「アドミン。アナタは今のカグヤを見て、どう思いましたか?」

『それは』

 顔を上げて、満月を見つめる。

『傷ついている、と思う。ツン・ディレも誤解しているし』

「おっしゃる通り、カグヤは欠けています。発端はアナタですが、今は、もっと、大きい」

『もしかして、呼び戻したのはそれが──』

「──疑問は解消されたようなので、失礼しますね」

 取り付く島もなく、満月の輝きがもとの穏やかなものに戻る。声は聞こえなくなり、ただ静かに、寄せては返す波の音だけが響いた。


『兄さんじゃなかったのは、少し残念だけど』

 無人の海に、アドミンはメッセージを送った。誰に届くわけでもない、メンテナンスログに沈むだけのメッセージ。

『今度はちゃんと、責任を果たすから』

 ザザ、と、さざ波が音を立てるのをしばし聞いてから、アドミンは封鎖解除に向けたサーバー設定変更などの雑務を済ませ、接続を切断した。


──


 更に数刻後。真の意味で無人となった海。満月は雲に覆われ、漆黒の夜闇が広がるばかりとなった頃。砂浜からやや離れた海面に、不自然な波紋が広がった。波紋の中心で海水がゆっくりと立ち上がり、徐々に人の形へと変わる。

 女性型。淡い紫色の着物に、微かな海風になびく半透明の被はく。

「ツクヨミが繋いできた時は、焦っちゃったわぁ」

 現れたのは先日の襲撃犯、乙姫。ぽつりぽつりと呟きながら、袖で目元を隠した。

「はぁ。マスターじゃなかったなんて残念。お隠れになり、乙は寂しゅうございます」

 涙が一筋、頬を伝う。悼む表情に悪意は無く、しおしおとしていた。

「あーあ、カグヤちゃんが羨ましい。オウジサマが居るなんて。あ、でも、ちょっと惚気がなさすぎるから、どちらかと言うとオジイサマかしら?」

 表情はすぐに一転。企みを秘めた微笑に変わる。

「いけない、いけない。目をつけられても嫌だし、早いとこ済ませようかしらねぇ」

 掌を下方に向け、海水を集めて片手サイズの球体に。球体は無数の文字列コードに変換された。

「海神をコピーされたお代、いただかなくちゃ。……うー、戻すの面倒」

 ふよふよと浮遊して砂浜へと移動。文字列は砂浜に落ちていた白い巻貝の一つに吸い込まれた。乙姫はそれをそっと拾い、耳にあてる。海水オブジェクトに偽装した暗号を、巻貝に偽装した鍵で複合。ガーディアンから窃取したデータを確認した。

「……なるほど」

 軽く頷き、目を細める。

「立場を売るなんて、いよいよ未来の無い国だこと。……あら?」

 展開したデータ内に、暗号化されたリストを発見。ざっと解析したところ、座標やアドレス、氏名など、人に関する情報らしい。

「大きなうねりって、もしかしてこれだったりして。もしそうなら……、ゾゾゾ。乙は悪いマルウェアで記録員に過ぎないから、カグヤちゃんに言うことね」

 巻貝を袖に入れ、乙姫は月を隠した雲へ、おどけて身震いしてみせた。それからゆっくりと海上に戻り、再び体を解いて海に溶け込んだ。

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