第十話 オムツで一人旅
――――ザッシュウウウウウウウウウッ!
「キェアアアアアアアアアアァッ!!」
――――ドサッ
「イブライン」を出発した後、ルミナは道中、魔獣たちと戦闘を行っていた。
どうも動物と魔物の区分が明確でないようだ。
それも、魔王なき今は研究が進むことだろう。
食肉としても活用されてきた対象が消滅するという懸念も消え、ハンター業も規模は縮小はするだろうが需要は残るだろう。
そんな魔獣も、魔王を倒したルミナにとって大して苦戦する相手ではない。
スカートであることと、大きく膨らんだ下半身によって多少のやりづらさは有るものの、その程度で済んでいる。
……訂正する。
街を出てすぐは、危ない場面が多々あったのだ。
戦闘中でも容赦なく襲いかかる尿意は、動きをどうしても止めてしまう。もちろん戦いの中で漏らすのは当たり前ですらあった。
むしろ聖水が切れてからのほうが安全とまで言える。
なぜかはわからないが、聖水が効いているうちは間違いなくトイレ頻度……もといオモラシ頻度が跳ね上がっているのである。
街にいるうちは「聖水だって水なんだから」と納得していたが、流石にそれだけでは説明がつかない頻度であった。
街にいるときに、トイレに行った帰りに尿意を催し始め、30分ほどで我慢の限界であったのだ。それが、明らかに加速している。
もはやどこからこの水分を持ってきているのかも疑問である。
尿意を感じず、排泄頻度も以前と比べれば遥かに高いものの――無処置状態のほうが、万全に動ける分だけ安全であった。
では聖水を服用せずオムツもなしだと、今度はオモラシで足元が滑る……だけではなく、今度は魔王城などという一般人が近づかない場所ではなく、町と町の間ということもあり、一般通行者もそれなりにいる。
街中に知れ渡ったオムツによって、私はあの街に居られなくなり、予定を前倒し旅立った。
だが、聖水の入った樽に沢山のオムツは荷物を圧迫し、非常に大きくなっている。
そしてその聖水も、催すのは戦闘に限った話では当然無く、毎度安全を確保出来るとも限らない為、オムツは不快で、しかし何度も替えるわけにも行かないということで、邪魔になって捨ててしまっている。
……馬車の定期便に混ざるのも当初は考えたが、これでは混ざらなくて正解だっただろう。
聖水を服用しなければ、オモラシの自覚もオムツの不快もないので、定期的に替えればそれで済むのだ。
―――そうだ、時間。
思い出したように……いや、本当に記憶から消え去られていた下半身の確認する事を思い出し、下を見て血の気が引いた。
大慌てで草木の影に隠れる。
確認を忘れていた代償。
オムツを隠すはずのスカートは、オモラシを隠すはずのオムツと連携。
完全に足に張り付き、その隠したい両方をこれでもかと主張していた。
この状態でどれだけ長いこと歩いたのだろうか……
振り返れば、見渡せる一番先のところにはすでに足跡が有るのだ。
たしか……人とのすれ違いはあった。
こちらを見ていた気がしてくる……
……とにかく、オムツを替えなくてはならない。
周囲を再確認し、まずはスカートをたくし上げる。
一応、防水生地を裏地に使用した特殊な物であるため、後で拭けばそのまま使える……が、後で履き替えよう。
肩紐とオムツをつなぐボタンを外したところで、足の付根からおしっこが溢れ出てきた。
慌ててオムツの裾を手で抑える。
(こんな状態になっても気付かないなんて……)
おもらしして気付かないだけではない。
その症状を定期確認する習慣自体が頭から抜け落ちるのだ。
気づけば不快極まりないのに、気付くまでそれがない。
これほどまとわりつき、動きの邪魔になっているのにである。
これだけでも問題なのに、まだ問題が有る。
(中に溜まってる……どれだけ出たの?)
初オムツのときの、宿で寝落ちしてやってしまった時。
あれはおよそ……5時間位か。
今回は、流石にそれだけの時間は経っていない。
というかあのときはまだおむつカバー自体使っておらず、布おむつ3枚であった。
街を出た時は長時間対応の為、十枚当てていたし、おむつカバーもその想定だ。
大人用というだけでも特別なのに、大容量対応なので更に特別である。
それでも同額なので補助制度様々であった。
その十枚対応のおむつカバーに十三枚の布おむつを無理やり当てて、それが飽和したのが、現状である。
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