第七話 平和になった世界と、布団に描く世界


 ルミナは正午も過ぎ、約束の時間を大きく遅れ、教会に再び訪れた。

 心から、偽名で泊まってよかったと思う。



 



 それは、今朝のことだ。



 がちゃっ!

 

「お客さん、なんか水漏りするって苦情が


「ひぃっ!?」

 

「!?」


 ルミナが朝の隠蔽処理に没頭している最中に、不意に部屋の扉が開けられたのだった。

 

 施錠、していなかったのだ。

 何度も何度もトイレを往復し、うるさいと苦情が入った。

 だから、寝る直前に締めようと考えていたにも関わらず、寝落ちしてしまったのである。


 そう、寝落ちしたのだ。

 そのため、濡れたおむつに繰り返し漏らしたことでおむつは飽和。


 結果、宿のベッドに世界地図を描くことになったのである



 そうして、慌てて隠蔽処理を試みようとしている最中に、また自覚なく漏らしたのである。

 飽和したおむつは、布団の上でそうだったように、この時も役目を果たすことが出来ない。


 寝ながら聖水は飲めないし、飲んでもすぐ効くわけでもない。



 世界地図、おむつ、そして水たまり。

 隠したい全てを見られ、ルミナの心臓は跳ねに跳ねた。

 

「ええと、こ、これは……あ、ああ!」

 

 バチャバチャバチャバチャ……

 

 驚いた拍子に、起きてから二度目の放水が始まる。

 おむつを当てた上での、あり得ない状況。

 

「水漏れとかおかしいと思ったら……」

 

 流石に想定外の事態だからだろう、宿の従業員も動揺している。

 いい大人がオモラシの隠蔽をしていて、かつ自分の目の前で漏らし始めれば普通はそうなる。

 

 主人の慌てた表情や態度から、どうやらこれは不幸な事故。

 

 だが痴態を目撃されたルミナからすれば、たまったものではない。

 

「お、お願いだ。

 この事は、だ、黙っていてくれないか。

 た、頼む……」

 

「分かりました。黙っておきます。

 ですが、部屋を掃除しなければならないので、一旦退出願います」

 

「あ……え……は、はぃ」

 

 あっさり要求が通り、逆に困惑してしまった。

 

 だが自身のよくわからない呪いは、無処置で一晩過ごした身を放っては置かない。

 さらに拍車をかけるように……三回目。

 

「あっ、あああぁぁ……」


「……洗濯サービスは本来有料なのですよ。

 早くそのおむつを置いて、夕方以降に戻ってきてください」

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