第六話 修行の思い出と、おむつの思い出

 私は生まれながら勇者として期待され、そのための教育と訓練を施されてきた。

 剣については10歳の頃には大人も倒せるほどに成長し、勉強も誰よりも出来た。



 ただ……本当におむつの件だけが足を引っ張っており、


 ―――勇者の選定自体が誤りだったのではないか

 ―――国の外に旅立たせて良いのか


 等と散々な、しかし反論しづらい根拠を元に色々言われ続けたのであった。

 このことは私の親族と、剣や勉学の師匠に国の要人以外には知られていない……はず。


 ……軍の遠征訓練に、旅立つための練習として随伴した時に、そこの部隊長達ももしかするかもしれないが……いや、無い。無いはず。


 一人でおむつを当てるのも、最近まで使っていたために問題ないのだ。全く自慢にならないが。



 ……洗濯をするメイドも、もしかするかも。

 隠さねばならぬ都合、家におむつは干せず、王城に毎朝持っていきお願いしていたのだ。

 辛い訓練も……これの為に続いた、というか続けざるを得なくなっていた。



 ということが有り、この国はトイレトレーニングに補助金が出る。

 

 この国、国王をトップにおいているが政治は合議制。

 私のおむつがトップシークレットだったこともあり、法案を通すため国を上げてトイレトレーニングを推進し、赤ん坊も全てまとめて対応したのであった。

 私の家は普通の市民のため、裕福でないからこそでもある。


 異世界には紙おむつとかいう使い捨ての便利なものがあるらしいのだが、残念ながらこの世界にはない。

 紙は残念ながら高級品である。


 先程教会でおむつを貸してもらえたのも、補助金で安くおむつ用の布が手に入ったからだろう。

 






 ……ふと見るとこのおむつ、新品である。

 つまり、私の呪いの検査中に購入されたわけだが、補助金の申請はどうなっているのだ?


 補助金の申請の都合、その使用者の名は店に出さねばならない。

 そして、私はこのおむつの費用を一切請求されていない。



 まさかとは思うが、名前を出されていないだろうか……?


 先程述べた通り、私が15歳までおむつを当てていたことは知られていない。



 そう考えると、途端に不安になる……と同時に、尿意が耐え難くなる。



「また……!?」



 先程より、明らかに早く、そして強烈な尿意。


 考え事をしすぎたか?

 前のトイレから、どれだけ時間が経過したのか?


 それとも、この不安が原因か?




 おむつを当て直すためベッドに座っていた体を、突如横たえてしまう。



「はぁっ……はぁっ……」

 

 

 尿意を自覚できている。

 それは、教会に到達するまで、全く叶わなかった事。


 当たり前にできていたそれに苦しめられ、取り戻した。

 その取り戻した当たり前が、今自分を苦しめている。




 

(聖水で抑え込んでいるはずなのに、いきなり……)

 

 もはや手を股間から離せない。

 一刻も早くトイレに行かねばならない。




 が、抵抗虚しく、水音が聞こえ始めた。


 

「……イヤぁ、またおむつなんて……」


 国と、人々の未来を背負った自分が……普通の人の何倍も時間を掛けて、やっとおむつを卒業した。

 それが、こんなよくわからない呪いのせいで、またおむつに逆戻り。



 魔王討伐という目標は達成しているものの、排泄は生きる上での基本。

 それが、またおむつ。


「……いやぁ……」


 そこで、記憶が途切れた。

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