263話 体育祭 その7

 ルーシーたちに見送られ、アップのために四人で体を動かしにいく。


 その中に家永潤太はいない。そして、代わりにいたのは——、


「——よろしくね。九藤くん、池橋くん、今原くん」

「よろしく。俺は佐久間くんのこと、信じてるから」


 俺の心当たりの選手とは、クラス一のイケメン——佐久間有悟さくまゆうごだった。



 時は昼休憩よりも少し前に遡る。


「——佐久間くん!」


 ちょうどトイレに行こうとしていたのか、一人で歩いていた佐久間くんに背中から声をかけた。


「あ、九藤くん」

「俺も一緒にトイレに行く」


 いわゆる連れションだ。

 昨日100m走の競技で一緒だった時、俺は彼と友達になった。


 この学校に知り合いはいないという佐久間くんだが、いつも女子に囲まれていて男子の友達ができないという話だった。

 だから俺はそれならと、友達になろうと話したのだ。


「昨日のリレー、凄かったね」

「うん。なんとか勝てたよ」


 屈託のない微笑みで褒めてくれた佐久間くん。少し前よりも明るくなったように思える。

 イケメンの笑顔はズルい。男の俺でさえ一瞬ドキッとしてまうのだから。


「そういえば、連絡先交換できなかったからさ、ちゃんと交換しておこうと思って」

「あ、そうだったね」


 競技の時はスマホを置いていたので、連絡先を交換できなかった。

 だから俺はこうして佐久間くんに声をかけたのだ。


 本来の目的はそうではなかったけど。


「——ねえ、昨日の100m走だけど、佐久間くん二位だったよね」

「え……うん」


 複数人が同時に競技をしていたため、応援する人も分散。待機場所に残っているクラスメイトも少ないなか、俺は見ていた。

 佐久間くんが銀メダルを持って、待機場所に戻ってきて、女子に声をかけられていたところを。


 俺は彼の走りを見ていない。

 でも、俺はそこに違和感を感じていた。


 リレーの選手は体育の授業で測った100m走のデータを元に記録が良い人から順に選ばれることになっていた。

 佐久間くんは男子の中では普通くらいの速さだった。だから選ばれるわけもないのだが……。


「本当は実力を隠してるんじゃないかな?」

「————っ」


 体育の授業でも感じていた違和感。

 それは彼の走るフォームが綺麗だったこと。ただ、それなのに記録は伴っていなかったことだ。


 そしてそれを昨日指摘した時、動揺していたことにも違和感を感じていた。


 佐久間くんは本当は足が速いのではないかということ。

 俺はそれが昨日の銀メダルを見て、ほぼ確信に変わっていた。


「なんで昨日はニ位になれたの? 今までの佐久間くんなら、もっと遅かったはずなのに」


 そこだけがちょっと不思議だった。そしてもっと本気を出せれば一位だってとれたかもしれないとも俺は思っていた。


「…………九藤くんて、本当に不思議な人だね。そこまで僕のこと見てくれていたなんて」

「いや、じっくり見てたわけじゃないよ。少しだけ違和感を感じたから印象に残っていただけで」

「でも、それを指摘してきたのは九藤くんが初めて。誰にも言われなかったから」


 本当にたまたまだ。指摘したのだって、リレーの交代選手を誘うためでなければ指摘していなかっただろう。


「本当はもっと早く走れるんだよね?」

「——九藤くんには隠し事、できないね。ほんの少しだけだけどね。体育の授業よりは早く走れるよ」


 すると佐久間くんはトイレ前で立ち止まり、理由を話しだす。


「なんで昨日の100m走は走ろうと思ったの?」

「そこまではわからなかったんだね。昨日、直前に九藤くんと会話したからだよ。あれがなければ僕は少し本気を出して走ることはなかっただろうね」

「俺と会話したから……?」


 どういうことだろう。俺と会話しただけで本気になるなんて、そんなに彼をその気にさせる話をしただろうか。


「色々だよ。友達になろうって言ってくれたり、僕のこと見ててくれたり。あとは、九藤くんの走りを見たからかな」

「そっか……」

「実は昔、本気で陸上競技の選手のなろうとしていた事があったんだ。陸上競技のクラブチームみたいなところにも通ってね。でも、僕には別に仕事があって、両立を頑張ろうとしたんだけどできなくて。それでメンタル敵に潰れちゃって、どっちもできなくなったんだ」


 佐久間くんを見た入学式の日、その頃からどこか陰があるような人だと思っていた。

 もしかするとそれが原因なのだろうか。


 そして、特に気になった部分があった。


「仕事って……小学生や中学生で?」

「うん。気付いた時には既に子役としてデビューしてたんだ。うちは祖父がそっちの人で、だから母親が同じような道に進ませたかったみたい」

「え……えっ!? じゃ、じゃあ焔村さんと一緒じゃん!」

「あ〜〜はは。そうだね。でも僕は名前は本名でやってなかったし、中学生に上がってすぐ辞めたから。多分焔村さんは気づいていないと思う」


 衝撃的過ぎる事実なんだけど。

 確かにこの佐久間くんの容姿を見れば、俳優でもおかしくないほどイケメンだ。

 芸能界と言われてしっくりはくるけど、まさか本当だったとは……。


「中学生になって陸上だけは少し続けてたんだけど、僕は親の方向性とは違うことをしていたからね。それもあって、辞めちゃったんだ」


 また親か……。ラウちゃん同様に難しい問題だ。

 結局はどちらも辞めてしまったということだけど、佐久間くんはこれからどうしたいんだろう。


「入学式の日、映画が好きだって言ったのは、祖父の影響があるんだ。だから別に俳優業が嫌いなわけじゃない。ただ、両立してやりたかっただけで。でもそれがうまくいかなかったから、子供ながらに悩んじゃってね……」

「じゃあ、きっかけがあれば、もう一度俳優業に戻っても良いと考えてる?」

「今更だけどね。でも、辞めてからもう一度頑張ろうとするのって、凄い勇気がいるんだ」

「それは……そうだよね」


 でも、今の佐久間くんの話なら、それを母親に言ってたげたら凄い喜ぶのではないだろうか。


「陸上の方はどうなの?」

「まだ一年だからこれから成長の余地はあると思うけど、熱は冷めてるかな」


 なら、何か行動するとなれば、俳優業として復帰するという選択肢一つということになる。

 どこかで背中を押してあげれば、佐久間くんは戻る決意ができるかもしれない。


「色々話してくれてありがとう。——実はね、佐久間くんに話しかけたのは連絡先の交換が目的じゃなかったんだ」

「え?」


 そう言うと佐久間くんの目は軽く開かれる。


「家永の代わりにリレーを走ってほしいんだ」

「…………」


 本題を話すと、そのまま少し考え込んだ佐久間くん。

 何を思っているのか表情からは読み取れないが、どちらの答えをくれるのだろうか。


「——条件、つけてもいいかな?」

「え……うん!」


 かなり前向きな答えだった。

 ただ、その条件の内容にもよるけど、できるだけ佐久間くんの願いを叶えてあげたい。


「僕の家……僕の家に遊びに来てくれないかな? 祖父母とも一緒に住んでるんだけど、そこで僕が話すことを見守っていてほしいんだ」

「それって……」

「僕が話すことっていうのは、まだ踏ん切りがついていないこと。でも、リレーを走ることで、吹っ切れることができたら、僕も前に進もうと思う」


 全てを言わずともわかる。

 さきほど言ったきっかけがあればという話。今彼は俳優業に戻ろうとしているのではないだろうか。

 もしそれが彼が本気で望んでいるなら、手助けしてあげたい。


「佐久間くん……! それならもちろんだよ。というかそんなの条件ですらないよ!」

「そうかな? なら、わかった。リレー、頑張らせてもらうよ」


 俺は佐久間くんと握手を交わした。

 こうして、リレーのメンバーの勧誘が成功し、家永の交代枠が埋まったのだ。




 ◇ ◇ ◇




「いやいや、まさか佐久間だったなんてな」

「ほんとだよね。でも、速さって点ではどうなの?」


 冬矢の言葉に今原が同意する。

 ただ、疑問も持つのは当然だった。


 俺も佐久間くんの実力はどこまで本当なのかわからない。

 ただ、100m走で二位だった内容を見て、可能性を感じたから声をかけた。

 多分ブランクもあるだろうし、本気を出したとしても家永や開渡のように走れるとは限らない。

 それでも俺は彼に賭けたかった。


「一応、家にあるランニングマシンで毎日走ってるし、たまに河川敷とかにもいってダッシュもしてる」

「え、マジ……?」

「うん。マジだよ」


 その話は俺も聞いていない。というか家にランニングマシンあるとかルーシーの家じゃん。

 祖父が俳優って言ってたし、誰なのかは聞いていないけど、もしかして結構家がデカい?


「俺は佐久間くんのこと信じてるから、皆も信じてね」

「ああ、もちろんだ」

「しゃーない。家永よりも速いことを祈ろう」


 俺たちは円陣を組んだあと、リレーの集合場所へ向かい、そこから各レーンへと散らばっていった。




 ◇ ◇ ◇




「——光流くん。来たね」


 俺はアンカーである四走目の位置に到着すると、そこで声をかけられた。

 ジュードさんだ。


「はい。なんとか来ました」


 そういえば、予選でのジュードさんの走りは見ていない。だからどれくらい速いかわかっていない。

 けど、三年生でちゃんと二位以上になって今日ここにいるということは、速いことは確実だろう。


「さすがに勝ちは譲れないけど、お互いに全力を尽くそう」

「僕たちだってせっかくここまで来ました。相手がジュードさんでも負けませんよ」


 大好きなルーシーのお兄さんであろうと、ここは忖度なしだ。

 クラスの他のメンバーの走りがリレー全体の差をつけることになるとは思うが、皆には上級生に勝つくらい頑張ってほしい。


「いいね。そういう好戦的なのは大好きだよ。僕も兄さんと同じで退屈な高校生活だったからね。でも光流くんが来たことで最後の一年、楽しめそうだよ」

「それなら期待に答えないといけませんね」


 ジュードさんは見るからに身長は百八十センチを超えている。

 ルーシーの家の人は皆身長が高いから、それだけで歩幅の差というものが生じる。


 世界の陸上選手を見ても、短距離であれば皆身長が高い。つまりその点ではジュードさんは体格的には一歩前に出ているということになる。


「九藤くん……よろしくね」


 ジュードさんとの話を終えると、次に声をかけられたのは君塚来人くんだった。

 昨日は意味深なことを言っていたけど、再度この人と戦わなくてはいけない。


「うん。勝負するなら普通にしよう」

「もちろんだよ」


 君塚くんはうちのメンバーが入れ替わったことは知らないだろう。

 そのせいで多分差がつくと思うけど、どちらに転ぶのかわからない。前回はたまたま同じタイミングでバトンが渡ったけど、今回は一緒に勝負できるとは限らないから。



「生徒会長〜!」

「宝条くーん!!」


 三年生からの圧倒的な応援の声が、走る前から送られていた。

 やはり上級生の間でも人気のようだ。


 一方で一年生からはまだそこまで声がない。上級生という立場がその空気感までもを支配しつつあった。


「それでは、本日最後の競技、4✕100mリレーの決勝戦!」


 実況が競技の開始を宣言。

 一走目の近くにいるスターターの教師がスタンバイをさせるとピストルを空に掲げる。


 大きな号砲が鳴り、最後のリレーがスタートした。



 一走者目は、家永の代わりに出場してくれることになった佐久間くん。

 まさか佐久間くんが出るとは思わなかったクラスの女子がこれでもかと黄色い声を上げていた。


 さらに他クラスの女子生徒も彼のことを知っていたからか、キャーキャーと応援していた。 

 いや応援というより「佐久間くんカッコいい!」とか、そういった声がほとんどだ。


 ともかく今現在、リレーがでは一番注目されていると思って良いだろう。


「佐久間〜〜! 俺の代わりに頑張れー!!」


 家永が出られなかった分を佐久間くんに託すように応援の声を出していた。

 自分の交代が佐久間くんだと知った時、「イケメンは嫌いだけど、今回はお前に託す」なんてことを言っていた。


 そんな佐久間くんの走りだが…………なんと現在一位だ。


「マジか……」


 フォームが綺麗な人は、頭が動かないらしい。そんなことをリレー前に佐久間くんが言っていた。

 その通りで、彼の頭が動かないまま、首から下が動いていて、圧倒的に綺麗なフォームで走っていた。

 そしてそのフォームは速度にも繋がり、上級生をも凌駕していた。


「頼んだ!!」


 黄色い声援を突き抜け、佐久間くんは一位のまま今原にバトンを渡す。


「おうっ!!」


 今原はバトンを受け取った瞬間、すぐにトップスピードへ。

 一位をキープしたまま前半を走っていく。


 しかし、50mほどに差し掛かった時、急に上級生が差を詰めてきた。

 その一つがジュードさんのクラス。


「がんばれ……っ」


 俺は小さく声を出した。


 しかし今原はギリギリで一位をキープして三走目の冬矢へとバトンを渡す。


「行け〜!!」

「任せろ!」


 冬矢が走り出すとルーシーたちの声が聞こえてくる。

 深月も少しだけ声を出しており、ちゃんと応援していた。


 冬矢は今原より足が速いため、差をつけてくれるはず。

 そう思っていたのだが、現実は甘くなかった。


 上級生がめちゃめちゃ速い。


 既に数歩程度の差まで縮まっていた。


 これを見ると佐久間くんの走りがどれだけ凄かったのか気付かされる。

 あれだけのリードを作ってくれたのは、彼が本当に早かった証拠だ。


「冬矢! もうちょい!!」


 俺は冬矢の顔が近づいてきたのを見て、彼に最後の力を振り絞らせるように応援する。

 冬矢も必死になって、腕と足を振り、カーブを曲がってくる。


「光流くん。いよいよだよ」

「……はい!」


 直前、ジュードさんに声をかけられ、勝負前のワクワクに体の内側が熱くなるのを感じた。


 手のひらをグーパーしてバトンを受け取る準備をする。

 ついていた手汗を体操着の裾で拭い、助走開始。


「光流〜〜っ!!」


 冬矢が叫びながら俺にバトンを渡す。


「おう!!」


 ぎゅっと渡されたそれを握り、俺は一位のまま走り出した。


 そのすぐ後のことだ。

 ジュードさんのクラスが二位でバトンを受け取り、最終直線に入った。


「光流〜〜!! 負けるなー!!」

「光流くんもジュードさんも頑張れ〜!!」


 ルーシーと真空の声。

 真空はどちらの名前を出し、公平に応援していた。


「光流走れー!!」


 続いてしずはの声。

 あまり飛び跳ねたりしない彼女も拳を上に上げて応援してくれていた。


 しかし、徐々に詰まる差。

 足音がほぼ隣まで迫っており、今にも抜かれそうだった。


 残り半分まで過ぎた頃、俺は叫びながらラストスパートに入る。


「あああああああっ!!」


 ジュードさんは叫ばない。

 淡々と可憐に俺との距離を詰める。


「光流っ!」

「光流頑張れー!」


 開渡や千彩都の声が聞こえた。


「師匠! 最後!」

「九藤くんラスト!」


 やまときゅんと遠藤さんの声が聞こえた。


「光流〜〜!! 諦めるなー!」

「九藤くん! 最後だよ!!」


 委員長や焔村さんの声が聞こえた。

 委員長の隣にはラウちゃんが支えられて立っていた。


 皆の声が俺の力となり、最後まで力を抜かずに足を動かす。


 ジュードさんが俺に並ぶ。

 でも、抜かせまいと必死に耐える。


「うおおおおおおおっ!!」


 最後、バトンがどこかに飛んでいきそうなくらいに腕を振り、そして——。




 ◇ ◇ ◇




 歓声が周囲に響き渡り、リレーが終わったことを肌で感じる。


 肩を上下させて、荒くした息をゆっくりと整えていく。

 短い距離を走っただけなのに、ぽたぽたと汗が落ちていき、それがどこか重くて。


「くそ〜〜〜〜っ」


 結果、俺たちは三位だった。


 ジュードさんに越されただけではなく、さらに二年生の予選一位だったクラスにも抜かれた。

 ゴール手前五メートルくらいだったと思う。俺はその二人に一気に抜かれていたのだ。


 さすがは上級生。簡単には勝たせてくれなかった。


「光流、お疲れ様」

「惜しかったな〜〜っ」

「九藤くん、良い走りだったよ」


 リレーメンバーがゴールまでやってきて、それぞれねぎらいの声をかけてくれた。


「皆が一位をキープしてくれてたのにな〜。やっぱり一番速い人をアンカーに持ってくるよなぁ」


 せめて二位にはなりたかったけど、それさえさせてもらえないなんて。

 つい先日まで中学生だった俺たち。やはり体格差が出てしまったのかもしれない。


「それにしても、佐久間くんめっちゃ速かったね」

「おう、俺もそれ言いたかったわ。お前すげーな」

「びっくりしたよ。まさかあそこまでだなんて。でもこれで手を抜いてたこともバレたね」


 佐久間くんの走りは圧倒的だった。

 上級生だって速いメンバーを揃えてきていたはずなのに、それでも一位でバトンを渡したんだからとんでもない。


「はは。なんとか良い位置でバトンを渡せて良かったよ」


 今思えば、家永のままだったら、四位以下も全然あり得たということ。それほど上級生は強かった。


「光流くん、お疲れ様。惜しかったね」


 すると先程までクラスメイトに囲まれていたジュードさんが、こちらへやってきた。

 見ると汗一つかいておらず、まだ余裕が見えた。

 もしかすると、もっと速く走れていた可能性がある。


「惜しかったですかね? ジュードさんはまだ余裕そうでしたけど」

「そうかい? 僕は顔にはあまり出ないタイプだからね。でも僕なりに本気で走ったよ」

「来年はそうは行かねーぞ……って、来年はいないのか」


 会話の中、来年の体育祭の話をした冬矢。しかし途中でジュードさんが卒業していないのだと気づく。


「残念ながらね。こうやって勝負できるのは、あとは秋の球技大会くらいかな。それも一緒の競技で、組み合わせも当たればだけどね」


 秋の球技大会。陸上競技とは違い、俺が不得意の球技を中心に行われるスポーツ大会だ。

 それがジュードさんと戦う、最後の勝負。まあ、ジュードさんの言う通り当たるかどうかはその時になってみないとわからない。


「じゃ、僕は戻るよ。またね」


 ジュードさんは軽く言葉を交わして、またクラスの輪へと戻っていった。


「二人ともマジで会長と知り合いなんだな」

「一年生なのに生徒会長と知り合いだなんて。その理由は想像つくけど」


 今原と佐久間くんがそう語るも、俺と冬矢がルーシーと仲が良いということでクラスでも周知されているため、イコールジュードさんとも関わりがあると思われている。


「といっても話す機会はそんなにないけどね」

「そうそう。中学校の卒業式に来た時なんか、無駄に騒ぎ起こして帰っていったし」

「なにそれ!?」


 卒業式の時、アーサーさんとジュードさんが俺たちの卒業式を祝いに来てくれて、一緒に写真を撮った。

 ただ、二人共見た目が大人でイケメンだったため、アイドルのように女子たちに囲まれ、ちょっとした騒ぎになっていた。


「まあ、色々ね……」


 ジュードさんはまだ良いけど、アーサーさんの方はもっと大変だ。

 あの人が高校三年生じゃなくて良かったと思う。毎日のようにクラスに顔を出してきそうだから。



「光流〜〜! 惜しかったね!」


 すると遅れてルーシーたちがやってきてくれた。


 さすがにもう飛びついたりはしなかったけど、一緒になって悔しがってくれた。


「佐久間くんって足速かったんだね〜! 他のクラスの女子たちまで皆キャーキャーしてたよ」


 そう言ったのは真空だ。


「あはは……九藤くんのお陰だよ。本当は走るつもりはなかったんだけどね」

「へえ〜〜」


 それを佐久間くんから聞くと、真空が俺に目線を向ける。


「いや、ただ喋っただけだから。そんな目で見ないでよ」

「男までたらし込むとは……光流くん、人望はどうなってるんだい?」

「だからたまたまだって」


 ニヤついた表情で真空が顔を覗き込んでくるも、別に話すことはない。

 それに、佐久間くんから聞いた話も、許可をとらずに話すつもりもないからな。


 その後もクラスメイトに囲まれ、皆から「惜しかったね」と声をかけられた。


 帰りのホームルームでは、うちのクラスからたくさんのメダルを獲得できたことに、揺木先生が大喜びしていた。

 自分のことのように喜んでいたので、こちらもそれを見て嬉しくなった。


 放課後からはまたラウちゃんの衣装作りが再開される。

 撮影まであと一週間あるかないか。


 こちらもラストスパートをかけることとなる。


 こうして、二日間に渡る俺たちの初体育祭が終わりを告げた。


 


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