262話 体育祭 その6
ルーシーが怪我をして光流にお姫様抱っこで運んで行かれて。
傍からその姿を見送るしかなくて、ちょっと羨ましく感じた。
ほぼグラウンドの外だったけど、見ている人は見ていたし、二人はただならない関係だと気づいた人もいただろう。
それ以前にも光流がリレーで勝った時にどさくさ紛れて抱きつきにいったけど、四人一緒になって抱きついたせいで光流も有名になってしまったかもしれない。
光流が有名になると、どうなるのだろうか。
もっと彼のことが好きになる人が増える可能性が出てくる。今でも増え続けているライバルがさらに増えていくと、私と過ごす時間もどんどん減っていく気がしている。
と、言っても彼の矢印はたった一人にしか向いていない。
その矢印を少しでもこちらに曲げることができればと考えてはいるが、ピアノの練習が忙しいことや光流が軽音部として活動しはじめたこともあり、一緒にいる時間が少ないのが現状だ。
なのでその鬱憤を晴らそうと、私は一日目の競技が終わってすぐ保健室へと向かった。
保健室の扉を開けると、養護教諭の先生が私がなぜここに来たのかを察したようで、顎でベッドの方向を差した。
閉め切られていたカーテンをゆっくりと開けると、天使のように綺麗な顔で、すやすやと小さな寝息をたてる美少女が横になっていた。
こんなに無防備な表情で、気持ちよさそうに寝ている。
何をしても可愛く見えてしまう見た目ではどうやっても勝てない相手。
しかも『九藤』と名前が刺繍されているジャージを着ている。
光流の匂いに包まれて、さぞや安心しただろう。
だから私はそのジャージに手をかけ、ゆっくりとジッパーを下ろした。
「ぁ…………っ」
この子、さらに光流が持ってきたと思われるTシャツまで……。
「ふふふふ……」
だからそのTシャツを捲り、全部脱がそうと試みる。
ブラが見えるとろまで捲り上げるが、これ以上はさすがに起きてしまうだろう。
なので起きると同時にそれを剥ぎ取り、私のものにしようと、準備を整えた。
私はルーシーの膝の怪我をツンツンした。
「んっ…………」
痛いはずなのに、なぜか艶っぽい声を出すルーシー。
私はもう片方の膝もツンツンした。
「ぁ……んん…………」
いやらしいこと、この上ない。
「ん……ん……痛い!? え、痛い痛いっ!?」
やっとルーシーが目覚めた。目を丸くして眉を寄せる。
「——って、しずは!?」
「おはよう、ルーシー」
普段この子には絶対見せないような笑みを見せてあげた。
まだルーシーは自分が中途半端に脱がされていることに気づかない。
状況がわかっていない今しかない。
「覚悟ーっ!!」
「え、えええええっ!?」
ルーシーの右手からジャージの裾を引っ張り、片側を脱がすことに成功。
まだ彼女は何をされているのか理解できず、ただ困惑した顔を見せる。
そうして左手側のジャージも脱がすことにも成功。
残るはブラの上で引っかかっているTをシャツだけ。
「え、あれ……なんで私脱がされてるの!?」
「脱げー!」
やっと何をされているのか気づいたルーシーは、私が脱がそうとしているTシャツを逆に引っ張り抵抗する。
しかし互いに譲らず、Tシャツが上下に動く。その度にルーシーの胸も揺れた。
「この駄肉め!」
「だっ!? ……しずはのだって私と同じサイズじゃんっ!」
確かにルーシーの言う通りだ。
私はこの子と同じFカップだから。
「いた……っ」
「あ、ごめん」
肘には大きめの絆創膏が貼られており、私と取っ組み合いをした結果、少し痛んだようだった。
「ひぁっ!?」
でも、私はその隙にバンザイをさせてTシャツを剥ぎ取った。
そうして、Tシャツとジャージの匂いを嗅いだのだが——、
「なんか……あんたの匂いがする……」
ルーシーが着たことにより、光流の匂いが掻き消えてしまっていた。
それもそうだ。良い匂いで言えば、光流よりも匂いに気を使うルーシーの方が匂いは強いはず。
だから、小さな光流の匂いが強いルーシーの匂いに負けてしまっていたのだ。
「そ、そんなのどうでもいいから服! 早く服着させて!」
ルーシーが喚いてTシャツを取り返そうとしてくる。
「ルーシー! お見舞いきたよー!!」
そんな時、保健室のドアを思い切りスライドさせて元気よく入ってきたのは真空だった。
「ん、これどういう状況? ルーシー裸じゃん」
「裸ではないよ!?」
ルーシーは胸元を両手で隠した。
「えーと。しずは?」
「ぁ…………」
真空の後ろには光流もいた。
そして私はちょうど彼のTシャツとジャージに顔を押し付けていた。
「こ、これは違うの。ルーシーの着替えを手伝ってたら、なんか色々と……」
焦ってうまく説明ができなかった。
それと、つい光流のジャージで顔を隠してしまった。
「って、ルーシーっ!?」
「ひ、光流だめっ! こっち見ないでっ!?」
光流はルーシーが上半身が下着だけになっていたのを見てしまい、顔が赤くなる。
「はーい、光流くんは退出ねがいまーす」
「いや……は、ちょ、真空っ!?」
真空が光流の体を押し出し、保健室の外へと追いやった。
「ふぅ…………」
「ちょっとしずは! 光流に見られちゃったじゃん!」
「光流喜んでたよ」
「あ、それは………じゃなくて!」
「もう、減るもんじゃないんだから。ほら真空があんたのジャージ持ってきてるじゃん」
怒る顔も可愛いとは、なんて嫌なやつだ。
せっかくなので私は彼女の胸に手を伸ばし一揉みしてみた。
「しずはっ!?」
「ムカつく柔らかさね……」
ハリがあってそれに加え柔らかい。
しかも女の私に揉まれても頬を紅潮させるなんて、この子はホントに……。
結局、私は何をしたかったのかと言われればわからない。
ただ、モヤモヤしていた心をどうにかしたくてここに来たことだけは事実だ。
それが晴れたかと言えば、微妙なところだけど。
別にルーシーをいじめたいとは思ったことはない。ただ、光流の愛情を一心に受けるこの子がどうしようもなく羨ましいのだ。
「はぁ……なんなら私の胸も揉んでおく?」
「何言ってるの!?」
「これでお互い様でしょう」
「じゃあ私がいただきまーす!」
「ちょっとぉっ!?」
真空が後ろから私の両胸を鷲掴みにする。
思ってもいなかったことに、私は顔が熱くなるのを感じた。
女の子に揉まれても顔は赤くなるらしい。私はルーシーと一緒だった。
ムカついたので、私やルーシーよりも大きな真空のそれを揉み返した。
その後、ルーシーは真空が持ってきた自分のジャージを着て、一緒になって帰りのホームルームへと向かった。
◇ ◇ ◇
体育祭二日目。
今日は上級生とのリレーに加え、変わり種の競技が行われる日だ。
昨日と同様に変わりなく学校に登校したのだが、教室に入った瞬間、異変を感じた。
そしてその異変の元が俺の近くまでやってきた。
「九藤……すまん! 俺……やっちまった……っ」
家永だった。
申し訳なさそうな表情で両手を重ね、俺に謝罪してきたのだ。
「え、どうしたの?」
まだよくわからない俺は家永に聞き返す。
「足だよ。今日朝起きたら、すげえ痛くて……今日のリレー、走れそうにないんだ」
「あ…………それは、しょうが、ない……ゆっくり休んで……」
ジャージをくるぶしあたりまで捲ると、そこにはテーピングが巻かれてあり、少し腫れているように見えた。
そして俺は露骨に残念がってしまった。家永だって出たいはずなのに。
「ほんとごめんな!」
「ううん! 大丈夫。でも、代わりの人を見つけないとね」
誰か怪我などで出られなくなった場合、もちろん交代が認められる。
なので、家永の代わりを探さないといけないのだ。
順当に行けば、開渡が良いとは思う。昨日の1500mのあとでは辛いだろうけど、一日経過した今日なら走れるはずだ。
「光流、どうする?」
冬矢もこちらまで近づいてきて、交代選手のことを聞く。
「ちょっと時間もらって良い? 心当たりあるから」
「お、おう。さすがは光流だな。任せるよ」
「交渉が成功するかわからないけどね」
俺には開渡以外に一人だけ心当たりがあった。
リレーは午後からの競技、午前中に色物枠の競技が行われるので、交代メンバーを探す時間はある程度残されている。
ただ、いきなり誘って出場してくれるかわからない。それでも俺はその人物に可能性を感じていた。
◇ ◇ ◇
「さあやってきました! コスプレ障害物競走!」
実況の生徒が高らかに宣言。
頭のおかしい競技が始まる。
騎馬戦や借り物競争、二人三脚などが行われる予定だったが、このようにアホみたいな競技も組み込まれていた。
ただ、男子たちはこの競技にかなり注目していた。
それは、女子がとんでもない衣装を着させられるのではないかという期待があるからである。
もちろん男子も参加する競技だが、毎年その衣装は変わるらしい。
この競技は、それぞれ用意されたカーテンのようなもので仕切られた簡易更衣室を一つ選んで中に入り、そこに用意されている衣装をその場で着替え、ゴールまで走るというもの。
しかも障害物ともあって、ゴールまでにはいくつかの障害物が用意されている。
外から見る限りでは、パン食いや網くぐり、平均台など、よく見るもののようだった。
「スタート!」
そうして始まった障害物競走。
うちのクラスからはラウちゃんが出場した。
コスプレとついているからこの競技を選んだとも思われるが、正直障害物が多くて、ラウちゃんには厳しいのではないかと思っている。
既に疲れたようにゆっくりと走り出すラウちゃん。最初から圧倒的にビリで、他の生徒から十秒ほど遅れて最後に残った簡易更衣室へと入る。
しかしそこからが驚きだった。
なんと一番最初に更衣室から出てきたのはラウちゃんだったのだ。
彼女はコスプレ経験者だからか、着替えることが途轍もなく早かったのだ。
ただ、走りはめちゃめちゃ遅い。
「うおおおっ! チャイナだ! チャイナ!」
ラウちゃんが着たのは、チャイナドレスだった。
赤くぴっちりとしたその服装に短めの丈。スタイルの良さもあって、バッチリと綺麗な足が露出していた。
それを見て男子たちが声を上げる。
ラウちゃんから少し遅れて出てくる他のクラスの生徒たち。
メイド、警官、ナース、スク水、バニーガール。
本当に学校でやっても大丈夫なのかというコスプレの種類である。
男子たちは盛り上がる一方、意外と女子たちも盛り上がっていたことに俺は驚いた。
エロさを感じさせる衣装のなか、パンを咥えるためにジャンプしたり、狭い網をくぐって手足や胸が絡め取られたり、平均台でこけてパンツが見えそうになったり。ハプニング満載の障害物競走だった。
その中で特に目を引いた人物がいた。
スク水の子だ。
どのクラスの女子なのかはわからないが、身長はどうみても百五十センチより低く、小学生に見えてもおかしくない体型だった。
その女子が、スク水の胸に『ロリ』と書かれた名札がつけられてあった。
「うわああああん。なんで私が〜〜〜〜っ」
どのような気持ちで見たらいいのかわからないが、なんだか笑ってしまった。
「小夏ちゃん、頑張れー!」
「こなっちゃーん! ジャンプ!」
彼女には温かい声援が送られていた。
泣きながら走ってはいたが、それほど心配する必要もないだろう。
補足しておくと、ラウちゃんはビリでゴールした。
◇ ◇ ◇
そうしてやってきた借り物競争。
正直、この競技の内容も俺は疑っている。コスプレ障害物競走なんてやる学校だ。
絶対おかしいお題が書かれている気がする。
集合場所に行くと、その場に佇んでいるだけで圧倒的存在感を放つ彼がいて、目を見張った。
「久しぶりだな、九藤光流」
「守谷くん、久しぶり」
そこには二メートル近くの巨躯、守谷真護が堂々と立っていた。
「同じ競技だが、お手柔らかにな」
「それ、こっちのセリフなんだけど……」
守谷くんとは同じ組らしい。彼とぶつかるようなことがあれば、俺は簡単にふっとばされてしまうだろう。
別の話だが、合同体育の時間にラグビーがなくて本当に良かったと思う。
「あ、そういえば守谷さんから、兄妹だって聞いたよ」
「そうか」
「だからさ、名前を呼び分けるために、真護くんって呼んでもいいかな?」
「ああ。もちろんだ、九藤光流」
「ありがとう、真護くん」
彼は相変わらず俺をフルネームで呼ぶ。
けど、これはこれで彼らしいので、俺は良いと思っている。
そうして俺たちの組の順番がやってくると、真護くん同様にスタート位置に横一列に並ぶ。
借り物競走は、少し先の机がある場所まで向かい、そこで好きな紙を捲る。
その紙に書かれてあったものを持ってきて、ゴールまで走るといったものだ。
内容はシンプルなのだが、その紙の中身が何なのかによって、勝敗は大きく変わるだろう。
それに一つだけルールがある。紙の内容はゴールするまで誰にも言ってはいけないということだ。
スタートすると、俺たちは一斉に机へと詰め寄る。適当な紙を捲って、その中身を確認。
「はぁぁぁぁぁっ!?」
紙の内容を見た瞬間、俺は嘘だろ、と思いながら叫んだ。
それは俺だけではなかったようで、他の生徒たちも似たような反応をしていた。
ただ一人、真護くんだけが冷静に中身を見て、動きだした。
「く…………っ」
俺は紙を短パンのポケットに突っ込むと、とある場所へと向かって走った。
◇ ◇ ◇
「光流くん頑張れー! …………って、あれ? なんかこっち向かってきてない?」
真空が競技が始まった光流に声援を送ると、一直線にこちらへ向かってきたことに驚く。
そしてそれは、ルーシーやしずはも同様の反応をしており、まさか……と感じていた。
借り物競走のことはおおよそ理解していた。
よくあるパターンだと『好きな人』と紙に書かれていて、その人をゴールまで運ぶという内容。
ただ、光流はそんな『好きな人』だけを求めて探しているような目ではなかった。
「光流っ!? どうしたの!?」
目の前まで走ってきた光流を心配するルーシー。
「いや……ええと、ルーシーは怪我してるし、そうじゃなくてもさすがに……しずはなら……ギリギリいけるか? でも一人じゃないし……ああああああっ!?」
女子を前にして光流は発狂する。
「光流! 私なら行けるよ! 私のことが書かれるんだよね!?」
「いや、私だよね!? 怪我の痛みは薄らいできてるから気にしないで!?」
しずはが詰め寄り、ルーシーが万全だとアピール。
「ルーシー! しずは!」
「ひゃいっ!」「なにっ!?」
光流から名前を強く呼ばれ、二人がビクッと反応する。
「二人共お願い! くっついて!」
「はい〜!?」
覚悟を決めた光流は二人に謎のお願いをした。
「なんで私がこいつと抱き合わなきゃいけ——」
「しずは! いいから私と抱き合って!」
「なんで〜〜っ!?」
嫌がるしずはをルーシーがぎゅっと抱きしめ、二対の山がぽよんと潰れるように接触。
「そのまま膝を曲げて少し腰を落として! 片方の手を俺の肩か頭に!」
「こう?」
「そう!」
ルーシーとしずはが光流の指示に従い、ようやく体勢が整う。
「行くよ!」
「「えええええええっ!?」」
光流は突然二人の両足を片手で持ち上げ、絶妙なバランスで立ち上がった。
さすがにルーシーもしずはも叫んだ。
「ひ、光流!? これ何してるの!?」
「ぐ………この、まま……走る!」
「意味不明!?」
全身をぷるぷるさせながら二人を同時に持ち上げた光流。
言わば約八十キロ近くのベンチプレスを持ち上げているのと同義だった。
「光流! これ大丈夫!? 本当に大丈夫!?」
「ちょ、ちょ……! 落ちる落ちる!!」
ゆっくりと少しずつ前へと進む光流。
ルーシーとしずはは光流がいかに筋肉を鍛えていてもさすがに二人を同時に持ち上げながら走るのは無理だと思っていた。
「うお、なんだあれ!」
「すげ〜〜」
奇跡的な光流の怪力に、観客の一部が反応をし始める。
ただ、少しでもバランスを崩せば落ちてしまいそうな体勢。
光流は必死になって二人の膝の上の隙間から前を向いて進む。
「…………え!?」
「ど、どうしたルーシー」
ゆっくりと走っている途中、ルーシーが後ろを見て何かに反応した。
「光流! 後ろから来てる! 巨人が来てる!」
「九藤くーん、追い抜いちゃいますよ〜」
「まさか…………」
守谷さんの声がした。
つまりだ。恐らくそこにはもう一人、真護くんもいると予想できた。
「わ、私たちと同じじゃん!」
しかし、しずはの言動で俺は気づく。
まさか似たような内容の紙を引き、真護くんは二人一緒に担いでいる!?
「九藤光流くん、はじめまして。僕は守谷偵次。三兄妹の次男をしてる。よろしくね」
「こ、このタイミングで!?」
守谷さんから聞いていた兄妹の話。
最後の一人がそこにいるようだった。ただ、俺は前しか見られないので顔が見れない。
声だけで、反応するしかなかった。
「光流! 追い越されるよ!」
「ぐ……どうにか……っ」
ただ、勝負は勝負。できれば勝ちたかった。
俺は真護くんに追いつかれないように必死に力を振り絞る。
距離は大体50m。でも、二人を担いでとなるとかなり遠くに思えた。
「光流! 頑張れ!」
「負けないで!」
頭上の二人の応援の声が聞こえる。
ただ、彼女たちが掴む俺の頭や肩がめちゃめちゃ痛い。振り落とされないように俺が指示したものだが、想像以上にがっちり掴まれて、かなり辛かった。
俺は二人と密着してシトラスやフローラルな香りが鼻腔をくすぐるが、今は良い匂いを堪能しているどころではなかった。
「ぐ、おおおおお」
潰れかけの太ももを一歩一歩前に出す。
「九藤くーん。さよなら〜」
「ああああああっ」
俺を追い越し、守谷三兄妹が前を行く。
俺の力ではこれが限界で、リレーのようにギリギリ勝てるといったものではなかった。
そして、俺を追い抜いたのは真護くんだけではなかった。
お姫様抱っこで女子を運ぶ男子。教師の上着を借りて着込んで走ったり、バットを持ってきたり。先ほどはお題を見て叫んでいたはずなのにどう見ても俺よりも簡単な内容だった。
結果、俺はビリでゴールした。
ゴール前で二人を下ろし、震える足のまま、ポケットに入れていた紙をなんとか係員に渡す。
「………この内容はお二人さんにも確認してもらわないといけませんね」
「ええっ!?」
係員の女子が紙の中身を見て、そのままルーシーとしずはに紙の内容を見せはじめた。
確かにゴールした後は中身を他の人に見せても良いルールだけど——、
「——ふむ。その反応を見れば、問題なさそうですね。ビリでしたけど」
ルーシーとしずはの顔が赤くなっていた。
ついでに紙の内容を知られた俺も赤くなってしまった。
「光流……」
「これ……」
「ああ……ええと……はい」
ただ、頭をカリカリすることしかできなかった。
紙に書かれていた内容は『あなたにとって特別な人を二人担いできてください』だった。
連れて来るならまだしも担いでって、普通に無理だろ。これを引いた時点で負け決定。
ただ、真護くんはとんでもない怪力でそれをやってのけた。堂々の一位でゴールだ。
俺がお題を見て悩んでいたのは、身長が低くてかつ軽い人でないと持つことができないと考えたから。
一瞬、小さい下澤先輩のことを思い浮かべたが、『特別』という条件だと、結局この二人しか当てはまらなかった。
冬矢も特別な友達ではあるけど、体重的に担げないのは決定的だったしな。
「も、もどろう! わっ——」
「「きゃあ!?」」
一歩前に足を踏み出したところ、足がぷるぷる震えていたため、うまく歩けず目の前にいた二人に覆いかぶさるように倒れ込んでしまった。
「いったぁ……」
「ル、ルーシー! しずは! 怪我、だいじょう——ぁ……」
俺の両手にはダブルFカップが収まっていた。
わなわなと震え、顔が赤くなっていく二人。そして、その様子を見下ろしていた女子の係員。
「昨日から見ていましたけど、九藤さんでしたっけ? あなた節操ないですね。——変態は軽蔑します」
「ち、ちが——」
「「どこ触ってるのよっ!!」」
「ぐへぁっ!?」
係員の女子に痛烈な一言を加えられたと思えば、そのすぐあとにルーシーとしずはのダブルビンタを喰らってしまい、俺は地面に倒れ伏した。
立ち上がった二人は、俺を置いていこうとしたのだが、結局は戻ってきてくれて恥ずかしがりながらも一緒にクラスの待機場所に戻ってくれた。……優しい。
そうして、その後も様々な競技が行われていき、午前の競技が終了。
お昼休憩を挟み、最後の上級生とのリレー競技に挑むこととなった。
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