231話 勉強合宿 その4

 廊下からリビングへ続く扉。

 大きな音を出さないようにゆっくりと開け、中に入った。


 テラスが見える大きなガラスの窓。

 レースカーテンがひらひらと風に揺れ、窓が開いているのがわかった。


 近づくと、足を伸ばせるビーチチェアに座っているルーシーの後ろ姿が見えた。

 月明かりに照らされて、金色の髪がキラキラと幻想的に輝く。


 俺は窓に手をかけて、テラスへと出た。



「ルーシー。待った……?」



 俺が来たことを音で察知したルーシーが首を振り、こちらを向いた。


「ううん、そんなに。ほら、温かいミルク淹れてあるから隣座って」


 横並びにくっつけてあった二台のビーチチェア。

 肘置きがないタイプなので、そのまま合体したようになっていた。

 ルーシーはそれをポンポンと軽く叩き、俺に座るよう言った。


「ありがとう」

「でも、寝る前にちゃんと歯磨かないとだめだよ?」

「わかってる」


 普通なら俺が好きな温かいコーヒーを淹れてくれるだろう。

 でも今はもう寝る時間。カフェインによって覚醒しないようコーヒーではなくミルクにしてくれたところに彼女の優しさを感じた。小さい気遣いがこれとなく嬉しい。


 俺はビーチチェアに腰を下ろすと、すぐにルーシーが隣のビーチチェアから腰を動かし、俺に寄り添ってきた。

 浴衣の茶羽織同士が擦れる音が聞こえ、密着したのを感じた。


 その状態で俺はカップに入ったミルクを一口飲んだ。


「温かいし、美味しい……」

「外で飲むのって、中で飲むのと全然違うよね」


 牛乳は温めるとなぜか甘みを感じる。

 そのちょうど良いまろやかな甘さが口に広がり、体を芯から温めた。


「うん。ここは海沿いだからか、尚更だね。……ちょっと海臭いのはあるけど」

「せっかく良い感じのこと言ったのに、海臭いとか言わないでよ〜」


 目の前には漆黒の海。

 海沿いの場所ともあって街灯がかなり少ない。そのせいで月明かりがあったとしても今はほとんど海が見えていなかった。

 ただ、さざなみの小さな音が聞こえるため、近くに海は感じていた。


「ルーシー、これ」

「あ……」


 五月も中旬を過ぎ、気温も段々と高くなってきていた。

 しかし最低気温はまだ二十度を超えない。今だって恐らく十五度からその後半。

 しばらくこの場にいるには浴衣では肌寒く感じるだろう。


 だから、ソファの背にかけられていたブランケットを持ってきていた。

 それをルーシーと自分の上にかけ、一緒になってくるまった。


「あったかい……」

「だね……」


 ただ静かに、のんびりと、時の流れが遅く感じる時間。

 接触する手同士が互いの体温を知らせてくれる。


「――聞いたよ。火恋ちゃんとの話……」

「あ……え…………?」


 怒っていない、とメッセージで言いながら、俺の右手は今、ルーシーの左手で思い切り力を込めて握られていた。

 本当に怒ってない、よね……?


「少し前ね、火恋ちゃんが突然謝ってきたの。ほとんど話したこともないのに、何のことだろうって。その時はわからなかった」

「そうだったんだ……」


 焔村さんがルーシーに謝っただなんて聞いていなかった。

 そもそも、ルーシーたちにはまだ何もしていない。謝る理由なんてないはずなのに。


「でも、さっき話を聞いてわかったの。……私の知らないところで、守ってくれてたんだね」


 焔村さんは、全部話したのだろうか。

 でも、ルーシーたちに何かをしようとしていたことは話したと思われるような言い方だ。


「敵っていうのも変だけど、最初はそうだった相手を改心させて、デートまでさせちゃう光流、凄いね……」


 最後半分だけ、チクッとした言葉だ。

 デート。俺が否定しても、周囲からはそう見えてもおかしくない状況だった。


「火恋ちゃん自身も言ってたからわかってる。光流は振り回されてただけだって」

「ほ、ほんと?」

「手は繋いでたらしいのは、聞き逃がせなかったけど……」

「ル、ルーシーさん?」


 右手が痛い。痛いよルーシーさん。

 怒ってないんだよね?


「お姫様抱っこもされたって言ってた」

「あ、あれはそうした方が絶対早く走れたから……」

「わかってるよぉ……。でも、少し前に社交界で私をお姫様にしてくれたと思ったのに、他の女の子もお姫様にしてたなんてね……」


 言葉が痛い。

 結果的にお姫様抱っことか手を繋いだりしたことは申し訳ないけど、全てはルーシーの為にやったことなんだ。

 でも、わかっていても許せない時ってあるよね……。


「今、して……」

「へ……?」

「お姫様抱っこ!」

 

 焔村さんの話を聞いて、自分もしてほしいと思ったのか。

 ルーシーは駄々をこねる子供のようにして、俺の浴衣の胸辺りを掴んでいた。


「お安い御用ですよ。お姫様……」

「〜〜〜っ!」


 俺はすぐに立ち上がり、ビーチチェアに座っているルーシーを両手で抱え上に持ち上げた。

 普段から鍛えていたお陰で、焔村さん同様に軽く持ち上げることができた。


「どう、ルーシー?」

「……ま、満足です……っ」


 想像以上に恥ずかしかったのか、ルーシーは両手で顔を隠しながらそう言った。


「何顔隠してるのさ。ルーシーが言ったんだよ?」

「だ、だって……なんか、こうも軽く持ち上げられて、しかもお姫様抱っこだよ? そんなの女の子が一度はされてみたいやつじゃんっ」

「そうなんだ。願いを叶えてあげられたなら良かったよ。ついでにこれはどう?」

「え、ええ、ええ〜〜〜っ!?」


 俺はルーシーを抱えながらその場で回転した。

 突然の視界の回転にルーシーは驚き、叫んだ。


「ちょっと光流!? 落ちるっ! 落とさないでね!?」

「落とさないって」


 絶対に落としはしないが、外にかかる遠心力のお陰で、落ちるのではないかという恐怖があったようだ。

 しばらく回転したあとに、俺はルーシーをビーチチェアへと下ろした。


「バカっ!」

「いたぁっ!?」


 やりすぎたようだ。ルーシーに胸辺りを叩かれた。


「もう……体あっつくなっちゃったじゃない」


 そう言うと、ルーシーは茶羽織を脱いで浴衣だけの姿になり、パタパタと手で自分の胸元を扇いだ。少しはだけた胸元が見えた。

 俺も同じく体が熱くなってしまったので、同じようにして、茶羽織を脱いでビーチチェアに腰を下ろした。




「――今日のことも、全部光流のお陰だよ」



 しばらく涼んだあと、ルーシーは暗い海を見つめながら呟く。


「光流と出会わなかったら、友達もできなかったし、こうやって皆でお泊りなんてすることもなかった。全部が初めてで、全部楽しい。楽しいことが多すぎて、おかしくなりそうだよ」

「それは、なによりで……」

「光流、ズルいなぁ。他の女の子にもいっぱい注目されちゃってさ、嫉妬しないわけないじゃんっ」

「あはは……俺は俺のできることをしてるだけなんだけどな……」


 結果的にそうなっているだけで、別に異性に好かれようとしての行動ではない。

 でも、最近はよく思う。


 類は友を呼ぶということだ。


 努力とか、本気とか。どこかで何かを頑張っている人が近くに寄ってきている気がする。

 焔村さんだってよく話を聞けば、あんな酷いことを考えてはいたが、女優に対しては本気で取り組んでいるようだし。

 ラウちゃんだって今日の話を聞いて、ただコスプレが好きなだけでやっているとは思えなかった。


 そんな人が集まってくるからこそ、俺は見過ごすことができないのかもしれない。


「わかってる。何度も言うけどわかってる! でもさぁ……」

「じゃ、じゃあルーシーにしかお願いしないことするから」

「え……?」


 ルーシーの気持ちがどこか晴れないので、ルーシーのためだけにできることをしようと思った。

 俺は体勢を九十度変えて、足をビーチチェアの横に下ろした。そのままの状態でルーシーの太ももに頭を置いた。


「俺、こうやって女の子に甘えるの、ルーシーだけだよ……?」

「光流……」


 自分から膝枕されにいくなんて、おかしい行動ではあるかもしれない。

 けど、今のルーシーは俺からの特別を求めていたような気がした。


「もう……こんなので、全部がチャラになんてならないからねっ」

「今はこれで勘弁してよ……」


 言葉とは裏腹に、その表情は嬉しそうで。

 ルーシーが俺の髪の間に指を通し、くるくるといじったり撫でたりしてくれた。


「あとさ……社交界の日から時間が経った今だから言うけど……み、見たでしょ……っ」

「え、見たって……」


 今……? 今その話するの?


 お風呂パニックの時から、ルーシーは直接的にはこの話題を自らはしなかった。

 やっぱり恥ずかしかったんだろうと、俺も話題に出すことはしなかったのだが、このタイミングで……?


「わ、わかるでしょっ!」

「あはは……。見たと言えば……見たけど……な、なんて言えば良いかわからないよ」


 もう、あれから何日が経過しただろうか。

 ルーシーと、他の四人の体。特にルーシーなんて、俺の上に乗っていて、本当に目の前で上半身が全部見えてしまっていた。

 目に焼き付いて、何度も思い出してしまうというのに……。


「ど、どうだったの! 私の体っ!」

「ええっ!? それ聞く!?」


 感想を求めてどう話を終わらせるつもりなのだろうか。


「いいからっ! ちゃんと言ったら少しは許してあげるから、嘘偽りなく全部言って!」

「本当に、本当に言って良いの……?」

「良いって言ってる!」


 ヤケクソになってるような気がする。

 でも、ルーシーが言ったんだからな、あとは知らないぞ俺は。


「…………ええと、すっごい素敵な体だったと思います……ええ」

「〜〜〜〜っ!?」


 再び両手で顔を覆うルーシー。

 言わせたくせに……もっと言ってやる。


「俺の顔を叩いてる間も、凄い揺れてて……肌がとっても綺麗で……正直、あの時のことを思い出して、家で一人で――」

「なっ、何言おうとしてるの!? そんなところまで聞いてないっ! バカっ!」

「あだぁっ!?」


 全部って言ったじゃないか!

 全部とは全部だ。


 俺は思春期の健全な男子学生だぞ。

 想像力が豊かなんだ。


 世の中の男子に好きな女の子のえっちな姿を想像したことがあると聞いたら、全員がYESと言うだろう。そんなの俺も同じに決まってる。


 膝枕状態のままルーシーのハンマーのようなグーの振り下ろし攻撃により、俺の顔面は殴打された。しかし、ボクサーのように両腕を上げてなんとかガードしきった。


「はぁ……はぁ……わ、私だって……光流の、たまに……思い出して……」

「え……?」

「な、なに言わせてるのよっ! 忘れて! 忘れないとダメっ!」

「なんも言わせてないけど!?」


 ええと、ルーシーさん。

 俺のことを思い出して、ナニをしてたんですか?

 ナニをしたんですか?


 ほんと、可愛いなぁ……。



 永遠に続きそうだったルーシーとの真夜中の時間。

 このままだとさすがに明日に響きそうだったので、そろそろテラス密会はお開きにすることにした。



「――光流……」


 飲み物を片付けて、歯を磨いて。

 二人で二階へと上がり、それぞれの部屋に戻る時。


 ルーシーは俺の瞳を見つめて、名前を呼んだ。


「うん……」


 手を広げずとも、ルーシーが求めていることがわかった。

 もう何度か、繰り返しているこの行為。


 ただ、社交界の日に一つ追加された。

 互いの腎臓のある場所に触れること。


 優しくお腹あたりに片手で触れるとルーシーも同じように俺の腹部に触れた。

 そして、そのまま少しだけ力強くぎゅっとルーシーを抱き締めた。


「ん〜〜〜〜っ」


 抱きしめながらルーシーは俺の胸に顔を埋め、たんまりと匂いを吸い込んでいた。

 ルーシーの口と鼻が当たる部分が温かい。


「たまになら……私の体、思い出してもいいよっ。それで光流の頭の中を私でいっぱいにしてくれるなら……」

「え……っ!?」

「じゃ、じゃあおやすみっ」

「お、おやすみ……」



 ルーシー。その言葉、えっち過ぎません?


 もう、ずっと君の体で頭がいっぱいだったんですけど。

 これからも思い出して良いんですか?


 ああ、体が熱いよ。

 



 部屋に戻ったあと、俺は悶々としていて、しばらく寝られなかった。

 多分、ルーシーも同じだろうと思いながら、暗闇に意識を放り投げた。




 ◇ ◇ ◇




 翌朝、朝食後。

 それぞれ着替えたり準備を整えてから、勉強タイムとなった。


 昨日は勉強したり、バーベキューをしたり、トランプをしたりと体と脳を動かしたためか、皆ぐっすりと眠れたようで顔色が良い人が多かった。


 ラウちゃんはいつもと変わらず眠たそうにしていたが、皆にコスプレをしてもらえると決まったからか、少しだけ昨日よりも勉強を頑張っている気がした。

 自分からはほとんど質問はしないのだが、手が止まっている時は悩んでいる時だとわかるからそこで声をかけてあげればよかった。


 それに、なんとなくだが、女子たちの仲が昨日よりずっと良くなっているように思えた。

 ルーシーが言った焔村さんからの話とか、他の人の恋バナを聞いたりしたのだろうか。あとは裸の付き合いって仲良くなるとも言うし。


 ともかく仲が良くなるのは良いことだ。

 焔村さんだって、今日は昨日よりも発言回数が多い。そういえば、今まで友達がいなかったような話を聞いていた。

 これを機ににちゃんとした友達になってくれると俺も嬉しい。



 そうして、お昼も過ぎ、十五時頃。

 俺たちは勉強の手を止め、予定していた海へと向かった。



「海だぁ〜〜っ!」



 真空が叫びながら裸足で海の浅瀬へと突入した。


 夏ではないので、もちろん水着ではないのだが、膝丈のスカートが海水に濡れないように手で裾を捲って縛っていた真空。

 そのせいで太ももの上までバッチリと生足が見えていた。


「きゃあっ! まだ冷たいよ〜っ!」

「これ足首までしか無理!」


 ルーシーやしずはも海に入ると、まだ低い海水温に冷たがっていた。

 ルーシーはワンピースの裾を軽く縛って、しずははジーパンを捲っていた。


「ちょっと水飛ばさないでよ!? 今日の着替えこれしかないんだから!」


 そして焔村さんも自ら皆の輪に加わっていて、楽しそうにはしゃいでいた。

 怒りっぽい声を出していたものの、表情は笑顔だ。


「冬矢! 殺すっ!」


 その横で酷い暴言が飛んでいるがいつものことだ。

 冬矢が何か深月に対して変なことをしたのだろう。現場を見なくても察しが付く。

 ちらりと視線を向けると、深月がカンカンに怒って冬矢を追いかけ回していた。


「――ここはやはり天国か……?」


 家永が今日も目を血走らせて海ではしゃぐ女子たちを見ていた。

 昨日も十分に興奮していたようだが、今日も生足が見られている影響か変わらない様子だ。

 浴衣姿も生足ではあったが、今のほうがよく皆の足が見えた。


 ちなみに一番薄着なのは遠藤さんだ。

 元々陸上部のユニフォームはかなり布面積が狭い。だからか肌を見せることにあまり抵抗がないようだ。今はショーパンにぴったりとしたTシャツを着ており、十分に足が見えていた。

 遠藤さんはやまときゅんに水をかけようとしたりしてはしゃいでいた。



「家永も行ってきなよ」

「九藤は行かないのか?」

「ああ、ラウちゃん一人だけ残すのはね。あとで行くから」


 別荘には何でも置いてあり、特に海に関するものが多かった。

 まだ夏ではないが、日差し対策に俺たちはビーチパラソルを二台立てて地面にはレジャーシートを敷いて座れるようにした。

 さらに隣にはビーチチェアと軽いテーブルセットも持ってきていた。


「な、なら俺は行ってくるぜ! うお〜〜〜っ!」

「堀川、家永が変なことしないか頼むね」

「はは、任せとけ」


 女子たちの下へと走って行った家永に続いて堀川も海へと向かった。


 今、俺はレジャーシートにラウちゃんと一緒に座っていた。

 勉強を頑張ったせいか今はダウンしていてパラソルの影で目を瞑っていた。


「…………」


 何も喋らず、本当に眠っている様子だ。

 彼女のやりたいことが実現できてよかった。七月には写真撮影をしなくてはいけないため、彼女はこれから一ヶ月間がコスプレ衣装を作る集中的期間となるはずだ。


 こうやって少しは仲良くなれたのだから、ちゃんと進級してほしい。

 推薦入学なのか、学力で入ったのかわからないが、勉強に関してはちゃんとしないと進級が難しい学校だ。留年はしてほしくない。


「くど〜」

「ん……?」


 ラウちゃんは寝ていたわけではなく、ただ目を瞑っていただけのようだ。

 隣にいる彼女を見下ろすと薄目だが、目を開けていた。


「…………ありがとう」

「あ……うん」


 突然の感謝だった。


「ちゃんとお礼、言いたかったから」

「寝ながら言うことがちゃんとっていうのかは議論したいところだけどね。……とりあえず、どういたしまして」


 でも、まだやると決まっただけ、これからコスプレをちゃんと用意して、それから皆が衣装を着る。そこから写真撮影もあるのだ。

 もしかすると、想像以上に大変なのかもしれない。


「なんかあったらさ、また手伝うから。言ってね?」

「ん……そうする」


 一瞬だけ、ラウちゃんが微笑んだ気がした。

 彼女が笑っているところを見たことがない。無気力が故に表情も動かさないのか、だからか周囲からクールに見られている。


「せっかくだしさ、少しだけ海行ってみようよ」

「え……。私、海、あんまり得意じゃない……」

「泳いだりするわけじゃないんだしさ」


 多分、誘わないと一生海には行かないかもしれない。

 そんな印象を持っている。


「潮の匂いが……」

「え、そっち?」

「海鮮もの、苦手……」


 俺たちいつから食べ物の話してた?

 確かに海鮮が苦手という人は意外といる。海鮮が食べられないなんて損をしていると思いながらも苦手なのだからしょうがない。


 昔、家族と行った箱根の旅館。

 いくら食べ放題のバイキングがあった時には喜んだものだ。刺し身もあって、それをご飯の上に乗せて海鮮丼にして食べた。

 ただ、朝食バイキングでのいくら食べ放題だったので、あまり量は食べられなかったのを覚えている。


「ほら、行くよっ!」

「おえっ!?」


 俺はラウちゃんの体を無理やり起こして立たせた。

 少し変な声をあげたが、気にせずだ。


 そうして、体を支えながら海へと一緒に歩いていった。



「あ、光流にラウラちゃん!」

「ん〜〜〜」


 ルーシーが俺たちがやってきたことに気づき、近づいてくる。


 実は今日のルーシーの髪型。

 海水がつかないようにか上にまとめていた。

 綺麗なうなじのラインが見えて、少しドキッとするのだ。


「せっかくだから連れてきた。遊んであげて」

「ふふ、ただ海に入ってるだから遊ぶとかはないんだけどね。でもほら……貝とかあったよ」


 するとルーシーは浅瀬で拾ったのか、白い巻き貝の貝殻のようなものを手に持っていた。


「なんか加工したらアクセサリーとかになりそうだね」

「ふふ。ちょっとこれは大きすぎるけどね」

「貝殻……水着か……」


 俺とルーシーの会話の中、ラウちゃんが変なことを言い出した。

 貝殻水着といえば、ホタテのような貝で胸と下半身を隠すあれだよな?

 何を想像してるんだ……。


「――深月っ! やめろっ! さすがに水かけすぎだろっ!」

「うるさいっ! 大人しくかけられなさいっ!」


 後方で冬矢と深月の声がした。それがどんどん近づいてきているのを感じた。


「あ、光流っ!」

「――え?」

「うおっ!?」


 気付いた時には、深月から逃げていた冬矢が俺の背中に激突。

 ルーシーが避けるように言おうとしたが、それも時すでに遅し。


 そして、間の悪いことに俺もちょうどラウちゃんを支えていた時だった。

 つまり俺とラウちゃんが、冬矢に押されてそのまま海へと顔面から全身ダイブしてしまった。


「光流っ!? ラウラちゃんっ!? 大丈夫!?」

「あ、わりぃ……」


 全身ずぶ濡れになりながら、なんとか起き上がると、ルーシーの心配の声と冬矢の謝罪が同時に聞こえた。

 隣のラウちゃんもなんとか起こし立たせてあげると、とんでもないことが起きていた。


「ラ、ラウラちゃんっ!? な、なんで……!?」

「んあ……なにがだ……?」


 立ち上がったラウちゃんに目線を向けたルーシーが衝撃的なものを見るような表情をしていた。


「だ、だって、胸……! ブラジャー!」

「ん……? あ〜〜〜、忘れたみたい」


 ルーシーに指摘されて視線を落とすと、白いTシャツが濡れ透けして見えてはいけないものが見えていた。

 そこにはふんわりと桜色の何がが海水によって張り付いたTシャツの上から見えていたのだ。

 ルーシーは隣にいた俺に鋭い視線を向けた。


「光流っ、見ちゃだめぇ〜〜〜っ!!」

「ぼぉふっ!?」


 俺はルーシーに思い切りビンタされてしまい、二度目の海水ダイブをすることになった。




 …………




 このあと全員が足を洗うのにシャワーを借り、俺とラウちゃんとその多数名は全身にシャワーを浴びることになった。

 俺は予備の服がなかったので昨日の服を着る羽目になったが、ラウちゃんは一番身長が近いルーシーの服を借りていた。ただ、胸の部分がかなりゆるゆるだった。



 こうして、俺たちの勉強合宿は終わった。

 家にいる時よりも長く集中して勉強ができた気がするし、皆がいて教えることによってより理解度が深まった。


 今回は中間テストで麻悠に勝って、キーボードのポジションになってもらうことが目標だ。

 あと一週間ちょっと、勉強のラストスパートが始まった。





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