224話 奉仕の朝
「ん……」
俺はベッドの上で目を覚ました。
カーテンは閉められ、部屋の中に光がほとんど入っていない状況。
なんとか今までにあった出来事を思い出し、我に返った。
「誰かが着替えさせてくれたのか……」
風呂場で倒れてからの記憶がない。
社交界でも色々あったのに、お風呂場でも色々あって……。
でも、その色々を見てしまった。
最初は及川さんだけだったのに、結局全員のモノを見てしまった。
やばい、絶対に気まずい。
「あ〜、合わせる顔がないよぉ……」
ルーシーはまだ大丈夫。前にも下着を見たことはあったし、会話すればなんとか仲直りはできそう。
でも真空はあまりにも気まずい。
最近は仲は良くなってはきたが、いきなり裸を見てしまうだなんて予想外だった。
確かに大きかったけど……。
いや、そんなことを考えてるんじゃない。
どう顔を合わせれば良いんだ。それを考えるべきだ。
でも……。
疲労感がまだ残っていて、考える余裕はない。
だから、俺はこの件は明日の俺に任せることにした。
「うぅ……」
尿意を感じ、ぶるっとベッドの上で体を震わせる。
ゆっくりと体を起こし、暗闇のなか部屋の外へと向かった。
結構長い間、気を失っていたようだ。
そのまま寝ちゃったみたいだし、もう皆起きてないよな。
ひとまず時間も確認せずに俺はトイレを優先した。
部屋を出ると、薄暗い廊下を壁伝いに進んだ。
そうしてトイレを発見して用を済ませると同じように壁伝いで自分の部屋に戻った。
「ん〜〜、まだ眠い」
ゆっくりと歩きながらベッドに向かい、再び心地よいマットレスと羽毛布団に包まれた。
「…………」
あれ。
なんだか、布団の手触りが違うし、さっきよりも温かい。
しかもとっても良い匂いがする。
暗くてほとんどわからないけどとにかく良い匂いだった。
さっきは気づかなかったけど、やはり宝条家。
客室の布団すら匂いに気を遣っているということだろうか。
「え、え〜と……」
「……え?」
女性の、困ったような声が聞こえた。
俺のすぐ横から。
しかも、聞き覚えのある声で。
「ひ、光流くん。私のベッドで何をしているのかな……?」
「――――っ」
俺は硬直した。
意味がわからない。だって、俺はトイレから戻って自分にあてがわれた客室に戻ったはず。
なのに、なのに。
この部屋は――、
「真空の部屋ぁっ!?」
驚いて布団をガバっと持ち上げた。
そうして、今すぐここから去らなければと思い、ベッドから降りようとしたのだが――、
「――――ぁ」
真空に足をがっちりと挟まれてしまい、起き上がることができなかった。
「もうちょっとゆっくりして行きなよ〜」
暗くて見えないが、真空がニヤついた顔をしているような言い方で俺の足に自分の足を絡ませ続けた。
「ちょ、バカ……っ。今、真空に合わせる顔がっ」
「なーに、まだ気にしてるの〜?」
「当たり前だろ! だって、だって……」
まだ知り合ったばかり。
顔を見る回数こそ最近は多いが、それでも二人きりで話すような関係ではないし……。
「あーあ、お父さんと弟以外の男の人に初めて見られちゃったなぁ」
「あぁぁぁぁぁっ!?」
また初めて。及川さんも初めてだって言っていたけど、真空も初めて。
本当に俺なんかが見てしまってごめんなさい。
「ふふ、良いの。とりあえず、もう少しいてよ。私のを見たペナルティとして。これなら良いでしょ?」
「良いって言われても……だってここ布団の中だよ?」
「じゃないと大声上げるよ。ルーシーにバレても良いの? 今度は私の部屋に夜這いしにきたって」
目が慣れはじめてきた暗闇で、真空の口元がニヤッとしたのが見えた。
そんな事言われたら、出ていけないじゃないか。
少し前にお風呂場でトラブルがあったばかりなのに、追加でこんなことがあれば、ルーシーの怒りは収まらないだろう。
「……わかりました」
「素直でよろしい」
俺は真空の良い匂いが充満した布団の中へと戻った。
「ちょっと、近いっ」
「ペナルティだから、私の言うこと聞きなさい」
「いや……これ……」
足を絡ませるだけでなく、ぎゅっと腕を俺の背中へと回して、顔を俺の胸へと埋めてきた。
真空の大きなモノが俺のお腹あたりにむぎゅっと当たり、柔らかな感触が伝わる。
俺の顔のすぐ下にある真空の髪からはとても良い匂いがして、お風呂上がりの女の子はズルいなと感じた。
同時に、ルーシーには絶対に見せられない状況であることも確かだった。
というか、真空は絶対に俺に恋愛的な好意は持っていないだろうし、この行動の意味は謎だった。
「本当に硬いんだ……ムキムキだぁ」
「いや……まぁ……鍛えてますから」
真空が俺の体をピタピタと確かめるように主に腹筋辺りに触れた。
「男の子に抱きついたのも初めて」
「もう真空の初めて奪いたくないよぉ……」
「変な言い方〜。普通なら私の初めて欲しい人いっぱいいるはずなのに〜」
「自分で言うなよ」
自分の可愛さを理解している人の発言。
ルーシーは天然に近い感じがするが、真空はちゃんと考えがあって行動している節がある。
俺は打算的な人物だと思っている。
「ルーシーがいることはわかってるよ。でも二人を見てるとやっぱり羨ましくなっちゃうんだ。私もいつか恋愛してみたいなって」
だからと言って、俺でこんなことを試すような真似をしなくても……。
身近な男性は少ないかもしれないけど。
「真空ならすぐに彼氏できそうだけど。でも彼氏作りたいって作っても良くはない気がするから、ちゃんと好きになれる人を見つけるしかないよね」
「さすがは光流くん。純愛を知ってるね」
純愛か。確かにルーシーとのことは純愛と言っても過言ではない。
愛とかそういったものは良くわからないけど、好き以上の気持ちということだろうか。
それなら、確かにルーシーへの想いは愛と言っても良いのかもしれない。
「そういえば、ジュードさんは? なんか良い雰囲気じゃん」
「うーん。確かに優しくてスマートで紳士でかっこいいんだけどね。今は好きとかではないんだよね」
「えっ、そうなんだ。なんかお似合いみたいだって思っちゃったけど。ダンスだって踊ってたし」
ルーシーからも聞いていた。
真空はジュードさんと二人で出かけたこともあると。
同じ家に住んでいるからということもあるかもしれないが、お出かけに二人で一緒に行くということは普通ではない。
ジュードさんは学校でもかなりモテるだろうしね。
「ダンスなら光流くん私とも踊ったじゃん」
「ボロクソに言ったくせに……」
「だって、本当に下手くそだったんだもん」
「ストレート……」
少し話がズレたが、真空もなんだかんだ普通に踊れており、ルーシーと一緒にダンスを教わったせいか、俺がついていくことに必死だった。
ルーシー以外の女性の腰や背中に触れるのには少し恥ずかしかったがやるしかなかった。
ボロボロだったのは言うまでもないが、本当に大変だった。
「――私は私の王子様がいるから良いの。……まあ、もう会えないとは思うけどね」
「なに……それ……?」
突然、知らない話をしはじめた真空。
何のことなのか理解できず、俺はそのまま聞き返した。
「すっごい昔の話。あ、ルーシーにもまだ話してないからこれはここだけにしてね」
「ルーシーにもって……なんで?」
「わからないけど……なんとなく?」
小さい頃というと、俺やルーシーのように会っていた人物だろうか。
真空にもそんな相手がいたのか。
この話なら別にルーシーにもして良いと思うのに、話していない理由がよくわからない。
「とにかくわかったよ。その……王子様?が真空を女の子にした人なんだね」
「女の子か……確かにそうかもしれないね。あの頃の私は女の子にすらなれていなかったから」
「比喩的な意味で言ったつもりだったんだけど……」
「比喩じゃなくて、本当にそういう時期があったの。これはまだ光流くんにも言えないな」
女の子にすらなれていなかった。
もしかするとしずはみたいに男の子っぽい服装をしていたとか、少年にしか見られていなかったとかだろうか。
答えはわからないが、今の俺にはそのくらいしか想像力がなかった。
まだ頭が冴えておらず寝ぼけ半分だったからかもしれないが。
「そうなんだ。でも真空は真空で悩んでることがあるんだね」
「いや、悩んでるってわけじゃないよ? ただ、ずっと記憶の底にこびりついてるだけ。いつかは手放さないとって思ってるけど。もう会えないってわかってるのにね」
「無理に手放す必要もないと思うけどね。俺だって五年もルーシーに固執してたんだから」
王子様と言っていたくらいだ。
手放さないとという言葉は恐らく嘘だろう。今もずっとその人のことを気にしている。
でも、前に進むためには忘れないといけないなどと考えているのかもしれない。
「本当に二人とも凄いよね。一歩間違えばストーカーレベルだよ」
「そうはならなくて良かったけどね」
「二人は似てるってこと」
「そう、かもしれないね」
ルーシーとは離れていたから、変にストーカーにはならなかったとは思うけど、確かに一方的過ぎる気持ちなら、どこかで間違いはあったかもしれない。
ルーシーも会いたいと思ってくれていたからこそ、今の俺たちの関係がある。
「――それで、あの時誰に欲情して勃ったの? やっぱりルーシー?」
「何言ってるの!? もう行くよっ!」
今まで真剣な話をしていたのに、いきなり現実に戻された。
先ほどのお風呂での話だ。
タオル越しではあったけど、ルーシーに気づかれてしまった。
「ああん……またね〜」
俺は真空の部屋を出て、今度こそ自分の部屋である客室へと戻った。
部屋に入った瞬間、よーく周囲を確認した。
暗がりに慣れてきた目で、ちゃんと自分の部屋であると確認できた。
俺は胸をなでおろしてベッドに入った。
……あれ?
先ほどの真空のベッドと似た温かさと良い匂いがした。
「にゃあ〜っと、ひかるもどってきたぁ〜」
「!?」
猫のような眠たそうな声がした。
しかもそのまま俺に抱きついてきたのだ。これも先ほどの真空と一緒で俺の胸あたりに顔を埋めてきた。
「はっ、えっ……ルーシー!?」
恐らく、というかほぼ確実に。
ルーシーと思われる人物が俺の布団の中へと入っていた。
俺はやっぱり自分の部屋ではないのかと一瞬思ったが、ちゃんと確認したはずだ。
つまりこれはルーシーが俺の部屋に入ってきたということに他ならなかった。
「待ってたのにぃ〜。少しねちゃった〜」
彼女が喋ると俺のお腹に息がかかり温かさを感じた。
もう、がっしりと俺の体をホールドしており、離すつもりはないらしい。
喋り口調からも半分は寝ぼけているとは思うけど、なぜ潜り込んできたのだろうか。
「どうしてここに?」
「んみゅ……ひかるが心配だったからに決まってる〜」
「そ、そうか。それはありがとう。お陰様で大丈夫だったよ」
意識を失う直前まで俺を往復ビンタしたのに、あの時の出来事はあまり気にしていないのだろうか。
ただ、寝ぼけているからそのことが頭から抜けているのか。
「なんか、真空のヘアオイルの匂いがする〜」
「!?」
ルーシーが今抱きついているのか、ちょうど真空と同じポジションで顔の位置も同じだ。
そこには先ほど真空が髪の匂いが付着していてもおかしくない。
「え、あ……さっき真空が部屋にきて、これ使ってみればって言われたんだ」
「そおなんだぁ〜〜〜。なんか落ち着く……」
真空といつも一緒にいるからだろうか。
この匂いに落ち着くとは、変に勘づかなくて良かった。
恐らく真空とルーシーが逆の立場なら、気づかれただろうがルーシーは少し天然が入っている。
セーフだと思いたい。
「…………」
「ル、ルーシー?」
「…………」
「ええと、ルーシーさん?」
……寝た。
ルーシーはほとんど会話もせずにそのまま寝てしまった。
俺、このまま寝るの?
確かに家では一緒に寝たことはあるけど……。
ルーシーの裸体を見たあとでの、この密着はちょっと思うところはある。
でも無理やり剥がすのはかわいそうだし、このまま寝るしかない。
俺は掛け布団をちゃんとかけて、少しだけ体勢を変えてから寝ることにした。
「ルーシー、今日はお疲れ様……」
◇ ◇ ◇
「…………ハッ!?」
あれ、私……何して……。
……あったかい。
目覚めてすぐ、自分がどこにいるのか把握できなかった。
それもそのはず、布団の中に頭ごと入っていて、目の前が真っ暗だったから。
でも少し布団を動かすとカーテンの隙間から漏れた光がどこにいるのかを教えてくれた。
「光流……」
そっか、私光流のベッドに潜り込んだは良いけど、すぐに寝ちゃったんだ。
何を喋ったのかも覚えていない。多分、相当眠かったんだろう。
「んん……」
もう一度布団の中に潜り込み、光流の懐をごそごそしながらくっついた。
なんて幸せな朝なんだろう。
光流のベッドの中で迎える朝が気持ち良すぎて、ずっとこうしていたい。
光流の体温を直に感じれることが嬉しい。
ああ、ゴールデンウィークのお休みだからいつ起きても構わない。
今は何時かわからないけど、もうちょっと……。
そう思っていると、トイレに行きたくなってしまった。
ここからできるだけ動きたくないのに……と思いながらも光流を起こさないようにゆっくりとベッドから這い出た。
「おっはー! ルーシー」
「あれ、真空。おはよう」
目を擦りながら廊下へ出るとちょうど真空がトイレから戻ってきたのか出くわした。
「あっれ〜。私の見間違いじゃなければ光流くんの部屋から出てきたように見えたなぁ?」
「み、見間違いじゃないかな? 真空寝ぼけてるんじゃない?」
いや、別に隠すことではないけど、真空のいかにも茶化してやろうみたいな言い方をされると認めたくなくなってしまった。
「私はさっき軽く顔を水で洗ったばかりなんだよねこれが」
「ふぅん……てか私おトイレ行きたいの!」
「あ、待って! ちょっとやりたいことあるんだけどさぁ……」
トイレに行く私を引き留め、真空は耳元であることを相談した。
ニヤっと口元を緩ませ、「どう? できないかな」と私に聞いた。
興味があったので真空の話を承諾して、トイレの後に確認することにした。
◇ ◇ ◇
「ん、ん……」
重たい瞼をゆっくりと開けると、いつもとは違う景色が広がっていた。
高級ホテルに泊まったかのようなふかふかのベッドに包まれてぐっすり眠り、そして最高の朝を迎えた。
……そうだ、俺はルーシーの家にお世話になっていたんだった。
スマホを取りに行くのが面倒くさい。見ると誰かが着替えさせてくれた時に置いたのか、椅子が四つもある丸テーブルの上にあった。
なので部屋に時計がないか探したところ、壁の上の方に設置されていた。
時刻は午前八時前。
家族が家に戻って来るのは午後三過ぎの予定。
それまではお世話になる予定だが……。
「あれ、そういえばルーシー……」
昨日の寝る直前、俺のベッドの中にルーシーが潜り込んできた。
でも少しだけ話したらすぐに寝てしまった。
なのに今はいなくなっている。
なんだか少し寂しい気持ちだ。
人の温かみは何ものにも代えがたい何かがある。
「ふぅ……」
掛け布団を膝まで下ろして天井を仰ぐ。
大の字になって両手足を伸ばすと、とても気持ちよかった。
ベッドのサイズはクイーンかキング。
ただの客室であっても十分な大きさのベッドだった。
「もう一度寝ようかな。皆は何時に起きるんだろう……」
そんなことを口ずさんだ時だった。
コンコン、と軽く扉の向こうからノック音がした。
「は、はい! どうぞ!」
ベッドの上で上半身だけを起こして扉の向こうの相手に声をかけた。
「失礼します……」
そんな柔らかい声が聞こえてゆっくりと扉が開いた。
「!?」
「おはようございます。九藤様。昨晩はぐっすりと眠れたでしょうか?」
「朝食を用意しております。準備いたしますので、少々お待ちください」
挨拶もまちまちに、朝食が入ったワゴンと共に二人の使用人が俺の部屋へと入ってきた。
そして、その使用人というのが、俺の見覚えのある二人で――、
「ルーシー、真空!? 何してるの!?」
そう、その二人とはなんとルーシーと真空だった。
しかもその服装が問題だった。
いや、問題ではない。俺としてはかなり嬉しいのだが、朝イチからこれは目に毒だった。
「メ、メイド服じゃんっ!」
彼女たち二人の服装はなんとメイド服。しかも胸の部分が強調されておりコスプレ衣装のようなものだった。
そもそもルーシーの家の使用人たちはメイド服を着ているわけではない。
エプロンぽいものを着ていたりする人も入れば、そうではない人もいる。
だから二人が着ているのは使用人から借りた服ではないことだけはわかった。
俺が声をかけるも、二人は黙々と朝食をワゴンからテーブルへと移して行く。
よく見れば、自分たちの分の朝食も運んできたようで、人数分のお皿も並べられた。
そうして準備が済むと、二人は何も言わないまま、俺がいるベッドへと近づいてきた。
「え、え……?」
ベッドの上では後ずさりできないのに、後ずさりをするように後ろに下がった。
二人は両サイドから俺のベッドへと這い登り近づく。
「光流、どうかな?」
「光流くん、どうかな?」
二人同時に四つん這いになった状態でそう言われた。
つまり、このメイド服姿の感想を問われているということだろう。
「か、可愛いです! すごく!」
卑しい気持ちを消した感想を述べた。
胸が半分近く出ているが、俺は顔が歪むのを我慢した。
しかもルーシーだけじゃなく、真空まで何してるんだ……。
どちらかと言えば真空の方がこういったことが好きそうなイメージはあるけど。
「ありがと」
「着た甲斐があったね、ルーシー?」
「うんっ」
俺の言葉を聞くと二人で顔を見合わせた。
くすっと笑ったあと、後ずさりしていた俺の手を取る。
「ほら、起きて、光流」
「ご主人様、起きる時間ですよ」
「あ……ご主人様」
設定があるのだろうか。ルーシーはその設定を忘れているようだ。
今の俺は一応、ご主人様……らしい。
さっきまでは光流だったのに、この瞬間からメイドモードだった。
俺は二人に手を取られるとそのまま椅子へと座らされた。
ルーシーはホットコーヒーが入ったサーバーからカップにコーヒーを淹れ、真空は用意されたサンドイッチを数個、俺のお皿へと移してくれた。さらにはヨーグルトやフルーツも近くに置いてあった。
真空のほうは手慣れた手つきではなかったが、なんだか楽しそうにメイドをしていた。
「では、ご主人様。どうぞいただいてください」
「わ、わかった」
自分たちのお皿もあるのに、俺が先に食べるようで、二人は立ったまま俺を見つめていた。
「あむ……」
俺はサンドイッチを一つ取り、口に入れた。
中身はたまごとレタスが入ったサンドのようで普通に美味しかった。
しかもサンドイッチの食パンはトーストにされていてこの熱々さが良かった。
咀嚼して飲み込み、コーヒーも一口喉に通した。
「うまい……」
俺はそう呟くと、二人は満足そうな顔をした。
ただ、落ち着かない……。
「ふ、二人も食べたらどう?」
「ご主人様がそうおっしゃるなら」
「ご主人様の仰せのままに」
二人は物音をできるだけ立てずに静かに俺の両サイドの椅子を埋めるように座った。
そのまま俺と同じようにサンドイッチを食べ、自分の分のコーヒーを淹れて飲みはじめた。
「おいし〜っ」
「うん。なかなかイケる」
普通の言葉遣いに戻った。
結構ブレブレだな……。
「…………」
俺はふと、立ち上がり、スマホを手に取った。
その行動を不思議そうに見つめた二人。
俺は少し後ろに下がるとカメラモードを起動。そのままパシャっとメイド服姿の二人を撮影した。
「えっ!?」
「光流くん!?」
「ナイス、メイド」
俺はそう言って、もう一度パシャっと撮影した。
すると、なぜかカメラを向けられると恥ずかしいのか、二人共胸元を両手で隠した。
今まで何も恥ずかしがっていなかったのはなんだったんだろう。
「いいもん見れた」
「他の人に見せたらだめだよ」
「わかってる」
「光流くん、冬矢だけには見せないで。あいつが見たらなんか面倒くさそう」
「冬矢は深月のメイド服姿しか興味ないから大丈夫だと思うけど」
多分、だけど。
それでも冬矢に見せたら確かに何か茶化しそうだ。
それにしても本当に似合っている。
ただ、メイドにしても気品さというか、二人とも美しさが天元突破しているので、ちょっとメイドっぽくない。
二人の隠せないオーラがメイド服を貫いていた。
「光流、今日はいつ帰るの?」
「あ〜三時くらいまでは親が帰ってこないからそれまではいさせてくれたら嬉しい」
「もちろんそれは大丈夫だよ」
「じゃあ、光流くんが帰るまでは、メイドプレイしようよ」
「メイドプレイとは!?」
まだ続くのこれ?
もうメイド服着て俺に見せてくれただけで満足だと思ってたけど違うのか。
「じゃあ、ご主人様。お口を開けてください」
「え……は!?」
ルーシーが掴んだサンドイッチが口元へと運ばれる。
ご主人様にあげるものだ。もちろん新しいサンドイッチを手に取った。
俺はそれをパクっと加えると、そのメイドは嬉しそうに微笑んだ。
「次はこちらです」
今度は真空。大きなボールに入ったヨーグルトを小さい器に移し、それをスプーンで掬ったものを俺の口へと運んだ。
同じようにそれを咥えると、真空メイドは満足そうに微笑んだ。
「なんか……楽しい〜。弟の面倒見てるみたい」
「それもうご主人様じゃないじゃん」
真空には弟がいると聞いている。歳が少し離れているからこそ、このように食べさせてあげたりしたこともあるのだろう。
彼女は凄い。アメリカに家族を置いてここまでやってきた。
それはルーシーと一緒に同じ学校に通いたいから。転勤が多く固定の友達を作れなかった彼女にとっても、今の学校生活はとても楽しいものだろう。
まだ五月に入ったばかり。これからの高校生活はまだまだ長い。
「まぁね。――でも、最後まで私たちのご奉仕をお楽しみくださいね。ご主人様っ」
結局、このあとも二人に朝食を食べさせられたりした。
ただ、無理やりパジャマを剥ぎ取られて着替えさせられたのには驚きだった。
及川さんから、昨夜のリムジンでの俺の様子を聞いたらしく、俺を着替えさせたいとのことだった。
さらには朝に少しシャワーを浴びようとした時、お風呂までついてこようとした。
昨日のことは絶対に頭にあるはずなのに、どういうことなのか。
彼女たちの頭の中がよくわからなかった。
ただ、メイドをしている二人はとても楽しそうで、半分俺を茶化しているように見えた。
ちなみにこのメイド服はアーサーさんが持っていたものだそう。
なぜ持っていたのかはよくわからないが、彼の趣味ということだろう。
二人のメイドプレイの中で一番最高だったのがマッサージだった。
自分は何もせず女性二人同時に全身マッサージをされると途轍もない幸福感に包まれた。体も心も気持ちよく手安らいで、寝てしまいそうだった。
俺の気持ち良い様子を見て、今度私にもしてとルーシーが言っていた。
そして意外と良かったのが指のマッサージ。
指の関節や根本に力を入れてこねこねされるととても気持ちよかった。
そうして最後までメイドプレイを楽しみ、宝条家の皆に挨拶を済ませてから俺は家に戻った。
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