223話 お風呂パニック
風呂場へ続くドアを開けると脱衣所があった。
そこでシャツとスーツのズボンを脱ぎ、やっと堅苦しい服装から解放される。
できるだけ綺麗に使った方が良いよな……。
そう思い、脱いだ服を上に設置されてある棚へと綺麗に畳んで置いておくことにした。
そういえば、このスーツは誰に返せば良いんだろう。高級な生地を感じさせる手触りだ。
それに俺の体に合ったものをよく用意できたものだ。
それを考えると、最初から俺を東京に呼び戻すことを考えていないと用意できないはずだった。
服を全て脱いで風呂場に入ると、あまりにも広い空間に圧倒された。
なぜか冷蔵庫のようなものも設置されてあるし、大理石と檜風呂の二つの浴槽があった。
疲れたのでさっさと髪と体を洗って浴槽に浸かることにした。
「あ〜、気持ちいい……」
現在、俺は檜風呂のジェットバスを受けながら仰向けの姿勢で天井を見上げていた。
ジェットバスは勢いも調整できるらしく、強すぎない柔らかい勢いに調整した。
背中と肩にボコボコと泡が当たる感触が最高で、このまま寝てしまいそうだった。
「……」
「…………」
俺はジェットバスの上でいつの間にか眠りに落ちていた。
◇ ◇ ◇
「今日は慣れないヒールに慣れない場所だったから、色々と疲れた〜っ」
「そうだね。私もとっても疲れちゃった。ヒール脱いだ時の開放感ったら」
「あなた達、こっちきてからあんまり運動してないでしょう? ジム部屋もあるんだから、たまにはトレーニングしてみたら?」
真空と母と一緒にお風呂に入るため脱衣所で服を脱いでいた。
本当に疲労感がある。早くお風呂に使って休みたい気分だ。
でも、今日はなんと光流が泊まりに来ている。
綺麗に体を洗って、時間があるならお部屋に遊びに行こうかな……なんて。
「あ、私は少しだけ借りたことあります。ランニングマシンだけですけどね」
「そういえば、真空ってジョギングしてるって前に言ってたよね」
「うん。これでも走るのは結構好きなんだ」
真空も私と同じく運動はできる方だ。
ただスポーツの実力はまだまだよくわからない。陸上競技が得意そうなイメージだ。
でも真空の胸は大きいから走るのには大変そうとは思ってしまう。
「光流くんにでもトレーニング教えてもらったら? 筋トレとかしてるんでしょ?」
「そういえばそうだね。今度教えてもらおうかな」
会話しながら服を全て脱ぐと脱衣専用の籠に入れた。
そうして三人揃ってお風呂場へと向かった。
お風呂場はなぜか今日は湯気がたくさん出ていて見通しが悪かった。
疲れているのですぐに頭と体を洗って浴槽に浸かろう。
私たちの髪は全員長いので洗うのに時間がかかるけどそれはしょうがないことだ。
そう、思っていると――、
「お嬢様〜っ! 来ましたよー!」
「ちょっと志津句ちゃん。今日は特別なんだから静かにしなさい」
及川さんと牧野さんだった。
二人共使用人だが、及川さんはこの家に戻ってきてから認識した使用人だった。
五年以上前からうちに仕えていたそうだが、私の精神状態が不安定で誰が働いているのかを気にしていられなかった。
だからつい最近この家に戻ってきてから、家で働いてくれている人をやっと認識しはじめた。
特に及川さんの場合、友達に近い感覚で接してくる使用人だ。
見た目はかなり若いが二十半ばだと聞いている。正直大学生にしか見えないほど若い……いや、これは童顔というべきなのか。
「及川さんまだ帰ってなかったの?」
「なんですかお嬢様〜早く帰れみたいに言って〜。誰が九藤様のスーツを着替えさせたと思ってるんです?」
「どういうこと!?」
「あ、興味でました? 侍従長と牧野先輩と私の三人でパンツ一枚まで服を剥いでスーツを着させたんですから」
「パンツ一枚っ!?」
ど、どういう状況なのだろう。とても気になる。
確かに今考えれば、北海道から東京に来て自分でスーツを用意する時間はなさそうだ。
なら宝条家で用意したということだろう。そこで光流の着替えを手伝ったということになる。
でも、パンツ一枚って……。私だって光流のパンツ見たことないのに。
「まあまあ、そんなことは置いておいてお背中お流ししますよ」
「……そんなことって!? そうしてくれるならお願いするけど……。なら私は真空の背中を流そうかな」
「じゃあお願いー!」
ちなみに母の背中は牧野さんが洗ってあげた。
面倒くさい髪も及川さんの手伝いで結構早めに洗うことができたのは良かった。
ちなみに及川さんも牧野さんも家に帰る前に母がうちのお風呂に入っていきなさいと声をかけたとか。
使用人たちは基本的に一階の浴場を使うが、ここほど充実はしていない。
なので、この二階の浴場は特別なのだ。
「というかそろそろ志津句ちゃんって呼んでくださいよ〜」
「志津句ちゃん」
「葛藤が少しもないっ!?」
「だって友達みたいな距離感なんだもん」
そう言いつつ、私たちは髪と体を洗い終えて浴槽へと向かうことになったのだが、志津句ちゃんが我先にと浴槽へ突っ込んでいった。
◇ ◇ ◇
「…………」
「…………はっ!?」
風呂場で寝てしまっていたようだった。
あまりの気持ちよさに体を委ねてしまっていた。
というかなんだか湯気でけむたい。
俺がジェットバスを使っているからだろうか。それだけで湯気がここまで出るとは限らないと思うが。
「お嬢様〜っ! 来ましたよー!」
え?
聞き覚えのある声が聞こえた。
ただ、寝起きで頭が回らない。
えーと……俺は髪と体を洗って浴槽に入ったんだよな。
それでそのまま寝てしまって……。
「うそ……だよな」
誰がいつお風呂に入るのか。
たった今、その時間を聞くのを忘れていたことに気づいた。
俺は耳を澄ませた。
そこで聞こえてきたのは女性たちが会話しながら体を洗う声。
少なくとも、風呂場には五人の女性がいた。
オリヴィアさんに、ルーシー、真空、牧野さん、及川さんだ。
やばい、やばい、やばい、やばい。
ここからだとどうやっても逃げることができない。
入口までは必ずルーシーたちの後ろを通らなければいけない。
どうやってもバレるのだ。
全員が同時に髪を洗って下でも向いていれば別なのだが、そういうわけにもいかないらしい。
そしてほんの薄くだが、湯気の向こうでルーシーたちが体を洗っている様子が見えた。
後ろ姿ではあるが……全裸だった。
これはさすがにマズい。
というかなんで俺がここにいることに誰も気づいていないんだ。
そうか、湯気か……。
いや、湯気じゃなくても棚に着替えを置いてただろ。
まさか上に置いたことが良くなかったのか?
確かに高い位置にあったから見えづらかったけど。
でもそんなことを考えても遅い。
今何をすべきかが、今後の俺の運命を決める。
犯罪者となるのか、それとも相手を犯罪者にするのか。
先に入っていたのは俺だし……。
「じゃあ先にいただきまーすっ」
「志津句ちゃん……そこはお嬢様方を優先するべきでしょう?」
「良いのよ。好きにさせなさい」
「奥様……」
一人、こちらに小走りで向かってくる姿がほんわりと湯気越しに見えた。
声から及川さんだとわかった。
俺は現在、できるだけ体を隠そうとバズジェットの上で横になっている。見えづらくはあるだろう。
でも、見つかるのは時間の問題だ。
なら、彼女に協力してもらうしか……。
「あ〜、きもちい〜〜っ!」
及川さんが俺と同じ浴槽に入り、肩までお湯に浸かった。
気持ちよさそうにしているが、俺には全てが見えてしまっている。
やっぱりこの状況はやばい。本当にやばい。
でも、やるしかないのだ。
せめて、ルーシーの体だけは見ないようにしなくてはいけない。
「…………え?」
及川さんとついに目が合った。
その瞬間、俺はジェットバスから起き上がりダイブ。
「く、くど――んん〜〜〜〜っ!?」
及川さんに飛びかかって彼女の口を塞いだ。
タオルなんて浴槽の中に持ってきていない。
及川さんは頭にタオルを巻いているが、それ以外は何も隠していなかった。
できるだけ彼女にも配慮しようと、なんとか後ろに回り前側を見ないようにした。
「志津句ちゃんどうかしたの?」
異変を察知したのか誰かの声が飛んできた。
「及川さん。お願いします。大声出さないでください。本当にお願いします」
彼女の耳元で懇願するように囁いた。
するとコクコクを頭を軽く振った。
「な、なんでもないですよ〜〜」
ヨシ、良いぞ。
でも浴槽に入ってこないようにしなければいけない。
「ちょっと、そのタオル借ります!」
「あっ……」
申し訳ないが及川さんの頭にあったタオルを無理やり借りて、自分の頭にかけた。
そうしてできるだけ髪と顔が見えないように覆ったのだ。
「なんとかして浴槽に入ってこないようにできませんか?」
「そんな事言われても、もう皆髪も体も洗っちゃってますよ!」
「でも、お願いします! 何でもしますから!」
「何でも……?」
「何でもです! 時間がない!」
この短い時間に無駄な押し問答を繰り返す。
及川さん、頼むから俺を助けてくれ。
「じゃあ二十秒ここに潜ってください。その間に皆を大理石の浴槽に誘導します。湯気で下はあまり見えないはずです」
「ここに二十秒もですか……」
熱々ではないが、顔をつけてそんなに長く潜るなんてできるだろうか。
いや、やるしかないのだ。
「それしかありません!」
「わかりました! お願いします! はぁ……っ!」
俺は大きく息を吸い込み、檜風呂の浴槽へと体全体を潜らせた。
◇ ◇ ◇
「皆さ〜ん! 今日はやっぱり檜風呂のほうより大理石の気分みたいです! そっちに皆で入りましょう!」
及川が檜風呂からざばっと出ると、こちらに向かって浴槽に入ろうとしていた四人と引き止める。
「どうしたのよ。まあ私は良いけど」
「皆で一緒に入るのが楽しいんじゃないですか〜、はは」
ルーシーは不思議そうにしたが、どちらの浴槽でも良かったので、及川に従うことにした。
他の三人も同じく及川に従うままに大理石の浴槽へと足を進めた。
「ふぅ〜……」
及川は額を拭った。
これであとは九藤様が逃げるだけ、そう思っていた及川。
「あれ、志津句ちゃんタオルどうしたんですか? さっきまで頭に」
「先輩はどうでも良いことに気づきますね! どうでも良いじゃないですか!」
「なんでそんなに必死なの。怪しい……」
「必死じゃありません! 良いから早くお風呂に浸かってください!」
「……大理石の方のお風呂になにかあるのですか?」
「ないです! 本当にないです! なんなら檜の方が危ないです!」
「本当に何を言ってるの……?」
牧野との会話にボロが出はじめた及川。
喋れば喋るほど、牧野は怪しく思いはじめた。
「早くしてください! 大理石のお風呂!」
「…………」
牧野は目を細めた。明らかに怪しいと。
切羽詰まっており、何かを隠している。だから彼女は行動に出た。
「奥様、お嬢様方、大理石のお風呂に入るのは少々お待ち下さい」
「なんでですかぁ!?」
牧野が大理石の浴槽へ続く通路に手を出し、三人を通さないようにした。
その行動に及川は両手で頬に触れ、ムンクの叫びのようなポーズになった。
「牧野さん? 別にお風呂場に隠すようなものなんてないと思うけど……」
「いいえ、お嬢様。念には念をです。もし何かあるようなら、後で志津句ちゃんにはお仕置きしなくてはいけませんので」
「せんぱい!?」
そうして、ついには牧野は一人で檜風呂の方へと足を進めた。
ゆっくり、ゆっくりと。
「あぁ……あぁ……だめだぁ。おしまいだぁ〜〜」
「やっぱり何かあるんですね。後で覚悟しておきなさい」
もう及川には止められなかった。
牧野が足を進めるもまだ湯気で水面が良く見えない。
だから腰を落として顔を近づけてみた。
そんな時だった。
ちゃぽん、と音が聞こえ檜風呂から何かが這い上がってきたのだ。
「っ!? お、奥様! お嬢様方! 檜風呂に何かがいます! 危険生物かもしれません!」
「危険生物じゃないです!」
まだ牧野にはよく見えなかったが、どこからか入り込んだ爬虫類や動物なのではないかと考えた。
だから、後ろに下がるように三人に言ったものの、及川がそれを完全否定する。
「志津句ちゃん、何がいるんですか! あなた知ってるんでしょう?」
「だめです……それ以上は……あ、あ……」
牧野が這い上がってきた何かに近づく。
檜風呂の縁を出た何かがプリプリと入口へ向かっていたのが見えた。
ここから逃げるつもりだ。しかし、使用人として家の中に逃がすなど許すことができなかった。
「――覚悟っ!」
「せんぱい〜〜〜っ!?」
牧野は何かに飛びつき、そして両手でそれを捉えた。
感触はプリン……とした何か。両手に収まらないほど大きく、ただ、少しだけ硬い感じがした。
「もう、何も見えないわね。窓開けるわよ」
牧野が捕まえた瞬間、オリヴィアが窓まで歩いて湯気を外へ逃がそうとした。
そうして窓を開けると、徐々に晴れてゆく湯気。
牧野が捕まえた何かとは――、
「ま、まさか……人です! 裸の人がいます! 住居侵入の変態です!」
「ええっ!?」
「あぁ……先輩……違いますよぉ……」
牧野は自分の身の危険を顧みず、その変態をがっしりと捕まえていた。
捕まえていたのは、犯人のケツだったが……。
「何を言ってるの志津句ちゃん。まさかあなた……犯人をここに誘導したんじゃ……」
「そんなこと神に誓ってしません!」
「信じられないわ! その頭に被っているタオルをとれっ! それは志津句ちゃんのだろ!」
牧野は変態の頭を隠していたタオルを無理矢理に剥ぎ取った。
そして顕になる変態……。
「あ……あ……九藤……様?」
「え? ひかる……? 光流〜〜〜!? なんで!?」
「光流くんっ!? てかお尻っ!」
「あら……大胆じゃない」
「あ〜あ……」
その変態の正体に気づいた牧野。
そしてなぜ光流がここにいるのか理解できないルーシーは必死にタオルと腕で隠すべき場所を隠しながら驚いていた。
同じく真空も驚いたが、体を隠すようなことはしていなかった。なぜなら光流はうつ伏せになっており、こちらは見えていなかったから。
そしてオリヴィアは自らのエベレストを両腕で支えながら、落ち着いた態度で光流のお尻を見つめていた。
最後に共犯である及川は、額に手を当てて任務の失敗を悟った。
◇ ◇ ◇
「俺、なんもしてません! 本当になんもしてないんです! ずっと目を瞑っていました! 無罪を主張します!」
現在、俺は浴槽の中で五人に囲まれながら裁判にかけられていた。
ちなみに目の部分はタオルで縛られ、下半身もタオルを巻いて隠している。
だから今は何も見えていない状態だ。
牧野さんに捕まったあと、俺は裁判にかけられていた。
罪状は『覗き』だ。
「先にお風呂に入っていたのも俺です! 皆さんが入ってくるのに気づかなくて、ジェットバスで寝てしまってて……」
今、皆がどんな格好をしているのかわからないし、うつ伏せで倒れた時からずっと目を瞑っていたので、ほとんど何も見ていない。
体を洗っている場面だけ少し見えたけど、あれも背中だけだった。
「ほら〜、だから言ったのに。牧野先輩が執拗に追うから」
「あなたが怪しすぎたのがいけないんでしょう」
せっかく逃がしてくれようとした及川さん。
結果的には逃げられなかったが、協力してくれたことは素直に嬉しい。
成功していないので何でもするという約束はなしだが、それでも何かはしてあげたいと思った。
「いいじゃない。光流くんは先にお風呂に入っていた。私たちは脱いだ服を確認しないで入った。なら私たちの方が悪いことになるじゃない」
「オリヴィアさん……」
さすがは懐が深い。話ができる人だ。
「先に入ったとか、入ってないとかはどうでもいいの! 光流は本当に見てないの!?」
「見てない! だって凄い湯気あったでしょ? 見えるわけがないよ。声で気づいたんだから」
ルーシーは裸を見られたことを気にしているようで、そこを問い詰めてくる。
背中は見たが、大事な部分は全く見えていない。
「でも、九藤様。私のはバッチリ見てましたよね……?」
「あ…………はい」
「しかも後ろから羽交い締めにして口を抑えて……なんか背中とお尻に硬いモノが当たってたし……」
「言い方ぁ!」
「本当の事じゃないですかぁ」
及川さんはさっきまで味方だったのに、いきなり敵になった。
あの時は咄嗟の判断だったので、なりふり構わずだった。
もしかすると、俺の下半身が及川さんのお尻に当たっていた……かもしれないのは本当だ。
「光流の変態!」
「へんた〜い」
「へんたいっ」
ルーシー、真空、及川さんが俺に変態と言ってきた。
なら、俺はどうすればよかったんだ。
「このくらい良いじゃない。減るもんでもないでしょ」
「お母さん! 裸を見られるってどれだけ恥ずかしいことだと思ってるの!」
「別に私は見られてもいいわよ。光流くん、興味ある?」
「…………」
答えられるわけないだろー!
それで興味あるって言ったらルーシーが怒るに決まってるじゃないか。
「興味ないって言ってよ光流!」
「い、いや……それはそれでオリヴィアさんに失礼じゃん……」
「ふふ。律儀ね」
もう、早くお風呂から出たい。
眠気も出てきたし、あの気持ちよさそうなベッドでぬくぬくしたいよ。
「あの……そろそろ出ても良いですかね? 男の俺がいたらゆっくりできないでしょうし……」
「もう皆許してあげたらどう? 光流くんも長くここにいたらのぼせて倒れちゃうわよ」
オリヴィアさんは俺の体の事も気遣ってくれた。
さすがは大人の対応だ。
「わかった……」
結局俺は許されて、お風呂から出ることになった。
ただ、タオルで目隠しをした状態では歩くことはままならない。
なので誰かに誘導してもらう必要があった。
「……ルーシーがやらなくても良いのに」
「だって……他の人が光流の手をとって歩いてるの嫌だもん」
俺はルーシーに先導されて入口まで歩いていた。
腕を掴んでくれているルーシーの手が濡れていて、なんだか普通ではない状況におかしな気持ちになる。
あともう少し歩けば入口だ。
そう思っていたのに――、
「んあっ!?」
「光流っ!?」
ボディソープやシャンプーを流したためか床がぬるっとしていた部分があった。
この綺麗な浴場のせいもあったかもしれない。
だから少しぬめりがあるだけで、ツルッと滑ってしまったのだ。
「ルーシーっ!」
「きゃあっ!?」
俺のせいで転ぶなか、何も見えないがルーシーが頭を打つことだけは避けたい。
だから俺は目が見えないままルーシーを抱き締めて、俺が下になるように回転した。
「お嬢様!」
「ルーシー!?」
そうして、濡れた床に背中から着地し、ルーシーを床に激突させずに守ることができた。
ただ、ルーシーの裸が俺の体全体にのしかかってきて、とんでもない柔らかさが全身に伝わった。
「ルーシー、大丈夫?」
「うん……光流こそ……」
そんな時だった。
今の衝撃ではらりとタオルの目隠しが床に落ちてしまった。
「っ!?」
見えたのはルーシーが俺の胸に押し付けていたたわわな双丘。
そして、ルーシーを心配して近づいてきていた、タオルで何も隠していない真空と牧野さんの全裸。
反転した視界の先には同じく立ち上がってこちらにこようとしていた及川さん。
半身浴状態のオリヴィアさんがその先に見えた。
「…………」
ムクっと俺の大事な部分が反応してしまった。
ああ、神様。
なぜ、こんな時に。
さっきまで我慢していたじゃないか。なのに……。
「な、なに……? 何か固くて、太いものが……」
ルーシーが俺の下半身に巻かれたタオル越しに何かを感じたようで、不思議な顔をした。
ただ、徐々にそれを理解したのか、顔が赤くなっていって――、
「お嬢様、それって九藤様のおちん――」
「それ以上言わないで〜〜〜っ!!」
「ぐはぁっ!?」
近寄ってきた及川さんが、その言葉を言おうとしたのだが、全て言い切る前にルーシーが遮る。
そのままに俺の顔を右手でビンタしたのだ。
「痛いっ! 痛いっ!」
「見ないで! 見ないで! まだ、当たってる〜〜〜っ!?」
俺の馬乗りになったままのルーシーは、幾度となく連続ビンタをかました。
何回殴られたのかわからないが、俺の意識が遠のいていった。
それは、ジェットバスで寝てしまったり、裁判をしたりで長湯しすぎたせいでのぼせたせいなのか。
原因はわからないが、俺はルーシーにビンタされ、ぶるんぶるんと揺れるモノを見たのを最後に意識を失った。
「お嬢様それ以上はっ!」
「あれ……光流? 光流? ひかる〜〜〜っ!?」
ルーシーのビンタを止める牧野。
光流が気を失ったことにやっと気づいたルーシーが心配するも後の祭りだった。
このあと、四人がかりで光流をなんとか風呂場の外に運び出し、体を拭いてパンツを履かせた。
ちなみにパンツを履かせたのは牧野だ。
ルーシーは光流を一緒に運ぶ途中、ずっと下半身に巻かれたタオルを凝視していた。
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