191話 クラス分けと自己紹介
「――――」
クラス分けの掲示板。
1-Aから1-Gまでのクラスが横に並び、縦に四十人ずつ名前が書かれていた。
一つ一つ名前を見逃さぬように視線を上下させ、横に移動させていく。
「――あ」
すぐに見つかった。
1-C。
名前の順番に掲載されていたため、俺よりも前に名前を見つけた人物がいくつかいた。
朝比奈真空、池橋冬矢、奥村千彩都。
また一緒のクラスになれて嬉しいし、真空がいるのも嬉しい。
そして――、
宝条凛奈、藤間しずは、古谷開渡の文字。
「――――!」
同じクラスだ……!
そして最後――若林深月。
まじかよ……。まさか一緒に受験した仲が良い人たちが皆同じクラスになるなんて……。
ただ、理沙たちの文字はそこにはなかった。
少し目線を移動していくと隣の1-Dに理沙、朱利、理帆の名前があった。
この三人は一緒のクラスになったようだ。
というか、このクラス分け、何か裏があるような気がする。
こんなに知り合いが同じクラスになることはあるのだろうか。
理沙たちが一緒じゃなかったというのもあるので、絶対とは言い切れないが……。
学校だぞ?
クラス分けにそんな圧力をかけられるか?
いや、ありえなくはない……か。
だって、生徒会長はあの人だし……。
考えてもしょうがない。まずはクラス分けを喜ぶとしよう。
そう思い横を見てみると――、
「ルーシー! 一緒だ! やったやった!」
「真空っ! 嬉しいっ!」
真空とルーシーがその場で飛び跳ねながら手を取り合って喜んでいた。
二人は親友だ。
離れ離れにならない方が良いだろう。
「深月! 一緒だね!」
「え、えぇ。大変なクラスになったわね……」
しずはも深月の手をとって喜んでいた。
ただ、深月は俺と同じく少しクラス分けを不信に思っていた。
「光流! やったな! ルーシーちゃんと一緒だぞ! それに俺ともな!」
「はは、そうだね。嬉しいよ」
冬矢も俺の背中を叩いて喜んだ。
彼にとっては、深月とまた同じクラスになれて嬉しいだろう。
「光流っ! しずはっ! まずは一年間よろしくねっ!」
すると俺としずはのもとへ近づいてきたルーシーが、キラキラな笑顔でそう言ってきた。
「うん、よろしくね!」
「これでまたブロッコリーとかほうれん草を処分できる……」
しずはがおかしいことを言い出す。
ちょっと待てよ……このクラスには千彩都もいるじゃん。
いや、今回は開渡もいるし、毎回野菜を供給されるようなことはさすがにないか……。
でも筋肉のためなら、もらうのは全然構わないんだけど。
とりあえず、1-Cは騒がしいクラスになりそうだ。
◇ ◇ ◇
俺たちは玄関を抜け、1-Cがあるクラスへと向かった。
一年生のクラスは四階だった。
三階が二年生、二階が三年生というように、学年が上がる毎に低層階になるようだ。
上級生は階段を上る苦労をしなくても良い……ということなのだろうか。
そんなことを考えているとすぐにクラスへと辿り着いた。
「ここが1-Cかぁ……」
ルーシーがぼそっと呟いた。
「ルーシー、大丈夫?」
少しだけ足取りが重くなっていた。
実際はそうではないかもしれないが、俺にはそう見えた。
ルーシーは日本の学校に良い思い出がない。
なら、この高校でもそのトラウマが蘇っても仕方ない。
「う、うん……」
少しだけ表情が固い。
「ルーシー! 大丈夫! 私もいるんだから! ほら、行くよ!」
「あぁっ、真空っ!」
すると真空は強引にルーシーの手をとって教室の扉を開き、中に入った。
俺たちもそれに続いて教室の中に入ると、既に数名の生徒たちが座っていた。
黒板には一つの張り紙があった。
『席は空いている好きな場所に座ってください』
さすがは自由な校風と言われているだけある。
名前の順は玄関前の掲示板だけだったようだ。
そうして、空いている席を探して座ろうとしたのだが、ここでも校庭で起きたのと近い現象が起こった。
「うわっ、なにあの綺麗な子……」「てか、皆可愛くない!?」「このクラス……当たりだっ」「神様ありがとう! 神様ありがとう!」「あのグループどうなってるの!?」
そんな声が男子女子問わずに聞こえてきた。
一度校庭の部活動勧誘で慣れたからなのか、ルーシーたちはそれほど気にする様子はなく足を進めていった。
「ルーシーどこにする!? あ、あそこの主人公席空いてるよ!」
「主人公席って何!?」
「もう……っ。あれだけ漫画貸してるんだからわかってよね〜」
そんな会話をしながら真空がどんどん先へ進んでいく。
主人公席――それは俺にもわかる。
窓際の一番後ろの席である。
ルーシーたちがそこに到着すると、真空が無理やりにルーシーをその席へと座らせ、自分はその前の席へと座った。
「光流! ここ座って!」
すると、ルーシーが必死な表情で隣の机を指差す。
「あ、あぁ……!」
正直どこに座れば良いのか、迷っていた。
冬矢が近いと過ごしやすそうだなと思ったり、千彩都がいたほうが会話に困らないだろうなと思ったり。その千彩都はまだ来ていないのだが……。
教室でルーシーの隣になれるなんて嬉しすぎるが、こんなに大勢の人の中だ。少し気恥ずかしさもあった。
とりあえず俺はルーシーに言われるままに窓際一番後ろの隣の席へと座ることになった。
「じゃあ俺は光流の前もらい〜っ」
「あ! バカ! あんたそこにいたら私が光流の近くに座れないでしょ!」
「早い者勝ち〜」
「このっ!」
冬矢は早い者順だとして俺の前の席へと座った。
しずはが俺の近くに座れないといった発言。その理由は俺の右隣にあった。
既に一人の女子生徒がそこに座っていたのだ。
さすがにしずはもその女子に対して、替わってほしいとは言えないようだった。
そして、その女子は俺たちが来てからずっと顔を伏せて寝ていたようだった。
「しずは! 真空の前! 真空の前に来て!」
「ええっ……?」
するとルーシーができるだけ自分の近くにしずはを置きたかったのか、席を指定した。
「深月……あそこ、あそこ座ろう」
「私はどこでも良い」
しずはが深月を連れて机の間を縫って歩く。
辿り着いた先の席、それはルーシーが指定した席だった。
「しずは〜っ!」
「しずはちゃん、よろしくね!」
「まぁ、窓際って良い席だしね」
そして深月はしずはの前の席に座ることになった。
続々と教室にクラスメイトとなる生徒たちが入ってくる中、やっとその人物が到着した。
「しーちゃんっ!!」
「ちーちゃん!」
教室に入ってすぐ、しずはがいる場所へと駆け寄って、ポニーテールを揺らしながら互いに肩や腕を掴むようにして喜び合った。
彼女の名前は
小学四年生の時にしずは同様に俺の病室にお見舞いに来てくれたところから、仲良くなった一人だ。
ジュニア時代からバスケをしていて、部活もバスケ部だった。
中学三年生のクラスでも一緒だった。彼女とは卒業までよく話した。
「もう、何このクラス! 仕組まれすぎでしょ! 絶対おかしいって!」
笑いながら千彩都がそんなことを話した。
「そう? そう言われればそっか……でもたまたまでしょ」
しずははそれほど怪しいとは思っていなかったようだ。
「しーちゃんは疑わないなぁ。絶対あやしいって……まぁそれは置いておいて……! ルーシーちゃんに真空ちゃん! 同じクラスだね! これからよろしくね!」
千彩都は視線を後ろの席へと移し、二人に挨拶をした。
連絡先を渡してから、グループチャットで色々とやりとりをしているらしい四人。
以前よりは仲良くなったのかもしれない。
「うん! 千彩都ちゃんよろしくね!」
「こちらこそよろしくね!」
ルーシーも真空も明るく返事をした。
「おはよう、皆」
千彩都と一緒には来たが、遅れて俺たちの下へと辿り着いた人物――開渡だ。
彼は
開渡も千彩都と同じく病室にお見舞いに来てくれてから仲良くなった一人。
彼もジュニア時代からテニスをしていた。ちなみに千彩都とは幼馴染で中学に入ってから交際を始め、現在も交際は継続している。
「よう開渡! 今回はよろしくな!」
「なんか教室で開渡の顔見るのは久しぶりな気がするよ」
冬矢と俺が開渡に挨拶をする。
彼と同じクラスになったのは小学校以来だろうか。
なんだか変な感じだ。
「それにしても……こんなに揃うんだなぁ」
「だよね。まさか……だね」
「まぁ、仲が良いやつらが集まって良いことではあるけどな」
そんな開渡は冬矢の右隣の席に座った。
一方の千彩都はしずはの右隣だ。千彩都の隣ではなかった。
もう千彩都との付き合いも長いし、わざわざ隣になるまでもないのかもしれない。
そうして、俺たちはワイワイと会話していくと時間が過ぎていった。
見たことのある生徒もちらほらと教室の中に入ってきたので、その時は少しだけ反応したが、席が近くというわけではなかったので、話しかけるようなことはしなかった。
「――はい皆さん、ホームルームを始めますよ〜!」
すると、担任の教師と思われる先生が教室に入ってきて、教壇へと登った。
柔らかい印象だが、声はしっかりとしている。
ゆるっと巻かれたロングの髪に、シャツの上にカーディガン、下はスカートという服装だ。
見た目はアラサー……と言ったところだろうか。
「私はこのクラスの担任を務めます
元気よく挨拶をしてくれた揺木先生。
ただ、一つだけ気になるところがあった。
胸がデカすぎる。
真空よりもっともっとでデカい。
服の上からでは隠しきれないほどの膨らみ。
クラスの男子生徒の目が釘付けになっていた。
「あ〜〜〜っ!」
すると先生が、何かに気づいたように声を出した。
「生徒の名簿忘れてしまいました! でも席が埋まってるし、全員いるってことで大丈夫ですよね!? うん、大丈夫!」
「…………」
この一言で、全員が『この先生大丈夫か?』と思っただろう。
なにせ俺も同じことを思ったからだ。
「とりあえず、このあと三十分後に体育館で入学式があります。入学式が終わったあとは一度教室に戻って、休憩を挟んでからまた体育館に向かって部活動発表。そのあとは必要なプリントや連絡事項など伝えて今日は終わりです」
頼りなさそうな部分は見せたが、しっかり見せようと頑張っている感は伝わる。
ちゃんと生徒に対して真摯に向き合ってくれそうだとは思った。
「じゃあ、入学式まで少し時間がありますから、全員自己紹介と行きましょうか! 何を話せば良いかわからないと思うので、私から話しますねー!」
そして、いきなり自己紹介が始まった。
自己紹介は皆の視線を一気に集める。毎回だけど結構緊張するんだよなぁこれ。
「先程も言いましたが、私の名前は揺木ほのかです! 年齢や彼氏がいるかは秘密ですよ〜。担当教科は数学で、趣味はコス……じゃなくて、ハンドメイドです。教師の仕事は忙しいですけど、時間ができた時にアクセサリーとか作ったりするんですよ〜? ちなみに文芸部の顧問もしてますので、もし入る人がいたらよろしくお願いしますね」
男子が聞きそうなことは先に釘を差しておく、今までも同じような質問があったのだろうか。
揺木先生は見た感じモテるタイプだ。男子生徒から言い寄られることもあったのだろう。
「じゃあ廊下に近い生徒から行きましょうか! あなたからお願いできるかしら?」
「はい」
すると、廊下側最前列の男子生徒が立ち上がった。
「僕の名前は
佐久間が自己紹介を済ますとクラス全体から拍手が起きた。
少し口ごもっていた部分が気になったが、言いたくなかったことなのだろう。人間、一つや二つ秘密があるものだ。
それにしても――、
「わぁ……佐久間くんすっごくイケメン……」「モデルさんみたいに綺麗な顔……」
一部の女子からそんな声が飛んだ。
正直、冬矢よりもイケメンだ。というかイケメンの系統が違う。
冬矢はノリが軽く明るさに全振りしたようなイケメンだが、佐久間は真逆。
塩顔で顔が小さく、髪はマッシュ系。誰かが呟いたモデルさんみたいとは確かに思った。
そしてモデルのようなすらっとしたその体型はどんな服装でも似合いそうだった。
ただ、先ほども気になった口ごもっていた部分。
その話し方からも、どこか危うげというか、儚い印象を持った。
これだけイケメンなら自信満々にしていても良いと思ったのだが、そんな雰囲気は感じず、ただ優しいというイメージだった。
「佐久間くんありがとう! それじゃあ次はあなた!」
すると揺木先生の声で次の人に自己紹介が移った。
「はい! 私は
元気よく自己紹介した秋山さん。チア部が有名というのは全く知らないことだったが、マンモス校だ。
それなりに人もいるし、実績のある部活も多いのだろう。
そうして、どんどんどんどん、自己紹介が進んでいった。
「
恥ずかしがりながらも、ちゃんと日本語を話したメイちゃん。少しだけイントネーションがおかしいところもあるが、聞き取れるので問題ない。彼女は小柄でツインテールが特徴的だった。
「
「こ、
「
「
「
「
「
金剛と遠藤さんは面接の控室で同室になった生徒だった。遠藤さんはスポーツをやっているとは思ったが陸上部だったらしい。そして見た目が女子顔負けの可愛さを持つやまときゅんこと金剛くんは美術部に入るらしい。つまり絵がうまいということか。
そして、名前が気になった守谷さん。あの大柄な守谷真護と兄妹だったりするのだろうか。ただ、体格が似ていなさ過ぎる。おそらく身長差は四十センチほどはあるだろう。
冬矢と同じくサッカーをやっていた人物もいた。ずっとやっていたそうなので、ある程度うまいのだろう。
氷室さんに至っては、ちらっと俺の方に視線を送ってきた。
彼女は筆記試験の時に後ろの席にいた人物。俺のことも認識していたようだった。
さらにここまでで一番気になったのが彼女――焔村火恋。
まさかの女優をやっているというとんでもない人物だった。つまり芸能人ということだ。
正直、彼女の名前は全く知らなかったので、どんな作品に出演しているのかわからなかったが、一部生徒が『えっ、あの焔村火恋!?』とか、そんな反応をしていた。俺が思う以上に有名なのかもしれない。
こうして自己紹介が進む中、開渡の順番が終わり、ついに俺の隣まで回ってきた。
しかし――、
「じゃあ次の人〜! 次の人〜?」
揺木先生が声をかけるも反応がない。
それもそうだ。隣にいる彼女は俺たちが教室に入ってきた時からずっと机に突っ伏して寝ているようだった。
今の今までずっとだ。
「ちょ。君……。自己紹介だよ」
俺は小声で彼女を起こそうとした。しかし「んん……」と眠たそうな声を出すだけで、起きることはなかった。
「ね、ねぇ! 自己紹介君だよ!?」
しょうがないので、少し大きな声を出した。
すると、やっと彼女に反応が見られた……。
「もう下校時間……?」
「まだ今日は始まったばかりだよ!」
彼女は寝ぼけていた。
なので、俺は少し大きめの声で起こそうとした。
「名前だけでも良い! 名前!」
「んあ……名前……」
すると彼女はゆっくりと、ゆっくりとその体を起こし、立ち上がった。
その瞬間、クラスメイトの一部が「あぁ……綺麗……」とため息のような驚きのような声を漏らした。
それもそうだ。彼女はかなり強めの外国人顔だった。ストレートに艶めく髪は真空のように長く、彫りの深い顔はどこか冷たくもあり、とてもクールな顔立ちだった。
モデルだと言われていた佐久間、女優だという焔村さん、それ以上に存在感を放っていた。
「――ラウラ・ヴェロニカ・ダ・シルヴァ・
なんて?
「ラウ……?」
「――おやすみなさい」
「…………」
よく聞き取れなかった長い名前を呟いたあと、彼女はすぐさま座り、同じように机に突っ伏して睡眠を再開した。
先生、これってアリですか?
「はい、樋口さんありがとうー! じゃあ次行きましょう!」
いいんかい!
てか樋口って名前だったんだ。先生よく聞き取れたな。おっちょこちょいな部分はあっても先生は先生ということか。
正直、ここまではかなり濃すぎるクラスメイトたちだった。
なんというか顔面偏差値が高い人ばかりがいるような気がした。
そうして、さらに自己紹介が進み、千彩都の順番まで回ってきた。
―▽―▽―▽―
この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!
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