182話 目撃、報告
土曜日、今日は晴天。
ただ、俺の心はどこか曇天。
絶対に何か良からぬことが起きる。
どこか確信めいた俺の勘がそういっていた。
約束した理沙、朱利、理帆の三人とのお礼会。
俺は一人で渋谷まで足を運んできていた。
少しずつ温かくなってきた気温。
私服も分厚いコートのようなアウターではなく、軽いジャケットのようなもので問題なくなってきていた。
俺はスマホで時間を見つつ、人の大波に飲まれながら、ハチ公前で理沙たちを待っていた。
「光流〜っ!」
そんな時、理沙と思われる声が聞こえた。
声がした方向に目線を向けると、そこには理沙、朱利、理帆の三人が揃ってやってきていた。
一緒に来ているあたり、本当に仲の良さがわかる。
「皆、おはよう……なんか今日はちょっと雰囲気違うね?」
パッと三人を見ると、最近まで見ていた雰囲気と少し違う様子が伺えた。
「さすがは光流〜っ。今日の為にそれぞれ髪型少し変えたんだよ〜?」
そう言った朱利の通りに三人の髪を見ると、いつもとヘアセットが違うようだった。
特に理帆。いつもは髪を下ろしていたのだが、今日は触覚有りのポニーテール。
髪をまとめているシュシュも少し可愛らしいもので、いつもの雰囲気よりお洒落に見えた。
「皆似合ってるね」
「ありがとう……」
そう言うと理帆が少し照れたようにお礼を言った。
「てか光流も髪型違うじゃん!」
「そうそう! もしかして私らのためにお洒落してくれたの!?」
理沙と朱利が俺の髪型が違う様子に気づいたようだ。
今日は以前、ルーシーとのデートの時のために姉に教えてもらったヘアセットをしていた。
正直、毎日通う学校でいきなり髪型を変えるのはどこか恥ずかしかった。
しかし、たまにはこうやっていじらないとやり方を忘れてしまうので、せっかくの機会なので今日は髪をいじってみたのだ。
だから今日はセンターパート。
姉に借りたヘアアイロンを使い、自分の持っているワックスで整えて今の髪型にした。
姉の話を出したので、ここで言っておこう。
姉は無事、大学に合格した。
俺の高校への合格と姉の大学の合格。
二人の同時合格を祝して、明日の日曜日は家族四人で高いレストランに行く予定になっている。
「……そうかもね」
「マジ!? 嬉しいっ!」
理沙たちのためにお洒落をした……わけではないのだが、そう言っておいた方が今日の流れ的に良いと思い、そう言っておいた。
だって、理沙たちだってお洒落してきてくれたんだから。
「じゃあまずはランチしに行こー!」
理沙の一声で、俺たちは渋谷の街中へと歩き出した。
◇ ◇ ◇
「やっぱ混んでるな〜っ」
「予約しといて良かったね」
俺たちは商業施設のカフェの中に入っていた。
土曜日なために満席。入口には多数の客が列を作っており、予約していないとなかなか入れないほどだった。
理沙たちは予約してくれていたようで、店員に名前を告げると席へと案内された。
そうして、窓から渋谷の街を見下ろせる席へとテーブル席へと移動。
メニュー選びから始まった。
メニューを見ると、ここのメイン料理はハンバーガーのようだった。
アボカドやチーズがたんまり入っているボリューム満点のハンバーガーで、ポテトと飲み物のセットが中心。
他の客のテーブルを見ても、皆同じようなメニューを頼んでいるようだった。
「理帆、何にするか決めた?」
「うーん。実は私ピクルスが苦手なんだ」
「そうなんだ……あ、なんかピクルス抜きにできるってここに書いてるよ」
「ほんとだ。光流くんはピクルスとか大丈夫なの?」
「うん。俺は好き嫌いなんにもなくて、全部食べられるよ」
「凄いね。私なんて結構好き嫌いあるのに」
俺は隣の席になった理帆とメニューを開いてどれにするか一緒に悩んでいた。
今日は朝トレーニングをして体を動かしてから来たので、普通に腹が減っている。
メニューを見ているだけで、口の中に唾液が溜まってきていた。
その後、俺たちはそれぞれ頼むメニューを決めると、数分後にはテーブルへと料理が運ばれてきた。
「じゃあ、皆の合格と光流へのお礼を込めて。いただきまーす!」
そう理沙が音頭をとると、俺たちはジュースが入ったコップを持って小さく乾杯した。
「理沙、改めて合格おめでとう」
「うん。私こそ本当にありがとう。もう奇跡だったよ」
電話やメッセージでもおめでとうとは言ったが、こうして対面して言ったのは今が初めてだった。
「でも、ちゃんと勉強したからだよね。補欠合格だったとしても理沙が頑張ったから選ばれたんだし」
「わかってる。少しでも手を抜いてたら、引っかからなかっただろうね」
「凄い嬉しかったよ。正直、合格するのは本当に難しいと思ってたから、それは朱利も」
彼女らの今までの実力では、本当に合格の可能性は低かった。
でも、合格したという事実。
おそらくは本当にテストで高得点を記録したに違いなかった。
「あ、そうだ。一つ光流また別にお礼言いたかったんだ」
「ん、なに?」
理沙が少し優しい表情になり、俺の目をまっすぐに見つめる。
「私さ、こんなんだったから、親に結構見放されてたんだ。怒られてばっかだったし。でも、勉強するようになってからは私を見る目が変わってさ。何年もロクに会話しなかった親父とも仲直りみたいなことができて……」
「あぁ……そうだったんだね」
そう語る理沙の表情は、本当に嬉しそうだった。
勉強を頑張ったというだけで、彼女は家族との仲が回復したのだ。
「うん。親父だけじゃなくて、母さんとも妹ともちゃんと会話できるようになった。これも全部光流のお陰。だから、勉強を教えてくれて合格したこと以外にもお礼を言いたかったんだ」
「勉強は確かに教えたかもしれないけど、努力したのは理沙の実力だよ。教えても頑張れない人だって、世の中にはたくさんいると思う。家に帰っても勉強してたことは、俺もわかってる。理沙は凄い人だよ」
「光流ぅ……」
会話をしていくうちに、理沙は涙ぐんでいく。
家族との関係が回復したことは、彼女にとっては本当に嬉しかったことなんだろう。
それはそうだ。家族との関係は良い方が良いに決まってる。血の繋がりはどうあっても消せない。
一緒に住んでいるなら尚更だ。
「あたしもだよ。うちは理沙と違って家族と仲が悪いってわけじゃなかったけど、良い点数のテスト持って帰った時には、凄い喜んでくれたもん。いつの間に勉強してたのって。期末テストのテスト用紙が返却された時の夜は、夕食の準備してくれてたのに、急遽焼き肉屋に行くことになったもん」
「はは、朱利のお家の人は面白いね」
「うちの人はまぁ、私に似てるというか。ちゃらんぽらんな人ばっかりだからね」
朱利は笑いながら、家族のことを語ってくれた。
今まで全く知ることのなかった彼女たちの身内の話。こういった話を聞くと、彼女たちとの仲が深まったと感じる。
「光流くん、私からもありがとう。光流くんがいなかったら理沙ちゃんや朱利ちゃんと仲良くなれなかったと思うから」
「三人はいつの間にか仲良くなってたもんね。俺から何かしたわけじゃないのにね」
これは本当にわからない。三人はいつの間にか仲良くなっていたのだ。
多分二年生の時に何かあったのだと思うが。
「性格も趣味も見た目も全然違うのに。なのに仲良くなれるなんて思わなかった。不思議なものだね、友達って」
「私らもそうだよ。理帆みたいなやつと友達になったの初めてだし。光流もそうだけど、勉強続けられたは理帆がいたからだよ。ありがとな」
「ううん、私も成績伸びたし。お互い様だよ」
理沙と理帆の会話。
勉強会以外でも、理帆に教えてもらっていたらしい二人。理帆の頭の良さを考えると、彼女たちの成績アップは理帆の影響もかなりあるはずだ。
そんな会話をしつつ、俺たちはランチを終えてカフェを出た。
ちなみに理沙には今日はお礼だから一円も出すなと言われた。
その気持ちを無下にはできなかったので、俺は甘えることにした。
◇ ◇ ◇
次に向かったのは、まさかのプリクラ。
ある施設内に複数台あるプリクラコーナー。既に女性ばかりの場所に俺は少し困惑。
しかしズンズンと当たり前のように足を進めていく理沙たち。
理帆は以外にも足取りは軽かった。おそらくは二人に連れられて何度かプリクラを撮ったことがあるのだと思った。
理沙と朱利が一つのプリクラ機を選び、中に入る。
俺と理帆も二人に続いて入ると、普通に四人では狭いと思った。
狭いので、より三人との距離が近くなる。
男からはすることがない、女子特有の良い匂いが鼻腔をくすぐった。
「ほら光流、もっと近寄んないと映らないでしょ!」
「そうだよ、こっち!」
理沙と朱利に強引に腕を掴まれる。
すると両サイドに密着され、俺の腕に柔らかなモノが当たる。
「理帆はそこねっ!」
「そこなのっ!?」
理沙がそう言うと、理帆の体を引っ張り俺の前の位置に収まる。
理帆の背中が俺の体の前側に密着。左右前と女子に密着されたまま、写真撮影が開始された。
「あはははっ! 光流の目!」
「デカすぎだろ!」
「お前らもデカいだろ! もう誰だよこれ!」
プリクラ写真を撮るために画面が起動すると、加工された自分たちがそこに映った。
すると目がキラキラしていてあまりにも大きい。もう全員が別人だった。
その後、何度か写真を撮影し、ペンでデコるモードに切り替わる。
理沙と朱利が手慣れた様子で、次々とデコっていく。
途中で俺と理帆に交代し、ペンを借りた。
何を書けば良いのか全くわからず、俺は"受験合格おめでとう"と面白みもなくそう書き込んだ。
その後、プリントされて出てきたプリクラ写真。
一つを俺に渡してくれた。
見返すと、理沙と朱利がギャル特有なのか、謎のポーズを繰り返して撮っていた。
しかし、それは理帆も同じだった。
彼女たちに毒された……いや、影響されてか、そのポーズも様になっていた。
「あ〜、楽しかった!」
「俺は疲れた……」
いつもしないプリクラや、密着されたままの写真撮影。
なんだか凄い疲労感だった。
一方の理沙たちはまだまだ元気で楽しそうに笑顔だった。
「次はゲーセン行こっ!」
すると今度は朱利がそう言い出し、俺たちはついていった。
到着したのはとあるゲームセンター。
ギャルでもゲームセンターで遊ぶのか……と思ったりもしたが、意外と女性客も多かった。
特にクレーンキャッチャーの前に立つ女子中学生や女子高校生。推しキャラのぬいぐるみや可愛いぬいぐるみには目がないらしい。
俺たちはちょうど四人ということもあり、エアホッケーから遊ぶことになった。
理沙・俺チームVS朱利・理帆チーム。
まずはこのようなチーム構成で対戦した。
「ちょっと待って!? 光流下手すぎ! もう勝てないって!」
「俺エアホッケー初めてだから! わかんないって! ああっ!?」
結果、倍近くの点差がついて俺と理沙のチームはボロ負けした。
というか、なぜか理帆がめちゃめちゃ上手かった。相手チームで点数のほとんどを稼いでいたのは理帆だった。
それからチームを交代しつつエアホッケーを楽しみ、別のゲームやクレーンキャッチャーなどを楽しみ、午後三時過ぎの時間になった。
◇ ◇ ◇
「ねぇ、光流って甘いもの好きなんでしょ?」
「うん。好きっていうより大好き、かな」
「オッケー! なら体も動かしたし、スイーツ食べに行こっ」
そう言って、理沙たちが次に俺を連れていこうとしたのは、パンケーキが有名なお店。
「てか……この腕、何……?」
その移動中、プリクラの中で密着されたのと同じく、理沙と朱利が俺の両腕を掴んで歩いていた。
「いいじゃん、両手に花だよ?」
「ほら、柔らかいでしょ?」
「バッ、バカ! ……注目浴びてるじゃん」
一人の男が女子に挟まれて歩く様子は、渋谷の街であっても珍しいようで、人とすれ違う度にちらちらと視線を感じた。
「あ、もしかして理帆の方が良かった。しょうがないな〜少しだけ交代してやるか」
「ええっ!? 私!?」
すると理沙が強引に理帆を俺の腕に絡ませ、理帆の柔らかい部分が俺の腕に当たってしまう。
「あの……私みたいなの……ごめんね」
「い、いや……それは良いんだけど……」
そもそもこういう行為をされる事自体問題がある。
そして、俺が当初から働いていた勘が、ここで発動してしまうことになる。
それは――、
「――光流、何してるの?」
「え?」
俺の名前を呼ぶ声。聞き覚えがありすぎる声。
小学生の時からずっと聞いてきた声。つい最近も学校で、しかも同じクラスで聞いた声だった。
「ふーん、良いご身分じゃない」
ゴミ分とも聞こえるような、ゴミを見るような声が追加された。
「あ、しずはと深月じゃん!」
理沙が元気よく声がした方へと手を振った。
「あ……」
俺の左には朱利、右には理帆が密着している。
しずはは睨むような目で、深月はゴミを見るような目で俺に視線を送っていた。
「二人共遊んでたの?」
「まぁ、休日だしね」
理沙の問いに答えたしずは。しかし目線は理沙ではなく、ずっと俺の方を向いていた。
「――何か言い訳は?」
しずはからのするどい言葉。
俺はこの一瞬で色々な言い訳を考えた。
「わかってると思うけど、理沙も合格したから、俺にお礼がしたいって言ってくれて」
「ふーん。密着されて鼻を伸ばしてることがお礼なわけか。わかったわかった」
「しずはっ!?」
言い訳が通用するわけもなく、今目の前で見ている現状をそのまま認識したしずは。
『パシャっ』『パシャシャシャシャシャシャシャ』
「え!?」
二人は同時にスマホを掲げ、今の俺の姿を写真に収めた。
深月は一回だったことに対して、しずはは連写機能を使った撮影だった。
「ルーシーに送ってやる」
「私は冬矢に送っておくね」
「ちょっとお!?」
こいつら、マジで何を考えてやがる!
「ルーシー?」
すると理沙が不思議な声をあげてルーシーの名前を呟いた。
「あぁそっか。まだ知らないんだっけ。バンド名だと思ってるよね」
「え? どういうこと? 全然わからない」
「まぁ良いわ。これからどこかいくんでしょ? 私たちも一緒に行っていいよね?」
「もちろんっ、全然良いよ!」
「いいのお!?」
理沙、そこは断ってくれよ。
このあと絶対めんどくさいことになるじゃん。
「それにしても……理帆も意外と積極的なのね」
「あっ、しずはちゃん。これはなんというか、なりゆきで……」
「ううん。別にあなたを責めてるわけじゃないよ。その権利は誰にでもあるんだから」
「??」
しずはの言葉があまり理解できない理帆。
そしてこのあと結局パンケーキのお店へ六人で向かうことになった。
◇ ◇ ◇
ドン、と丸いテーブルを囲み、二つのデカい生クリーム山盛りのパンケーキが置かれている。
それぞれ目の前の皿にパンケーキが切り分けられると、地獄のお茶会が始まった。
「ねぇ、さっきのルーシーってどういう意味?」
パンケーキを食べ始めると同時に、理沙がしずはに質問をする。
理沙たちがルーシーという言葉を聞いたのは恐らく今までに二回。
リハーサルで失敗した日の夜に俺の家に皆が来て陸が俺が元気になる魔法の言葉として説明した時と、文化祭でバンド名だと言った時だ。
「ルーシーってのはね、人の名前なのよ。バンド名なんかじゃくてね」
「しずは……」
「別にもう良いでしょ? 同じ高校になるんだし」
「まぁ、理沙たちなら良いけどね」
しずはは理沙たちにルーシーのことを説明する気のようだった。
「人の名前、人の名前……えっ!?」
「ここまで言えば大体分かるでしょ。ルーシーってのはムカつくことに光流が好きな子の名前」
「「「ええ〜〜〜!?」」」
そう、しずはが暴露すると、理沙、朱利、理帆の三人が同時に驚きの声を上げた。
「バンド名なんかじゃないのよ。あれは陸が面白おかしく言っただけ」
「まじかよ……」
しずはがつらつらと喋る中、俺はただ無言でパンケーキを食べていた。
おいおい皆手が止まってるぞ。お前らの分もパンケーキ食べちゃうぞ。
「あれ、でもうちの学校にルーシーなんて子いないよね?」
「そうね。実はルーシーは小学生なの。光流は生粋のロリコンだったのよ」
「しずはぁっ!?」
俺はパンケーキを食べる手を止めた。
しずはの大嘘にさすがにツッコまずにはいられなかった。
「ロリ、コン……」
「光流って……」
「まさか小学生だなんて……」
理沙たちが俺に引いたような目線を向けてくる。
それが真実だとしたら、俺もその目線には理解はできる。しかし完全な嘘なのだ。
「…………嘘よ。ルーシーは私たちと同い年だから安心して」
「嘘かぁ……って、同い年なのかよ!」
「でも今はアメリカにいるの」
「あぁ……だからか」
とりあえず俺のロリコン疑惑は訂正された。
そして次々とルーシーに関する情報が理沙たちへと共有されていった。
…………
「――そういうことだったのか」
一通りルーシーのことについて話し終わったしずは。
もちろん、プライベート過ぎることは話してはいない。
例えばルーシーの病気のことなどだ。
「で、その子はどんな子なの? 写真は?」
すると理沙がルーシーの顔を見たいと言い出す。
しずはに視線を向けると、顎をくいっと上に上げて、OKのサインを出した。
俺はスマホの写真アルバムからルーシーが写っているものをスクロールしていく。
最初の方はかなりやばい。
密着して一緒に撮ったイブの写真に、色々出ている無防備なルーシーの自撮り。
これは無理だな。
となれば、真空と一緒に撮っているものが好ましい。
二人で一緒にいる時の写真は、それほど無防備ではないし露出もそれほど多くない。
「じゃあ……」
俺はルーシーと真空が写っている写真を出して、スマホをテーブルの上へと置いた。
「えっ!? この子がルーシー!? 金髪の子だよね!?」
「てか隣の子もめっちゃ可愛いんですけど!」
「二人ともすっごく可愛い……」
俺はうんうんと頷きながら、三人の感想を肯定する。
「それでルーシーとその朝比奈さんは四月からは秋皇に来る。つまり一緒の学校に通うことになるのよ」
「マジか。んで、やっと光流と一緒になれるってやつか」
「そういうことになるわね」
しずはは、もうルーシーのことを知り尽くしたかのように堂々と答える。
二日間しかルーシーと会っていないくせにこの態度だ。
もしかすると、連絡先を教えたあと色々とやりとりしているかもしれない。
その時にもっとルーシーのことを知った可能性もあるが……。
「こんなのが相手じゃ、誰も勝てないじゃん。だからしずはにもなびかなかったわけか……」
「一言余計」
理沙のこの言い方から、しずはが俺のことを好きだということも理解しているようだった。
これまでのしずはの行動を近くで見ていれば、普通にわかるか。
そもそも当初から付き合っていないのかとも言われていたし、想像が容易い。
「でもね、この子結構ポンコツよ。顔が良いけど、かなり変わってる」
「へぇ……面白そうじゃん」
しずははそう言うが、俺はポンコツなルーシーをほとんど知らない。
かなり変わっているとも言うが、俺にはまだそれほど変わっているようには見えていない。
そういう部分を知っているしずはは少し羨ましい。
俺が知らないルーシー。一緒に過ごしていれば、そういう部分も俺に見せてくれるだろうか。
「あっ、返事きた。ほら、ルーシーキョドってるよ」
するとしずはがスマホを取り出し、メッセージ画面を見せてくる。
そのメッセージはしずは、千彩都、ルーシー、真空がいるグループチャットとなっていた。
『ひかる〜〜〜!?』
『わぁ……光流くんハーレムしてるじゃん』
『ルーシーちゃん、浮気されてるけど良いの?』
そんなルーシーたちのメッセージの上には、俺が理帆と朱利にくっつかれている写真があった。
いつの間にかしずはは先ほどの写真を送っていたようだ。
画面を見せたしずはは、スマホを持って立ち上がり、なぜか反対側に座っている俺の近くまでやってきた。
「はい撮るよ〜くっついて〜」
パシャパシャと何度か角度やポーズを変えて自撮り写真を撮影。
しずは、理沙、朱利、理帆。そして後方に深月が写るように撮った。
「……送信っと」
「おい」
しずはは再び写真を送信。
すると、すぐに返事があったようだ。
画面を見ると、『羨ましいだろ』という言葉と共に写真が送られていた。
『しずは〜〜!?』
『ルーシー、早く日本に行かないと大変なことになるよ?』
『高校楽しみだね。てかそんなことより、ルーシーちゃんの洗顔ルーティン教えてよ』
『千彩都ちゃん!? そんなことよりって!?』
わいわいと楽しそうに会話をしている。
このグループでは、ルーシーがいじられキャラと化しているようだった。
「しずは……結構やるね」
「それはこっちのセリフでしょ。光流とくっついてデートなんてしてさ」
「お礼なんだからいいじゃん。光流も嫌って言わなかったし」
理沙としずはの会話。
俺が嫌と言わなかったと聞くと、しずははブンっと首を振ってこちらを睨みつける。
俺は首を左右に振ったが、嫌とは言わなかったのは確かだった。
「あ、ならしずは。良いもの送ってあげる」
「ん?」
すると理沙がスマホをポチポチ操作。
しずはに何かをメッセージしたようだった。
「なにこれっ!? 目が……目が……っ」
スマホを見ながら笑い始めるしずは。
「何送ったんだよ」
「ふふん」
俺は理沙にそう問いかけるとしずはへのメッセージ画面を見せてくれた。
そこに掲載されていたのは、なんと先ほど撮った目が巨大になっていたプリクラ写真だった。
「こうやってデータとしてダウンロードもできるんだよ」
さすがはIT時代。
手元にもらえるだけじゃなく、データ化もされているなんて。
「あぁ、あれね。巨眼モードで撮ったからもう人じゃないよねあれ」
朱利がそう説明したが、なんのためのプリクラなんだよと思った。
綺麗に盛って写真を撮るというのではなく、巨眼モードは変な写真を撮るということに特化したものだ。
「確かに面白いけどな……」
ただ、面白いことには俺も同意だった。
だって、明らかに目がおかしいんだもん。
「ルーシーにも送っておくね」
「まぁ……それくらいは良いけど」
とはいえ、あのプリクラ写真も結構密着してるんだよな……。
少しルーシーに申し訳ない気もする。
けど、嫉妬とかしてくれるのだろうか。その部分だけ気になった。
「もうルーシーの話は良いでしょ? 早くパンケーキ食べなよ。もったいない」
「食べるのは良いけど、もっとそのルーシーのこと聞かせてよ」
「そうそう。しずはが言ってない部分まだまだあるんでしょ?」
「イブの日の話聞かせなさいよ。こっちはデートしたこと知ってるんだから」
「えええっ!? そんなの恥ずかしくて言えるわけないだろ!」
「ふーん。じゃあ光流が私のコンサートで泣いた話でも暴露しようかな」
「バカ! そういうのは良いから! てか泣いたの俺だけじゃないだろ。冬矢たちだって」
「え、光流が泣いた!? てかコンサートってしずはどこまで凄い人なの? ちゃんと教えてよ!」
「冬矢も泣いてたんだ。ふーん」
俺がパンケーキを早く食べろと言ったが、理沙たちが聞きたいことがどんどん増えていく。
そういえば、しずはがピアノしていることは知っているけど、どのくらいの実力者なのかはまだ理沙たちは知らないんだっけ。
冬矢の名前が出ると、深月も一瞬反応する。
やはり、名前が挙がると深月にとって見逃せない存在ではあるようだ。
このあと、最後までルーシーの話や小学校時代の話が繰り広げられ、俺やしずは、そして深月の話まで知ることになった。
ピアノも最初は深月の方が上手かったと聞いた時は驚いた。
しずははやはり天才であり、努力家でもあったようだ。
しずはと深月に発見されてしまったお礼会とはなったが、ひとまずは落ち着いた。
その夜、ルーシーから涙声で電話が来た。
最初は嬉しいことに嫉妬の言葉を述べてくれたが、そのあとは友達と楽しそうにして羨ましいと言われた。
理沙からしずはに送られたプリクラ写真もルーシーに送ったようで、俺の巨眼を見て真空と一緒にお腹を抱えて笑ったらしい。
日本に行ったら一緒にプリクラを撮ってみたいとも言われた。
こうして、心臓に悪いお礼会の日は終わりを告げた。
―▽―▽―▽―
この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!
もしよければ、今後も執筆を頑張っていきますので、ぜひトップの★評価やブクマ登録などの応援をよろしくお願いいたします!
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